World Days(新版)   作:完結の陽炎

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第5話「揺れる言葉の価値観」

 桂言葉は刹那の部屋にいる。

 二人っきりで会話をすることは稀にある。

 小学時代からの付き合い。

 幼馴染として言葉から刹那の所へ行くことがある。

 今回の7割作戦について思う所があってのことだ。

 

「せっちゃん、必要な事とはいえ、3割を、捨てさせたのってどうなんでしょう?」

「……ことぴーの言いたいことはわかる。ことぴーの価値観だと、きっと不誠実に見えている」

 

 刹那も付き合いが長いからか。

 言葉の疑問に対して共感がある。

 だからこそ。

 

「……学びの多様性、人それぞれ。そう思う一方で、正直どこか釈然としません」

「合格の結果をもぎ取るため、やむを得ないこと」

「……世界ちゃんの素敵なところが、どうして正しく評価されないのでしょう?」

「ことぴー。世界の持ち味は、学校の教育では評価されない。人と人と繋げたり、人を見る目があるからって、それで成績が良くなったり、合格に左右されない」

 

 哀しきことである。

 世界の外交能力は受験のテストではノイズ。

 ゴミのように捨てられる人間性。

 刹那は冷徹ながらも、世界の持ち味を受験という紙きれで潰されないため、7割作戦を決行させた。

 そうしなければ、世界は試験に振り回されて消耗し、倒れてもおかしくなかった。

 

 言葉にとって、これは大きな衝撃であった。

 徹底的に泥臭く血反吐を吐くような苦渋の道。

 それでしかたどり着けない領域。

 持つ者と持たざる者。

 その隔たりを、深まる溝を痛いほどに感じ取ってしまった。

 

「せっちゃん、私って了見が狭いですか?」

「ううん、ことぴーの気持ち、私はわかる。わかった上でああするしかなかった」

「……お辛くないですか?」

「世界が無理して不合格になる未来と比べたら辛くない」

 

 言葉は、膝の上で組んだ自分の指先を見つめる。

 指先は白く、ペンダコひとつもない。

 彼女にとっての学習は、呼吸をするように自然で、秩序立ったものだ。

 

「……せっちゃんは、強いですね」

 

 言葉の唇から、溜息のような呟きが漏れた。

 そして本音を打ち明ける。

 

「私、世界ちゃんの笑顔が大好きなんです」

「うん」

「でも、その笑顔を守るために、せっちゃんが世界ちゃんの可能性を。その翼を縛り上げなければならなかった」

「うん」

「せっちゃん、世界ちゃんは私たちにはできない素敵なものがあるのに、学園では……それが正しく評価されないのが、何だか哀しくて悔しいです。合格した後も、きっと成績では……」

「周りがどうかなんて関係ない。私は世界を守る。そのためならどんな手段でも使う」

 

 瞳に迷いなく鋭い真剣な顔立ちの刹那。

 魂の重みがまったく異なる。

 個人で極める居合と、守るために何でもありをする刹那。

 そこに情などは一切ない。

 理という冷徹さで突き抜けている。

 

「ことぴー、戦う場所は選ぶ。なんでも全開放できるほど甘くない」

「……はい」

「それに世界はいつも無茶する。歯止めは必要。やり過ぎれば倒れる」

 

 ブレーキ役として買って出る刹那。

 それは世界にとっての理性。

 全力を尽くすことが必ずしも美徳になるとは限らない。

 体の弱い世界なら尚更の事。

 リソースの配分や仕分けの論理は必要だ。

 

 今回みたいなテストで向き合うとき。

 いつでも刹那が近くで支えることができない。

 こうした7割作戦は、今後も応用として必要となる。

 それが世界を生かす道と照らすことを願ってやまない。

 

「ことぴー、ありがとう」

「え?」

「世界のこと。本物の世界を見て考えてくれて、真剣に思ってくれる。それが誇らしい」

「……思うだけでは、何も変わらないです」

「うん。だから行動する。私はそうしている。ことぴーだって漢方薬やストールとか支援してくれた」

 

 実存するための行動という価値。

 これからも二人を見守りたい。

 自分にできることなら支えていきたい。

 そうしたいと思える魅力がこの二人にある。

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