World Days(新版) 作:完結の陽炎
榊野学園の定期的な席替えイベント。
階段型教室で長机に長椅子の形式。
黒板にランダムで席の番号が振られている。
くじ引きをした世界の席は後ろから二番目の真ん中。
その隣が光になっているので素直にラッキーだ。
「刹那の席はどこ?」
「一番後ろの入口側」
「隣は伊藤か。知り合いの男子で良かったね刹那」
「世界かわって」
世界は一瞬耳を疑った。
真面目な刹那からあり得ない不正の要求。
幻聴かもしれないのでもう一度聞き直す。
「世界のくじと交換して」
世界の耳は正常である。
きっとこれは夢だと思い、刹那のほっぺを引き伸ばす。
痛がる刹那からの抗議な眼差し。
どうやら夢ではないようだ。
そして刹那の両肩に手を乗せて真顔で告げる。
「刹那はそんなこと言わない。いつから入れ替わったの? 怒らないから正直に言いなさい」
「ニセモノじゃないホンモノ。世界は乙女のために伊藤の情報を集めている。隣にいたほうが都合がいい」
「じゃあもし乙女が同じクラスだったら、私じゃなく乙女に交換を持ち掛けてた?」
「うん。でも乙女は別のクラス」
「私がいたるちゃんと遊んでる間、刹那は伊藤と会話してたみたいだし。伊藤の情報を探るなら、私よりも刹那のほうが向いてない?」
刹那に丸投げができたら楽になる。
別に知らない仲でもないから難しくもないはずだ。
その魂胆が見え見えだったのだろう。
「世界が言い出したこと。ちゃんと責任もってやらないとダメ」
「席が後ろから二番目の真ん中だけど?」
「問題ない」
「隣は光だよ」
「歓迎する」
「不正はいけないことだよ」
「世界のため。大事の前の小事」
「そこは乙女のためって言いなよ」
刹那の意思を変えることはできない。
世界が関わってくると途端に頑固だ。
時間の無駄になるので説得はしない。
言われるまま交換に応じて手続きを済ませた。
「じゃあ刹那、いってくるね」
「うん、またあとで」
隣の席まで移動をしても伊藤は気が付かない。
持っている携帯の画面に夢中だ。
最低限の挨拶をしておきたい世界としては困る。
タイミングが掴めないから。
急に声を掛けて驚かせてしまうのも気が引ける。
何をそんなに夢中になっているのか?
伊藤は特に操作をしていない。
少なくともゲームではないだろう。
世界の中で天使が囁く。
人の携帯を覗き見するのは悪いこと。
このまま伊藤が気付くまで黙って席に座るべき。
世界の中の悪魔が囁く。
人に見られて困る内容ではないだろう。
それなら人前で携帯を触るなって話。
伊藤の携帯を覗いて話しかけるきっかけにしよう。
善悪の気持ちで争いが起きる。
その精神的な決着は早かった。
世界が選んだのは悪魔側の意見。
そっと覗き見をした後に息を呑む。
「っ!!」
顔を背けて静かに距離を置く。
伊藤の待ち受け画面に言葉の写真があった。
いつ? どこで? 何故?
深呼吸をして落ち着きを取り戻し、言葉にメールを送った。
伊藤に写真撮影を許可した覚えはないことが判明。
盗撮の疑いが濃厚である。
顔色が悪くなった世界。
保健室へ行くことを理由に廊下へ避難する。
異常性を察知する刹那。
付き添いを理由に同じく廊下へやって来た。
「世界、何があった?」
「……見ちゃった」
「なにを?」
さきほどの出来事を刹那に話す。
待ち受け画面に異性の写真を載せること。
その意味に世界は心当たりがあった。
「多分、例のおまじない」
好きな相手を携帯の待ち受けにして、三週間を隠し通せば想いが叶う。
それを実行しているようだが盗撮は犯罪である。
幼馴染として見過ごせない事態だ。
「ことちゃんは優しいから、伊藤に悪気はないと思って許すと思う」
「うん」
「伊藤はことちゃんが好きなんだね。それは仕方ないけど、コソコソ隠し撮りする人にことちゃんを任せられない。あと、そんな人に片想いしている乙女が可哀想」
「世界、私に任せて」
「え?」
「席の交換を頼んだのは私。その責任は私が取る」
世界を保健室で休ませてから刹那はすぐに動き出す。
言葉へ連絡をとって現状を伝えた。
世界の読み通りで言葉は気にしていない。
おまじないに肖り、出来心だったことは明白。
魔がさしただけだと納得をして許すようだ。
それよりも、世界が思い悩んでいるほうが問題である。
乙女の恋愛事情もあるため、今回の件は大事にできない。
「私は違うクラスで、特に接点もありません。写真を消して無かった事にして頂ければ、それだけで充分です」
「ことぴーの要求はわかった。あとは私に任せて」
