World Days(新版)   作:完結の陽炎

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第5話「お膳立ての準備」

 桂家にある言葉の部屋。

 お膳立てに頼んだ映画のチケットを受け取る。

 世界の付き添いに刹那がいて、出された無糖のアイスコーヒーをストローで飲んでいた。

 

「ありがとうことちゃん。これで乙女に伊藤をくっつける作戦が立てられるよ」

「有効期限がありますので、加藤さんにお渡しするのでしたら早めにした方がいいですよ」

「すぐに渡すつもりだけど、乙女が奥手だからね。可憐に協力してもらって上手くやらないと」

 

 可憐という単語に刹那が反応。

 チクチクと突き刺さる視線で無言の圧力がかかる。

 無視をすると後が怖いので、世界は対応をするしかない。

 

「刹那、今回の作戦では乙女を奮い立たせるために可憐は必要なの。いないまま乙女に渡しても、勇気が出なくてチケットを無駄にするのがオチだからね」

「……いつ渡すの?」

「今から可憐に電話して、可能なら明日にでも渡してしまうつもり」

「私も行く」

「うーん、私は別にいいけど、可憐はどうだろう?」

「何か問題ある?」

「と、とりあえず電話してみるね」

 

 有無を言わせまいとする刹那。

 それに圧倒されながらも電話をかけた。

 

 しかし耳元でコール音が鳴るばかりで出る様子がない。

 今は立て込んでいるのかもしれない。

 そして留守電サービスとなりメッセージを伝える。

 

「もしもし可憐、乙女と伊藤のデート作戦で協力してほしいから電話したの。詳細を話したいから、暇になった時にそっちから電話してくれない? という訳でよろしく」

 

 すぐに出れるように携帯をテーブルへ置く。

 ストローで砂糖とミルクを混ぜたアイスコーヒーを飲み一息ついた。

 そして可憐の応答を待ちながら言葉に話し掛ける。

 

「私、たまに思うけど、ことちゃんぐらい長くて綺麗な髪に憧れる時あるんだよね。それぐらい長いと色々アレンジができて楽しそうだし。光や乙女、可憐も長くて上手くまとめてるよね」

「世界、ロングは面倒だからってそこまで伸ばさない」

「七海みたいにカッコいい系なら、ショートでサッパリさせちゃうけどね。私にはちょっとハードル高いから。刹那はそれ以上伸ばさないの?」

「私も世界と同じぐらいで丁度いい」

 

 刹那が自分の髪を触って適度な長さをアピール。

 どれどれと世界が触り心地を確認してしまう。

 女の子に嗜みとして綺麗にお手入れがされていた。

 触覚のクセ毛がないだけでも羨ましい限りである。

 

「世界ちゃん、長い髪を体験できるウィッグなんてどうですか?」

「頭に付けるカツラのこと?」

「あ、はい。そうです」

「ことちゃんの苗字と同じでダジャレに使えちゃうね。笑えるかどうかは別として。ちなみに刹那もダジャレにできるよ。刹那の思いは切ない、なんてね」

 

 その場がシーンと静かになった。

 言葉は反応に困り、刹那は無表情である。

 

 その直後に可憐からの着信が入る。

 世界にとってはナイスタイミング。

 今の窮地を脱するために携帯を取った。

 

「いやーすみません世界さん。ちょっと離れてました」

「いいよ全然OK。早速だけど本題に入るね。明日の放課後いける?」

「大丈夫ですよ」

「場所はピュアバーガー前。報酬はそこのセットメニュー奢りで」

「わーい、ありがとうございます」

「私と刹那、乙女の可憐の4人で集まるからよろしくね」

「ありゃりゃ、刹那さんも来ちゃいますか?」

「何か問題ある?」

 

 刹那に言われた事を可憐でやり返す。

 近くで聞こえている言葉がクスリと笑う。

 真似をされたと思った刹那はそっぽを向く。

 

