君は愛しのバニーちゃん   作:天音ろっく

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16)これはつまり、“愛”の試練

 

 

 

「──えっ!!?」

 

 

 俺は座っていた椅子から勢いよく立ち上がると、驚きに見開かれた瞳で手元の携帯画面を食い入るようにして見た。

 そこに写し出されているのは、今しがた届いたばかりの美兎ちゃんからのラ○ンメッセージ。

 

 

 

【今ね、衣知佳ちゃんと一緒に瑛斗先生の学校に向かってるよ〜   】

 

 

 

 語尾に付いた絵文字の意味は全くもって謎なのだが……。どうやら最近の美兎ちゃんのお気に入りらしく、乱用するかのごとく毎度の様にオマケとしてくっついてくる。

 そんな謎めいた美兎ちゃんも、激しく愛しい。

 

 解読不能な絵文字を眺めながら、薄っすらと不気味に微笑んで暫し惚《ほう》ける。

 

 

(──ハッ! 今はそんな場合じゃねぇっ!!)

 

 

 俺の学校では今、2日間に及ぶ文化祭の真っ最中である。

 そこでサボっ……いや、休憩中に暇を持て余していた俺は、美兎ちゃんとのラブラブなラ○ンのやり取りを楽しんでいた。

 ──と、その時。何の前触れもなくやってきたのがこのメッセージ。

 

 

(い、今!? 今って……、今だよな!?)

 

 

 急な展開に慌てふためくと、手元の携帯を危うく落としそうになる。

 

 俺がこんなにも慌てているのには、勿論ちゃんとした理由がある。今日はカテキョの日でもなければ、美兎ちゃんと会う予定すら元々入っていない。

 という事はつまり当然未変装な訳で、その上もっと最悪なのは、変装グッズすら持ち合わせていないという現状だった。

 

 

(ヤバイヤバイヤバイヤバイ……ッッ!!! なんとかしねぇーとっ!!!)

 

 

 常備しているワックスと伊達眼鏡の入ったバッグを片手に、教室から飛び出すと一気に廊下を駆け抜ける。

 こうなったら誰かに洋服を借りるしかない。そう判断した俺は、広く長い廊下をキョロキョロと見渡した。

 

 

(……っ、どこだ! どこにいる、俺の救世主……っ!!!)

 

 

 

 ────ピローン

 

 

 

 新着メッセージを知らせる着信音が鳴り響き、慌てて手元の携帯を確認してみる。するとそこには、美兎ちゃんからの新たなメッセージが表示されていた。

 

 

 

【着いたよー! 瑛斗先生どこにいるの?   】

 

 

 

(ファッ……ツ!? もう着いた!!?!!?)

 

 

 あまりの早さに驚き、その場で軽く飛び跳ねる。きっと先程のメッセージは学校のすぐ近くからだったのだろう。

 全く……こうして君は、いつだって俺をドキドキとさせて飽きさせやしない。

 

 

 

(なんて刺激的な小悪魔なんだ……っ♡♡♡)

 

 

 

 欲を言えばもっと早くに知らせて欲しかったりもするのだが……仕方がない。これも小悪魔のテクニックなのだ。

 君から与えられるものならば、俺は甘んじて受け入れる外ないだろう。

 

 

 

【迎えに行くから、ちょっと食堂で待っててくれる?】

 

 

 

 それだけ返信すると、再び救世主探しに奮闘する。

 

 

(……どこだっ!! どこにいる、ダサ男……っ!!!)

 

 

 変装にピッタリな服装を探し求め、広い廊下を必死で彷徨う。

 だがしかし、流石は三流大学。チャラそうなやつらばかりで、中々お目当てのダサ男が見つからない。

 

 

 

 ────!!

 

 

 

「おいっ!! そこのダサ…………男! 今すぐ俺にその服を貸せっ!!」

 

 

 やっと見つけ出したダサ男に声を掛ければ、ビクリと肩を揺らして立ち止まった見知らぬ男。

 

 

「だ、ださ……?」

 

 

 俺を見て怯えるような表情を見せた男は、文化祭のチラシらしき束を片手に小さな声を出した。

 

 

「お前の着てるその服、俺と交換してくれ!」

 

「……えっ? ふ、ふふ……、服!?」

 

「俺には今、その服が必要なんだよ! お前には俺のこの服貸してやるから!」

 

「えっ!? そ……っ、そんな派手な服……」

 

「なぁ、頼むよ!!」

 

「──っ!?!? ヒィ……!」

 

 

 必死の形相で目の前の男の両肩を掴めば、顔面蒼白になった男は悲鳴を上げた。

 俺は真剣に頼んでいるだけだというのに……。こんなにビビられてしまっては、まるで側から見たら恐喝だ。

 

 

「なぁ……いいだろ?」

 

 

 般若の如く形相で再度必死に頼み込めば、ブルブルと震える顔面蒼白の男は、何度も大きく首を縦に振って答える。もはや、声すらまともに出ないようだ。

 

 

(ハァ……マジ焦ったわぁ)

 

 

 目当てであった洋服を手に入れる事ができた安堵感から、ホッと息を吐いた──その時。

 

 

 

 ────!!?

 

 

 

 廊下の先に見えてきた美兎ちゃんの姿に驚き、両目を全開にさせた俺はその場で固まった。

 

 

(……えっ!!? な、ななな、なんでうさぎちゃんがここに……っ!!!?)

 

 

 食堂とは真逆に位置するこの廊下。何故、居るはずのない美兎ちゃんがここに居るのだろうか?

