女将校「モスラのディストピアなんかに絶対屈したりしない!」キリッ   作:よよよーよ・だーだだ

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6、エンドタイトル:最後の一人 ~『GODZILLA 星を喰う者』より~

「ママ、おはよう!」

 

 双子たちの声が、朝の静寂を破った。数年前に生まれた双子の姉妹は元気に私の元へ駆け寄り、愛おしげに私のお腹に手を置く。その小さな手の感触は、私の胸に温かいものを広げる。

 

「おはよう、私の可愛い娘たち」

 

 私は笑顔で答え、彼女たちの頭を優しく撫でてあげた。かつての戦場での緊張感とは無縁の、この穏やかな日々が、今の私には何よりも大切なものになっている。

 そんな中、ジュリアがそっと後ろから私を抱きしめた。

 

「……どう? 今日の体調は?」

「少し重いけれど、悪くはないわ」

 

 私への深い思いやりが込められた彼女の声に私は答え、彼女の腕の中で安らぎを感じた。相変わらずジュリアが私を支えてくれることで、この重い体も心も軽く感じることができる。

 

 私たちの新しい生活は、モスラのドームの中で続いていた。

 以前はこの世界に対して疑念を抱いていた私だが、今では自然とその優しさと調和の美しさをも受け入れられるようになっていた。美しい自然と調和に囲まれた住居は、私たち家族の幸福を優先して設計されている。

 毎日の食事は栄養バランスが考え抜かれており、モスラの眷属の支援を受けながらジュリアと一緒に準備をする時間も私たちの絆を深める貴重なひとときだ。双子たちもその手助けを喜んで行い、家族全員が一つのチームとして機能している。この新しい役割が、私の心に深い満足感をもたらしている。

 

「それにしてもウィンス、立派なお腹になったわねぇ……」

 

 ジュリアが驚嘆するのも無理はないだろう。

 私のお腹は今、想像していた以上に大きくなっている。三つ子を宿したこの体は、かつての戦士だった私の姿からはかけ離れていた。皮膚がぎりぎりまで引き伸ばされ、時折感じる張りと重さが、私が新しい命を育んでいるという現実を一層実感させる。

 歩くたび、いや身じろぎするたびに感じる、ずっしりとしたその重み。それはかつて戦場で感じていたものとは全く違う、新たな責任の重さだ。

 そんな私を、ジュリアはいつだって賞賛してくれた。

 

「ウィンス、貴女は本当にすごいわ。三つ子をお腹に抱えているのに、こんなに落ち着いて見えるなんて」

 

 そう語るジュリアは、私の隣で少し疲れた様子を見せながらも微笑んでいた。

 

「……私なんか、一人だけでもこんなに大変なのに」

 

 その目には、私への敬意と少しの驚きが混じっていた。

 私のパートナーであるジュリア=ハミルトンも今月で十月十日、臨月を迎えた。忙しく働くジュリアが纏う、いつもの白衣は科学者らしくきっちりと着こなしているが、前のボタンを留めることだけはできず、その隙間からは丸みを帯びた大きなお腹がはち切れんばかりに突き出していた。手をそっとお腹に添えながら深呼吸を繰り返すジュリアの姿は、彼女の心身が今どれほど大きな負担を抱えているかを物語っているかのようだった。

 そんな最愛の人に微笑み返しながら、私もまたそっと自分のお腹に手を置いた。三つ子が私の中で動くたびに、その存在感がずっしりと感じられる。

 私は答えた。

 

「ありがとう、ジュリア。でも、あなたも十分すごいわ。あなたも新しい命を育んでいるじゃない」

「妊娠した時は、まさか自分もとは思っていなかったわ。今だって、ただ一人の命を育んでいるだけでもこんなに大変。ウィンス、貴女のようにたくさんの子供を産めるなんて、本当に尊敬する」

 

 照れくさそうにジュリアが自分の大きく膨らんだお腹を撫でる様子を見ながら、私は彼女の手を優しく握った。

 

