本編よりおまけの方が長い…
海に浮き輪を浮かべて、俺はその上でプカプカと揺られていた。
青空を仰ぎ見ていると、受験とか将来の悩みとか全部忘れられて、とても気持ちのいい時間が流れていた。
一生、こうしていたい。
海ってそこまで好きじゃなかったけど、考えを改めなければいけないな。
「あ~、最高だ~」
「楽しそうね、マドカ君」
海から顔だけ出して、アリアが登場する。
「うふふ、驚いた?」
「ああーびっくりしたー」
「もー、何よーその反応は。不感症だね?」
「そうだよー」
「…いつもの調子じゃないわね。張り合いないわ」
「そうかなー」
あー、突っ込む気もおきない。
なんだろうな。この広い海のような気持ちだ。
アリアのいつものジョークにも、大きな器と気持ちで対処できる。どんなことにも動じない。
「マドカ君…」
アリアはまだ海から顔だけを出している。
「なんだー?」
「水着が波で流されちゃった」
「なんですと!?」
ええっ!?
「ちょっ…まじか、リアルポロリ!?」
俺はめちゃめちゃ動じた。
だから顔だけしか出していなかったのか。
「どうしたらいいかしら…?」
「いや、俺に聞かれても」
いや待てよ。
「ここはプライベートビーチだし、俺ら以外に他の誰もいねぇじゃん」
「そうね」
「だから見られる心配なんて無いと思う。海から出てもちょっとした露出狂になるだけだ」
「最高ね」
「最高かは分からんが…」
まあとりあえず、そこまで焦るような話ではないかもな。
「じゃあ出島さんに頼んで水着の替えを取ってこいよ」
「あ、用意していないわ」
「まじか…」
買いに行こうにしても、店まではかなり遠いし、それだけで今日が終わっちまう。
「んじゃ今日はお開きにするか? ちょっと早いが」
「嫌!」
「…え」
「今日、マドカ君との遊びは久しぶりになるのよ。最近はずっと受験勉強で、遊べなかったし、今日くらい一日たっぷり遊びたいわ!」
アリアが(健全で全うな)自分の意見を言うのも珍しい。基本的に穏やかで、パッション強めで意見を遠そうとすることはないのに。
でもそこまで言ってくれるのは少し嬉しいな。幼馴染冥利に尽きる。
「分かった。なら探しに行くわ。少し待ってろ」
俺は浮き輪からぴょんと飛び降り、海の中へ入る。
まあ見付かるかは分からんけど。
「どこで失くしたんだ?」
「あそこよ」
アリアが指さす方へ向かう。
あたりを見回すが、それっぽい物はない。風や波の流れを確認し、水着の行き着く先にアタリを付ける。
たぶんこっちかな。
少し深いところまで泳ぐ。何か浮かんでいないか確認しながら。すると、プカプカと白い布のようなものが浮かんでいるのを発見する。
「あった!」
そこまで行くと、それはアリアの水着だった。奇跡的に見付かった。
「良かったー…」
さすがは、俺だ。これは自画自賛してもいいだろ。
さあ。これで後はアリアに知らせて…
ん?
「マ………カ…な…い!!」
アリアの声が遠くから聞こえる。
はっきりとその内容は聞き取れなかったが、なんとなく…
「危ない?」
そう呟くと、大きな影が差し込んできた。振り向けば、巨大な波が押し寄せてきていた。
俺は逃げる間もなく、高波に呑み込まれてしまう。
海中から早く抜け出し、息を整えなければ。なのに、身体の自由が上手くきかない。もがけばもがくほど、深い海の底へと沈んでいくような気がした。
息が続かない。鼻に水が入る。
どんどん意識が遠退いていった。
そういえば、こんなこと前にもあったなぁ。
小さい頃、アリアと海に来て、俺が調子に乗って深いところまで泳いだんだ。そして案の定、溺れかけたんだった。
あの時は、温厚なアリアの親父さんに叱られて、帰ったら親父と母さんにも大目玉食らったっけな。
懐かしいな。
アリアと海か。
これまで何度とアリアと来たが、あとどれくらいの夏を共に過ごせるのかな。
いずれ夏の思い出も、かけがえのないものに変わっていくのだろうな。
俺は遠退く意識の中、思い出に浸った。
『大丈夫よ、ちゃんと剃り残しもないわ!』
『今の波は凄かったねぇ、ち◯に水が入ってきちゃったよ~』
『海といえば、エッチなことのできる都合のいい岩場だよね!』
「……」
ろくな思い出が無ぇ…。
「マドカ君!!」
目を覚ます。気が付けば、心配した様子で此方をアリアは見ていた
俺は砂浜に敷いていたシートの上で寝転んでいた。
どうやら助かったらしい。
波の勢いで、運良く浜までたどり着いたんだろうな。
「大丈夫…なの?」
アリアが不安そうな顔で、訊ねてくる。
「ああ。たぶん大丈夫」
「良かったわ」
「そうだな…」
「あの…じゃあ手をどけてくれるかしら?」
アリアが少し赤面して、俺に言う。
不思議に思い、自分の右手を見ると、なんと手が彼女の胸を覆っていた。たぶん夢の中でもがいていた拍子に、触ってしまっていたのだ。俺は慌てて手をどける。
あと、アリアは水着を着ているということはちゃんと水着を取り戻せたんだな。良かった良かった。
「も、もー…マドカ君も欲しがりなのね!」
「う、うるせぇ」
と、いつものように軽口を言い合うが、いまいち歯切れが悪く、少しばかり沈黙が続いた。
そしてその沈黙を破るように、向こうから出島さんがやって来た。
「一条様…! お目覚めですか」
「はい。全然大丈夫ですよ」
「それは良かったでございます」
「ええ。本当にご迷惑かけました」
「いえいえ。もしこれ以上目覚めなければ、人工呼吸を理由に、ディープキスをかましてやろうかと思っていましたから。舌をからめて」
「本っ当に良かったわ」
二つの意味で俺は危機一髪だったのか。
「…でも」
俺は立ち上がる。
「悪いな、アリア」
俺の一言に、アリアは不思議そうな顔を浮かべた。
「結局、色々とトラブルもあって、一日たっぷり遊ぶことができなかったな」
「あ、ううん。大丈夫よ」
アリアは大きく首を振った。
「また…来年も来ましょう!」
「!」
「また次の年も、そのまた次も」
「……ああ、そうだな。一緒にな」
「うん!」
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そして後日。
「おーっす!」
友達が元気よく声をかけてくる。
「よ」
俺もいつもの調子で返した。
「いやー、海でめちゃくちゃ焼けたわー。肌がヒリヒリする」
「ああ。そうか。お前らも海に行ってたんだよな。どうだった?」
「まあむさ苦しい連中に囲まれてたけど、男だらけの水着大会も悪くなかったぞ。まあすぐ海に飽きちまって、みんなで浜で麻雀してたけど」
「海に行ってまで…?」
わざわざ麻雀卓を持ってきたのか…?
「んで、お前の方はどうだったんだよ?」
友達に肩を組まれ、問いただされる。
「アリアさんとどこまでイったんだ? イけたのか?」
「…別に何もなかったよ」
「なんかあるだろ! もっとこう…色々とさ!」
「だから無いって!」
俺は友達の腕を振りほどいた。
「…まあでも、一つ言えるとしたら、時速60キロの風の感触は──お前の言う通りだったな」
「なっ…それkwsk!!」
「教えねーよ」
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