World Days(新版) 作:完結の陽炎
こんを詰めての勉強は効率が悪い。
息抜きという大義名分のもとで世界はお誘いをする。
その相手は刹那。
心の件でご機嫌斜めだったのに瞬時に了承。
世界との時間が過ごせることを良しとする。
「そういえば刹那のお母さん、仕事の都合でパリに短期出張に行くんだって?」
「うん、またしばらくお世話になる」
「刹那ってば水くさい。次があれば私が刹那の家でお世話になりそうだけどね」
「小さい頃からの恒例行事」
「まあ、それはそれとして行きたい所あるんだ」
「どこ?」
「お母さんが働いているラディッシュのレストラン。高校入ったらバイトしてほしいって頼まれているんだけどさ」
「世界、引き受けるの?」
「まだ決めてない。現場を見てから考えたいし。あ、刹那は接客ダメだよね?」
「やらない絶対に」
「知ってる。でもお客として行く分には大丈夫だよね?」
「それならいい」
こうして二人でラディッシュ榊野町店へ向かう。
衣装は可愛くても肌の露出が激しい。
それを目的としたスケベな男たちの客レベルの低さ。
またメニューが多く複雑すぎて把握ができない。
選ぶ客も大変だが、店員も対応に苦労をする。
世界と刹那は単品のアイスティーを注文して飲み干す。
もう長居は無用だと会計を済ませて店を出た。
トレードマークの帽子を被ってから世界はため息をつく。
「お母さんには悪いけど無理。バイトは他を当たってもらうね」
「正しい判断」
「刹那やことちゃんにも頼めない。明らかにヤバい感じだった」
「うん」
「事前に口コミを調べたけど、イマイチ評判が悪いのも納得だよ」
手帳に記録をして忘れないようにする。
母からの勧誘は先延ばしにして、タイミングを見計らい断るつもりだ。
現状が改善されない限りは関わらないほうがいい。
その後、二人で夕焼けの砂浜を散歩する。
幼い女の子が駆け回って世界にぶつかってきた。
相手が怪我をしないように受け止める。
「すみませーん。こら止、お前走ったら危ないだろ」
「おにーちゃ」
同い年ぐらいの男子との出会い。
親戚の葬儀でいたかもしれない。
なぜか他人のような気はしないが、目の前の幼女を優先する。
同じ目線に合わせるため、世界は膝を曲げて腰を落とし姿勢を低くした。
「初めまして、私は世界」
「せきゃい?」
「うん。お名前言える?」
「いたるだよ」
「そっか偉いねいたるちゃん」
「えらい。えへー」
止が無邪気に笑うので世界はとても楽しそうだ。
見た所は幼稚園児、高く見積もりをしても小学の低学年ぐらい。
過去を懐かしみ、その場のノリで肩車をする。
「きゃはははっ」
大喜びをしてくれて世界は満更でもない。
その間、刹那が止の兄と会話をする。
相手のフルネームは伊藤誠。
年齢が同じで中学は異なる。
そして受験の志望校は、世界たちと同じ榊野学園だ。
「正直驚いたよ。止があんなに懐くなんて。出会って間もないのにさ」
「世界は誰にでも優しい。私と違ってすぐ打ち解ける」
「へえー、もしかして苗字は西園寺?」
「……なぜ知ってる?」
「加藤から聞いたことあるんだ。あ、加藤とは同じ中学でさ。それで他校に仲のいい友達がいるって」
「彼女?」
「ば、バカそんなんじゃないって。加藤とは気楽に遊べる友達だ」
「……」
「なんだよ? 疑ってるのか?」
「べつに。私には関係ない」
「それはそうだけど」
刹那は知っている。
乙女の片想いが伊藤誠であることを。
それが分かるだけの交流があってバレバレだ。
もっとも刹那にはどうでもいいこと。
世界に関すること以外はあまり興味を示さない。
「世界、そろそろ帰るよ」
「えー。私がいたるちゃんなら、もっと遊ぶって駄々こねる所だよ」
「もっとあそぶの!!」
「ほらね」
「伊藤が迷惑するからダメ」
「わかってるって。いたるちゃん、いい子にして帰るならプレゼントするよ」
「ぷれぜんと!? いいこなりゅ!!」
「わかった。渡すから下ろすね」
肩車からおろして帽子を止に被せる。
今はそれぐらいしか渡せるものがない。
アンテナのようなクセ毛が出てしまっても仕方がない。
「世界、いいの?」
「いいよ。帽子はまた今度買えばいいし。ほらいたるちゃん、バイバイできる?」
「うん!! バイバイせきゃい!!」
「はーいバイバイ」
帽子を気に入ったようで被ったまま両手を振ってくれる。
そっと片手を振って応じる世界。
そんな温かい光景に、刹那の頬が緩み大いに和んだ。
「それじゃあね。いたるちゃんのおにいさん」
「歳同じだろ? 名前でいいよ」
「あいにく、いたるちゃんと遊んでたから。そっちの名前は聞こえてないんだよね」
「伊藤だよ。伊藤誠」
「文字は? 音だけだと漢字がわかんない」
誠が砂浜で文字を描いてくれた。
忘れないように愛用の手帳にメモをする。
刹那や言葉と違って記憶力に自信がないから。
伊藤兄妹と別れた後。
世界は思い当たることを口にする。
「刹那、伊藤誠って乙女の――」
「世界、それ以上は野暮」
「それもそうだね。でも乙女の知らない所で出会ったのマズくない?」
「偶然だから仕方ない」
「それはそう」
人は偶然まで避けられない。
刹那の携帯で、間接的に連絡が取れるのでメールで報告を済ませる。
何もやましいことがないから堂々とすればいい。
乙女の片想いを邪魔するつもりは毛頭ない。
むしろ応援をしている。