World Days(新版)   作:完結の陽炎

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第4話「おまじないの破綻」

 榊野学園の定期的な席替えイベント。

 階段型教室で長机に長椅子の形式。

 黒板にランダムで席の番号が振られている。

 くじ引きをした世界の席は後ろから二番目の真ん中。

 その隣が光になっているので素直にラッキーだ。

 

「刹那の席はどこ?」

「一番後ろの入口側」

「隣は伊藤か。知り合いの男子で良かったね刹那」

「世界かわって」

 

 世界は一瞬耳を疑った。

 真面目な刹那からあり得ない不正の要求。

 幻聴かもしれないのでもう一度聞き直す。

 

「世界のくじと交換して」

 

 世界の耳は正常である。

 きっとこれは夢だと思い、刹那のほっぺを引き伸ばす。

 痛がる刹那からの抗議な眼差し。

 どうやら夢ではないようだ。

 そして刹那の両肩に手を乗せて真顔で告げる。

 

「刹那はそんなこと言わない。いつから入れ替わったの? 怒らないから正直に言いなさい」

「ニセモノじゃないホンモノ。世界は乙女のために伊藤の情報を集めている。隣にいたほうが都合がいい」

「じゃあもし乙女が同じクラスだったら、私じゃなく乙女に交換を持ち掛けてた?」

「うん。でも乙女は別のクラス」

「私がいたるちゃんと遊んでる間、刹那は伊藤と会話してたみたいだし。伊藤の情報を探るなら、私よりも刹那のほうが向いてない?」

 

 刹那に丸投げができたら楽になる。

 別に知らない仲でもないから難しくもないはずだ。

 その魂胆が見え見えだったのだろう。

 

「世界が言い出したこと。ちゃんと責任もってやらないとダメ」

「席が後ろから二番目の真ん中だけど?」

「問題ない」

「隣は光だよ」

「歓迎する」

「不正はいけないことだよ」

「世界のため。大事の前の小事」

「そこは乙女のためって言いなよ」

 

 刹那の意思を変えることはできない。

 世界が関わってくると途端に頑固だ。

 時間の無駄になるので説得はしない。

 言われるまま交換に応じて手続きを済ませた。

 

「じゃあ刹那、いってくるね」

「うん、またあとで」

 

 隣の席まで移動をしても伊藤は気が付かない。

 持っている携帯の画面に夢中だ。

 最低限の挨拶をしておきたい世界としては困る。

 タイミングが掴めないから。

 急に声を掛けて驚かせてしまうのも気が引ける。

 

 何をそんなに夢中になっているのか?

 

 伊藤は特に操作をしていない。

 少なくともゲームではないだろう。

 

 世界の中で天使が囁く。

 人の携帯を覗き見するのは悪いこと。

 このまま伊藤が気付くまで黙って席に座るべき。

 

 世界の中の悪魔が囁く。

 人に見られて困る内容ではないだろう。

 それなら人前で携帯を触るなって話。

 伊藤の携帯を覗いて話しかけるきっかけにしよう。

 

 善悪の気持ちで争いが起きる。

 その精神的な決着は早かった。

 

 世界が選んだのは悪魔側の意見。

 そっと覗き見をした後に息を呑む。

 

「っ!!」

 

 顔を背けて静かに距離を置く。

 伊藤の待ち受け画面に言葉の写真があった。

 

 いつ? どこで? 何故?

 

 深呼吸をして落ち着きを取り戻し、言葉にメールを送った。

 伊藤に写真撮影を許可した覚えはないことが判明。

 盗撮の疑いが濃厚である。

 

 顔色が悪くなった世界。

 保健室へ行くことを理由に廊下へ避難する。

 

 異常性を察知する刹那。

 付き添いを理由に同じく廊下へやって来た。

 

「世界、何があった?」

「……見ちゃった」

「なにを?」

 

 さきほどの出来事を刹那に話す。

 待ち受け画面に異性の写真を載せること。

 その意味に世界は心当たりがあった。

 

「多分、例のおまじない」

 

 好きな相手を携帯の待ち受けにして、三週間を隠し通せば想いが叶う。

 それを実行しているようだが盗撮は犯罪である。

 幼馴染として見過ごせない事態だ。

 

「ことちゃんは優しいから、伊藤に悪気はないと思って許すと思う」

「うん」

「伊藤はことちゃんが好きなんだね。それは仕方ないけど、コソコソ隠し撮りする人にことちゃんを任せられない。あと、そんな人に片想いしている乙女が可哀想」

「世界、私に任せて」

「え?」

「席の交換を頼んだのは私。その責任は私が取る」

 

 世界を保健室で休ませてから刹那はすぐに動き出す。

 言葉へ連絡をとって現状を伝えた。

 

 世界の読み通りで言葉は気にしていない。

 おまじないに肖り、出来心だったことは明白。

 魔がさしただけだと納得をして許すようだ。

 

 それよりも、世界が思い悩んでいるほうが問題である。

 乙女の恋愛事情もあるため、今回の件は大事にできない。

 

