その後、どうやってあの部屋から戻ったか、正確には覚えていない。
確か、クィレルが犯人だという証拠を上げていき、ハーマイオニーを納得させつつ、ロンの介抱をしていると、気絶したハリーを背負ったダンブルドアが現れたはずだ。
そしてダンブルドアから、ハリーはただ気絶しているだけということ、
賢者の石を盗もうとしていたクィレルは死んだこと、
四人を処罰するつもりはなく、むしろ感謝していること、
などを聞き、狂喜したハーマイオニーが俺に抱き着いてきたのを、役得だと思ったことは覚えている。
そして翌日、ハーマイオニーと、すぐに回復したロンと一緒に、ハリーが眠っている医務室へと押し掛けたが、ハリーはなかなか目を覚まさず、三人で心配しながらハリーが戻ってくるのを待っていた。
数日後、チャンスはやって来た、ハリーが目を覚ましてマダム・ポンフリーに掛け合い、五分だけ俺たちの医務室への入室を許可してくれたのだ。
「ハリー!」
部屋に入ると俺たちはベッドで横になるハリーに駆けて行った。
そしてハリーから、ハーマイオニーと別れた後の一部始終を聞いた。
最後の部屋に入ると、そこにはみぞの鏡が置かれており、その前で鏡を眺めるクィレルがいた。
クィレルに言われるままにみぞの鏡の前に立つと、ポケットの中に賢者の石が現れた。(というのも、これはダンブルドアの仕掛けだったらしく、賢者の石を使いたい者ではなく、ただ欲する者にのみ手に入るようになっていたためらしい)
そして、どこからともなくしゃがれた声が聞こえてきて、クィレルがそれとしばらく会話をした後、クィレルはターバンを外して頭部を露にした。
そこには、「例のあの人」の顔が浮かび上がっており、(この際、ハリーの額の傷はひどく痛んだらしい)クィレルと「あの人」はハリーの賢者の石を奪おうとした。
だが、石を奪う際にハリーに触れると、クィレルがハリーに触れた部分は灰になっていき、ハリーはそれを逆手にとってクィレルの顔を触れると、クィレルは完全に灰となってしまった。
そして、そのすぐ後、ハリーは傷の痛みのあまり気絶してしまった。
目が覚めるとダンブルドアがいて、いくつか質問をしたそうだ。
石はダンブルドアによって既に壊されており、命の水の源が無くなる以上、ニコラス・フラメル夫妻はしばらく後に亡くなってしまうこと。
「例のあの人」はいなくなったわけではなく、復活の機会をうかがっていること。
クィレルがハリーに触れられなかったのは、ハリーを守るために亡くなったハリーのお母さんの愛情によるものであり、「あの人」と魂を分け合うようなことをしたために触れられなくなってしまったこと。
スネイプはハリーのお父さんと因縁があり、その影響でハリーを憎んでいること。
透明マントをハリーに送ったのはダンブルドアであり、ハリーのお父さんから預かっていたものだったこと。
これらのことを聞いたらしい。
その件についてしばらく話し合った後、俺たちはマダム・ポンフリーに「もう十五分も経ちましたよ。出なさい」と追い出されてしまった。
翌日の昼、学年度末を祝って賑わう談話室を一人抜け出し、医務室のハリーの元へと向かう。
マダム・ポンフリーには嫌な顔をされたが、「どうしてもハリーに伝えたいことがあるんです」と言って通してもらう。
「やあ、フィン!ロンとハーマイオニーは?」
「実は、ハリーだけに少し話したいことというか、感謝したいことがあってね」
少し息をついて、真剣な表情を見せる。
「実は俺、ハリーたちがニコラス・フラメルについて調べていたとき、もうフラメルについて知ってたんだ。もちろん、賢者の石についても知ってたし、正直、石についてハリーたちが関わろうとするのをあまり良く思わなかったんだ」
ハリーは意外そうな表情を見せる。
「一年生が何人集まったって、賢者の石ほどの大それたものを守れるとは思わなかったんだ。それを守るよりもむしろ、俺はみんなとの日常を優先したんだ。…前にネビルが、自分はグリフィンドールに向いていない、って言ってただろう?実は俺も、自分自身をそう思ってたんだ」
