俺の彼女は死ぬほど顔面が可愛いけど処理にこまる小ボケが多い不思議さん、あとクール、あと無邪気、あとつよい   作:山下敬雄

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第2話 海賊船のミチ

彼女のために回してあげた地球儀。

「こいつ俺だと全然回らねぇの!」

「急に錆びたのか? おいっ! ぽんこ──」

 

それにくらべて、

 

俺の彼女はきっと地球に愛されている。

 

ほらっ、

 

「あははは、がんばれ、プテラノドン、ふふふっ」

 

よく笑うから。

 

 

 

▼▼

▽▽

 

 

 

「あ、イカのやつ、やろ? ステゴノドン?」

 

 

見るからにあっちにあるデカい海賊船を遊びやすく模した遊具のことだな。

つい最近彼女と一緒に見ていた映画で、しゃべるイカさんが最推しだと言っていた。

 

俺は彼女が地球を回してくれてる間結構休めたので、元気に走りだした彼女をまた追いかけていった。

 

メインである海賊船に乗り込むためにはまずロープだ、このロープの網を抜けて──ぬけぇ……

 

「はは、フック、やろ?」

 

差し伸ばされた彼女の手を取り、上りの網に絡まっていた俺は彼女とおなじ甲板へと乗り込んだ。

 

そして、フックをやる。

フックとは船乗りたちのやるチャンバラのことだろう。

 

2人でジャガ極ロングソードを手に取りチャンバラ、決闘をする。

 

もちろん折れた方の負け、

そーそー

 

「これが、」

 

「なかなか、」

 

「たのしいっ!」

 

「はは、ななめってる、足元、きをつけて、ふふ」

 

斜めの甲板これがまた一癖、揺れ動きはしないが海賊船に乗っている感覚になってたのしいのだとか。

足元を気をつけるように注意してくれる、彼女はやさしい。

だがそれだけ対戦相手は余裕ということだ。

 

甲板の木板がきしみ、軽やかな彼女のステップと、後ずさる俺の焦燥のステップが重なり合っていく。

 

どんどん、

 

トントン、

 

どんどんと、

 

俺という海賊は、可愛くて強すぎる海賊に甲板の端の方まで追い詰められていく。

 

「イカさん剣術、てぃっ! てぃっ! げそーーん」

 

イカさん剣術、ちょっとなにこれ?

全然俺の剣で受けれないんだけど?

 

イカの触手のように変幻自在の剣筋は、俺のジャガ極み剣術をかるく凌駕していく。

しかし彼女が前のめりにこけそうになった。

俺は慌てて彼女を支えようと────

 

「はぁはぁ…はは、勝てたら、ここで、────ね?」

 

抱き合いながら斜めに傾く足場にて、俺を支えに彼女は俺の耳元でそう言う。

 

「そ、それって?」

 

「ふっー」

 

もう一度耳をかしてと手で誘われたのでそうしたが、彼女のアンサーは不意打ちの──風。

 

あたたかい生っぽい風にびくり、俺はびっくりして甲板でタップダンスを踊ってしまった。

女海賊のイタズラだったのだろうか、まんまとその美貌に騙されハマってしまった俺は……。

わちゃわちゃコミカルな音を立てながら踊る俺を笑いながらも、今度は彼女がおぼつかない俺の手を取ろうとした。

 

俺はなんとか踏ん張り、それでも情けない俺だけじゃ足りないから、彼女の伸ばすその手を────

 

 

 

 

木板がきしむ音が、深い?

 

 

 

 

「「え?」」

 

 

 

向かい合うお互いの表情は一転焦燥し、求め合う指と指が、掠めて、とどかない──

 

 

 

彼女と愉快なタップダンスを踊っていた俺はそのまま足を滑らせ……穴あきの暗がりへと落ちていった。

 

 

 

 

▼▼▼

▽▽▽

 

 

 

 

たのしいたのしい決闘の最中、海賊船から落っこちた。

 

甲板の木板がそこだけひどく痛んでいたんだろうか?

 

そして今俺は着地した足が絶賛しびれている。

 

捻挫をしなかっただけでももうけものだが……とにかく暗い? 脚は時間をおけば治るだろうがそれが問題だ。

 

「見上げても……暗い?」

 

「え? どういう……わけだ?」

 

俺は上から落ちてきた、なのに穴がない? そこに覗き込む彼女の顔と差し込むまだ昼の光があるはずだろぅ?

暗いというより黒い? この落っこちた空間のミステリーに一度冷静に俺は足をもみながら考えふけていると。

 

 

後ろからちょんちょん、俺の左肩をタップする音が聞こえた。

 

こんなことをするのは──

 

俺は内心の寂しさが晴れたように、後ろをパッと振り向いた。

 

 

「ははははパックンチョはもうい────え?」

 

 

俺の彼女こんな白かったっけ? いや肌は白い方だし、いやいや待てよ?

