World Days(新版) 作:完結の陽炎
桂言葉は刹那の部屋にいる。
二人っきりで会話をすることは稀にある。
小学時代からの付き合い。
幼馴染として言葉から刹那の所へ行くことがある。
今回の7割作戦について思う所があってのことだ。
「せっちゃん、必要な事とはいえ、3割を、捨てさせたのってどうなんでしょう?」
「……ことぴーの言いたいことはわかる。ことぴーの価値観だと、きっと不誠実に見えている」
刹那も付き合いが長いからか。
言葉の疑問に対して共感がある。
だからこそ。
「……学びの多様性、人それぞれ。そう思う一方で、正直どこか釈然としません」
「合格の結果をもぎ取るため、やむを得ないこと」
「……世界ちゃんの素敵なところが、どうして正しく評価されないのでしょう?」
「ことぴー。世界の持ち味は、学校の教育では評価されない。人と人と繋げたり、人を見る目があるからって、それで成績が良くなったり、合格に左右されない」
哀しきことである。
世界の外交能力は受験のテストではノイズ。
ゴミのように捨てられる人間性。
刹那は冷徹ながらも、世界の持ち味を受験という紙きれで潰されないため、7割作戦を決行させた。
そうしなければ、世界は試験に振り回されて消耗し、倒れてもおかしくなかった。
言葉にとって、これは大きな衝撃であった。
徹底的に泥臭く血反吐を吐くような苦渋の道。
それでしかたどり着けない領域。
持つ者と持たざる者。
その隔たりを、深まる溝を痛いほどに感じ取ってしまった。
「せっちゃん、私って了見が狭いですか?」
「ううん、ことぴーの気持ち、私はわかる。わかった上でああするしかなかった」
「……お辛くないですか?」
「世界が無理して不合格になる未来と比べたら辛くない」
言葉は、膝の上で組んだ自分の指先を見つめる。
指先は白く、ペンダコひとつもない。
彼女にとっての学習は、呼吸をするように自然で、秩序立ったものだ。
「……せっちゃんは、強いですね」
言葉の唇から、溜息のような呟きが漏れた。
そして本音を打ち明ける。
「私、世界ちゃんの笑顔が大好きなんです」
「うん」
「でも、その笑顔を守るために、せっちゃんが世界ちゃんの可能性を。その翼を縛り上げなければならなかった」
「うん」
「せっちゃん、世界ちゃんは私たちにはできない素敵なものがあるのに、学園では……それが正しく評価されないのが、何だか哀しくて悔しいです。合格した後も、きっと成績では……」
「周りがどうかなんて関係ない。私は世界を守る。そのためならどんな手段でも使う」
瞳に迷いなく鋭い真剣な顔立ちの刹那。
魂の重みがまったく異なる。
個人で極める居合と、守るために何でもありをする刹那。
そこに情などは一切ない。
理という冷徹さで突き抜けている。
「ことぴー、戦う場所は選ぶ。なんでも全開放できるほど甘くない」
「……はい」
「それに世界はいつも無茶する。歯止めは必要。やり過ぎれば倒れる」
ブレーキ役として買って出る刹那。
それは世界にとっての理性。
全力を尽くすことが必ずしも美徳になるとは限らない。
体の弱い世界なら尚更の事。
リソースの配分や仕分けの論理は必要だ。
今回みたいなテストで向き合うとき。
いつでも刹那が近くで支えることができない。
こうした7割作戦は、今後も応用として必要となる。
それが世界を生かす道と照らすことを願ってやまない。
「ことぴー、ありがとう」
「え?」
「世界のこと。本物の世界を見て考えてくれて、真剣に思ってくれる。それが誇らしい」
「……思うだけでは、何も変わらないです」
「うん。だから行動する。私はそうしている。ことぴーだって漢方薬やストールとか支援してくれた」
実存するための行動という価値。
これからも二人を見守りたい。
自分にできることなら支えていきたい。
そうしたいと思える魅力がこの二人にある。