「ジュリア、あなたが私を尊敬してくれるのは嬉しいけれど、あなたも同じくらい素晴らしいのよ。あなたの研究、モスラのバイオテクノロジーに関するその深い知識と技術が、この世界を支えているんだから」

 

 私が母親として新たな命を育む間、ジュリア=ハミルトンは科学者として、モスラのユートピアで重要な役割を果たしている。

 ジュリアは科学者として、モスラのバイオテクノロジーを応用し、この素晴らしいユートピアの構築に全力を尽くしていた。ジュリアの研究は、モスラから提供された遺伝子構造や生物的特性の叡智を解析し、それを新しい医療技術や環境再生プロジェクトに応用するものだ。

 現在の研究テーマは共生細菌ボルバキアを用いたもので、モスラの細胞を利用して創り出した新種のボルバキアで驚異的な治癒力や生態系の回復力を人類に恩恵として与える技術を開発したのも彼女だ。今やジュリアの科学者としての才能は、このモスラのユートピアにおいて欠かせないものとなっていた。

 ジュリアは私の言葉に静かに頷きながらも、謙遜するように微笑んだ。

 

「……でも、貴女のように三つ子をお腹に抱えて、それでもこんなに穏やかでいられるなんて、たった一人産むだけでこんなに大変になっている私にはとても真似できないわ。こんなたくさんの子供を産めるなんて、貴女は本当に特別よ。私の研究なんて、貴女のように子供を産んでくれる母親がいなければ何の意味もないのだもの」

「そうかしら?」

「ええ、そうよ」

 

 冗談めかして答えるジュリアだったが、彼女が羨んでいるのは冗談半分、本音半分というところだろうか。

 ……偉大なるグレートマザーである母性の怪獣、モスラ。そんなモスラが築き上げた素晴らしいユートピアでは、母親であることが至上の価値とされている。その中でより沢山子供を産むことができる私は、労働者階級であるジュリアと同じくらい、ともするとそれ以上の存在として篤く尊ばれていた。

 

 けれど、かといって私の方が偉いだなんて、私はちっとも思わない。

 

 私の大きなお腹が新たな命を育み、ジュリアの研究が支えているこの世界、そこでの暮らしにはもはや地球防衛軍の戦士なんてものはいらない。私たちはお互いに支え合い、補完し合っている。私たちは、かつて想像もできなかった形でこの世界の未来を築けるようになったのだ。

 だから私はジュリアに言ってあげた。

 

「あなたはもう十分すぎるほど貢献しているわ、ジュリア。あなたがこの世界を守ってくれているから、私たちはこうして安心して暮らせるの。私が命を育むことができるのも、あなたの研究のおかげよ」

「そう? 貴女にそう言ってもらえると嬉しい! ウィンス……」

 

 そして、愛しい想いを籠めて、互いに唇を重ね合う私とジュリア。

 双子の娘たちはそんな私たちを興味津々で見つめ、私たち二人の大きく膨らんだお腹の丸みをそっと撫でていた。子供たちの小さな手が触れるたびに、私は母親であることの喜びと誇りを感じると同時に、これから迎える新たな命の重さを感じずにはいられない。

娘の一人が尋ねた。

 

「ママ、赤ちゃんたちは元気?」

 

 その声には、無邪気な好奇心と母たちを気遣う優しさが混じっていた。だから私とジュリア、二人の母も最大限の愛を込めて応えてあげた。

 

「ええ」「元気よ」

 

 そして私たちは揃って優しく微笑む。私たちの丸く膨らんだお腹の中で感じる小さな命の動きが、その答えに確信を持たせてくれる。

 

「この子たちもは私たちと一緒にここで安心して育っているわ」

「貴女たちもこれから、お姉さんになるのよ」

「ママ!」「ママ!」

 

 双子の娘たちが私とジュリアのお腹を優しく撫でながら、未来の弟妹たちを迎える準備をしている姿を見ると、私は自然と微笑みがこぼれた。彼女たちもまたこの世界の一部であり、新たな命を迎えることに誇りと喜びを感じているのだろう。

