World Days(新版) 作:完結の陽炎
桂家にある言葉の部屋。
お膳立てに頼んだ映画のチケットを受け取る。
世界の付き添いに刹那がいて、出された無糖のアイスコーヒーをストローで飲んでいた。
「ありがとうことちゃん。これで乙女に伊藤をくっつける作戦が立てられるよ」
「有効期限がありますので、加藤さんにお渡しするのでしたら早めにした方がいいですよ」
「すぐに渡すつもりだけど、乙女が奥手だからね。可憐に協力してもらって上手くやらないと」
可憐という単語に刹那が反応。
チクチクと突き刺さる視線で無言の圧力がかかる。
無視をすると後が怖いので、世界は対応をするしかない。
「刹那、今回の作戦では乙女を奮い立たせるために可憐は必要なの。いないまま乙女に渡しても、勇気が出なくてチケットを無駄にするのがオチだからね」
「……いつ渡すの?」
「今から可憐に電話して、可能なら明日にでも渡してしまうつもり」
「私も行く」
「うーん、私は別にいいけど、可憐はどうだろう?」
「何か問題ある?」
「と、とりあえず電話してみるね」
有無を言わせまいとする刹那。
それに圧倒されながらも電話をかけた。
しかし耳元でコール音が鳴るばかりで出る様子がない。
今は立て込んでいるのかもしれない。
そして留守電サービスとなりメッセージを伝える。
「もしもし可憐、乙女と伊藤のデート作戦で協力してほしいから電話したの。詳細を話したいから、暇になった時にそっちから電話してくれない? という訳でよろしく」
すぐに出れるように携帯をテーブルへ置く。
ストローで砂糖とミルクを混ぜたアイスコーヒーを飲み一息ついた。
そして可憐の応答を待ちながら言葉に話し掛ける。
「私、たまに思うけど、ことちゃんぐらい長くて綺麗な髪に憧れる時あるんだよね。それぐらい長いと色々アレンジができて楽しそうだし。光や乙女、可憐も長くて上手くまとめてるよね」
「世界、ロングは面倒だからってそこまで伸ばさない」
「七海みたいにカッコいい系なら、ショートでサッパリさせちゃうけどね。私にはちょっとハードル高いから。刹那はそれ以上伸ばさないの?」
「私も世界と同じぐらいで丁度いい」
刹那が自分の髪を触って適度な長さをアピール。
どれどれと世界が触り心地を確認してしまう。
女の子に嗜みとして綺麗にお手入れがされていた。
触覚のクセ毛がないだけでも羨ましい限りである。
「世界ちゃん、長い髪を体験できるウィッグなんてどうですか?」
「頭に付けるカツラのこと?」
「あ、はい。そうです」
「ことちゃんの苗字と同じでダジャレに使えちゃうね。笑えるかどうかは別として。ちなみに刹那もダジャレにできるよ。刹那の思いは切ない、なんてね」
その場がシーンと静かになった。
言葉は反応に困り、刹那は無表情である。
その直後に可憐からの着信が入る。
世界にとってはナイスタイミング。
今の窮地を脱するために携帯を取った。
「いやーすみません世界さん。ちょっと離れてました」
「いいよ全然OK。早速だけど本題に入るね。明日の放課後いける?」
「大丈夫ですよ」
「場所はピュアバーガー前。報酬はそこのセットメニュー奢りで」
「わーい、ありがとうございます」
「私と刹那、乙女の可憐の4人で集まるからよろしくね」
「ありゃりゃ、刹那さんも来ちゃいますか?」
「何か問題ある?」
刹那に言われた事を可憐でやり返す。
近くで聞こえている言葉がクスリと笑う。
真似をされたと思った刹那はそっぽを向く。
「い、いえ何か私、刹那さんに嫌われてるかと思いまして」
「気にしない気にしない。別に上映されているホラー映画のゾンビみたいに食べられる訳でもないし」
「ホラーですか? お姉の趣味にはイマイチ合わないような?」
「コメディのアクション映画もあるから、乙女ならそっちが合うんじゃない?」
