「桜才の文化祭って色々あんだな。」
「そうよ~! すごいでしょ~。」
ぽよん。 と胸を揺らして、じゃなくて胸を張って、自慢げにアリアは言った。
楽屋で生徒会の皆さんと話をした後、俺とアリアは二人で文化祭を回っていた。アリアは生徒会の仕事があったにも関わらず、会長さんが気を回して、自由時間を与えてくれたのだ。津田くんも誘おうと思ったが、会長さんに引きずられながら嫌々生徒会の見廻りに行った。萩村さんによると、会長さんは津田くんと一緒にいたいそうな。…なるほどね。
とにかく、アリアとの時間が出来たんだ。存分に文化祭を楽しもうとするかな!
「どこに行く?」
「どこにイこうかしら?」
「…どこから回ろうか?」
「どこから輪姦そうかしら?」
「なんで全部、エロネタに言い換えるんだよ!」
近年希に見る最低の誤訳…。
そ、そうか…こいつと文化祭回るのか……。楽しい感情より、疲れる感情の方がたぶん勝るぞ。ひえっ… 前途多難だ。
「や」
突然、目の前に女の子が現れる。俺は驚き、悲鳴をあげた。
この人、口が無い!! 否。よく見たら口は小さいながらある。この人が無表情なだけで、ちゃんと顔の形を為していた。
「あら、畑さん。」
「こんにちは。面白い出来事なあい?」
「…この人アリアの友達?」
「うん。こちら新聞部の畑さん。」
「畑ランコです。趣味は脚色です。」
とんでもないこと言いおった…。
「そちらは桜才で見ない顔ねん。」
「あ、俺は一条マドカです。アリアの幼馴染です。 えと……すいません、さっきは驚いてしまって。初対面なのに失礼でした。」
「慣れてますから。 それより、女の子なのに一人称が俺…ですか? いまどき、俺っ子は流行りませんよ?」
この人も失礼だった…。まあ男だと知らないから仕方ないんだけどな…。俺は複雑な顔を浮かべていると、アリアはそれを察知したのか
「大丈夫よマドカ君。私が誤解を解くよ!」
と言って、畑さんに耳打ちをする。
「カクカクシ◯シコ」
「ふむふむ。」
不安だ…。
「なるほど。かわいい顔して、肉◯が付いていると…。 肉欲にまみれていてる男子高校生なんですね、分かりましたぁっ!」
「分かってねぇなあっ!?」
脚色ってレベルじゃねーぞ。捏造だ。
「じゃ。新聞部としての仕事がありますので。」
「ちょっ!」
「それじゃ。」
目にも止まらぬ早さで、畑さんは眼前から消えた。新聞部の仕事ってなに。もしかして、俺の誤情報が学園内に広められてしまうんじゃ。
「アリア……。」
「大丈夫! ちょっと、エッチなことが好きな男の娘に思われるだけだよ!」
「大丈夫じゃあねぇな……。」
俺は文化祭を楽しめるのだろうか。
─────────────────────────
「つかれた……」
俺はベンチに腰掛け、大きなため息を吐く。
文化祭を一通りアリアと見て回り、休憩のためこのベンチで羽を休めていた。ちなみに、アリアは喉が乾いたと言って、自動販売機に飲み物を買いに行った。手にブラックカードを持っていたが、面倒なので何も言わなかった。 もうそろそろ文化祭も終わりだ。
前半から色々あったが、後半も同じようにカオスだったな…。
俺は目を閉じて、今日あったことを頭に思い浮かべた…。
──パターンA 柔道部の場合。
俺たちは柔道部の部室まで来ていた。強く叩きつけられた畳の音や、生徒の掛け声が聴こえてくる。
「柔道部は何をやっているのかしら?」
「柔道の体験です! 初心者でも簡単に柔道の技のかけ方や抜け出し方を教えます!」
髪を後ろでにくくり、爽やかなスポーツ少女が話をしてくれる。この部の部長らしい。
「寝技は!?寝技はどんなのを教えてくれるのかしら!?」
「寝技だけに食いつくなよ…」
「技をかけられている時に、処◯膜が破れたりはしないのかしら!?」
「もうお前黙れ。」
アリアが目に見えて興奮していた。俺はなんとか制止するが、興奮は収まらない。もう既に別の場所に行きてぇ…。
「寝技で幕は開かないですよ。柔道は礼から始まるんです!」
部長さんはハキハキと答えてくれるが、会話は噛み合っていない。天然か?
