俺の彼女は死ぬほど顔面が可愛いけど処理にこまる小ボケが多い不思議さん、あとクール、あと無邪気、あとつよい   作:山下敬雄

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第5話 しあわせのビーバーパンチ

銃弾飛び交い、魔砲が唸る、

刃はうねるゲソと帆をへし折ろうとするゲソを刻み、クリムゾンローズ海賊団の威勢のいい声が重なりきこえてくる。

視界に飛んでくるのは雨嵐、酒瓶、バンダナ、ペンダント?

 

ここを船上の……戦場と言わずして────────

 

俺も────!

 

その辺に刺さり落ちていた曲刀を勢いよく抜き、後ろに勢い余ったが……もう一度前を見据える!

 

とにかく今は呉越同舟──ちがうかもしれないけど……船も彼女も守る。

 

俺は甲板を這うこちらに気付いていないゲソに刀を思いっきり振り下ろした。

 

しかし──

 

 

「折れた!?」

 

 

俺は不良品をつかまされていたのか、イカをぶつ切りに料理することが叶わず。

刀の方がむなしく真っ二つに飛んでいった。

逆に刺激してしまったせいか鋭敏なゲソはこちらに気付き、蛇が鎌首をもたげるように────影が濃く……

 

 

「【美種美酒(ビシュビシュ)】──【神力開花(ブルーミン)】!!!」

 

 

颯爽と現れた赤いもじゃもじゃが銀色の星を乱れ放つ。

目にも止まらない高速突き、迫り来たゲソに開けた穴と吸盤から、赤い薔薇が咲き誇る。

 

「魔法の剣を折る能無しは下がれ! 勇み足の穴が開くぞ!」

 

かっ、……かっちょいい!

てか……強い!

 

ゲソに薔薇を咲かせた赤髪は振り返り一瞥し、そう勇ましく俺に言った。

窮地を助けられたものの、ただ、ただで助けられるわけにはいかない。

 

「といっても俺も何かッ」

 

「黙れ! イカより息を殺して寝ていろ!!!」

 

俺はちょうど船の大きく傾く方に、襟を掴まれこの世とは思えない剛力で投げられ────落ちていき船尾の方のドアの空いていた部屋へとぶち込まれた。

 

 

あまりのジェットコースター体験、酒の貯蔵棚に衝突した俺は、悲惨な音と酒臭さにまみれた。

 

すごく痛むカラダをおもむろに上げながら、まだまだ続くデッキの攻防の音、扉から見える切り取られた船上の戦闘シーンを見つめる。

 

女海賊さんにポイ捨てされるほど、俺という存在はあの戦場の上では邪魔だったらしい。

怒りというより情けなさというものが、俺にどっと湧いてくる。

頑張ったからとてがんばりましょう、賞をくれるのは彼女だけ。

 

この先の闘いについてこれない突如のパワーのインフレに取り残されたキャラのきもちとはこういうことなのか。

 

心臓のデキがちがう勇ましい海賊でも、羨むようなヒーローのような力をもった彼女でもない。

俺はせめて突っ立ち、ここで大人しく見ていることしかできない。

 

そう、見てい────────りゅ?

 

壊れた船長室の扉からうねうねと進入、

 

俺の鼓膜を突き破るよう……左右の丸いシャレた窓をノックし突き破り、侵入。

 

俺は蛸壺のなかにいる? それともイカ壺の中にいる?

 

この中でいちばん弱いものから狩られていく。

海に情けはない。

深海の悪魔は本能でしっているのだろう。

 

 

「げ、げげっ……げっそーーーん…………俺ェ? ……」

 

逃げ場のない、塞がれてない、理由をつけて逃げのびようとした情けない俺に3本のゲソが悪魔の試練のごとく襲い掛かった────────。

 

 

 

 

穴を塞がれた脱出不可能のぬれた木の壺の中で、肝を冷やしまくっている俺のピンチに、救いの女神兼俺の彼女が天からド派手に現れた。

子分たちに『こっちより彼氏さんの方、なんかマジ! VIVA! ヤバそうだよ! 風のビーバーちゃん!!!』と言われたかららしい。

 

しかしそんな頼りがいのある風のビーバーの異名も持つ彼女さんが、

 

「いくよ、ビーバーぱんっ────っれ? れれれれ??」

 

当たればつよい渾身のグーパンをにゅるりとスカして巻き取るゲソ野郎に捕まった。

片脚をもってかれてクレーンゲームの良い景品のように逆さ吊りにされた、あられもない姿の彼女を────

 

 

黙って見ている俺ではない!!!