 一難去ってまた一難。どうやら、俺の可愛い小悪魔ちゃんは休む間も与えてくれないらしい。俺は1人、パニックからその場であたふたとする。

 

 

(と、ととと、とりあえず見つからないように隠れるしかねぇ……!)

 

 

「……おい。ちょっとここで待っててくれ。ぜーー……っ、たいに待ってろよ? 逃げたら許さないからな」

 

「は……っ、はい!」

 

 

 未だ顔面蒼白のままの男に向けてニヤリと不敵に微笑むと、俺はその場から離れて柱の陰に身を潜めた。そこからコッソリと顔を覗かせると、悪魔を連れ立って歩く美兎ちゃんの様子を静かに見守る。

 

 

(このまま俺に気付く事なく通り過ぎてくれ……っ)

 

 

 ズンドコズンドコと鳴り響く鼓動を抑えながら、祈るような気持ちで美兎ちゃんの姿を凝視する。

 すると、何やらチラシ片手に美兎ちゃん達に近付いて来た男達。一見するとただの出し物の勧誘のように見えるが、それにしてはやたらと長く話し込んでいる。

 

 よく見てみれば、少し困ったように対応している美兎ちゃん。あれは──間違いなくナンパだ!

 そう認識した瞬間、あまりの怒りに青筋全開で鬼のような形相になった俺の顔。柱を掴んでいた俺の右手は、ミシミシと音を立てながら深くめり込んでゆく。

 

 

(俺のエンジェルに……っ、手ぇ出すんじゃねぇ……っっ!!!!)

 

 

 自分の事は最大限高く棚に上げさせてもらうとして、いくら可愛いからとはいえ中学生相手にナンパとは許すまじ行為だ。

 

 

「──おい。この子達困ってんのわかんねぇの……? しつこくすんなよ、可哀想だろ」

 

 

 美兎ちゃんの肩に触れようとした男の手をグッと掴むと、そのまま目の前の男に向けてギロリと睨みを効かせる。

 そんな俺を目にした男は一瞬ムッとしたような顔を見せたものの、急に焦ったように態度を一変させると口を開いた。

 

 

「あー……ご、ごめんね〜2人共。じゃ、良かったら後で遊びにきてね〜」

 

 

 それだけ告げると、そそくさと立ち去ってゆく男達。どうやら相手は俺の事を知っていたらしい。

 3年連続ミスコン優勝の威厳は健在だったようで、無用な争いを避けられたなら良かった。

 

 

(まぁ……負ける気なんて毛頭ねぇけど。美兎ちゃんの前で喧嘩なんてしたくないしな)

 

 

 誇らしげに胸を張った俺は、フフンと鼻で笑って満足気に微笑む。

 

 

「あの……ありがとうございます」

 

「…………へっ?」

 

 

 その可愛らしい声につられるようにして目線を下げてみると、そこには俺の顔をジッと見つめながら佇《たたず》んでいる美兎ちゃんがいる。

 

 

 

 ────!?!?!?

 

 

 

 俺の頭からすっかりと消え去っていた、今の危機的な状況。

 あの一瞬にして天国と地獄を味わう事となった”マシュマロ事件”の事もあって、今となっては単純に未変装姿を晒す事自体がデンジャラス。万が一にでも顔を覚えられていて、それが『瑛斗先生』と同一人物だとバレてしまったら──! 

 

 この先の俺の人生に、明るい未来はない。

 

 

(やヤやヤ……、ヤベェッッ!?!? っ、あぁぁぁああーー!! 可愛いっっ♡♡♡ ……って、今はそんな場合じゃねぇっ!! ヤバイヤバイヤバイヤバイ──ッッ!!!!)

 

 

 パニックで挙動不審さ全開な俺は、小悪魔ちゃんの誘惑から逃れるようにして顔を逸らすと、そそくさとその場を離れようとする。

 

 

「……いっ、いいよいいよ、これくらい。じゃ、2人共ナンパには気をつけてね」

 

「あのぉ……」

 

「!!? あー……いやいや、名乗るほどのもんじゃないから! いや、マジで! じゃっ!」

 

「えっ……」

 

 

 悪魔からの会話を一方的に終わらせると、俺はクルリと背を向けて廊下を歩き始める。平常心を装ってはいるが、俺の内心はヒヤヒヤだ。

 名前なんて教えてしまったら一発アウト。もとより、『瑛斗先生』でいる限りこの姿の俺には教えられる名前などないのだ。

 

 今日はこの数分間だけでも何度ドキドキさせられた事か……。

 先程見た美兎ちゃんからの熱い視線を思い返すと、鼻の下を伸ばしてだらしなく微笑む。

 

 

(俺の可愛いエンジェルは、ホントとんだ小悪魔ちゃんだなっ♡♡♡)

 

 

 こんなにも短いスパンでハラハラドキドキ攻撃を仕掛けてくるのは、後にも先にも美兎ちゃんくらいなものだろう。

 そのテクニックには、もはや驚きを通り越して脱帽だ。今後どこまで俺の心臓が耐えきれるのか……ちょっと本気で心配だったりする。

 

 未だバクバクと脈打つ胸にそっと手を添えると、興奮で息切れの激しくなった呼吸をゆっくりと整える。

 

 

 

「……行っちゃったね」

 

「うん」

 

「食堂の場所、聞こうとしただけだったんだけど……」

 

「やっぱり瑛斗先生にラ◯ンで聞いてみるね」

 

「うん。それがいいね」

 

 

 

 そんな2人の会話は俺の耳に届くことはなかった。

 

 

 

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