俺の彼女は死ぬほど顔面が可愛いけど処理にこまる小ボケが多い不思議さん、あとクール、あと無邪気、あとつよい   作:山下敬雄

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第3話 ミチの海賊船

海賊たちのニヤけ顔とぐるぐるロープに囚われ一緒になってたのしむ彼女の無邪気な笑い声。

 

俺は気が気ではないがこのカオスで臨場感のあるコスプレ会場を思考停止していた脳をフル回転して、揺られながらこの大容量の状況を理解(ロード)していく……。

 

そしてやがて、少し荒れていた甲板上の舞台の揺れが穏やかにおさまった。

 

そのとき、そのタイミング、剣が俺の足元の木板に突き刺さった。

 

心臓を跳ね上げた俺の元に、さらにマスト近くの見張り台から降り立ってきた女海賊が着地音も立てずに颯爽と現れた。

 

「私の船に2人も賊が忍び込むとはな。さぁ剣を取るか、それともペンを執るか、お前はどこに向かう小僧?」

 

いかにも他の海賊とオーラ雰囲気喋り方からして──違う。

赤髪、緑の眼帯をしたソイツは俺の方に何かが細かく書かれた古紙を広げ、静かに口角を上げた。

 

 

俺は一瞬で理解したおそらくコイツがここを取り纏めているお偉いさんの船長クラスであり、同時に最悪なヤツであると。

 

その剣の意味はきっと決闘

そのペンの意味はきっと契約

その眼帯の意味はヤバイ

てか顔がヤバイなんつぅー役作り……! 人道を何段か外れたようなヤベぇ雰囲気は女海賊そのものだ、イヤそれ以上に妖しい……。

 

 

見つめるのは床に突き刺さるほどの剣か、読めねぇ紙ぺらか、

 

わざわざ自分の船を傷付けるんだ、剣をとればヤバイのは目に見えている。てかこれ、本物か?? …………。

 

残すはあの勝手に丸まろうとしてはしれっと手で引き伸ばされている紙だが…………。

 

 

ん────そうか?

 

 

 

映画かなんかで聞いた事がある恐ろしい海賊は誰の言うことも聞かないが、唯一酒と〝風〟のいうことなら大いに聞くと。

 

酔いそうな俺は固唾を飲み、剣でもペンでもないこれしかない答えを突き出した。

 

 

「俺はアンタに〝風〟をくれてやる!」

 

 

「風だと……? ……ほぅ? たしかに異国の変わった格好をしているな? 風の商人か、どれよこせ。今すぐこの私の赤髪に一陣吹かせてみせろ」

 

「……」

 

「どうした? フッフ」

 

やっべぇ……なんもかんがえてなかった……。風なんて吹かせれるワケねぇだろ! 俺の彼女ならできそうだが。

 

「はは、風? すごっ、わたしの彼氏にそんなかくし芸? はは、知らなかった、みたい? みたい、ふふ、ふぁいとーー風吹かせーーーーびゅーびゅーーーっ」

 

さけんでいる……おどけている……笑っている……。俺の彼女にも見せたことのない風を俺はきっと吹かせなければならない。

 

どうすんだ。

 

赤髪にはまだ神風は吹かない、悪足掻きに指を鳴らすタイミングすらない。

緑眼帯の女は赤く染みたような剣の柄に手をかけようと……。

 

これ以上は、やべぇ……。

 

運の尽き、運すらこない、息を飲む、俺の心臓を鳴らす緊迫は────────

 

 

「じゃんけんタイムのじかんだぁーーーー!!!」

 

 

「──!?」

 

俺がそう大声で叫ぶと女海賊はぴくりと反応し、彼女は俺と同じく拳を天へと突き上げた。

 

「あははは、いぇーーーい、じゃんけんタイムのじかん、はは、きた、じゃーーーんっ」

 

「何を言っている猿、海の上で無駄に喚くな!」

 

女海賊は瞬く間に俺に肉薄しそのいつ抜いたのかも見えなかった細剣を下から突き出した。

 

俺は急に自分の顎下喉元に向けられたその鋭い殺気に驚き声がなかなか──出せない!