 ジュリアは笑って言った。

 

「これもきっとモスラが授けてくださった奇蹟よ。モスラには感謝しなくっちゃね……」

 

 ……二人そろって子供を授かった私たち、ウィンスレット=スミスとジュリア=ハミルトンのカップル。モスラのユートピアで暮らすうちに私たちの体質が変わっていっていることに、私は気づいていた。

 きっとこれもモスラの偉大な計画の一部、あるいはこのユートピアの環境が原因だろう。かつて私の体質を変えたボルバキアはジュリアの身体にも影響を与え、私もまた産める子供の数が増えている。産めよ増やせよ地に満ちよ、それが怪獣との戦いで無闇に数を減らしてしまった哀れで愚かな地球人たちへの、モスラなりの救済措置なのだろう。

 ……かつての私たちならば、そんな異常な状況に恐怖を抱いたろう。ともすると逆らい、反抗し、その支配を打ち破ろうとすることさえ考えたかもしれない。かつて誇り高き地球防衛軍の女戦士だった私たちなら、あるいは。

 

 しかし、今の私は、この日常を手放したいとは全く思わない。

 

 この家族と共に過ごす幸福感に包まれている今、モスラの偉大な計画を受け入れることに抵抗はない。私の心は平穏であり、何よりも愛するジュリアや子供たちの笑顔を見ていると、すべてが正しいと感じられる。

 私と家族たちは、お互いに愛情と尊敬を持ち続けながら、このユートピアでの生活を受け入れている。そして、モスラの計画が進むにつれて、私たちの生活もまた新しい形で安定していくだろう。

 

 窓の外から空を見上げると、広大なドームが視界に入った。そのドームは、モスラの生糸で織り成されており、まるで空そのものを覆っているかのように見えた。ドームの中にいると、外の世界の存在すら忘れてしまいそうだったが、私はこのドームが何のために築かれているのかを知っていた。

 モスラの眷属の一体がそっと近づき、いつものように優しい声で話しかけてきた。

 

「ウィンスレット=スミス、ジュリア=ハミルトン。お加減はいかがですか?」

 

 モスラの気遣いに、私たちは互いの大きなお腹を撫でながら微笑んで答えた。

 

「ありがとう」

「すべて順調よ」

 

 眷属たちは、私たち二人の母親の快適さと幸福を常に最優先に考え、私たちがどんな些細な不安や苦労も感じないようにしてくれている。彼らの献身的なケアによって、私は心から安心し、満たされていた。

 このドームは、ただ美しいだけではなかった。それは、外宇宙からの脅威――キングギドラやスペースゴジラなどの宇宙怪獣の襲来に備えるために築かれた、この星の防衛線でもあった。モスラはその圧倒的な力と慈愛をもって、私たち人類を守るためにこのドームを築き上げてくれたのだ。

 

「モスラは、いつも私たちを見守ってくれている……」

 

 ……私は時折、かつての自分を振り返ることがある。

 『怪獣黙示録』のあの時代、勇猛果敢だった地球防衛軍の女軍人、ウィンスレット=スミス少佐。あの頃の私が今の私たちを見たら、どう思うだろうか。おそらく信じられない気持ちでいっぱいになるだろう。あるいは怒り、憎み、軽蔑し、この上ない屈辱に震えることだろう。

 だけどそんなの、今の私にはもはやどうでもよいことだった。このモスラの世界がどれほど狂ったディストピアであろうと、あるいはそれがどれだけ人間というものの有り様を踏み躙っていようとも。

 

「ママ!」「ママ!」

「愛してるわ、ウィンス……!」

 

 この最愛の家族たちと共に幸福であることが、今の私にとって何よりも大切なのだ。

 ふと、思った。

 

「……どうしてあの頃は、あんなに必死に戦っていたのだろう?」

 

 ……ああ、なんということだろう。

 しかしもう大丈夫。全てがわかったのだ。苦闘は終わりを告げた。私は自らを克服することができたのだ。

 

 私は今、モスラとこの世界を愛していた。




おしまい。感想ください。

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