君は愛しのバニーちゃん   作:天音ろっく

4 / 13
4)レッツ、いちご狩り!

 

 

 

 

「なぁ、なぁ〜。最近、瑛斗ってやけに付き合い悪くね? 前は合コン三昧だったくせに、もう二カ月は行ってないよな。……お陰様で、俺も枯れる一方だよ」

 

 

 恨めしそうな顔を見せながら、首を直角に曲げて俺の顔を覗き込む健。まるで、壊れたブリキの玩具だ。

 

 

「なんだ、健知らないの? 瑛斗はね、今本気の子がいるから無理だよ」

 

「なんだよ、チクショー! やっぱ彼女がいるのかよっ!」

 

「いや……。まだ、彼女ではないらしいんだけどね?」

 

「えっ!? あの瑛斗が狙った女とまだ付き合ってないとかっ! そんな事あんの!? えっ! 大和(やまと)、その女見たことある!?」

 

「いや、『うさぎちゃん』って名前しか知らない」

 

「……あっ! その名前! 俺もこの間聞いたっ! おい、瑛斗! 誰だよその『うさぎちゃん』て!?」

 

 

 興味津々といった感じで、俺を見つめる健と大和。

 

 

(そんなに見つめたところで、お前らに会わせる気なんて微塵もないけどな)

 

 

「史上最強に可愛い、天使だよ」

 

「……えっ!? お前が天使とか言っちゃうわけ!? 俺のエンジェルをバカ呼ばわりしたお前がっ!?」

 

 

 チラリと二人を流し見れば、さも驚いたような顔をさせている健。大和はといえば、それは面白そうにニヤニヤとしている。

 

 

「へぇ〜、随分とご執心なようで。で、いつそんな子と出会ったの?」

 

 

(フッ……。そんなに聞きたいなら聞かせてやろうじゃないか。あの、天使が舞い降りた穏やかな午後の日のことを……)

 

 

「あれは……満開に咲き誇っていた桜が見るも無残に全滅した頃の、ある日の午後だった」

 

「なんだよ、そのナレーションみたいなの。……しかも下手すぎ」

 

「煩い! 黙って聞けっ!」

 

 

 

 

 ──あの日。

 バイトでやっているモデルの仕事がドタキャンになり、大学に行く気にもなれなかった俺は、そのまま真っ直ぐ自宅に帰ることにした。

 

 その日は何の気まぐれか、いつもなら絶対に通らないはずの道を歩いて帰っていた俺。いや、無意識に導かれていたんだと思う。

 普段なら絶対に歩かない時間帯に、絶対に通らない道のり。あの時は気付けなかったけど──。

 

 あれはきっと、運命だったんだ。

 

 ふと、何気なく通りがけに公園を覗くと、天使のような無邪気な笑顔を見せる、それはそれは可愛い女の子がいた。立ち漕ぎでブランコに乗る姿は、羽を広げて天を舞う天使のよう。

 俺は吸い寄せられるようにして天使へと近付くと、そこで、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。

 

 

『キャーーッ!!! 大丈夫ですかっ!!?』

 

『……えっ!!? 何この人!!? 今、自分からぶつかって来たよね!!?』

 

 

 

 

 

「……いや、それただブランコにぶつかっ──」

 

「煩い! 黙って聞けっ!」

 

 

 

 

 

 地面に寝転がる俺を心配そうに見下ろすその姿は、まさに地上に舞い降りた天使。

 

 

『あ、あの……。大丈夫ですか……?』

 

『やめなよ美兎っ! この人絶対危ない人だよ! 格好だってホストみたいだしっ! 変な因縁つけられるよ!?』

 

『で、でも……倒れてるのに放っておけないよ』

 

『放っときなよ! 勝手に自爆してきたのこの人だしっ! 怖すぎっ! ……しかもなんか笑ってるし! キモッ!』

 

 

 なんだか酷い言われようだったが、そんなこと俺にはどうでも良かった。ただ、目の前に広がる光景に酔いしれていたんだ──。

 

 

(なんて最高なアングル……)

 

 

『……パン……ッ』

 

『ぱん……?』

 

『……!? 美兎の持ってるパンじゃない!? 早く、それ渡して行こっ!』

 

 

 天使の持っていたパンを奪い取ると、俺に向かって雑に投げつけた堕天使──改め悪魔。そのまま天使の腕を取ると、足早に俺の元から去っていく。

 一人残された俺は、その場から動くこともできずに、ただジッと先程見た残像を眺めていた。

 

 パンツ越しに見えた、(うるわ)しの天使を──。

 

 

 

 

 

「パンツが良かっただけじゃねーかよ!」

 

「……ちげーわっ!」

 

「いや。今のお前の話しからは、パンツへの熱意しか感じられなかった」

 

「っざけんな! 俺の純粋な気持ちをみくびるなっ!」

 

「……まっ。パンツなんて腐る程見てきただろうし? 瑛斗にしたらどーでもいいよな、そんなの」

 

「……おいっ!! うさぎちゃんのパンツは別格だ!!!」

 

「やっぱパンツかよ……」

 

「ダァーッ!! ちげぇーつってんだろ!?」

 

 

 俺の純粋な気持ちを全く信じようともしない二人に、呆れて溜息が出る。

 

 

(俺は純粋にうさぎちゃんに恋してるんだっつーの!)

 

 

「……で、たまたま運良く親同士が知り合いで、家庭教師をすることになったんだ?」

 

「バーカ。運良くじゃねぇよ。運命な、う・ん・め・い!」

 

「あー、はいはい。……で? いつ会わせてくれるの? 『うさぎちゃん』に」

 

「は? お前らに会わせるわけねぇーだろ!」

 

「はぁ!? なんでだよー! 『うさぎちゃん』のお友達、紹介してくれよ〜!」

 

「ふざけんなっ! いちごのパンツは俺だけのもんだっ!」

 

「は……? いちご? え、高校生ってそんなパンツ履くの? なんか萎えるわぁ……」

 

「バカ言え! フル勃○だろっ!」

 

 

 神聖なるいちごのパンツの良さがわからないとは、なんと哀れな健。

 

 

(俺なんて想像するだけで今にも昇天しそうだわっ! ……ま、それも美兎ちゃん限定でなんだけど)

 

 

「じゃ、俺もう行くわ」

 

 

 美兎ちゃんの顔を想像するだけで、思わず顔がニヤケてしまう。

 

 

「あー。今日もカテキョ?」

 

「そっ。レッツ、いちご狩り!」

 

「いちご狩りって……。カテキョだろ」

 

 

 ルンタッタ・ルンタッタとスキップで走り去る俺の背に向け、呆れ顔の大和は小さく溜息を吐く。その横で、「やっぱパンツじゃねぇかよ」と小さく呟いた健の声は、俺の耳に届くことはなかった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。