「そうですね。派手な演出で盛り上がる展開があれば、お姉のテンション上がりますよ。しかし世界さん、お姉の好みをよくわかっていますね」
「フッフッフッ、この世界さんの情報網を甘く見ないように。あ、もし予定が合わなくなったら私に連絡して」
「わかりました」
これで仲人役の仕事は一区切りとなる。
世界は次に別の行動をとる。
七海に激励メールを送り始めた。
バスケの部活で頑張っているから。
是非ともレギュラーメンバーに選ばれてほしい。
そしてメールのやり取りが行なわれていく。
『世界は相変わらず調子いいね。アタシをダシにして、光の店でケーキ奢ってもらうつもり?』
『大丈夫!! 光にはバイトでちゃんとお返しするから!!』
『いつバイトするの?』
『当然、夏休みでしょ。七海は夏休みの合宿がんばってね。あ、お土産は定番のお菓子でOKだよ』
『ちゃっかりしてるね。そういうとこ世界らしいよ』
『観戦できる試合があれば日程よろしく。刹那・ことちゃん・光を連れて応援に行くから』
『応援はいいけど静かに見守りな。昔、無茶な応援をして倒れたことがあるでしょ?』
『あれは七海のチームが負けそうになったから。あの後、逆転勝利をして盛り上がったね』
『それで、世界は倒れちゃって、刹那に散々怒られまくったって聞いたよ』
応援団のノリで、声を張り上げて振り付けをするのは禁止。
静かに見守れと刹那から厳命を食らっている。
よって、それ以降の世界は派手な応援をしていない。
『私は体の事があるけど、それ以前に上下関係が厳しい運動部は無理だね。生意気扱いされてイジメられるという嫌なイメージがあるから』
『そういう嫌な先輩もいるけど全員じゃないよ。そういう人に限って、実力がないから逆恨みするんだよね』
『七海はそういうのを黙らせる実力とカリスマがあるからスゴイよ。スポーツ推薦は伊達じゃないね』
『おだてても何も出ないよ』
中学でも似たような経験は味わっている。
そんな七海からすれば別に大した事ではない。
実力があれば下級生であろうと関係ない。
バスケもチームワークは大切だ。
嫉妬に囚われて勝利に貢献できないほうが問題である。
『乙女はレギュラーに選ばれたりは無し?』
『素質はあるけど、加藤はプレッシャーに弱いからね。それがクリアできたら可能性はあるよ』
『妹の可憐からビビり屋なんて随分な言われようだよ。私はそういう所も含めての乙女だと思うけどね。完璧な人なんている訳ないんだし』
七海が世界と仲良くなれる理由はある。
それは完璧を求められないことだ。
周りの期待でプレッシャーを感じない訳がない。
応援という意味で世界もやっているが、ご褒美のケーキという下心が見え見えだ。
むしろ開き直ってくれるほうが、七海としては清々しい気持ちになれる。
世界の家庭が貧乏であることも知っている。
だから七海はダシにされても気にならない。
ご褒美のおこぼれを貰う世界の喜ぶ顔。
それを見れば別にいいかと思えてしまう。
七海はバスケが全てという訳ではない。
好きな彼と付き合う恋する女の子という一面もある。
惚気話ができる相手は少なく世界と言葉ぐらいだ。
一応、光や刹那も聞いてはくれるが、贅沢な悩みだとあしらわれる。
要するに七海にとって、ありのままで友達付き合いができるのは世界だ。
それを裏付けるかのように、七海がこんな問いをしてみた。
『もし私がバスケを引退しても、世界は態度を変えたりしない?』
『他の人は知らないけど、私はいつも通りだよ。バスケはあくまで七海の一部であって全部じゃないからね。七海は七海だよ』
『その点では言と話が合うんだよね』
立場や内容は違うが、周りから色眼鏡で見られる点では同じ。
世界という共通の話題で、七海と言葉が盛り上がることが稀にある。
同じクラスになっていれば、もっと接点が増えて仲良くなれるだろう。