World Days(新版) 作:完結の陽炎
加藤乙女は伊藤誠に恋をしている。
同じ中学にいる伊藤は誰とも付き合っていない。
姉を悪者にしないために可憐が上手く立ち回った。
恋敵になりそうな女子と仲良くなる。
ある時は他の男と上手くやれるように仲人を。
ある時は趣味や将来の夢に向けての支援を。
様々な手を打ち、他の幸せを手にするように誘導をする。
そうすることで禍根を残さないように注意を払った。
加藤家にある乙女の部屋。
そこへ妹の可憐が入って来た。
ノックか、せめて声掛けぐらいしろと叱っても効果はない。
細かい事は言いっこなしで流してしまうから。
「そんな事よりお姉、世界さん警戒しなくていいの?」
脅威的な敵の存在。
可憐が危機感を募らせている。
しかしそれはないと乙女は思う。
「警戒も何も。逆に私が応援されちゃってるんだけど?」
伊藤の妹である止と仲良くなって、そこから兄の伊藤誠を狙う可能性はあった。
だから止が会いたがっていることを知り、これ幸いと世界に電話をして向こうの出方を伺った。
それなのに何の迷いもなく断ったのが世界である。
逆にそれを活かして頑張れと応援される始末。
これでは乙女の中で疑う気がなくなってしまう。
「お姉は甘い!! 甘すぎる!!」
ビシッと姉に指差しで喝を入れる。
そんな腑抜けで好きな人をゲットできるものか。
恋とは競争であり奪い合う戦いである。
「そうやって油断させる作戦かもしれないじゃん。友達だと思っていたのに裏切って、それで略奪なんてありがちな手口だよ。それで私、今までどれだけ苦労したか、お姉はわかってるの?」
「そうは言ってもね。じゃあどうするつもり?」
「私に任せて。今まで通り上手くやるから」
それで乙女が恨まれないようにしてきたから自信はある。
姉が悪いように思われると、妹である可憐まで飛び火をしてしまう。
そうならないように手は打っておきたい。
「……時々、アンタが私の妹か疑いたくなるよ」
「お姉ひどぉーい!!」
可憐の定石は変わらない。
恋敵になる可能性がある世界と仲良くすることだ。
世界はまだ携帯を持っていない。
そのため直接会うやり取りで雑談を仕掛ける。
場所は榊野学園近くの公園。
第一志望の下見も兼ねて周辺環境には慣れておきたい。
ベンチに座って隣同士。
話の途中で世界から積極的に切り出した。
「ねえ可憐、伊藤のこと好きでしょ?」
「っ!?」
「あーやっぱりね。姉を支えているみたいだけど、自分で伊藤の彼女にならないの?」
世界は察しがいい女子だ。
わざわざ会いに来た可憐の気持ちを理解する。
乙女の片想いと関連付けて、さらに雑談の内容も合わせることでピンっと来てしまった。
「……私の気持ちを見透かすなんて、やりますね世界さん」
「私は伊藤の彼女が乙女でも可憐でも、どっちでも応援するつもりだよ。やるならコソコソしないで、正々堂々と姉に宣戦布告をしたほうが後腐れないんじゃない?」
「まあそうですね。お姉がウジウジと先延ばしにするようならそうします」
「よかったら、これまでのこと詳しく聞かせてよ。力になれるかもしれないから」
可憐は少し躊躇う。
手の内を見せる事への抵抗感。
しかし話の主導権は世界が握っている。
それに協力をしてくれる可能性に釣られた。
一人で立ち回ることへの限界を感じていたから。
「わかりました。それなら遠慮なく聞いて頂きますよ」
可憐は愚痴をこぼすように苦労話を打ち明けていく。
世界が共感をして適度に相槌を打った。
この時点で他の裏切り女子と違うことがわかる。
「可憐のやり方が気に入ったよ。相手が幸せなら私も嬉しい。そんな私の考え方と似ているし、とっても参考になった。まさに可憐は私の師匠だよ」
「ちょ、ちょっとやめてください!! 師匠なんて恥ずかしいです!!」
「私よりも賢いよ可憐は。見習う所があって本当に学ぶ所があった」
褒め殺しとはこの事であろうか。
可憐はすっかり参ってしまう。
これなら姉が警戒しなくなるのも無理はない。
世界はあえてこんな事を言ってくる。
「逆に警戒してくれていいよ。むしろ私を疑ってかかって来なさい。一生をかけ、応援する形で証明してあげる。とりあえず乙女と可憐、私はどっちを応援すればいい?」
自信満々で何と頼もしいことか。
もし世界が男であれば確実に惚れている。
「今の所、お姉でお願いします。私は焚き付け役に回るつもりなんで」
「つまり宣戦布告はするんだね?」
「そうしないとお姉は奥手なんで。ダラダラさせないためにも、私がライバルになる必要はあるんですよ」
「なるほどね。でも来年、お姉さんは榊野学園を受験するよね?」
「はい」
「今は同じ中学で可憐が上手くサポートしているけど、乙女が榊野学園に入ったらそれが出来なくなるんじゃない?」
実に痛い所を突く。
それで可憐は悩んでいる。
再来年にならないと、可憐は榊野学園へ入学ができない。
それまでの間、姉のフォローが出来なくなるので困る。
「私にとっては、乙女の恋を応援するチャンスだね。ま、私が榊野学園に入学できたらの話だけど」
「世界さんが私の代わりにお姉を支えてくれるんですか?」
「任せて。でも可憐が私を疑うのも無理はないからね。不安になったら遠慮なく私へ連絡よこしなさい」
「普通、疑われたら怒るものですよ」
「可憐の苦労してきた気持ちを思えば別に怒らないって。むしろ一人でよく頑張ったと可憐を褒めたい」
可憐が嬉しさの余りに涙を流す。
さりげなく世界がハンカチを差し出した。
今までの苦労を認めてくれたこと。
一人で背負い込まなくていいこと
そんな世界の思いやりで心が温まってしまう。
受け取ったハンカチで可憐は涙を拭く。
そして落ち着いてから重要なことを問う。
「世界さんはセンパイのこと、どう思っていますか?」
「可憐と乙女には悪いけど、私個人は全く興味なし」
「ハッキリしていますね」
「それも含めて、仲人役で証明をしてあげるから楽しみにしてなさい」
「はい、楽しみにしています」
既に可憐も世界に対して疑いは消え失せた。
この人は絶対に裏切らない。
そんな直感をしている。
その答えが正解であることを願い今後の楽しみとした。