ハリーが「そんなことないよ!」と励ましてくれる。
良い奴だなぁ、と思いつつも首を横に振る。
「俺は、賢者の石を守ろうという気持ちなんて、実はこれっぽっちもなかったんだ」
「でも君は、トロール二体を引き付けて、僕たちが先に進むのを手伝ってくれたじゃないか!」
ハリーは上体を起こしてそう言うが、俺は「ただ、君たちが傷つくのが嫌だっただけだよ」と答える。
「正直、俺はむしろスリザリンの方が向いていたのかもしれない」
そう言うと、ハリーは驚いたようだった。
スリザリン寮は俊敏狡猾というイメージが強いが、実は一度認めた人物に対して、他の寮に比べて献身的に尽くすという一面もある。
俺がハリーたちとともに四階の廊下に向かったのは、賢者の石を守ろうとする勇敢さではなく、スリザリン寮の特徴である、仲間への献身によって突き動かされたものなのだ。
「………」
その旨を伝えると、ハリーは複雑そうな表情で黙り込んでしまった。
「だけど、ね」
沈黙を破り、言葉を続ける。
「今回のハリーの行動で、少し改心したところがあるんだ…」
「やる前から、どうせできない、どうせ一年生の小坊主なんて、ってあきらめるんじゃなくて、やってみようと挑戦する気概、自分がやるんだという勇気」
「俺は一昨日の夜、君からそんな素晴らしいものを学んだんだ」
「君の行動は、賢者の石を守るだけでなく、俺の心を変えてくれた。俺を改心させてくれたんだ」
「だから、ハリー」
「本当に、ありがとう!」
そして夜、俺たちは大広間で学年度末パーティーに出席していた。
入学式やハロウィーンのパーティーのように、グリフィンドールのテーブルに座り好き勝手に話す。
寮対抗杯の結果は、スリザリンの勝利だった。
グリフィンドールを勝利へと導くため、期限ぎりぎりまで色々な先生に媚を売って得点を稼いでいたが、結局一位のスリザリンとは六十点差で三位の結果となってしまった。
パーティーが始まり、ダンブルドアがその旨を伝えると、スリザリンのテーブルは嵐のような歓声に包まれた。
調子に乗ったマルフォイの様子を恨みがましく見ていると、ダンブルドアが口を開いた。
「よし、よし、スリザリン。よくやった。ただ、最近の出来事も勘定に入れなくてはなるまい」
大広間中が静寂に包まれた。
「まずは、ロナルド・ウィーズリー君」
ロンの顔が赤くなった。
「ここ数十年で、最高のチェス・ゲームを見せてくれたことを称え、グリフィンドールに十五点を与える」
グリフィンドールから、天井を吹き飛ばしかねないほどの歓声が上がった。
「次に、フィン・フォーンリッジ君。一年生でトロール二体を相手にするその勇猛果敢さと、敵にも慈悲を与えるその高潔さを称え、グリフィンドールに十五点を与える」
再び歓声が上がり、肩や背中をたたかれる。
嬉しいような、恥ずかしいような、なんとも言えない感情を抱きながら、ダンブルドア校長の方を見る。
「三番目に、ハーマイオニー・グレンジャー嬢、火に囲まれながら、冷静な論理を用いて対処したことを称え、グリフィンドールに十五点を与える」
グリフィンドールの寮生が、あちこちで我を忘れて狂喜している。
「次、ハリー・ポッター君」
大広間が水を打ったようにシーンとなった。
「彼の完璧な精神力、並外れた勇気を称え、グリフィンドールに十五点を与える」
鼓膜が吹き飛ぶかというほどの大歓声が上がった。
シェーマスやパーバティたちに抱きしめられながら計算する。
今日だけでグリフィンドールは六十点を獲得し、スリザリンと完璧に並んだ。
もうあと一点、グリフィンドールが点を取っていたら。
そう思っていると、ダンブルドアが口を開いた。
「勇気にもいろいろある。敵に立ち向かうにも勇気は必要じゃ。しかし、味方の友人に立ち向かうには、さらなる勇気が必要じゃ。そこで、ネビル・ロングボトム君に五点を与えたい」