「でもすいません…残念ながら、男子の胴着はいま切らしていて…女子のならあるんですが。」
申し訳なさそうに、俺に語りかける部長さん。
「あらら、なら仕方ないな。 ん? でもよく俺が男だって分かったな、自分で言うのも何だけど。」
「はい! たったいま畑さんが教えに来てくれましたから!」
「あ、あの新聞部の人か…。」
「はい!」
「えっと…あの人なにか言ってた?」
「肉棒が好物なんですよね! 私も好きですよ、焼き鳥とかからあげ棒とか!」
「…………………怒るに怒れない。」
たぶんこの子、ピュアだ。
「ねえねえ!マドカ君!どんな寝技かけて貰おうかしら!?亀◯縛りって柔道の技だったかしら!?」
この子はピュアじゃない…。
──パターンB ロボット研究部の場合。
俺たちはロボット研究部と書かれた張り紙が貼ってある部室前まで来ていた。部活動で作ったロボットを展示しているらしい。俺も男の端くれ、ロボットにはかなり興味があり、ワクワクしている。
「結構楽しみだわ、俺。」
「そうなのね~。」
俺は胸踊らせながら、扉に手をかける。
「あ、ようこそ。ロボット研究会へ!」
ピシャッ!
急いで扉を閉めた。
今の光景は何だったんだろうか…。眼鏡をかけた女の子が手に機械を持っていた。アダルトなお店で購入できる大人の玩具のような、いかがわしい機械。しかもそれと同じような物が部屋には多く展示されていた。いやいや。流石に、そんな異常空間がある訳がない。たぶん今のは夢だろう。そうに違いない。
「ハハハ、今の何持ってたんだろうなー?」
「(自主規制)よ。」
「ふー………………。」
俺は大きく息を吐いて、呼吸を整える。
「別のとこ行くか。」
「待ってください!!」
踵を返し引き返そうとすると、扉が勢いよく開き、中から先程の女の子が現れた。
「あら轟さん。」
「ごめんなさい! あなたが噂の一条先輩ですよね。さっきのモノは部室にしまいましたから……安心してください。」
「…あ、いえ。」
あれ…まともそうな人じゃないか。
「先輩にはこっちですよね、ペ◯スバンド。これ、動きに感知して自動的にヴヴヴと揺れるんです。」
「まあ。」
もう帰ろう。今すぐに。
──パターンC 先生の場合。
「色々と見て回ったな。」
「お化け屋敷。男装喫茶。射的。 どれも楽しかったわね~。」
「そろそろ飯にでもすっか」
「よーっす、七条!」
廊下で誰かに話し掛けられた。話し掛けていたのは綺麗な大人の女性。口振りから推察するに、先生か友達の親か。
「あら横島先生。」
先生だ。
「担任?」
「ううん。一応生徒会の顧問よ。一応。一応ね。」
「ちょいちょいっ! 一応を強調しないでくれる? 何度も生徒会のピンチを助けてあげた顧問の先生でしょうが。」
「…。」
「そりゃ冗談に決まってるけど、そんな真顔になられると流石に泣くわ。涙でビショビショだわ。 まあ先生のアソコは既にビショビショなんだけど。」
生徒会ってこんなんばっかりか…! 一瞬、まともそうな人だと思ったのに。俺の期待を返して欲しい。
「ん?そっちの君は見ない顔ね。 七条、他校の生徒を案内してくれてんの?」
「いえ。違いますよ彼は…」
「あー待って待って! 思い出した、さっき畑の奴が言ってた子ね。」
「はぁ…。」
どうせ、ロクでもないこと吹聴されてんだろな…。
「あんたも大変ねー。その顔だと女に見間違えられたり、苦労してんでしょ。」
「横島先生ェ!」
