World Days(新版)   作:完結の陽炎

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第2話「刹那の誓いに独学の才覚」

 小学校帰りの通学路。

 どしゃ降りの雨で傘をさして歩く。

 ふとした時に車の水撥ねが刹那に襲いかかった。

 

「っ!?」

 

 頭で考えるよりも先に体が動く。

 刹那の目の前に両手を広げた世界。

 咄嗟に庇い、刹那の身代わりでびしょ濡れになった。

 

「あー、ぬれちゃったけど、まあいいや」

「よくない」

「いいの。ほら、さっさとかえろう」

 

 世界にとっては、大したことではなかった。

 濡れただけ。痛い思いをした訳でもない。

 けれど――

 助けられた刹那にとっては、違った。

 自分のせいで世界が無茶をして危ない目に遭った。

 その事実にショックを受けてしまう。

 

 次の日に世界が学校を欠席。

 賢い刹那はすぐに原因がわかってしまう。

 免疫力が低くて病気になりやすい体質の世界。

 それなのに刹那を守り風邪をひくことになった。

 

 放課後に世界のアパートへ行く。

 世界の母が看病のためその日だけは仕事を休んだ。

 そして刹那の見舞いを歓迎してくれる。

 

「ほら世界、せっちゃんがきたわよ」

「しらなーい」

「知らないじゃないの」

 

 母のせっちゃん呼びは認めていない。

 譲ったのは友達になった言葉に対してである。

 特別な愛称だからこそ安売りをしてほしくない。

 他の人までせっちゃん呼びを認めた訳ではない。

 それが世界の主張である。

 

 母の口からせっちゃん呼びを聞かされるのは嫌だ。

 あだ名事件で仲裁の一人になったくせに無神経な母。

 なぜ娘の自分ではなく刹那の味方をするのか?

 刹那の母は世界と同じで、ちゃんと刹那という名前の呼び捨てをするのに。

 それに合わせろって話をすると、世界の母からの言い分はこれだ。

 

 普段から沢山譲ってもらっているのだから、一つぐらいは譲ってあげなさい。

 

 これまで世界の我儘を刹那が叶えている。

 だから刹那の愛称ぐらいは我慢しなさい。

 母が“せっちゃん”呼びをする、ムカつく。

 そんな世界の感情に、理由はいらない。

 嫌なものは嫌と自分に正直だ。

 誰に似たのかと言われたら間違いなく母である。

 大人げなく今もせっちゃん呼びをやめる気はない。

 

 刹那本人は、世界が嫌がるので、世界の母には刹那でいいと言ってくれる。

 でも世界の母は親の権力を使ってでも押し通す。

 そうしないとますます娘がつけ上がるからだ。

 自分を棚に上げていることで、刹那の母からは呆れられている。

 

「せかい、ごめんなさい」

「いいの。おかあさんがサイテーなだけ」

「ちがう。わたしをたすけたせいで」

「そっちもいいの。せつながダイスキだからまもる」

 

 風邪で辛くても意地っ張りなやせ我慢をする世界。

 刹那は喜びと悲しみで感情がゴチャゴチャに混ざってしまう。

 この時から自分の中で誓いを立てた。

 

 世界を守る。

 

 それが刹那の行動理念となって変わっていく。

 では具体的に何をしたのか?

 真っ先に刹那がしたことは独学である。

 世界が敵に襲われた時、盾になるだけでは役に立たない。

 本で得た知識を実践して蹴り技を会得する。

 

 回し蹴り。横蹴り。前蹴り。

 ――全部、世界を守るために覚えた技だ。

 足を高く振り上げるたび、バランスを崩して転んだ。

 でも、泣かなかった。

 泣くより先に、世界のために強くなりたかったから。

 この秘密特訓については誰も知らない。

 

 ある日の放課後。

 人通りが少ない道で世界が不審者に襲われた。

 だが未遂に終わる。

 刹那の飛び蹴りが的確に相手の急所を捉えた。

 一撃必殺でのノックアウトである。

 

「せかい、だいじょうぶ?」

「う、うん。ありがとうせつな」

 

 人体に関することも本で得た知識。

 小学生でも大人を戦闘不能にできる。

 そして不審者が逮捕されて、世界の身の安全を守った。

 

「せつな、どうやってつよくなったの?」

「ほんでおぼえた」

「わたしもやる!!」

 

 刹那から本を借りて試すが、3日もしない内に挫折をしてしまう。

 元々、世界は勉強嫌いで独学に向いていない。

 生半可な気持ちで身に付くはずもない。

 むしろ独学で習得をする刹那が異才なのである。

 

「ことちゃん、おしえてくれてありがとう」

「おやくにたってよかったです」

 

 勉強で困った時は言葉に助けてもらう。

 この時の言葉は刹那よりも優秀で賢かった。

 

「っ!?」

 

 刹那は内心で焦ってしまう。

 世界からいらない子扱いで捨てられることを極度に恐れた。

 原因はいなくなった父親にある。

 どんな理由であれ、自分たちを捨てていなくなったことは事実。

 それが刹那の深層心理にトラウマを植え付けてしまう。

 だから刹那は己が立てた誓いに強くこだわるのだろう。

 必要とされれば捨てられることがないから。

 

 世界を守るのは何も武力だけではない。

 学力でも世界の支えとなっていきたい。

 誰よりも一番に。

 

 刹那の行動は早かった。

 一生懸命に勉強をして短期間で内容を覚えてしまう。

 世界にわからない所を教えられるレベルにまで急成長を果たす。

 

 時間を掛けて教わらないと覚えられない言葉。

 とても刹那のマネはできない。

 刹那の凄さを自慢をする世界。

 素直に尊敬の念を抱く言葉は、とても寛容なお嬢様である。

 

「ありがとうせつな」

「うん」

 

 刹那が賢くなって勉強で助けてもらった。

 それでお礼を言う世界は何も知らない。

 刹那がどれだけ世界のために独学をしているかを。

 世界が幸せであればそれでいい。

 そのためならどこまでも努力ができる刹那であった。

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