今日は日曜日。宿題を終え、家の手伝いも無く、予定すら一切無い。そんな一日が久しぶりに訪れた。暇すぎてRPGのレベル上げを延々やりまくってたが、それも飽きてきた。暇すぎるというのも考えものだ。
いや…これじゃあ駄目だ。せっかくの休みを無為に過ごしている。もっと有意義に使わなければ。
俺はそう思い、箪笥の扉に指をかける。外行きの服に着替えると、髪を整え、すぐに家を出た。
「ん?」
道すがら、電話の着信音が耳に入る。携帯を開き、画面を見てみると、アリアからだった。
またか…。
俺は嫌々着信ボタンを押し、携帯を耳に当てる。電話越しから上品な声が聞こえる。
『もしもし…マドカ君?』
『なんだ?』
『あー良かった! ホっとしちゃった~』
『…おお? 何の安心だ?』
『休日だし、自家◯電の最中じゃないかって心配だったの』
『ならお前の電話にはかかんねぇよ』
最初からアクセル踏みっぱなしだった。休日からこれはこたえるわ…。
『んで用件は? 日曜からお前の猥談に付き合い切れねぇんだけど』
『そうそう。今から時間あるかしら? ちょっと付き合って欲しい所があるのよ』
『あるけど…面倒な事なら普通に断るぞ、俺は』
『大丈夫よ! ちょっと薄暗い個室の中、二人だけで黒い棒を弄りたいだけなのよ』
もう面倒そうじゃねぇか…。
『ま、まあ、それはたぶんわざといかがわしく言ってんだろうが…具体的にはなんのことだ?』
『私と一緒にカラオケ行ってくれないかしら?』
『もう普通に言えよ…』
なんでわざわざ意訳するんだ。
でもカラオケか…。意外だな。アリアとカラオケとはあまり結び付かない組み合わせだ。そもそもあいつ行ったことあんのか、いやない(反語)。
『じつはね私、一度も行ったことないの。この前、お友達にそれを馬鹿にされちゃって…。だからマドカ君、一緒に行ってくれないかしら? 大事な経験なの。初めてをマドカ君にあげるの』
『まあ別に俺で良かったら…』
『やったあ! ありがとう!』
『んじゃあ駅前のカラオケ店に集合で』
『分かったわ。ケ◯アナおっぴろげて待ってろ!』
『首洗って待ってろ、みたいに言ってんじゃねぇ』
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で。カラオケ店。店構えは少しボロついていて、古さを感じさせる印象だ。そして、そんな店には不釣り合いな、ピカピカのリムジンが店前に停まっていた。
リムジンから私服姿のアリアが出てくる。黒のワンピに高そうなカーディガンを合わせており、お嬢様の風貌を感じさせた。場末のカラオケ店ではなかなか見かけない服装だった。
「あ、マドカ君~」
「おっす。んじゃ早速入るか」
「お、早速下ネタだね!」
「どこがだよ!」
俺たちはカラオケ店で受付を済ませ、部屋へと入る。部屋の中は薄暗く、テレビ画面の明かりでやっと周りが見える程度だった。俺は部屋の電灯を点け、備え付けのソファに座った。アリアはキョロキョロと部屋を見回していた。
「どう来てみた感想は?」
「うん。この広さのお部屋って屋敷には一つも無いから、とても新鮮だわ」
「でたわね。お嬢様発言」
「もー、からかうのはやめてよー!」
フグのように頬を膨らませ、俺の肩をポカポカと叩く。無邪気なアリアの姿に笑わずにはいられなかった。
「まあまず色々とシステムを紹介したいが…ちょっとトイレ行かせてもらうわ」
「あ…(察し)。分かったわ、我慢しない方がいいもんね!」
「アリアの考えてることは致しません!」
「やっぱり致すのね」
「しまった!」
まあこんな会話どうでもいい。さっきから尿意がじわじわ押し寄せてきてたんだよ。
俺は早々と部屋から出ると、扉の真横で出島さんが背筋をピンと伸ばし佇んでいた。
「うわあっ!?」
声をあげて驚いた。心臓が飛び出るかと思った。
「ビックリした…。ちょっと出島さん、いたんですか!」
「これはこれは一条様」
出島さんは軽く会釈をする。
「なんでこんなところに…」
「車で待機しているつもりだったのですが、旦那様から監視の命令が下されまして…」
「監視ってアリアのですか?」
「いえ、お二人です。お嬢様はまだうら若き乙女、なのに、ああ、けだもののオスと個室に二人きり、そんなの万一間違いがあれば困ります…ということで、私が部屋の外から監視をさせて頂いております」
「誰がケダモノだ」
なるほど、七条の親父さんの命令か。あの過保護な親父が考えそうなことだ。
納得。
「アリアにそんなことしねぇよ」
「高校生の男女が暗い個室で二人きり…何も起きない筈もなく」
「何も起きねぇよ!」
「いえむしろ起こしましょう!」
「なんでだよ!」
「高校生の情事を生で拝めるところなんて、カラオケかネカフェくらいしかありません。しかもお嬢様と一条様のシチュエーションなんて、大金叩いてでも御覧に入れたいくらいです…はぁはぁ…!」
鼻息荒く、目をバキバキにさせながら、出島さんは言った。興奮しまくっている様子で、俺は出島さんを白い目で見た。
この人はもう駄目かもしれない…。いやもう駄目だろう。
俺はもう無視して、トイレに直行する。
そしてトイレで用を足した後、部屋へ戻る。すると、アリアは部屋の隅でマラカスを握りしめ、じっとそれを見つめていた。
「どうした?」
「すごいわね、カラオケって。もしものためにバ◯ブが置かれているのね」
んなわけねぇだろ。
と、突っ込もうとすると、ブブブと謎の音が部屋中に響いた。マラカスが小刻みに揺れていて、マラカスからその音は発せられていた。
「ね?」
「マジでバ◯ブだったのかよ!」
それはマラカス型バ◯ブだった。そして、そのマラカスには轟という謎の文字が記されていた。俺はアリアからマラカスを取り上げ、受付に忘れ物としてそれを届けた。
なんだったんだ…あの玩具は。
「お、おっしゃ、じゃあ気を取り直してカラオケだ」
俺は無理やりテンションをあげる。せっかくのカラオケだから盛り上がらないと。
「まずは、このタッチパネルで自分の歌いたい曲を入れるんだ。好きに入れろ。…でもアリアって歌とか知ってんのか?」
「もー。私でも歌くらい知ってるよー」
「例えば?」
「ヴァカリーズやアヴェ・マリアかしら?」
全部、クラシックじゃねぇか!
