World Days(新版)   作:完結の陽炎

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小学時代
第1話「譲る世界と譲られる刹那」


 西園寺世界と清浦刹那。

 どちらも訳ありの母子家庭で、片親は日々の仕事に追われていた。

 世界が刹那のマンションへ、あるいは刹那が世界のアパートへ。

 家庭の事情によって、一時的に同じ生活をすることもあった。

 

 刹那は自己主張をしないが、逆に世界は言いたいことを言う。

 世界のワガママを刹那が最大限に努力をして叶える。

 明らかに貧乏くじを引く刹那だが、自ら進んでやっていた。

 

 そんな刹那にも唯一を望んだものがある。

 せっちゃんと呼ばれたい。

 物は壊れてなくなっても愛称は一生残り続ける。

 愛情に飢える刹那にとっては重要な価値があった。

 

 世界と刹那。

 同じセから始まる名前もあり、世界が反発をする。

 自分こそがせっちゃんと呼ばれたいから。

 だが……。

 

「せっちゃんよりカワイイのがあればいいよ」

 

 やれるものならやってみろ。

 無理難題の押し付けであり、言い換えれば世界からの挑戦状だ。

 しかし以前から考えていたのだろう。

 ものの数秒もせずに刹那は答えてみせた。

 

「せかぴー」

 

 あまりにも絶望的なネーミングセンスである。

 せっちゃんよりも可愛いニックネームを望んだのに。

 

 ふざけるな!!

 

 カッと頭に血が上って怒りを露わにする世界。

 いつもと違って刹那も譲らない。

 双方の母を巻き込んでの大騒ぎになった。

 世界と刹那が本気で喧嘩をしたのは、後にも先にもこのあだ名事件だけである。

 結局は母の言い付けに従い、お互いに名前の呼び捨てで折り合いをつけた。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 小学校のクラスで習い事の話題。

 そんな些細なきっかけで興味を抱く。

 母に話してみると意外にも紹介をしてくれた。

 

 世界としてはダメ元だったのに。

 言ってみるものである。

 貧乏暮らしでケチな母が認めるとは夢にも思わなかった。

 

 これは母の見栄である。

 子どもに習い事もさせられないほど貧乏だと思われたくない。

 特に刹那の母から哀れみを受けたくなかったからだ。

 

 算盤・ピアノ・ダンスなど。

 色々と無料体験をさせてくれるがその先は続かない。

 世界は良く言えばマイペースであり、悪く言えば自分勝手だ。

 

 意外にハマったのが抜刀術すなわち居合。

 最初は怖い印象であったが、慣れてしまえば居合の独特な雰囲気で落ち着く。

 体の弱い世界でも無理なく稽古ができ、自分のペースを保てるのが心地よかった。

 

 居合の道場で髪の長い同い年の少女と出会う。

 世界から積極的に挨拶をして自己紹介を交わす。

 その相手とは桂言葉で、下の名前がことのは。

 呼びにくいことを理由に一方的なあだ名をつけてしまう。

 

「よろしくことちゃん」

「えっと……」

「せかいでいいよ」

 

 相手は育ちのいい裕福な家庭に暮らすお嬢様。

 貧乏な世界とは天と地ほどの差である。

 でも関係ない。

 世界は自分にやりたいようにやる我儘娘だ。

 仲良くしてみたいから行動をしたに過ぎない。

 

 打算も何もない世界の単純さが良かったのだろう。

 人見知りの激しい言葉が警戒心を解く。

 言葉にとっては運命的な出会いになった。

 初めての友達を得る。

 そのことに感激を受けたのである。

 

「せっちゃん、とよんでもいいですか?」

 

 甘美な響きに世界のテンションが上がる。

 なぜ刹那がせっちゃんと呼ばれたいのか?

 実際に呼ばれてみると気持ちがよくわかる。

 これは刹那が譲らないのも当然だと思えた。

 

 世界の中にある天使が囁く。

 刹那をさしおいて受け入れてはダメだと。

 世界の中にある悪魔が囁く。

 刹那にバレなきゃ大丈夫だと。

 子どもだって、そんなふうに迷うものだ。

 その結果……。

 

「ちょっとまって。せつながいるから」

 

 なぜ保留にしたのか?

 それはバレた時にあだ名事件の再来になることを恐れたから。

 刹那と本気で喧嘩をするのは一度っきりでいい。

 二度目はしたくないのが偽りなき世界の本音である。

 

 その日の夜。

 世界が暮らすアパートへ刹那がお泊りに来る。

 刹那が住むマンションの近所であり、気軽に寝泊まりができる間柄だ。

 両家の母からは、いつでもおいでと随時の許可を受けている。

 

 世界は自慢をする。

 言葉という新しい友達ができたことを。

 刹那が睨みつけで無言の抗議。

 だが世界は開き直ってみせる。

 

 いい機会だ。

 どちらがせっちゃんと呼ばれるのに相応しいのか?

 言葉に選んでもらえばいい。

 これは恨みっこなしの勝負である。

 文句は言わせない。

 

 清浦刹那と桂言葉。

 この二人を紹介して繋げたのが西園寺世界。

 場所は世界と刹那が立ち寄れる模手原公園を指定。

 金持ちの言葉にわざわざ来てもらった。

 

 人見知りのある言葉と他人に無関心な刹那。

 意外にも二人の相性が良い。

 不思議なぐらいに打ち解けて、さすがに世界もビックリ仰天である。

 そして刹那が独特なニックネームを付けてしまった。

 

「ことぴー」

「ダメせつな!! ことちゃんでいいじゃん!!」

「ことぴーがカワイイ」

「はずかしいよ!!」

「はずかしくない」

 

 世界はことちゃん、刹那はことぴー。

 両方の愛称を言葉が快く受け取る。

 どちらも親しみがあって嬉しいことに変わりがないから。

 

 本来の目的であるせっちゃん呼び。

 それを言葉に決めてもらいたい所だが、世界の心境に変化が訪れていた。

 仲良くする刹那と言葉を見ていく内に思ってしまう。

 

 まあいいか。

 

 そんな不思議な感情すなわち妥協が生まれた。

 つまり気が変わったのである。

 

「わかった。せっちゃんはせつなのモノだよ」

「せかい?」

「ことちゃん、せつなはせっちゃんでよろしく」

「わかりました。せっちゃん、せかいちゃん」

 

 譲られる刹那と譲る世界。

 初めての経験をすることで、お互いの気持ちを深く理解した。

 いざやってみると案外悪くない。

 むしろ気分がいい。

 そして刹那と言葉の在り方は、世界の人格形成に今後大きく影響していく。

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