World Days(新版)   作:完結の陽炎

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第6話「伊藤兄妹との出会い」

 こんを詰めての勉強は効率が悪い。

 息抜きという大義名分のもとで世界はお誘いをする。

 その相手は刹那。

 心の件でご機嫌斜めだったのに瞬時に了承。

 世界との時間が過ごせることを良しとする。

 

「そういえば刹那のお母さん、仕事の都合でパリに短期出張に行くんだって?」

「うん、またしばらくお世話になる」

「刹那ってば水くさい。次があれば私が刹那の家でお世話になりそうだけどね」

「小さい頃からの恒例行事」

「まあ、それはそれとして行きたい所あるんだ」

「どこ?」

「お母さんが働いているラディッシュのレストラン。高校入ったらバイトしてほしいって頼まれているんだけどさ」

「世界、引き受けるの?」

「まだ決めてない。現場を見てから考えたいし。あ、刹那は接客ダメだよね?」

「やらない絶対に」

「知ってる。でもお客として行く分には大丈夫だよね?」

「それならいい」

 

 こうして二人でラディッシュ榊野町店へ向かう。

 衣装は可愛くても肌の露出が激しい。

 それを目的としたスケベな男たちの客レベルの低さ。

 またメニューが多く複雑すぎて把握ができない。

 選ぶ客も大変だが、店員も対応に苦労をする。

 

 世界と刹那は単品のアイスティーを注文して飲み干す。

 もう長居は無用だと会計を済ませて店を出た。

 トレードマークの帽子を被ってから世界はため息をつく。

 

「お母さんには悪いけど無理。バイトは他を当たってもらうね」

「正しい判断」

「刹那やことちゃんにも頼めない。明らかにヤバい感じだった」

「うん」

「事前に口コミを調べたけど、イマイチ評判が悪いのも納得だよ」

 

 手帳に記録をして忘れないようにする。

 母からの勧誘は先延ばしにして、タイミングを見計らい断るつもりだ。

 現状が改善されない限りは関わらないほうがいい。

 

 その後、二人で夕焼けの砂浜を散歩する。

 幼い女の子が駆け回って世界にぶつかってきた。

 相手が怪我をしないように受け止める。

 

「すみませーん。こら止、お前走ったら危ないだろ」

「おにーちゃ」

 

 同い年ぐらいの男子との出会い。

 親戚の葬儀でいたかもしれない。

 なぜか他人のような気はしないが、目の前の幼女を優先する。

 同じ目線に合わせるため、世界は膝を曲げて腰を落とし姿勢を低くした。

 

「初めまして、私は世界」

「せきゃい?」

「うん。お名前言える?」

「いたるだよ」

「そっか偉いねいたるちゃん」

「えらい。えへー」

 

 止が無邪気に笑うので世界はとても楽しそうだ。

 見た所は幼稚園児、高く見積もりをしても小学の低学年ぐらい。

 過去を懐かしみ、その場のノリで肩車をする。

 

「きゃはははっ」

 

 大喜びをしてくれて世界は満更でもない。

 その間、刹那が止の兄と会話をする。

 相手のフルネームは伊藤誠。

 年齢が同じで中学は異なる。

 そして受験の志望校は、世界たちと同じ榊野学園だ。

 

「正直驚いたよ。止があんなに懐くなんて。出会って間もないのにさ」

「世界は誰にでも優しい。私と違ってすぐ打ち解ける」

「へえー、もしかして苗字は西園寺?」

「……なぜ知ってる?」

「加藤から聞いたことあるんだ。あ、加藤とは同じ中学でさ。それで他校に仲のいい友達がいるって」

「彼女?」

「ば、バカそんなんじゃないって。加藤とは気楽に遊べる友達だ」

「……」

「なんだよ? 疑ってるのか?」

「べつに。私には関係ない」

「それはそうだけど」

 

 刹那は知っている。

 乙女の片想いが伊藤誠であることを。

 それが分かるだけの交流があってバレバレだ。

 もっとも刹那にはどうでもいいこと。

 世界に関すること以外はあまり興味を示さない。

 

「世界、そろそろ帰るよ」

「えー。私がいたるちゃんなら、もっと遊ぶって駄々こねる所だよ」

「もっとあそぶの!!」

「ほらね」

「伊藤が迷惑するからダメ」

「わかってるって。いたるちゃん、いい子にして帰るならプレゼントするよ」

「ぷれぜんと!? いいこなりゅ!!」

「わかった。渡すから下ろすね」

 

 肩車からおろして帽子を止に被せる。

 今はそれぐらいしか渡せるものがない。

 アンテナのようなクセ毛が出てしまっても仕方がない。

 

「世界、いいの?」

「いいよ。帽子はまた今度買えばいいし。ほらいたるちゃん、バイバイできる?」

「うん!! バイバイせきゃい!!」

「はーいバイバイ」

 

 帽子を気に入ったようで被ったまま両手を振ってくれる。

 そっと片手を振って応じる世界。

 そんな温かい光景に、刹那の頬が緩み大いに和んだ。

 

「それじゃあね。いたるちゃんのおにいさん」

「歳同じだろ? 名前でいいよ」

「あいにく、いたるちゃんと遊んでたから。そっちの名前は聞こえてないんだよね」

「伊藤だよ。伊藤誠」

「文字は? 音だけだと漢字がわかんない」

 

 誠が砂浜で文字を描いてくれた。

 忘れないように愛用の手帳にメモをする。

 刹那や言葉と違って記憶力に自信がないから。

 

 伊藤兄妹と別れた後。

 世界は思い当たることを口にする。

 

「刹那、伊藤誠って乙女の――」

「世界、それ以上は野暮」

「それもそうだね。でも乙女の知らない所で出会ったのマズくない?」

「偶然だから仕方ない」

「それはそう」

 

 人は偶然まで避けられない。

 刹那の携帯で、間接的に連絡が取れるのでメールで報告を済ませる。

 何もやましいことがないから堂々とすればいい。

 乙女の片想いを邪魔するつもりは毛頭ない。

 むしろ応援をしている。

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