その瞬間、爆発が起きたのか勘違いするほどの大歓声が沸き起こった。
ネビルはみんなに抱き着かれ、姿が見えなくなった。
レイブンクローやハッフルパフも、スリザリンのトップ陥落を祝って手をたたいていた。
「というわけで、飾りつけを変えねばならんのう」
ダンブルドアが手をたたくと、スリザリンの飾りつけがグリフィンドールのものへと変わる。
マクゴナガル先生は生徒たちに負けず劣らずの様子で喜びをあらわにしていた。
その夜、グリフィンドール寮生は誰一人余すことなく、皆幸せな気持ちで眠りについた。
数日後、試験の結果が発表された。
ハリーやロンはそれなりの成績で試験を合格しており、俺とハーマイオニーはワンツーフィニッシュを遂げた。
筆記試験ではハーマイオニーが一位で俺が二位、実技試験では俺が一位でハーマイオニーが二位となり、今年の一年生の首席は極めて例外ではあるが二人となった。
互いの健闘を祝いながらも、俺たちは「来年こそ、単独で首席になる」と誓い合い、熱いライバル関係となった。
荷物をまとめて旅行かばんに詰め、ホグワーツ特急へと乗り込む。
話し合い、笑い合っていると、汽車はいつの間にかイングランドへと入り、ロンドンのキングス・クロス駅へと近づいた。
魔法のマントやローブは脱ぎ、上着とコートに着替えるうちに、キングス・クロス駅へと到着した。
ハリー、ロン、ハーマイオニーとともに9と3/4番線を出て、マグルの世界へと戻って行く。
改札口を抜けると、グレンジャー夫人と赤毛の母子―――ウィーズリー夫人とロンの妹、感じの悪そうな一家が待っていた。
ハリーとロンがウィーズリー夫人と話している最中、俺はグレンジャー夫人に挨拶をしていた。
「お久しぶりですね、フィンさん。学校はどうでしたか?」
「お久しぶりです。クリスマスの際はお世話になりました。授業だけでなく、友人との交流を通じて多くのことを学べ、自分の実力を伸ばす良い一年になりました」
そう答えると、グレンジャー夫人は満足そうに頷いた。
「ロンのお母さんですよね?いつもロンにはお世話になっています」
ウィーズリー夫人に話しかけると、夫人は既にロンから話を聞いていたのか、愛想よく挨拶してくれる。
「妹さんの、えーと「ジニーって言うんだ」ジニーちゃんは来年からでしたよね?」
ロンの援護を受けつつ、お母さんの陰に隠れてこちらを見るロンの妹について少し触れる。
「ええ、そうなの。ホグワーツでもよろしくね?」
「もちろんです。よろしくね、ジニーちゃん」
微笑んでそう言うが、ジニーは慌ててお母さんの陰に隠れてしまう。
ほほえましく思っていると、「そろそろ行くぞ、小僧!」と男性の声が聞こえてきた。
声の主は、先ほどの感じの悪い一家の父親だった。
感じの悪い父親は、ハリーに向けてそう言うと、ずんずんと歩いて出口へと向かってしまった。
「あー、ハリー。また、夏休みに」
「まあ、なんだ。…フクロウで手紙、送るから」
「よい夏休みを…送られると良いけど」
俺たちは、ハリーの家の人の不愛想さに驚きつつも、別れの挨拶を送る。
しかし、俺たちの困惑しきった表情と異なり、ハリーは笑顔だった。
「良い夏休みが送られそうだよ。だって、ダーズリー家のみんなは、僕が夏休み中、呪文を唱えちゃいけないのを知らないもの」
そう言うとハリーは、笑顔で手を振って去って行った。
「………それじゃあ、俺も帰るよ。君たちにも手紙送るから、暇があったら返してくれよ」
そう言うと、再びグレンジャー夫人とウィーズリー夫人、ジニーに挨拶をしてロンドン郊外の館へと向かう。
駅を出ると、外は日差しがギラギラと輝いていた。
ロンドンのうだるような暑さを感じ、早くもスコットランドのホグワーツを懐かしく思った。
「ホグワーツでの一年を通して、多くの事を学んだようだな」
「ああ、ハリーのお陰で自分の短所を少しだけだけど、克服できたような気がするんだ」
「ハリー…ポッター家の子か…」
「そうだけど、なんかあったの?」
「いや、何でもない。…今はまだ」