前言撤回。この先生良い人かもしれない。俺の苦労を分かってくれる。
「じゅるり」
「…横島先生?」
「ひっ!」
横島先生はアリアの呼ぶ声に驚いた。俺も聞いたことのない低い声で、何か怒っているような語気を含んでいた。正直、怖い。
「だいじょーぶよ、七条! ちょっとつまみ食いしようかなとか、玉には華奢な美男子も味変でいいかなとか思ってないから!!安心して!! あ、それで一条くん、この後予定ある? お姉さんが手取り足取り授業してあ・げ・る。」
「はあ。」
「横…島…先生?」
「……あ、私職員会議があるんだった! じゃあね!」
そう言って、横島先生は俺たちの前から一瞬で消え去った。すごい早足。後ろにいるアリアがなぜか笑顔でいる。今度からアリアを怒らせる真似だけは絶対しないと心に誓った。
「マドカ君の貞操は守ったよ! ムン!」
─────────────────────────
「……………ぁっ。」
気が付くと、日は落ちかけていて、もう夕方だった。回想してたら一眠りしちまってたのか……。俺は口から垂れていたヨダレを拭こうとする。が、拭く物がない。仕方なく服でヨダレを拭こうとすると
「はい。」
と目の前にハンカチが現れた。ハンカチは女の子が好むような桃色の柄だった。アリアが横から差し出してくれたのだ。俺は少し使うのを躊躇したが、「別にいいのよ~。」とアリアは言うので、ありがたく使わせて貰った。
「ありがと。」
「うふふ、どういたしまして。よく寝てたわね~」
「…すっかり寝てた。今日のこと色々と回想してて……ってもうこんな時間じゃねーか…。 ごめんな、も少し行きたい場所あっただろに…。」
「別に平気よ~。もう十分遊んだわ。」
「そうか…。と、と言うか、ずっと横にいたのか?」
「うん!」
アリアの位置は俺の真横。丁度二人座れるか座れないかくらいのベンチにアリアは腰かけていた。正直、狭いな…。
「ずっといなくても良かったのに。」
「ううん。いたかったの。」
「なんで?」
「ずっと…横でマドカ君を見てたかったの…。」
「え?」
思わぬ言葉に胸がドキリとする。
「何時勃つんだろうって…!」
「いやん!」
アリアは俺の股間を直視しながら、言い放った。そのために小一時間横で見つめてたのか…。
「ふぅ…。」
ざわざわと風の影響を受け、目の前にある木が揺れる。葉は少しずつ枯れ落ちていき、秋の夕暮れを感じさせた。
「もう夕方か。やっぱり楽しい時間ってのはすぐ過ぎるな。」
「確かに…早◯ね。」
「時の流れに対して、そう表現する奴初めてだわ…。」
「でも本当にそう思うのよ…マドカ君。」
「俺は早◯じゃないからな!」
「そのことを言ってるんじゃなく…。」
違うのか。良かった。
「最初に出会った時からもう私たち高校生よ。本当に時が過ぎるのなんてあっというま。」
「……まあ。」
そう言えばそうかもしれない。出会ってからもう約10年だ。最近はなぜだか昔のことばかり思ってしまうな…。
俺はなんだか不思議と懐かしい気持ちになって、目の前の木にふと目がいった。そういや、あんな木だったな…。
「どうしたの?」
「……初めての出会いはあんな木の、あれよりは大きかったけど、木の側にアリアがいたんだっけか。」
目の前で静かに佇む木を指差した。
「木陰で休んでたら、覗き魔がいたんだからビックリしちゃった。」
「…いやあれは。」
