「お」
「あ」
放課後。家に帰る途中で、見知った男の子に出会った。
「あなたは七条先輩の…」
彼は、津田タカトシ君。
アリアが所属する生徒会の副会長さんだ。面白い子が生徒会に来たと、アリアが度々話題にしていたから、俺もよくご存知だ。
「あの…どうしました?」
彼をじっと見る。
俺と違って背丈があり、体格もあり、男らしい子だった。正直めちゃめちゃうらやましい。
「なんでもないよ。そういえば、文化祭で会って以来かな」
「はい。確か、七条先輩のセフ…お友達でしたよね」
今、セ◯レって言いかけた?
あいつのジョークが悪い影響を及ぼし続けている。
「学校の帰りですか?」
津田君に話し掛けられる。
「うん。そうだよ」
「部活とかは?」
「してないんだよねー。最近は家の手伝いも忙しいからね」
「へぇ、偉いですねえ。俺なんか家に帰ったら、いっつも何もしてませんよ~。寝てばっかり」
「津田くん、生徒会で頑張ってるじゃん。それで十分だよ」
「…ですかね?」
「…そうだよ」
「…」
「…」
「「……………」」
ああ、駄目だあ。
話すことが無くなった。
少しばかり沈黙。お互いの顔を眺める時間が続いていた。
他校の、しかも後輩の男の子となんて何を喋ったらいいか全然分からん。しかも、文化祭で一度会った程度の関係だ。正直言うと、俺もそこまで社交的じゃないしな。
葡萄関連の話題なら、日を跨いでいても喋り続けられる自信はあるけども、日常の会話となると話は別だ。上手く喋れるビジョンが見えない。
何か話題が。話題が欲しい。
津田君との共通の話題が。
あ。
「──アリア」
唐突にそう言うと、津田くんは頭にクエスチョンマークを浮かべた。
「あっ…そうだ。学校でアリアはどうだった?」
「七条先輩はいつも通りでしたけど」
「いつも通りか……嫌だな。あいつのいつも通り。迷惑とかかけてた?」
「そんなことは。いつも俺の方が迷惑をかけてしまってるくらいで…」
「いや、あいつが繰り出す冗談のことなんだけど」
「あー。…まあそれはそうですね」
それはそうだよな…。
「あいつのジョークは胃に悪いからな…」
「そうですね…」
「例えばこの前なんか」
俺はこの前のことを回想する。
『あ、見て。猫がいるわ』
休日に、アリアに誘われて、ショッピングモールまで買い物に付き合わされていた帰り道。
アリアの視線の先には猫が一匹、ふてぶてしく此方を見ていた。
『かわいいわね~』
『まあそうだな』
『私、猫って好きだわ。とても癒される』
『まあそうだな』
『もー、愛想の無い返事だなあ』
『うー。まあ可愛いと思うが、どう返事すればいいか分からん』
もちろん猫はかわいいと思うが、飼いたいとまではいかないし、生き物に対してそこまで好意を向ける人間ではない。
『マドカ君は、犬派なの? 猫派なの?』
猫を撫でながら、アリアが俺に聞いてきた。
『うーん。まあどっちかっていうと、猫だな』
『え!?』
あっと驚くアリア。
『そこまで驚くか? 猫の方が俺は好きだって』
『え!?』
また大きな声を上げる。
『めちゃくちゃ驚くじゃん。なんでそんなに?』
『いや驚くわよ。マドカ君は、どっちかっていうと、タ◯だからね』
『お前、読解力消滅したの?』
ネ◯とかタ◯の話を今はしていない。
『犬派か猫派の話をしていたよな?』
『大丈夫よ! 私がリードしてあげるわ!』
『ちょっ、間違った流れで会話を進行するなよ!』
『ネ◯でも安心よ!』
『おまっ、しつこい!』
──そして回想は終わる。
「みたいな」
「た、大変ですね…」
津田くんが理解してくれる。
それだけで俺は嬉しかった。
「俺なんかは…」
今度は津田くんの回想が始まる。
津田くんとアリアが二人きりで、生徒会室を掃除していた時の話みたいだった。
『もー! 津田くん、この床、ホコリでいっぱいだよ!』
『あ、すいません…』
頭をポリポリとかきながら、津田はペコリと頭を下げた。
『ちゃんと掃いてるの? これだとシノちゃんに怒られるよ』
『う。で、ですよね…。俺、あまり箒とか使ったことなくて』
『掃除とかあまりしないんだね』
『はい。七条先輩は綺麗好きですよね。すごく良いことだと思います』
『そうよね』
アリアは津田の方をクルリと向いて、頬に人差し指を当てて言った。
『ア◯ル洗浄は大事だよね!』
津田はつい絶句してしまった。
──そして回想は終わる。
「みたいな」
「それはひどい」
あいつは何を言っているんだ。
というかア◯ル洗浄ってなんだ。
「じゃあこの前なんかさ──」
「あ、生徒会で前に海に行った時のことなんですけど──」
こうして、俺と津田くんは楽しく語らいあった。日が沈むまで夢中になっていた。
そして
「あ、もう暗くなってきましたね」
津田くんが空を仰ぎ見て言った。
「早っ。じゃあ帰ろうか」
「はい。あ、そうだ、メアド交換してくださいよ。また七条先輩と話したいです」
後輩からの嬉しい言葉だった。
「そうだね。…ありがとう」
俺は携帯を出し、メアドを津田くんと交換した。
「じゃあな」
「はい! それじゃあまた」
──こうして、俺たちは被害者の会を設立したのだった。
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