World Days(新版)   作:完結の陽炎

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第6話「乙女のための前祝い」

 翌日の放課後。

 ピュアバーガーの前で可憐が待っていた。

 中学のセーラー服でお馴染みのツインテール。

 姉と似て明るい活発さが感じられる。

 

 世界・刹那・乙女・可憐で店内へ入ってセットメニューを注文。

 それを受け取って空いている席へ移動。

 座った世界はおもむろに校外用の帽子を外す。

 頑固なアホ毛が強調をする摩訶不思議。

 本人が気にしているので、乙女と可憐はあえて触れない。

 

「世界さんいただきます」

「なんか悪いわね。私まで奢ってもらって」

「気にしない気にしない。ちょっとした前祝いだよ」

 

 母親譲りの見栄を発揮させる。

 使うべき所で使わずいつ使うのか?

 今この時である。

 たとえ少ない小遣いでも、豚の貯金箱で地道に貯めれば満杯にできる。

 いざという時には正月のお年玉という奥の手もある。

 

「……」

 

 刹那の目はどことなく生温かい。

 友達を大切にする世界の行動力が好ましい。

  

「それじゃあ、乙女の片想いが実ることを祈って、かんぱーい」

 

 世界のノリに合わせて刹那が乾杯に応じる。

 乙女と可憐も、紙コップのジュースをコツンと当ててくれた。

 一口飲んで喉を潤し、本題の映画チケットを提示する。

 

 乙女はデートを意識して恥じらう。

 相変わらずの奥手である。

 

 嫌なら可憐に渡す。

 そんな煽りもあってチケットを受け取ってくれる。

 ふと世界は一つの疑問点が浮かんで口にした。

 

「ねえ可憐、伊藤が乙女の彼氏になっても平気なの?」

「全然OKですよ。だってそうなれば、センパイが私の義兄になるじゃないですか」

「な、何言ってるの可憐!!」

「なるほどね。可憐は伊藤が彼氏でも義兄でも、どっちでもいいんだね。なんと抜け目がない」

「世界さん、そこは要領がいいと言ってください」

 

 世界がジュースを一口飲んで間を置く。

 それにつられて可憐も同じ動きをした。

 

「さて、ここで伊藤情報。妹のいたるちゃんはラディッシュのパフェがお気に入り。でもあの店の客層ってガラが悪いからね。伊藤にはテイクアウトでお勧めした。あと光のケーキ屋も勧めておいたよ」

「あれ? センパイって黒田さんと仲が悪いですよね?」

「一方的に光が嫌ってるんだけどね。でもそこは大丈夫。いくら光でも、いたるちゃんが一緒なら伊藤を邪険にしないから」

「世界さんってば賢い。もし世界さんが男だったら、私が真っ先に狙ってましたよ」

「私は女だから他を当たってね」

 

 世界はチラッと刹那を見る。

 いつもの固い表情でポテトをつまんで食べている。

 

 刹那と目が合った。

 

 ポテトをひとつまみして差し出してくる。

 世界は何の迷いもなくパクッと口にした。

 

「うわあ、今ものすごく自然なあーんを見ましたよ。お姉もセンパイにあんな感じでやれば」

「する訳ないでしょ馬鹿」

「別に難しくないよ。親鳥が雛鳥にあげるイメージでやればいいし。こんな感じで」

 

 世界はそう言ってからポテトをひとつまみ。

 刹那の口元へ近付けてみる。

 絶妙なタイミングで口が開きスルッとポテトが消えた。

 これぐらいの事は二人にとって造作もない。

 

「乙女と可憐だって、やろうと思えばできるでしょ姉妹だし」

「いやいや、いくら姉妹でもあーんは恥ずかしいです」

「そもそも私たち、食べさせる事なんてしないから」

「へえー、そういうものなんだ。刹那、これも人それぞれって事になるのかな?」

「うん。自分がこうでも、他がそうなるとは限らない」

 

 教育をするかのような刹那の返答。

 素直に人の話を聞く世界の状態をよくわかっている。

 普段から勉強嫌いで、頭の悪い印象を周りに持たれやすい。

 だが実際はそこまで落ちぶれていない。

 刹那や言葉には及ばないと言っても、それは比べる相手が悪いだけだ。

 

