World Days(新版)   作:完結の陽炎

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第9話「可憐は世界の師匠的な存在」

 加藤乙女は伊藤誠に恋をしている。

 同じ中学にいる伊藤は誰とも付き合っていない。

 姉を悪者にしないために可憐が上手く立ち回った。

 

 恋敵になりそうな女子と仲良くなる。

 ある時は他の男と上手くやれるように仲人を。

 ある時は趣味や将来の夢に向けての支援を。

 様々な手を打ち、他の幸せを手にするように誘導をする。

 そうすることで禍根を残さないように注意を払った。

 

 加藤家にある乙女の部屋。

 そこへ妹の可憐が入って来た。

 ノックか、せめて声掛けぐらいしろと叱っても効果はない。

 細かい事は言いっこなしで流してしまうから。

 

「そんな事よりお姉、世界さん警戒しなくていいの?」

 

 脅威的な敵の存在。

 可憐が危機感を募らせている。

 しかしそれはないと乙女は思う。

 

「警戒も何も。逆に私が応援されちゃってるんだけど?」

 

 伊藤の妹である止と仲良くなって、そこから兄の伊藤誠を狙う可能性はあった。

 だから止が会いたがっていることを知り、これ幸いと世界に電話をして向こうの出方を伺った。

 それなのに何の迷いもなく断ったのが世界である。

 逆にそれを活かして頑張れと応援される始末。

 これでは乙女の中で疑う気がなくなってしまう。

 

「お姉は甘い!! 甘すぎる!!」

 

 ビシッと姉に指差しで喝を入れる。

 そんな腑抜けで好きな人をゲットできるものか。

 恋とは競争であり奪い合う戦いである。

 

「そうやって油断させる作戦かもしれないじゃん。友達だと思っていたのに裏切って、それで略奪なんてありがちな手口だよ。それで私、今までどれだけ苦労したか、お姉はわかってるの?」

「そうは言ってもね。じゃあどうするつもり?」

「私に任せて。今まで通り上手くやるから」

 

 それで乙女が恨まれないようにしてきたから自信はある。

 姉が悪いように思われると、妹である可憐まで飛び火をしてしまう。

 そうならないように手は打っておきたい。

 

「……時々、アンタが私の妹か疑いたくなるよ」

「お姉ひどぉーい!!」

 

 可憐の定石は変わらない。

 恋敵になる可能性がある世界と仲良くすることだ。

 世界はまだ携帯を持っていない。

 そのため直接会うやり取りで雑談を仕掛ける。

 

 場所は榊野学園近くの公園。

 第一志望の下見も兼ねて周辺環境には慣れておきたい。

 ベンチに座って隣同士。

 話の途中で世界から積極的に切り出した。

 

「ねえ可憐、伊藤のこと好きでしょ?」

「っ!?」

「あーやっぱりね。姉を支えているみたいだけど、自分で伊藤の彼女にならないの?」

 

 世界は察しがいい女子だ。

 わざわざ会いに来た可憐の気持ちを理解する。

 乙女の片想いと関連付けて、さらに雑談の内容も合わせることでピンっと来てしまった。

 

「……私の気持ちを見透かすなんて、やりますね世界さん」

「私は伊藤の彼女が乙女でも可憐でも、どっちでも応援するつもりだよ。やるならコソコソしないで、正々堂々と姉に宣戦布告をしたほうが後腐れないんじゃない?」

「まあそうですね。お姉がウジウジと先延ばしにするようならそうします」

「よかったら、これまでのこと詳しく聞かせてよ。力になれるかもしれないから」

 

 可憐は少し躊躇う。

 手の内を見せる事への抵抗感。

 しかし話の主導権は世界が握っている。

 それに協力をしてくれる可能性に釣られた。

 一人で立ち回ることへの限界を感じていたから。

 

「わかりました。それなら遠慮なく聞いて頂きますよ」

 

 可憐は愚痴をこぼすように苦労話を打ち明けていく。

 世界が共感をして適度に相槌を打った。

 この時点で他の裏切り女子と違うことがわかる。

 

「可憐のやり方が気に入ったよ。相手が幸せなら私も嬉しい。そんな私の考え方と似ているし、とっても参考になった。まさに可憐は私の師匠だよ」

「ちょ、ちょっとやめてください!! 師匠なんて恥ずかしいです!!」

「私よりも賢いよ可憐は。見習う所があって本当に学ぶ所があった」

 

 褒め殺しとはこの事であろうか。

 可憐はすっかり参ってしまう。

 これなら姉が警戒しなくなるのも無理はない。

 世界はあえてこんな事を言ってくる。

 

「逆に警戒してくれていいよ。むしろ私を疑ってかかって来なさい。一生をかけ、応援する形で証明してあげる。とりあえず乙女と可憐、私はどっちを応援すればいい?」

 

 自信満々で何と頼もしいことか。

 もし世界が男であれば確実に惚れている。

 

「今の所、お姉でお願いします。私は焚き付け役に回るつもりなんで」

「つまり宣戦布告はするんだね?」

「そうしないとお姉は奥手なんで。ダラダラさせないためにも、私がライバルになる必要はあるんですよ」

「なるほどね。でも来年、お姉さんは榊野学園を受験するよね?」

「はい」

「今は同じ中学で可憐が上手くサポートしているけど、乙女が榊野学園に入ったらそれが出来なくなるんじゃない?」

 

 実に痛い所を突く。

 それで可憐は悩んでいる。

 再来年にならないと、可憐は榊野学園へ入学ができない。

 それまでの間、姉のフォローが出来なくなるので困る。

 

「私にとっては、乙女の恋を応援するチャンスだね。ま、私が榊野学園に入学できたらの話だけど」

「世界さんが私の代わりにお姉を支えてくれるんですか?」

「任せて。でも可憐が私を疑うのも無理はないからね。不安になったら遠慮なく私へ連絡よこしなさい」

「普通、疑われたら怒るものですよ」

「可憐の苦労してきた気持ちを思えば別に怒らないって。むしろ一人でよく頑張ったと可憐を褒めたい」

 

 可憐が嬉しさの余りに涙を流す。

 さりげなく世界がハンカチを差し出した。

 今までの苦労を認めてくれたこと。

 一人で背負い込まなくていいこと

 そんな世界の思いやりで心が温まってしまう。

 受け取ったハンカチで可憐は涙を拭く。

 そして落ち着いてから重要なことを問う。

 

「世界さんはセンパイのこと、どう思っていますか?」

「可憐と乙女には悪いけど、私個人は全く興味なし」

「ハッキリしていますね」

「それも含めて、仲人役で証明をしてあげるから楽しみにしてなさい」

「はい、楽しみにしています」

 

 既に可憐も世界に対して疑いは消え失せた。

 この人は絶対に裏切らない。

 そんな直感をしている。

 その答えが正解であることを願い今後の楽しみとした。 

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