 

噴き出してきた汗と跳ね上がった心臓の音は抑えることができないが、なんとか恐ろしい面をした女海賊に震える声を絞りだし。

 

「ナッ!? ……何もナニも、じゃんけんだ、このじゃんけん、この拳と2本の指と、5本の指のマジナイでここに風を集めて……吹かせてみせる」

 

今世紀最大のデマカセの出来はわからない。俺は縮こまりながらも手を見せてぐーちょきぱーと開いてとじてソレっぽく示してみせた。

 

 

「……なんだと? その手のマジナイ……本当だな?」

 

食いついてくれた!

 

依然冷たい刃は俺の喉に穴を開けんばかりに向けられているが、全く話のわからない海賊ではないらしい。

 

「あっ、あぁー俺と〝コレ〟をやって勝てなきゃいい風はこないぜ吹かないぜ! 絶対この先の航海はおそらく……後悔もんだ!」

 

俺は縮こまる両手を遊ばせ必死にひとりでじゃんけんの実演販売をしている。

今考えればとち狂っているとしか思われないが、人間本当にやべぇときはじゃんけんマシーンになるのかもしれない……。

 

すると────女海賊は剣を喉元から静かにさげた。

俺がじゃんけんに感謝するのは、彼女の気まぐれなご褒美と罰とデコピンをもらえたときと、メダルゲームで5連勝したときと、今がはじめてだ。

 

「(海神力(かいじんりょく)を高める勝負ごとか? 妙に少ないと思っていたが────) おもしろいっ。してこの私から貴様は何を欲しがる? 財宝か金か魔法の剣か大事な船員かそれともこのワタ」

 

 

「俺の彼女を返せ!!!」

 

 

もちろん一択だ。財宝も金も魔法の剣はちょっとほしいが……ましてや凶悪な海賊の子分なんていらねぇ。俺は彼女を返すように、ただそれだけを赤髪の女海賊に勇ましく即答で要求した。

 

 

「フッ、ふふふ。いいだろう。こちらとしてもぜひとも風は手に入れたい。わかった貴様の言うじゃんけんのマジナイを────説明しろ」

 

切っ先をくるくると遊ばせながら俺の鼻先を貫く。

向けられた女海賊の笑っているのか怒っているのか分からない鋭い眼光と剣が俺の肝をまた冷やしていく。

 

 

「ぐーちょきぱーー、勝った勝ったーー7連勝、はは、勝ったらガム、あげる────ね? ふふ、ならんで、ならんで、ふふふ」

 

ってちょっと俺の彼女さんそれ、さきにやるのをやめて……(海賊をガムで……つる……)

 

 

俺の彼女は既にロープをほどかせ女海賊の子分たちと一緒にじゃんけん大会(景品付き)をひらいている。俺は再度にらみあった赤髪の女海賊の微笑みと剣を仕舞いあたためる拳に……流れる汗がしたたる汗へと変わっていくのを……────────。

 

 

 

 

 

 

木板に染みついた水滴も乾き。

 

「なるほどな」

 

同じ人間で耳はついている女海賊に一通りじゃんけんのルールを説明したところで────

 

 

「さいしょはぐー」

 

「おい、なんだそれは」

 

「え、だから最初にぐーを」

 

「何故最初に意味のない手を出す? それではアイコというやつだ」

 

「いやいや、えっと……あぁ最初にグーを出すんだ。これはいきなり出すよりお互いのリズムが取れる……そうするとえーっとなんだ、ほら先出し後出しとか喧嘩にならなくてフェアだろ?」

 

「……ほぉ、たしかにな。貴様がそんなことをすればどこに穴が開いても不思議ではない」

 

またしれっと物騒な小ボケをのたまっている。

 

さっさとこのじゃんけんを知らないぐらいイカれた役作りをしてるコスプレ会場から抜け出したいものだが……。

 

 

「はじめろ」

 

 

さっき始めたとかそんなことは言わない怖いから。

 

「さいしょはぐー」

「さいしょはぐー…フッ」

 

あのぉー、これってぐーーっと見つめ合う競技じゃないんだ……。

 

眼帯の女海賊はカラーコンタクトまでした圧のある片目で俺を睨んでいる。

 