「ところで世界さん、お姉にとってはデートでも、センパイにとっては友達と遊びに行くノリになって、そこから先の進展はないですよね?」

「確かに。この程度で進展ができたら、とっくの昔に付き合ってるよね」

 

 伊藤の男友達に澤永がいることは把握済み。

 そこでダブルデートをさせて当てつける作戦がある。

 一の矢で仕留められないなら二の矢を放てばいい。

 

「あ、次も考えてあるんですね。でも黒田さんは物好きですよ。もしかして前衛芸術が好みなんですか?」

「さ、さあどうだろう? 澤永って悪いヤツじゃないけど、女子がホイホイとついていくタイプじゃないよね」

「澤永はエロくてモテないだけ」

「言い方に身も蓋もないよ刹那」

「事実だから」

 

 楽しそうな世界に仏頂面の刹那。

 正反対の二人に可憐は不思議そうに見比べる。

 性格が合わないはずなのに仲が良いから。

 

「乙女とことちゃんって、どっちも姉という共通点があるよね。その辺りで話が合ったりしない?」

「といっても、うちは一つしか違わないから。桂みたいな歳の差がある姉妹とは違うよ」

「へえー、そういうものなんだ」

 

 歳の違いで姉妹の形も変わるようだ。

 一つしか違わない可憐は、後輩的な喋り方を抜けば同い年でも通用するだろう。

 別に可憐が敬語を使っても使わなくても世界は気にしない。

 どんな喋り方であろうと可憐に違いはない。

 それだけで可憐の全てを判断しない。

 もっとも可憐が年上相手にタメ口をすることは今もない。

 

「あ、乙女と可憐って、髪型を同じにすると見分けがつかないんじゃない?」

「そうなんですよ。私たち姉妹って年が近くてかなり似てますから、髪型を同じにするとよく間違われるんです」

「なんか実際に間違われた過去がありそうだね」

「ありましたよ。あの時は大変だったねお姉?」

「まあね。だから髪型は同じにしないようにしてあるんだ」

「それで乙女はポニーテール、可憐はツインテールで区別してるんだね」

 

 世界は羨ましく思う。

 言葉と乙女は姉として堂々と振る舞える。

 世間からも姉として認められている。

 それなのに。

 

 なぜ自分だけが違う?

 

 そんな妬ましさを胸の内に秘める。

 

 刹那がテーブルの死角から世界の袖をこっそりと掴む。

 

 私はここにいる。

 

 そうアピールするようにグイグイと軽く引っ張る。

 そんなことをすれば世界は当然気付く。

 刹那が心配をしているのでアイコンタクトを送る。

 

 大丈夫だよ。

 

 そう安心させるための笑顔を見せた。

 

 用事が終わって現地の解散。

 世界と刹那は一緒に帰り道を歩く。

 道幅が広い所ではお互いに隣り合わせをする。

 利き腕を預けるように世界は刹那の左に立っている。

 刹那の機嫌がいい。

 些細なことでも世界を守る刹那にとっては大事なことだ。

 

「可憐は嫌われていると思って刹那に話し掛けない。でも刹那は可憐を別に嫌っていない。ダメな所をダメと言うだけで全否定はしてない、と私はそう分析してみた」

「それで?」

「刹那が可憐の良い所を褒めれば、刹那に嫌われていないとわかってくれるよ」

「ふーん」

 

 世界を守るために可憐と馴れ馴れしくするつもりはない。

 刹那の反応がそれを語っている。

 無関心でないだけマシだ。

 

 言葉と光みたいに相性が悪いのだろう。

 世界はそう思うことにして深入りはしない。

 

「利用されている事についてはお互い様だね。ことちゃんがクラスで孤立しないために乙女は欠かせないから」

「世界、得がない人とは仲良くしないの?」

「悪い人でなければ誰でもウェルカム」

「損する人になったら捨てるの?」

「助ける」

「うん。世界はそれでいい」

 

 即答をする世界に刹那は嬉しそうだ。

 今で変わる所もあれば昔から変わらない所もある。

 そんな世界だから傍で支えたくなるのだろう。

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