 

しかしがむしゃらに吸盤にタックルしたとこで結果は目に見えている。まさにプロの海賊にきつく言われた能無しの勇み足で、同じだ。ブチギレて一時勇敢になったところで、漫画の主人公のような絵に描いた結果はついてこない。

 

「なにかないかなにかないかー!!!?」

 

ならば見習うべきはと……俺はどこぞの頼りがいがあってアタマのいいロボットのように慌てて使えるモノを探していく。

ここは俺が寝ていた部屋よりひどくいいお部屋だ。

いい酒を独り占めするほどの、部屋に、

 

欲しいのは

 

割れた酒瓶でもない、

剣でもない、

鹿の頭でもない、

海賊らしくないヘンな勲章の飾りでもない、

 

 

必死のパッチ越えの動きで目を凝らし、ごちゃついた部屋で探した末に見つかった宝は、

 

「髑髏の……銃……!!!」

 

もうこれ以上迷っているわけにはいかない。セレクトした海賊らしいデザインの銃を俺はうねるゲソへと向けた。

 

 

「用心深い弾ぐらいあんだろ、っィけ!!!」

 

 

俺は弾がなくても弾がないなんて信じない。

俺の人生イノチを込めた引き鉄をひき、ひどく静かな音をたてる……透明にもおもえる弾丸が────

 

太いゲソをまるく抉りとった。見間違いじゃない、たしかにその空色の弾丸が敵を穿った。

奇跡をひいた、そのトリガーを俺はしらず投げ捨ててそれよりもハズせない大事なものを……慌ててひろいにいった。

 

 

 

「はは、惚れた」

 

「はぁはぁ……ははは、だろ──?」

 

 

 

やっと念願の彼女をキャッチし抱きかかえる。冷汗のしたたるいい男と、それをあかく笑い見上げる彼女がいた。

 

とてもとても最高の気分で、やっと釣り合った最高のシチュエーション。

ずっとこのままでいたいとお互いその見つめる表情に、思うほどに──

 

 

「思うほど……ぬぃいいぃい!??」

 

 

足首をにゅるり……つかまれた右脚が宙に浮き、肝が急激に冷える。

まさかの今度は俺がゲソイカアームに死角から捕まりクレーンゲームのいらない景品にされてしまった。

 

あまいあまい2人の世界を展開していたのが仇となったのか。

空気の読めないゲソ野郎に俺は天地を逆にされ──情けない悲鳴を上げている。

もはや恥ずかしすぎる、彼氏が彼女にみせてはいけない姿だろう。

俺が景品にされてたまるかともがいたそのとき、

 

「私の部屋でこそこそ何をやっている──チッ!」

 

お姫様だっこで舌打ちされるのは斬新だ。

俺はもはやいつもの女海賊さんにいつの間にか助けられていた。

赤髪さんの目ははやく降りろと睨み言っているので俺は慌ててどこうとするが、──結局釣り上げたいらない魚のように投げ捨てられた。

 

ともあれ合流を果たした頼もしい女海賊船長と、最強のかわいい彼女、そして役立つアイテムをてにい──

 

「てにいれ……アレ?」

 

探せど俺の銃がない。俺の髑髏さんが──ない……。

 

「貴様、まさか……勇み足はやめろと言ったはずだ。身の丈を考えない……さもないと──こうなるというのだ……!」

 

 

船尾にとりつき、船長部屋をはんぶん飲み、乗り上げた巨大なイカの顔はまるで────

 

「まじかよ……! なんてしつこいんだよっ取れるまでっていいたいのかよ……ヘタクソゲソ野郎!!!」

 

「はは、破産タイプ、ははふふ、イカさんだけに、ふふふ」

 

「なにが深海の悪魔だ────盃を見つけ出すまでは、私の宝も国も育て上げた海賊団もひとつもやらんぞ!!!」

 

能無しの俺は失くした銃を探し、ヤル気にわらう彼女は拳に簡易おまじないの吐息をふきこむ、赤髪の海賊は邪魔な眼帯をカトラスで裂き凄んだ。

 

ゲソが尽きるまで追ってくる、しつこいしつこい深海の悪魔クラーケンを協力し倒すために────────。

 

 

 

 

赤髪さんの剣さばきはすごい。俺の彼女の拳さばきもすごい。

結局、俺はまたすごくない俺に逆戻りだ。

 

髑髏の銃を失った俺はまた一度は追いついて見せたインフレバトルに取り残されてしまう。せめて足を引っ張らないようにゲソに捕まらないように逃げて気張ってェ────これが精一杯!

 

それでもまた俺は両脚をもってかれ宙吊りに────てか股がァ!?

 

「うおぉっ!?」

 

最強の彼女と最狂の赤髪さんが同時に俺を襲ったゲソを2本ぶち切った。

 

「かっこよく守られたから、かっこよく守るよっ!」

 

「つくづく…海賊はお荷物を運ぶお仕事だ!」

 

今日殴られたのは1発、いやたしか2発だけど……今日守られたのはこれで何度目か。2人の背はとても……大事な宝を守るような海賊らしかった。

 

「って俺の彼女は海賊じゃねぇ! って俺もたいした宝でもねぇな……」

 

「何を戯言を言っている! 私の船の上で戯言を言っていいのは海賊だけだ!」

 

「ごめんなさいぃ!」

 

意味はよく分からないけどこれは本当にあやまるしかない。

 

「ねぇねぇ、手ぇ────かして?」

 