刹那が次の行動として七海と光に協力を要請した。
言葉に義理のある七海が激怒。
人目の付かない階段踊り場へ伊藤を呼び出す。
光が隙を見て伊藤の携帯を奪い証拠を掴んだ。
電車のホームで隠し撮りをしたようである。
「皆にバラされたくなければ、二度と言に近付くな」
「伊藤、写真消して桂のことは諦めなよ。二度とこんなバカなことしないように。アンタのしたことは犯罪なのよ犯罪」
「わ、わかった」
用は済んだので伊藤をその場から解放をする。
二人で釘を刺したので迂闊な行動はとらないだろう。
少なくとも当分の間は大人しくなるはずだ。
「七海、アイツ桂に未練タラタラでまた同じ事するんじゃない?」
「しばらく言の登校にはアタシが付き添うよ。光、アンタも来な」
「えー、正直気が進まないんだけど? 個人的に桂を守るなんてさ」
「友達思いな所をアピールすれば、澤永に――」
「だあー!! それ以上いうな!!」
「来てくれないなら喋っちゃうぞ」
「ひ、卑怯者!!」
「何とでも言いな。ま、少しの間だけ我慢しなよ」
光が刹那へ、七海が言葉へ。
それぞれ手分けをして報告をする。
付き添いでしばらく様子見について言葉は了承。
何もそこまでとは思いつつも、七海の警戒を受け入れた。
刹那からは世界のためにやむを得ないとコメント。
盗撮をされた被害として脅迫という対抗手段をとった。
やり方としては決して褒められたものではない。
だが乙女に知られることなく、今回の件を上手く流すにはこうするしかなかった。
なお、世界のフォローは言葉がしてくれる。
「ことちゃん、携帯の覗き見なんてするものじゃないね」
「そうですね。誰しもプライバシーはあります。ですが今回、世界ちゃんのおかげで私は助けられました」
「実際に動いてくれたのは刹那だよ。あと七海と光も。あのあと話を聞いたけど、盗撮に対して脅迫って……」
「私もそれは思いました。もっと穏便に済ませられたら良かったのですが」
「今回は仕方ないのかな。乙女の恋は今も応援しているけど、なんか複雑な気持ちだよ」
「一度の過ちぐらい私は許します。直接なにかをされた訳でもありませんから」
「それって二度目はないという風に聞こえるんだけど?」
「二度としないと約束されたと聞いています。私はそれを信じます」
今回はたまたま悪い所が見えただけ。
乙女が伊藤を好きになるぐらい良い所もあるはずだ。
そんな言葉の言い分に世界は理解を示す。
「私は覗き見した負い目があるし、伊藤のいい所は知ってるつもり。だから今回の件は忘れたほうがいいかなって思ってる。隣の席に伊藤がいるから、変に引きずるとマズイ気がするんだ」
「忘れましょう。私は本当に気にしていませんから」
「……わかった。引き続き乙女の恋を応援する。私はそれで気持ちを切り替えるね。でも……」
「でも?」
ここで世界からの苦笑い。
問題となってしまう二人の存在が浮かび上がる。
それは……。
「ただでさえ伊藤のこと嫌ってる光だけど、今回でさらに火に油を注いだみたいな」
「そ、そうですね。かなりお怒りだったと七海さんから聞いています」
これで光の伊藤嫌いがさらに増してしまう。
ほとぼりが冷めるまで時間を置くしかないだろう。
愚痴があったら聞くようにしてそっとするしかない。
「刹那も正直ヤバいよね。きっと私の具合が悪くなったのは、伊藤のせいだって思ってるよ。だから光以上に怒ってるかもしれない」
「せっちゃんは世界ちゃんのこと、とっても大事にしていますから」
「携帯を見てしまった私も悪いってことでフォローしてみるよ。今回はお互いのためにも忘れようってことで。頭のいい刹那ならそれだけでわかってくれると思う」
「私からもせっちゃんにはそれとなく言っておきます。黒田さんは私だとツンツンしちゃうのでお相手できませんが」
「うん、それで充分だよ」
その後、気持ちを立て直して世界は授業に復帰をする。
時間の合間を縫って刹那にメールを送った。
忘れることに刹那の合意を得たが、二度目はないという警告の返信が添えられる。
これは仕方がないことだ。
世界も逆の立場なら同じことを思ってしまうから。
「……」
隣の席で伊藤は落ち込んでいる。
そこに付け込む隙があると世界は判断をした。
乙女にメールを送信。
伊藤を励ましてアピールをするチャンス。
乙女が乗り気になり、放課後に伊藤を連れての気晴らし。
それで少しは元気が出たのだろう。
伊藤に感謝をされたと、あとで惚気話を聞かされる。
こうして時間で解決をするようにした。