World Days(新版) 作:完結の陽炎
第1話「乙女と言葉の協力関係」
時は流れて榊野学園の入学式。
誰一人欠けることなく合格を果たした。
指定の制服に身に纏っての出席。
ここでトラブルが起きてしまう。
アホ毛のある世界と低身長の刹那。
この二人をからかってイジメをする男子二人組が現れたのだ。
たとえ相手が強面であろうと、逆立つ髪型の吊り目であろうと、長身であろうと関係ない。
クセ毛のことは我慢をしても、刹那への侮辱は許さない。
タクティカルペンを隠し持ち、刹那を庇うために前へ出る。
居合をする時の鋭い目で、男子たちとの間合いを縮めていく。
すでに刺し違える覚悟ができており、命を懸ける古来の武士を思わせた。
「世界ダメ」
刹那が抱きついて止めに入った。
その直後、七海と光、言葉と乙女が駆けつけてくれる。
刹那から事情を聞き、イジメの男子二人へ容赦のない非難を浴びせていく。
苛烈に叱り飛ばす七海と冷徹に批判をする言葉。
男二人の精神は一気にズタボロとなり、女子の集団を敵に回す。
二度としないと約束をさせての謝罪となるが、この騒ぎはあまりにも大きくなり過ぎた。
学園長の耳にも入り、加害者の親を呼び出しての謝罪にまで発展。
入学式という初日もあり、イジメの被害者と加害者を同じクラスにしないという学園にできる配慮がされた。
それでも加害者の噂は広まっているため、イジメをした男子二人の肩身は狭く、最終的に転校を余儀なくされるのは別の話である。
話は入学式へ戻り、刹那は世界に注意をした。
必死に守ろうとしてくれたことはわかる。
しかし世界は体が弱い。
相手が男子二人で大きいから下手をすれば暴行で大怪我をしていた。
もし打ち所が悪ければ命を落としていたかもしれない。
「ごめん。刹那をイジメるヤツらがどうしても許せなくて」
「私は大丈夫だから無茶しないで」
「……わかった。それにしても、ことちゃんが冷たくキレるなんて初めて見たよ。普段大人しい人ほど怖いってこういう事だね」
「うん。あの二人、何も反論できなかった」
「七海が熱く叱り飛ばす所なんてカッコ良かった。まるでヒーローみたいで」
いずれにしても助けにきてくれた皆に感謝を伝える。
実に良き友を持ったものだ。
しばらくすると伊藤が世界と刹那へお詫びに来た。
なぜ伊藤が謝るのか?
イジメを仕掛けた男二人は伊藤の幼馴染だったからだ。
光が冷え切った目を向ける。
元々伊藤を好んでおらず、本格的に嫌うようになったのはここからである。
まるでお前も同類だと言わんばかりに。
流石にそれは伊藤が可哀想だと、被害者の刹那がフォローをする。
そして神妙な面持ちで世界は伊藤と向き合った。
「私のことはいいよ。虫みたいな触覚をネタにイジメられることは予想できていたし」
自分の事に関しては聞き流してもいい。
あくまで自分の悪口だけなら。
「でもね、体が小さいことをネタにして、それで刹那をイジメるヤツらを私は絶対に許さない」
刹那が世界を守るように、世界も刹那を守る。
お互いに害する相手に対して一切の容赦をしない。
「伊藤がその幼馴染らとどういう付き合いをしてるかなんて、私は知らないし正直どうでもいい。でもね女の子をイジメるヤツらと関わっていると、今の光みたいに嫌われる対象に巻き込まれるから忠告しておくよ」
刹那が光をなだめたように、世界も忠告という形で伊藤に伝える。
今回の件について、伊藤は何の関わりもないこと。
理不尽な巻き添えを食らわないように気を付けてほしい。
「わかった肝に銘じる。アイツらにも俺からキツめに言っておく」
「世界、伊藤は何も悪くないよ。アイツらと幼馴染といってもほとんど付き合いないから」
伊藤に片想いをする乙女が庇う。
同じ中学出身で伊藤の人間関係を知っている。
今回のイジメたヤツらと伊藤を一緒にしないでほしい。
「大丈夫だよ。乙女の顔は立てるし、伊藤がアイツらと同類だなんて思っていない。いたるちゃんの優しいおにいちゃんだからね伊藤は」
乙女を安心させるため、世界はわざと冗談じみて言う。
そういう優しいところもあって片想いをしているのだろうと。
さすがに本人が目の前にいるので、乙女の気持ちについては黙っておく。
この話は終わりにして気を取り直す一同。
そのままクラス分けを確認しに行く。
「3組で同じクラスだね。これからもよろしく刹那」
「うんよろしく世界」
「光と七海もよろしくね」
「なんか私らはオマケみたいだよ七海」
「世界にとって刹那が一番ってことでしょ」
言葉と乙女は4組で別のクラスとなった。
そこで世界は乙女に声を掛けに行く。
「乙女。伊藤に関する情報があったらそっちに流すから」
「情報ってなにを?」
「ほら、女の影があったら不安で夜も眠れなくなるじゃない?」
「う、うるさい。からかわないで」
「からかってないって。応援する友達のお節介だよ」
単純に乙女への善意だ。
余計なお世話と言われたら否定をしない。
それでも乙女が幸せになってくれたら世界は嬉しいのである。
