君は愛しのバニーちゃん   作:天音ろっく

12 / 13
12)闘う男、スーパーマン

 

 

 

(ハァ……なんとかバレずに済んで良かったわ〜。いやぁ、マジで焦った)

 

 

 万が一にも悪魔に正体がバレようものなら、危うく家庭教師の職を失う事になっていたかもしれない。腰の負傷だけで済んだのなら安いものだ。

 未だビキビキと痛む腰を抑えつつ、可愛い美兎ちゃんの笑顔を思い浮かべる。

 

 

(ああ……っ! 俺の可愛いマイ・ワイフ♡♡♡ 今行くから待っててね♡♡♡)

 

 

 ルンタッタ・ルンタッタとスキップを始めようとした──その時。

 瞬時に顔を青ざめさせた俺は、そのままゆっくりと視線を横に向けてみる。

 

 

 

 ────!!?

 

 

 

(……エッッ!!!? な、ななななっ……、なんでいるんだ!!!?)

 

 

 すぐ隣りをシレッと歩く悪魔の姿を見て、俺の心臓はズンドコズンドコと急激に鼓動を早める。

 

 

(エッ……!!!? 何っ!!? も、もももっ、もしや……っ!!! バレたとかっっ!!!?)

 

 

 緊張で血走った瞳をカッと開かせると、悪魔に向けてゆっくりと口を開く。

 

 

「あの……。何か、俺に用……かな?」

 

「あ、私もこっちなんです」

 

「ああ……そうなんだね」

 

 

(……って、いやいや!! それにしたって俺の隣りを歩く必要なくねっ!!?)

 

 

 なんてことを思いつつも、バレるリスクを恐れて沈黙する。

 いつもなら軽快にスキップしている通い慣れたこの道のりも、悪魔が隣りにいるせいでちっとも楽しめないばかりか、まるで地獄のように感じる。

 

 

(一体、どこまで一緒なんだ……?)

 

 

 チラリと隣の様子を窺《うかが》ってみるも、ニコニコと嬉しそうな笑顔を浮かべる悪魔は一向にこの場からいなくなる気配がない。

 このままでは、もうすぐ美兎ちゃんの家へと辿り着いてしまう。

 

 

(っ……くそぉー!! 俺のハッピーロードを返してくれっ!!!)

 

 

 その悔しさをグッと堪えると、涙を飲んで平静さを装う。

 残念ながら俺のハッピーロードは奪われてしまったが、正体がバレていない事を一先《ひとま》ずは良しとするしかないのだ。

 

 幸いなことに、俺にはまだ美兎ちゃんとの2人きりでのカテキョの時間という、究極の癒しが残っている。そこで挽回ができるのなら御《おん》の字だ。

 そんな事を考えながら、白塗りの可愛らしい家の前でピタリと足を止める。

 

 

(……お待たせ♡♡♡ マイ・ワイフ♡♡♡ )

 

 

 死人のような顔から瞬時に破顔させると、目の前にあるインターホンに向けて右手を伸ばす。そのままボタンに触れてインターホンを押そうとした──その時。

 左隣りから感じる嫌な気配にピタリと動きを止めると、恐る恐るその視線を左へと向けてみる。

 

 

「…………へ?」

 

 

(なんで……、いるの……?)

 

 

 間抜けな声を小さく漏らすと、視界に映る悪魔の姿を呆然と見つめる。

 そんな俺を見てニッコリと微笑んだ悪魔は、俺の人差し指の上に自分の指を重ねると、そのままインターホンを押し鳴らした。

 

 

『──はい』

 

「美兎、着いたよ〜」

 

『あっ! 衣知佳ちゃん! ……あれ? 瑛斗先生も一緒だぁ〜! 待ってて、今開けるねっ!』

 

 

 インターホン越しのそんなやり取りを、ただ呆然と突っ立ったまま眺める。

 

 

 

 ────ガチャッ

 

 

 

「いらっしゃ〜いっ!」

 

 

 程なくして開かれた扉から、笑顔の美兎ちゃんが元気よく姿を現した。

 

 

「遅くなってごめ〜ん」

 

「ううん、大丈夫っ! 入って入って〜! 瑛斗先生も、早く早く〜!」

 

 

 キャッキャと無邪気な笑顔をみせる美兎ちゃんの姿を眺めながら、俺は先週交わした美兎ちゃんとのやり取りを思い出していた。

 

 

(そういえば……夏休みの宿題を一緒にやる為に、友達が来てもいいかって聞かれたっけ……)

 

 

 すっかりと忘れていたが、確かそんな事を言っていた気がする。

 美兎ちゃんに夢中になりすぎるがあまり、そんな大事な事を聞き流していたとは──。

 

 脳裏に浮かぶのは、美兎ちゃんの前でデレデレとした笑顔を浮かべる先週の間抜けな自分の姿。「いいよいいよ」なんて、たいして考える事もせずにヘラヘラと答えていた、そんな姿を思い返す。

 

 何故軽はずみに受けた、先週の馬鹿な俺。今更後悔したってもう遅いのだ。

 こうなってしまえば、正体がバレないよう徹底的に演じるしかない。

 

 ──ここから先は戦場だ。

 

 

(うさぎちゃんとの甘ぁ〜い新婚ライフ♡ という輝かしい未来は……っ!! なんとしても守ってみせるっっ!!!!)

 

 

 早々に本日の”美兎ちゃんとの至福の時間‘’を諦めた俺は、そう覚悟を決めるとカッと見開いた瞳で目の前を見つめた。

 そこに見えるのは、マイ・ワイフ♡ の隣りで上機嫌な笑顔をみせる少女の姿。俺の視線に気が付くと、ほんのりと赤らめた頬で小さくクスリと微笑む。

 やはりあれは──少女の姿をした悪魔の化身に違いない。

 

 ならば倒すしかないだろう。スーパーマンだったら、ここで逃げ出すなんて事はしないはず。悪と向き合い、必ずや勝利を収めるのだ。

 最近見た、リバイバルされた【スーパーマン】の映画を思い浮かべてそんなことを思う。

 

 

(覚悟しろっ! 悪魔めっ!! 俺の大切な‘’至福の時間’’を奪ったこと……っ、後悔させてやるっっ!!! グハハハハッ……!!!)

 

 

 もはや、どちらが悪魔かわからない。

 

 そんな笑い声を脳内で響かせながら、嬉しそうに微笑む悪魔の横顔を見つめる。

 メラメラと闘志に燃える瞳で悪魔に向けて目に見えないビームを発射しながら、俺はぬぐいきれない悔しさと悲しさに、一筋の涙を零すのだった。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。