「そんなのカラオケにねぇよ。J-POPとかさ。テレビのCMで耳にする曲とかねぇのか?」
「私、テレビ見ないしねぇ」
…カラオケに何しに来たんだよ。まあアリアが俗っぽい歌に興味があるようには思えねぇし、仕方ないか。
「あ、でもトリプルブッキングってアイドルグループの曲ならいくつか知ってるわ」
「じゃあそれ歌おう!」
俺はタッチパネルで曲を入れ、マイクをアリアに手渡した。アリアは最初はオロオロしていたが、流石は完璧お嬢様だ。曲が始まった瞬間、雰囲気は一変し、音程を外すことなく、アリアは完璧に歌っていた。
いやめちゃめちゃ上手ぇな。そういやトリプルブッキングの茶髪の子と声も似ているし、ホント凄ぇ。聞き惚れてしまうな。
そして歌が終わり、点数が表示される。点数はなんと95点と高得点だった。初めて見た。カラオケって90点台出るんだ。
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「…もう疲れちゃったわー」
数曲歌い終わった後、疲れきった様子でアリアはソファに座り込んでいた。アリアの歌声が妙に新鮮で、一人で歌わせ過ぎてしまった。
「……」
アリアと目が合う。此方をじっと見つめていた。
「どした?」
「あ、ううん。カラオケって意外に体力を使うのね~」
アリアはカーディガンを脱ぎ、部屋のハンガーにかけた。その際、胸を強調するようにわざと大きく腕を上げ、のけ反り、俺に見せつけているようだった。
「んー」
「なにしてんだ」
「もーマドカ君、どこ見てるのー。ホントにエッチだなぁ!」
「いやそりゃあ不可抗力だろ。あたり事故みてぇなもんだろ…」
「この思春期!」
なんだこいつ…いきなり。
「お前のなんて見る気ねぇよ。一つもな」
「…ふーん。強がっちゃって!」
「ダル絡み…。お前急にどうしたんだよ!」
「ちょっとねーなんかクラクラするのよー」
「あ? あ、密閉空間にいるから暑いのか。エアコンを点け…あ、壊れてる」
エアコンのリモコンは押しても反応がなかった。
「んー」
バサッ。
アリアが急に覆い被さってくる。暑さのせいなのか、目が虚ろになっていて、フラついていた。なんか酔っぱらってる時の親父に絡まれているのを思い出した。
「お、おい、どけって」
「んー」
「いい加減にしねぇと」
腕力でアリアをどかそうとすると、又もアリアと目が合ってしまった。暑さのせいで赤く火照っていて、はぁはぁと喘いでいる。胸もはだけて、ややもすると、こぼれ落ちそうになっていた。
なんだこの状況。
「マドカ君…」
「ちょっと待て!」
「マドカ君……私ね」
「ちょっと待てくれ! 出島さんが見てるから!」
目をバキバキにさせて!
俺は扉の方を指差す。その先には、ガラス越しから興奮気味に此方の様子を見る出島さんの姿が。「やれ!」だの、「そこだ!」だの格闘技を見てる観客のように声をあげていた。
主のピンチに何してんだ、あの人は。
「はぁ…」
「………」
「よし、じゃあどいてくれ」
アリアをどかせ、俺は起き上がった。
「頭がくらくらするわ…」
まあアリアは歌いっぱなしだったからな。俺もせっかく来たんだから歌わないと。曲を入れようとした瞬間、個室の電話が鳴り「お時間になりました」と言われた。
「…はぁ。じゃあ帰るか」
会計を済ませ、カラオケ店から出る。すっかり日は落ちていて、もう夜だった。俺は飯にでも誘おうとしたが、屋敷のパーティに行かなければいけないとかで、今日は止めになった。とても残念がっていた。また明日、学校帰りにでもと約束を取り付け、俺たちは別れた。
「結局、一度も歌ってなかったな俺。何しに来たんだ…」
結局、無為に過ごした日曜日だったんじゃなかろうか。
読んでくださりありがとうございました。
思い付いて勢いで書きました。
余談ですが、タイトルをおま◯けにするか、おまけにするか、1時間くらい悩んでました。