「世界は伊藤のこと、どう思ってるの?」
「個人的に興味なし。でも妹のいたるちゃんは可愛くて楽しいね」
「そうなんだ」
「私じゃなく乙女の妹、可憐に抜け駆けされないように気を付けなよ」
「ど、どうしてそれを?」
「祭りの時、可憐の連絡先も交換したからね。お姉がいつまでもウジウジするなら、自分がセンパイの彼女に立候補する、なんて先日に電話で言ってたし。甘く見ていると、好きな人を妹に取られちゃうよ」
「うっ……」
可憐の気持ちは乙女もわかっている。
いつまでも進展をしなければ可憐が動くことも。
今の時点ではまだ大丈夫だが、先のことはわからない。
「それで今、乙女がマークしたいのは、ことちゃんだね?」
「なんでそこで桂が出てくるの?」
「ことちゃんが男にモテるから。伊藤が好きになってもおかしくない。そう思ってるよね?」
それにより言葉の敵に回る可能性がある。
イジメの元となる原因は早めに潰したほうがいい。
乙女の瞳に動揺が走るが、世界はそのまま押し通す。
「乙女が彼女になれば全て解決だよ。妹の可憐に言われてると思うけど、小手先の排除なんてしようとしても、意中の相手は振り向いてくれないし、むしろ嫌われる可能性を考えるとリスクでしかないよって。そんな可憐の主張に私も同意」
「わ、わかってる」
「乙女のこと、私は大切な友達だと思ってる。だから頑張ってよ。付き合うようになったら、お幸せにって祝福するし、何か美味しいものでも奢るよ」
「……お節介だね世界は」
「私は私のやりたいようにするだけ」
世界は間違いなく可憐の影響を受けている。
恋敵となりうる存在を不幸にしたり、悲しませるような排除をしない。
そんな可憐のやり方を気に入り協力を惜しまない。
「……」
刹那は物静かに様子を見ている。
お節介な世界らしいと和む一方で少し気になった。
世界は誰かに頼まれている?
刹那の直感は怪しいと警報を鳴らす。
あとで調べたほうがいいだろう。
今は世界の行動を見届けていく。
「という訳で、ことちゃんも協力よろしくね」
「はい、わかりました」
「っ!! か、桂!!」
乙女の後ろには言葉がいた。
世界はしてやったりの顔を浮かべる。
まるで悪戯を成功させた子どものようだ。
「あ、驚かせてしまってすみません。話し掛けるきっかけがなくて、静かに待っていました」
「乙女、ことちゃんを敵として排除するよりも、味方につけたほうがお得だよ。そのほうが成功率も上がるから」
世界の言う内容には損得勘定が混ざっている。
お互いに悪い話ではないとするのは、交渉という意味では正しいのかもしれない。
だが世界が取る行動は、分け隔てなく自分の思うがままに突っ走ることだ。
自分がやりたいか、やりたくないかで判断をしている。
だからこそ刹那は妙だと思った。
世界は誰かに入れ知恵をされている可能性が高い。
その人物に心当たりはある。
しかし今は静観あるのみだ。
「桂、伊藤のこと何とも思ってない?」
「はい。実は私、男の人が苦手で、加藤さんのような気持ちはとても……」
「という訳で乙女、同じクラスになったことちゃんをよろしくお願い」
言葉がイジメられそうな時は助けてほしい。
遠回しに言われて乙女は本音を漏らす。
「私は甘露寺みたいに義理堅くないし、桂に対して特に恩を感じている訳でもない」
「光みたいに言いたい事をハッキリ言ったらいいよ。でもね、もしことちゃんをイジメるなら、さすがに幼馴染として私は黙っていないから」
居合で一太刀をするかの如く鋭い目付きでの警告。
ビビり屋の乙女には絶大な効果があった。
無意識に下がってしまうほどに怯んでしまう。
すると。
「なんてね、乙女がそんな陰湿なマネはしないって信じてるよ」
何事もなかったようにいつもの楽しそうな世界へ戻る。
サラリと切り替えが早く、ある意味で役者だ。
「世界ちゃん、少し脅かしすぎです。加藤さんが戸惑っています」
「あははっ、ごめんね。大切な人が傷つくなんて嫌だから。ついカッとなっちゃう」
「世界、昔から変わっていない」
今のは刹那も違和感がなかった。
親しい人を守ろうと本気になるのが世界らしい。
不純物のない真っ直ぐな姿が好ましかった。
「そんな事ないよ。さっきは手を出しかけたけど今は口だけ。成長したでしょ?」
「言い方」
「とにかく乙女、ことちゃんを味方にして利用すればいいんだよ。損得で割り切れば妬む暇もないはずだよ」
世界の言い方は少々悪いが、コンプレックスを意識させないための措置である。
相性の悪い光がこの考え方に近い。
乙女の中で様々な感情がグルグルと駆け巡る。
そして気持ちの整理をしてから言葉にこう言った。
「裏切ったら承知しないよ桂」
「約束します。加藤さんの信用を裏切ることは決してしません」
「まだ信じ切れてないけどね。いい奴ってことは認める」
「はい、それで充分です」
こうして乙女は言葉の味方についた。
言葉がイジメられないように立ち回ってくれる。
勉強面で乙女が辛い時には言葉が助ける。
持ちつ持たれつの関係が成立した。