 

俺はその白い手を取りながら振り返る、

 

たしか、砂場のときとガチ雲梯のときのすりすり────

俺はすぐに擦り合わせた明確な違いに気付いた。

 

「この手は、彼女のッッ女の子の手じゃねぇ!」

 

「だってしあわせじゃねぇーー!!!」

 

 

「って、だれぇ、骨ぇ!??」

 

 

俺の彼女は骨だった。いや、俺の彼女ではない!

骨は骨だ! 俺の前に骨人間が立ってやがる!

 

俺がひどく心臓を跳ねさせそのホラーに驚いていると、骨人間の両手がおもむろに動き出した。

 

固まる俺の方に、

 

首の方に、

 

近づいて────

 

「なんだなんだ首ヲしめ!?」

「は?」

 

骨のきしむ音、俺の首をたしかに絞めている。

 

なんだこれ? 息がぁ……つま……る…

 

 

「ビーバーパンチ!」

 

 

息が……できる…?

 

勇ましい声とともに、俺に絡んでいた骨人間が、

 

粉々に消し飛んだ。

 

 

彼女の正拳がそこに、ばらぱらと……白いふりかけが彼女のグーから落ちてゆく。

 

俺は情けないことに尻餅をついた。

そしてもっと情けないことに腰が抜けてうごけない。

 

彼女はそんな俺に屈んで、首のあたりをそっと撫でた。

 

「だいじょーぶ? うん──うん、そー? ほんとに、なんともない? うん、────え、さっきの? なんかダンスには見えなかったから、────……成仏? はは」

 

彼女は俺の首うなじを優しく触りながら、粉々に砕けた骨を見て、笑って供養した。

きっと俺に絡んだアレも、成仏しているだろう。

 

「そうじょーぶ……ちゅぅー?? ぅー???」

 

「はは、ちゅーちゅーは、鼠、だよっ? アレ、ダンスかも?」

 

骨の音がきこえる。

さっき眼前に拝んだような骨たちの歩く音が、俺たちにゆっくりゆっくり近付いてきている。

そんなふざけた白骨のパレードが来る前に立ちあがろうとしたんだが、俺は情けないことに──

 

「うん、待ってて、ダンス、すると、骨が折れそうだから、ちょっと、ふふ」

 

屈んでいた彼女はそう言い、立ち上がった。

そして暗がりから現れた白たちの元へと、スカートを風に揺らしながら駆けていく。

 

彼女は臆病ではない、そんなことは知っているけど。迷いがない、とても勇ましい背姿が骨たちとたわむれ黒に映えるダンスを踊っている。

 

 

ばきっ、

 

ぼきっ、

 

ばらっ、

 

ば、

 

ひゅんっ、

 

 

骨がリズムよく砕けて、骨が宙を飛んで黒い床を跳ねている。犬がいたらきっと大はしゃぎだろう光景が彼女が相手に合わせて華麗に踊るたびに、広がっていく。

 

すると、座っていた俺の方に白いボールが飛んできた。

 

このドッジボールを両手にばちんと納めたが、

 

カタカタいっている。

すんごく、カタカタいっている。

 

「俺に噛みつこうとしているのかこいつ?」

 

俺はなんかカタカタしている骨の顎を力尽くで押さえつけながら、そろそろ回復した足腰で立ち上がった。

 

そして、

 

まだ踊っている彼女の背中に現れた白骨のノットジェントルマンに目掛けてソレをサイドスローで投げた。

 

そこそこの重量感が手ゆびさきをはなれ宙を飛んでゆく。

 

そしてやがて髑髏頭と髑髏頭がぶち当たる。

見事にぶち当たった髑髏頭はそっくりそのまま俺が投げたモノと元の首についていたモノが、すげ替わり。突然の頭パーツ交換に驚いた骨は、なんかしっくりこないご様子で?

コキコキと首を鳴らしたり回したり、色々試している。それでもまだ、肩凝りが解消されないのはかわいそうだ。

 

「はは、ふぅー……」

 

振り返った彼女はじぶんの拳に熱帯びた吐息の魔法を長く吹きかけた。

 

「──ビーバーパンチ!」

 

肩凝りを全解消するにはやっぱりこれ。

俺の彼女の渾身の右ストレートが、全身肩凝り骨人間を粉々に砕いていった。

 

静寂に骨の転がる音がきこえる。

 

そして彼女の快活な笑い声と拍手喝采が、

 

「ナイスシュート、あー、さすがわたしの彼氏、ふふ」

 

MVPの彼女は俺をまず褒めた。

俺が先に褒めたかったのに先をこされた。

彼女のお褒めの言葉にドキっとしてしまった俺は彼女を褒めるタイミングを失ってしまったが、

 

「ふふ、それとありがと、ビーバー、ふふ」

 

近付いてきた彼女と、感謝のビーバーパンチでコツンと拳を互いの合わせてたたえあった。

 

 

たしかにビーバーは思ったより強くてすごくて、

 

でもビーバーよりもっと……

 

 

「俺の彼女は最高、最強だ」

 

 

「なにそれ? え? 最高、最強? んーー、じゃぁ──」

 