にーらめっこしーましょう……ださなきゃヤバそう

 

「「じゃんけんほいっ」」

 

目の前に迫ったぐーの寸止めを受け止めんばかりに反射的に出したすごく目の前に見える……パー。

 

これは────

 

 

俺の勝ち……。

 

「フンっ。くれてやる」

 

無法者の女海賊がやりそうな一手……すごい役作りに感心しながらも、俺は幸先のいい一勝を上げたことを長く息をはきながらよろこんだ。

 

「はは、さすがわたしの彼氏、ビーバー、びーーーーー、パーっ。ふふっ、やっちゃえやっちゃえあと9勝! 赤もじゃ海賊をやっつけろーーー! ははは」

 

俺は勝利に笑いながら彼女にそのままパーで手を振っていたが、耳に入った疑うような彼女の小ボケは俺のイノチをさーっと冷やしていく……。もはや赤もじゃさんの顔を怖くて見れやしない、俺は何も言えず元気に振っていたパーをしおらしくおろしながら……────────。

 

 

 

 

俺は9勝

アイツは2勝

 

10先のルールではじまったこの風のマジナイ勝負であるが……

 

 

これがじゃんけんを息をするようにメダルをかけてまで(メダルゲームのじゃんけんマシーンを)やってきた日本人と、じゃんけんをしらない血と海に濡れた手の女海賊との差だ!!!

 

見たかおいっおいっっ!!!

 

 

口が裂けてもそんなことは声に出さないが、てか言ったら物理的に俺の口が裂けるだろう。

 

それに海賊は片手がフックだからじゃんけんに弱いと彼女に聞いたことがあった。俺がじゃんけんタイムのじかんを大声で発令したのも、追い詰められて咄嗟にそれを思い出したそのおかげだ。

 

彼女も子分たちもなぜか一緒くたになってヤジをとばし盛り上がっている。

俺はその船上を揺らさんばかりの盛り上がりにのまれていたのかもしれない、

 

「よし、次で終わりだ。この手の込んだイカれた女海賊とのたたかいは! ──じゃんけんだけにな!」

 

「はは、じゃんけんだけに、ははは、ふふふ、ふっ」

 

しまった、つい声に!!!???

 

…………。

 

……。

 

やっちまった俺は急に5秒前より賢くなり、状況を確認する。

 

彼女は腹をかかえて笑っている、そして女海賊も俺の顔を見て静かに……笑っている。

 

「貴様はこのマジナイが相当お上手のようだな、フフ」

 

「……それほど…でも……」

 

赤髪のあなたは皮肉がお上手のようで……

 

気を取り直して。

これがおそらくラスト、

ここで勝ち切る!

次のじゃんけんタイムのじかんはすぐそこに──

 

 

 

「さいしょはジュっ────」

 

 

 

さいしょはぐー、そうさいしょはぐー。

俺は間違いなく赤髪と向かい合い、じかんになったのでそう言おうとした。

言おうとしたはずだ、だが言いきる前に────

 

「ハッハッハーーー、────やはりコイツが、いちばんつよいな?」

 

俺は強烈な右フックを浴びた。

石のような硬さを左頬にあび、叩きつけられた痛い景色に最後にみえたフォロースルーは……そうに違いない。

 

とても痛いというよりは、足腰が立たない、カラダがぴくりとも動かない、悪趣味な笑い声にアタマのナカがまどろんで────

 

 

視界が暗くなっていく。

 

そんなのありかよ……最初はグーパンじゃねぇ……。

 

おもえば、コイツは最初の一手目からその気だったようだ……。

粗暴な海賊に約束事もじゃんけんも勝ち取った運も通じない、赤もじゃ野郎のえげつない役作りのまえにおれは────

 

甲板を駆け寄る足音すらもはやきこえない。

 

『────ょうぶ!? え────して!!! ────────……』

 

さいごに彼女の声がきこえた気がする。

 

 

イカレタ船上のコスプレ会場で俺は起き上がることなく、10勝目のもくぜんで……カラダをひどく、ここちよく、揺られながら……眠りについた。

 

 

 

 

つづく

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