「私は違うクラスで、特に接点もありません。写真を消して無かった事にして頂ければ、それだけで充分です」

「ことぴーの要求はわかった。あとは私に任せて」

 

 刹那が次の行動として七海と光に協力を要請した。

 言葉に義理のある七海が激怒。

 

 人目の付かない階段踊り場へ伊藤を呼び出す。

 光が隙を見て伊藤の携帯を奪い証拠を掴んだ。

 電車のホームで隠し撮りをしたようである。

 

「皆にバラされたくなければ、二度と言に近付くな」

「伊藤、写真消して桂のことは諦めなよ。二度とこんなバカなことしないように。アンタのしたことは犯罪なのよ犯罪」

「わ、わかった」

 

 用は済んだので伊藤をその場から解放をする。

 二人で釘を刺したので迂闊な行動はとらないだろう。

 少なくとも当分の間は大人しくなるはずだ。 

 

「七海、アイツ桂に未練タラタラでまた同じ事するんじゃない?」

「しばらく言の登校にはアタシが付き添うよ。光、アンタも来な」

「えー、正直気が進まないんだけど? 個人的に桂を守るなんてさ」

「友達思いな所をアピールすれば、澤永に――」

「だあー!! それ以上いうな!!」

「来てくれないなら喋っちゃうぞ」

「ひ、卑怯者!!」

「何とでも言いな。ま、少しの間だけ我慢しなよ」

 

 光が刹那へ、七海が言葉へ。

 それぞれ手分けをして報告をする。

 

 付き添いでしばらく様子見について言葉は了承。

 何もそこまでとは思いつつも、七海の警戒を受け入れた。

 

 刹那からは世界のためにやむを得ないとコメント。

 盗撮をされた被害として脅迫という対抗手段をとった。

 

 やり方としては決して褒められたものではない。

 だが乙女に知られることなく、今回の件を上手く流すにはこうするしかなかった。

 

 なお、世界のフォローは言葉がしてくれる。

 

「ことちゃん、携帯の覗き見なんてするものじゃないね」

「そうですね。誰しもプライバシーはあります。ですが今回、世界ちゃんのおかげで私は助けられました」

「実際に動いてくれたのは刹那だよ。あと七海と光も。あのあと話を聞いたけど、盗撮に対して脅迫って……」

「私もそれは思いました。もっと穏便に済ませられたら良かったのですが」

「今回は仕方ないのかな。乙女の恋は今も応援しているけど、なんか複雑な気持ちだよ」

「一度の過ちぐらい私は許します。直接なにかをされた訳でもありませんから」

「それって二度目はないという風に聞こえるんだけど?」

「二度としないと約束されたと聞いています。私はそれを信じます」

 

 今回はたまたま悪い所が見えただけ。

 乙女が伊藤を好きになるぐらい良い所もあるはずだ。

 そんな言葉の言い分に世界は理解を示す。

 

「私は覗き見した負い目があるし、伊藤のいい所は知ってるつもり。だから今回の件は忘れたほうがいいかなって思ってる。隣の席に伊藤がいるから、変に引きずるとマズイ気がするんだ」

「忘れましょう。私は本当に気にしていませんから」

「……わかった。引き続き乙女の恋を応援する。私はそれで気持ちを切り替えるね。でも……」

「でも?」

 

 ここで世界からの苦笑い。

 問題となってしまう二人の存在が浮かび上がる。

 それは……。

 

「ただでさえ伊藤のこと嫌ってる光だけど、今回でさらに火に油を注いだみたいな」

「そ、そうですね。かなりお怒りだったと七海さんから聞いています」

 

 これで光の伊藤嫌いがさらに増してしまう。

 ほとぼりが冷めるまで時間を置くしかないだろう。

 愚痴があったら聞くようにしてそっとするしかない。

 

「刹那も正直ヤバいよね。きっと私の具合が悪くなったのは、伊藤のせいだって思ってるよ。だから光以上に怒ってるかもしれない」

「せっちゃんは世界ちゃんのこと、とっても大事にしていますから」

「携帯を見てしまった私も悪いってことでフォローしてみるよ。今回はお互いのためにも忘れようってことで。頭のいい刹那ならそれだけでわかってくれると思う」

「私からもせっちゃんにはそれとなく言っておきます。黒田さんは私だとツンツンしちゃうのでお相手できませんが」

「うん、それで充分だよ」

 

 その後、気持ちを立て直して世界は授業に復帰をする。

 時間の合間を縫って刹那にメールを送った。

 忘れることに刹那の合意を得たが、二度目はないという警告の返信が添えられる。

 これは仕方がないことだ。

 世界も逆の立場なら同じことを思ってしまうから。

 

「……」

 

 隣の席で伊藤は落ち込んでいる。

 そこに付け込む隙があると世界は判断をした。

 

 乙女にメールを送信。

 伊藤を励ましてアピールをするチャンス。

 

 乙女が乗り気になり、放課後に伊藤を連れての気晴らし。

 それで少しは元気が出たのだろう。

 伊藤に感謝をされたと、あとで惚気話を聞かされる。

 こうして時間で解決をするようにした。

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