World Days(新版) 作:完結の陽炎
入学式が終わって帰る時間。
世界は可憐と会う約束をしている。
ここで刹那が一緒について来てはダメかと言ってきた。
「珍しいね。私の先約に刹那が一緒に来たいなんて」
「ダメ?」
「ちょっと可憐に確認とってみるから待ってて」
「うん」
可憐に電話をして了解を得た。
刹那と一緒に待ち合わせの東原己駅で可憐と合流。
海水浴場の砂浜まで歩き、そこで海を眺めながらの報告だ。
「伊藤は3組で乙女は4組。4組になったことちゃんを乙女が守り、その見返りとして同じ3組になった私が伊藤の情報を乙女に流す。これで交渉は成立ってね」
「マジで助かります世界さん。改めてお姉をよろしくお願いします」
「ドーンとこの世界さんに任せなさい」
丁寧に頭を下げる可憐に堂々と胸を張る世界。
その二人を眺める刹那の表情は相変わらずクールだ。
やはりそうかと確信を得たようである。
「世界。今回の件、その子に頼まれたの?」
「まあね。可憐は学校が別々になってどうしようって困ってたの。姉思いの優しい妹の悩み、助けてやりたくなるのが人情ってものでしょ?」
「ふーん。そうやって同情を誘い、まんまと世界を利用したのか」
「いやいや、そりゃあんまりです刹那さん!! 私はそんな腹黒い女じゃありません!!」
「そうだよね。可憐が恋敵を不幸のどん底に落として、陰険なイジメをする人じゃない。逆に仲良くなって仲人したり、支援したりで立派なことをしてる。これはもう師匠と呼びたくなるぐらい尊敬しちゃうって」
「だから師匠って呼ばないでください!! さすがに褒め過ぎです!!」
可憐の顔が真っ赤に染まって照れる。
それに対して刹那は眉を潜めて不機嫌だ。
付き合いの長い世界がそれを見落とすはずもない。
「刹那、可憐はあらゆる方法を使ってお手上げ状態なんだよ。先日の電話で、可憐が伊藤に告白をしたみたいだけど、冗談だと思われてしまったんだって。それって可哀想だと思わない?」
「伝え方が悪い。どうせ真面目に告白してない」
「……可憐、そこん所はどうなの?」
刹那の勘が当たっているのだろう。
世界の問いかけに可憐の目が泳いだ。
「あー、ちょっと照れちゃって、冗談っぽい言い方だったかもしれません」
「ダメでしょそれ」
「で、でも私はセンパイの腕に抱きついたりして精一杯のアプローチしたんですよ!! ほら男の子って、女の子に触れられたら嬉しいものですよね!?」
「妹のいたるちゃんと同じ感覚に思われてるんじゃない? なんか逆効果に思えるのは私の気のせい?」
「気のせいじゃない。きっと女の子として見られてない」
「ぐあっ……ひ、ひどいです刹那さん。かなり気にしてるんですよ私」
伊藤を振り向かせるのに些か問題があったようだ。
でも時間は巻き戻せない。
次に向かって気持ちを切り替えていくしかない。
「世界、ひとつ確認したい」
「なに?」
「もし伊藤に好きな人ができたら邪魔をするの?」
「それは時と場合によるよ。例えばさ、伊藤の好きな人が刹那だった場合」
「ええぇ!? センパイの好きな人って刹那さんですか!?」
「例えばの話よ!! で、刹那が嫌がってるのに伊藤が無理やり迫って困らせるようなら、私は全力で刹那を守るよ。でもそうじゃないのなら、見守ったり応援したりはするけど、邪魔は絶対にしない」
「うん。それがわかってるならいい。でもその子が伊藤の恋路を邪魔したらどうするの?」
「流石にそんな最低なことなんてしないでしょ。だよね可憐?」
「それはまあ……えっと……」
世界の目は騙せても刹那の目は騙せない。
これは相手が悪い。
可憐の動揺を前に刹那はさらに問い詰める。
「中学時代、そうやって伊藤の恋愛を邪魔したんじゃないの?」
「それはないです。センパイに好きな人なんていませんよ。そうなりそうな女の子は一切近付けていないので」
「出会いを妨害してるじゃん。世界、こんなのマネしたらダメだよ」
刹那の意見には一理ある。
可憐の行動において全てが良いという訳ではない。
だからといって全否定をするつもりもない。
ひとまず原点に立ち戻って確かめてみる。
「刹那、私が乙女の幸せを願って協力をする。これは間違ってると思う?」
「世界がそうしたいのならいい。でも協力するなら私に相談して」
「もしかして、それを伝えたくてついて来たの?」
「そう思っていい。本当はその子に文句を言いたかったけどもういい。過ぎた事だからとやかく言わない」
「あのー刹那さん、その子って呼び方が地味に傷つくんですけど?」
「世界、用が済んだなら帰ろう」
「う、うん。じゃあ可憐、また何かあったら連絡してね」
電車の乗り換えをして帰り道を歩く。
幼い頃から刹那のことはよく知っている。
だから可憐を名前で呼ばない心境も読めた。
「私と可憐が仲良くしているのが気に入らない?」
「仲良くするのは悪い事じゃない。でも世界を都合よく利用する、あの子のやり方は気に入らない」
「可憐だって良い所はあるよ」
「逆も然り」
「うんまあ、刹那に言われて気付けたよ。ありがとうね」
元を正すなら、伊藤に想いを告白すればいいだけの事。
そうすれば、中学時代に出会いの妨害という可憐の苦労もなかった。
それが出来るなら最初からそうしている。
乙女は相当な怖がりのようだ。
「刹那の言う通り、過去のあれこれを言っても時間は戻らない。今どうするかで集中あるのみだよ」
「うん」
「乙女の恋が成功したら、皆でお祝いして楽しもうね」
「世界、それは今じゃなくて未来の話」
「もう細かいな刹那は。ま、今どうするかは決まってて、乙女の恋愛をサポートすることだよ」
勝利のVサインを刹那の前に突き出す。
絶対に成功させようという世界の意思表示。
刹那が仕方ないと思いながらもピースで返した。