 

ぎゅっと抱きついてきた彼女を、俺はそのまま抱きつつんだ。

 

「ふぅー……これ、あんしん、ふぅー……」

 

彼女の呼吸音が耳に近い、とてもとても長くふかく抱き合っていた。

 

「え? 骨って簡単にくだける…かって? ふふ、どぅだろ? ぎゅーー……」

 

俺の彼女は可愛いくてつよくて、最後はちょっと小ボケにしては、こわい。

 

 

嬉しいほどぎゅーーされて、骨がきしむか心配になったがそんなことはなかった。

 

「ねぇねぇ、」

 

「ん? なんだ?」

 

「なんでも────ふふ、ぎゅーーー……」

 

とてもやさしいしあわせに満たされてゆく。

彼女と、いると────

 

 

 

 

▼▼

▽▽

 

 

 

 

骨の折れる勝利を手にした俺たち(MVPをあげた彼女のおかげ)は────この暗がりと黒い道を散歩したが、抜けられず。

 

未だ公園の海賊船遊具の下のミステリーは続いている。

 

 

「幽霊船ってわけじゃねぇよな?」

 

「んーー、どうだろうね? はは、シェイクシェイク」

 

何故か握手をしている、彼女。

握手の相手は折れた骨の右腕さんだ。

 

「ばっちぃからやめなされよ?」

 

俺はそうやんわりと言ったが、

 

「んーー、どうだろうね?」

 

「それはさっき聞いた気のする台詞だが」

 

「はは、じょーーぶつ!」

 

彼女はその握っていた白を砕き、成仏させた。

 

「それ、成仏というより物理なのでは?」

 

「ん? 物理? はは、そーともいうかも? ふふふ、ヤバ、ばいばーーい、ふふふ」

 

「あ、」

 

俺の方を見た彼女は駆け足気味でやってきた。

 

そして俺とも握手した。

 

「なんで?」

 

「ん、したかったから? ふふ」

 

「そんなのっ! ……かわいい」

かわいいが、さっきのバキバキ最強の成仏(物理)方法を見ていた俺は手汗がだんだん、スリッピー……。

 

「スリッピー? ふふ、ほんとだ、汗、ヤバ」

 

 

そう言いながらさらに、ぎゅっと彼女は俺の手を握る。

 

これもまたしあわせの辞書にのせてほしい。

 

「辞書? ふふ、もっと──つくろ?」

 

もちろん──だっ!

 

 

俺たちは手を繋ぎながら、でもちょっと俺は汗をズボンの布地で拭いて、ちゃんともう一度、彼女に差し出して────暗がりをあてなく歩いていく、いっしょに。

 

 

 

「ほねほねっほんねっ、ほねほねほんねっ」

 

彼女は謎の骨音頭を歌い始めた。俺も一緒にだが。

 

「ほねほねほんねっ、ほね、ほんねとーく」

 

「本音…トーク……だと?」

 

「すき」

 

そんな本音トーク……ありかよ…?

 

突然、隣の彼女にぐさっと俺の心はさされてしまった。俺が彼女と一緒にいるときは心臓2つ分あっても、2つともドキドキして足りやしない。

 

「ふふ、ん? そう? そっちも────はは、ヤバ」

 

これもまたさっき急遽作ったしあわせの辞書いきだな。

 

そのまま俺たちは手を繋ぎ

 

手を繋ぎ、

 

 

「手を……アレ?」

 

 

「手がない??」

 

俺の彼女が俺の隣からいなくなった。

 

「なっ、なんでだ!? おおーーいどこだ? どこなんだーーぁ──?」

 

暗闇を探せど分からない、俺はありったけの大声で大事な彼女のことを探した。

 

不安が、視界の黒さで募る。

 

 

 

『こっちこっち』

 

 

 

聞き間違う訳がない────!!!

 

声のする方へと、俺は靴音を静寂の黒に打ち付けながら走り出した。

 

 

駆けていく、

 

駆けていく、

 

 

焦燥の足音がひびく誰もいない静寂から海鳴り…………へと?

 

 

 

 

「ごめん捕まった? フック、ふふ、ふっふ、──はは」

 

 

 

「は?」

 

 

 

ここは甲板の上、なのに斜めじゃない?

 

チャチじゃない?

 

じゃぁなんだ、冗談か?

 

 

ここは甲板の上、海賊のいでたちがゾロゾロと集い、囲い、見る甲板の上。

 

ここが磯臭いコスプレ会場ならば、俺の彼女は今────囚われ役?

 

笑っている彼女が手を振り、海賊たちが酒をあおり、曲刀を掲げ、イヤにニヤついている。

 

 

ななめではない揺れ動くこのしっかりとした甲板がリアリティを演出し、よろけて立つ俺の足指から頭のテッペンまでが未知に揺られている。

 

 

「はは、なんかよさげな映画っぽい、ふふっ、ヤバ」

 

 

ここは、きけんな海賊船の上。

 

 

 

 

つづく

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