…そんな出会いだった。俺が丘の下に、アリアが上に立ってて、風がアリアのスカートをめくったんだ。直ぐに目を剃らしたから、スカートの中は見えなかった記憶がある。そんなラブコメ漫画みたいな出会いだったか…よく覚えてるなコイツ。俺は記憶力が良くないからなぁ。
「ちなみにアソコはあの時と同じピンク色のままだよ!!」
「んなの聞いてねぇよ!」
こいつ、あの時と同じで履いてねーのか…。末恐ろしい…。
「でも知ってる?」
アリアはぴょんとベンチから立ち上がると、木の側に近寄った。アリアの背が高いだけなのか、途端に木は小さくなったように見えた。
「この木はね、桜の木なの。 この木の下で告白したら恋が成就するっていうジンクスがあるのよ。素敵でしょう?」
学校でよくある都市伝説だ。生徒連中は直ぐにそういう都市伝説を作りたがる。何を根拠にしているか分からないな。でも、俺は嫌いじゃない。
「よっと。」
俺もベンチから立ち上がって、木の近くへと移動する。
「そんなことで成功したら苦労はしねーと思うけどな。」
「もー夢がないなー。」
「じゃあアリアは信じてるのかよ?」
「もちろん私は信じてるわよ。 だって私も……………」
「私も?」
「両親が木の下で種◯けしたから、生まれたワケだからね! 運命感じちゃうよね!」
「至上最低の運命だわ!」
俺の叫ぶ声で草木が揺れる。腹から出た大声だった。 普通…親の情事なんて聞きたかねぇし、言いたかねぇだろうに、どうなってんだ七条家…。俺は頭を抱えた。
「本当にっ…お前は。」
「うふふ…。」
「なに笑ってんだよ。」
「…だって。」
アリアはぴょんと一歩下がり、両手を後ろ手に組むと、上目遣いで此方を見ながら
「マドカ君も大人になったんだねって!」
と、いたずらな笑顔を浮かべて、言った。
「───!」
勢いよく吹いた風が、アリアの長い髪をなびかせる。夕陽の持つ朱色の光がアリアの茶髪をより美しく、より色鮮やかに見せていて、俺はその姿に少しばかり見惚れていた。
「…私の猥談に付いてこれるんだから!」
そしてアリアが笑うと、また風が吹いた。今度の風は頬をそっと優しく撫でてくれているような穏やかで、気持ちの良いものだった。俺も思わず笑みがこぼれる。
「…当たり前だろ。今までずっと、何回聞かされてきたと思ってんだ。」
一歩踏み出し、俺はアリアの前まで歩み寄る。
「まあ、だから………だから、今までと同じように、アリアのその重いジョークに付き合っていくよ。 ……これからも。ずっとな。」
俺の言葉を聞いたアリアは目を丸くしていた。俺は恥ずかしくなって目を逸らすと、彼女は目を細めて、何も言わずコクリと頷いた。
そうして丁度、見計らったように学園のチャイムが鳴った。終了の合図。文化祭の終わりを告げるチャイムだ。
「たまにはこんな終わり方もいいかな。」
そんなことを呟きながら、俺は秋の風に揺られるばかりだった。
「…マドカ君はこのあと、どうするの?」
「この後?いやもう帰るよ。明日は早朝から親父の手伝いもあるし。アリアはどうすんだ?」
「私は後夜祭があるから夜までいるよ。」
「そっか。ならこれでお別れだな。…今日は誘ってくれてありがと。俺もホント楽しかったよ。」
「うん! 私も楽しかったよ。 楽しすぎて…貞◯帯が濡れちゃうくらいにはね!!」
「……………………………フッ。」
台無しだ。
ここまで読んでくださりありがとうございました!
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