「い、いえ何か私、刹那さんに嫌われてるかと思いまして」

「気にしない気にしない。別に上映されているホラー映画のゾンビみたいに食べられる訳でもないし」

「ホラーですか? お姉の趣味にはイマイチ合わないような?」

「コメディのアクション映画もあるから、乙女ならそっちが合うんじゃない?」

「そうですね。派手な演出で盛り上がる展開があれば、お姉のテンション上がりますよ。しかし世界さん、お姉の好みをよくわかっていますね」

「フッフッフッ、この世界さんの情報網を甘く見ないように。あ、もし予定が合わなくなったら私に連絡して」

「わかりました」

 

 これで仲人役の仕事は一区切りとなる。

 

 世界は次に別の行動をとる。

 七海に激励メールを送り始めた。

 バスケの部活で頑張っているから。

 是非ともレギュラーメンバーに選ばれてほしい。

 そしてメールのやり取りが行なわれていく。

 

『世界は相変わらず調子いいね。アタシをダシにして、光の店でケーキ奢ってもらうつもり?』

『大丈夫!! 光にはバイトでちゃんとお返しするから!!』

『いつバイトするの?』

『当然、夏休みでしょ。七海は夏休みの合宿がんばってね。あ、お土産は定番のお菓子でOKだよ』

『ちゃっかりしてるね。そういうとこ世界らしいよ』

『観戦できる試合があれば日程よろしく。刹那・ことちゃん・光を連れて応援に行くから』

『応援はいいけど静かに見守りな。昔、無茶な応援をして倒れたことがあるでしょ?』

『あれは七海のチームが負けそうになったから。あの後、逆転勝利をして盛り上がったね』

『それで、世界は倒れちゃって、刹那に散々怒られまくったって聞いたよ』

 

 応援団のノリで、声を張り上げて振り付けをするのは禁止。

 静かに見守れと刹那から厳命を食らっている。

 よって、それ以降の世界は派手な応援をしていない。

 

『私は体の事があるけど、それ以前に上下関係が厳しい運動部は無理だね。生意気扱いされてイジメられるという嫌なイメージがあるから』

『そういう嫌な先輩もいるけど全員じゃないよ。そういう人に限って、実力がないから逆恨みするんだよね』

『七海はそういうのを黙らせる実力とカリスマがあるからスゴイよ。スポーツ推薦は伊達じゃないね』

『おだてても何も出ないよ』

 

 中学でも似たような経験は味わっている。

 そんな七海からすれば別に大した事ではない。

 実力があれば下級生であろうと関係ない。

 

 バスケもチームワークは大切だ。

 嫉妬に囚われて勝利に貢献できないほうが問題である。

 

『乙女はレギュラーに選ばれたりは無し?』

『素質はあるけど、加藤はプレッシャーに弱いからね。それがクリアできたら可能性はあるよ』

『妹の可憐からビビり屋なんて随分な言われようだよ。私はそういう所も含めての乙女だと思うけどね。完璧な人なんている訳ないんだし』

 

 七海が世界と仲良くなれる理由はある。

 それは完璧を求められないことだ。

 周りの期待でプレッシャーを感じない訳がない。

 応援という意味で世界もやっているが、ご褒美のケーキという下心が見え見えだ。

 むしろ開き直ってくれるほうが、七海としては清々しい気持ちになれる。

 

 世界の家庭が貧乏であることも知っている。

 だから七海はダシにされても気にならない。

 ご褒美のおこぼれを貰う世界の喜ぶ顔。

 それを見れば別にいいかと思えてしまう。

 

 七海はバスケが全てという訳ではない。

 好きな彼と付き合う恋する女の子という一面もある。

 惚気話ができる相手は少なく世界と言葉ぐらいだ。

 一応、光や刹那も聞いてはくれるが、贅沢な悩みだとあしらわれる。

 

 要するに七海にとって、ありのままで友達付き合いができるのは世界だ。

 それを裏付けるかのように、七海がこんな問いをしてみた。

 

『もし私がバスケを引退しても、世界は態度を変えたりしない?』

『他の人は知らないけど、私はいつも通りだよ。バスケはあくまで七海の一部であって全部じゃないからね。七海は七海だよ』

『その点では言と話が合うんだよね』

 

 立場や内容は違うが、周りから色眼鏡で見られる点では同じ。

 世界という共通の話題で、七海と言葉が盛り上がることが稀にある。

 同じクラスになっていれば、もっと接点が増えて仲良くなれるだろう。

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