「は? いいけ……ってこんなときにか?」

 

「うん。その方がたぶん、充電しやすい、しあわせバフ、はは」

 

寄ってきた彼女はそう言い、俺は戸惑うもその自信ありげで成功例のある案に納得し、ほほえむ彼女にへいぼんな俺の両手をよろこんで差し出した。

 

「チッ。私が貴様らの時間を買ってやる。恋人らしく最後の宴でも楽しんでいろ! 幻想のナカでなっ!」

 

「【蜃灰ノ薔薇(クラムローゼス)】──【西風ノ毒香(フローラ)】!!!」

 

赤髪の女船長が最後の海神力をふりしぼり発動した。

棘ついたいばら枝は部屋を覆い、じっくり開いていく灰色の薔薇の香りが風にただよい、あまい匂いを周囲に充満させてゆく。

 

妖しい灰とピンクがマーブル状にかすむ景色に────俺と彼女のふたりだけの世界。

 

手をすりすりと擦り合わせてゆくのは、しあわせのおまじない。

 

俺はなかなかの役立たずだけど、彼女はこうしているとすごく安心するという。

 

たとえイカした髑髏の銃が今はなくてもやわからな彼女の手を握って、俺もすごく……安心するから、

 

「お互い合わせて……」

 

「すごくしあわせになる……バフ? はは、いってきます」

 

俺はゆっくりと頷いた。思い切っていってこいって言いたいところだけど、それはちょっぴり無責任なので、彼氏として……クールな感じでもいいかなって! 彼女と同じ流派の感謝のビーバー拳を突き出して、笑った。

 

そして拳と拳はコツンと合わさり────灰ピンクの蜃気楼、幻想が明けてゆく。

 

 

すると景色のチャンネルが切り替わるように姿を現した女海賊の剣は弾かれ、俺の耳を掠めた。

 

びーーん……と壁に突き刺さった肝を冷やすコミカルな音を合図に、

 

片膝をつく赤髪の睨みワラう背を今とびこえ、

 

 

「事前感謝────しあわせの【ビーーバーーーパンチ】!!!」

 

 

彼女のバチバチと唸る拳は食いかけのゲソをすりぬけ、イカ顔を吹き飛ばした。

 

風のビーバーが放ったのはただの風ではない────まるで嵐。

 

船尾にへばりついていたクラーケンを彼方へと引き離す、嵐の拳。

 

 

磯臭い悪魔がスクリーンから去り、上映されてゆくのは満月とひろがる夜海のエンディングムービー。

 

 

外から歓喜の声が聞こえてくる。

嵐が過ぎ去り、さわやかな雨が俺たちに降り続ける。

 

 

「はは、やった」

 

「やった……やったぞーーーー!!!」

 

手を合わしている。

拳を合わせている。

それでは足りないからくっつけた、おデコとおデコで────

 

 

歓喜の輪は荒れ果てた船上にひろがる。

 

おデコでイチャイチャと相撲をする2匹のビーバーを両脇にとらえて、がしっと。

 

「ハッハッハーーー! よろこべ凪の小僧わらえ嵐の小娘これが私のクリムゾンローズ海賊団の、──…たたかいだァァ!!!」

 

高笑う赤髪の女船長に揺らされながら、

俺たちは一緒にわらった。

 

それはもう、こんなにみんなで分かち合う事は生涯ないんじゃってぐらいに。

微笑みをくずした勝利の女神たちと、大いに笑った。

 

 

そう、ずるりと笑った。

 

 

はははは、ん、ずるり……?

 

 

 

「「「へ?」」」

 

 

 

肩を寄せ合っていた俺たちは、ともに天に笑っていた視界が一瞬ですっ転び、

 

沈んでゆく。

 

 

船はどこだ、

 

笑っていた甲板はどこだ、

 

何に足をとられた、

 

俺は今どこだ?

 

 

分からないまま何もかもが渦巻き、何もかもが冷たくて暗い彼方へと沈んでゆく。

まずい水を飲みもがく俺は、必死と朦朧の意識のはざまに見えてきた白いその肌を────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼

▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ななめの甲板を滑って、ロープネットにぬれた魚がかかった。

 

無茶だらけの夢のような海の冒険の幕切れとしてはよくできていた。

 

夕暮れのオレンジ網に絡め取られながらも、重なり合った彼女と驚く顔を見合わせて────しだいに笑う。

 

笑うしかなかった物語を語り合うまでもなく、おかしなおかしな結末に俺たちは心から笑うことをやめれない。

 

 

沈みながら戻ってこれた現実、沈む夕暮れ時はいつもよりすごく赤味を増しているように思えた。

 

そう、すごく──

 

 

「おい、そろそろ……私の上から──どけぇッッ!!!」

 

 

跳ね上がったのは魚じゃなくて、

 

宙にあわてもがく俺と、

 

知っていたのか笑いながら宙返りする彼女と、

 

やがて────情けなく地に落ちた俺を見下ろす、おそろしい赤髪であった。

 

 

 

 

第一章 完

 

 

 

 

つづく

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