World Days(新版) 作:完結の陽炎
翌日の放課後。
ピュアバーガーの前で可憐が待っていた。
中学のセーラー服でお馴染みのツインテール。
姉と似て明るい活発さが感じられる。
世界・刹那・乙女・可憐で店内へ入ってセットメニューを注文。
それを受け取って空いている席へ移動。
座った世界はおもむろに校外用の帽子を外す。
頑固なアホ毛が強調をする摩訶不思議。
本人が気にしているので、乙女と可憐はあえて触れない。
「世界さんいただきます」
「なんか悪いわね。私まで奢ってもらって」
「気にしない気にしない。ちょっとした前祝いだよ」
母親譲りの見栄を発揮させる。
使うべき所で使わずいつ使うのか?
今この時である。
たとえ少ない小遣いでも、豚の貯金箱で地道に貯めれば満杯にできる。
いざという時には正月のお年玉という奥の手もある。
「……」
刹那の目はどことなく生温かい。
友達を大切にする世界の行動力が好ましい。
「それじゃあ、乙女の片想いが実ることを祈って、かんぱーい」
世界のノリに合わせて刹那が乾杯に応じる。
乙女と可憐も、紙コップのジュースをコツンと当ててくれた。
一口飲んで喉を潤し、本題の映画チケットを提示する。
乙女はデートを意識して恥じらう。
相変わらずの奥手である。
嫌なら可憐に渡す。
そんな煽りもあってチケットを受け取ってくれる。
ふと世界は一つの疑問点が浮かんで口にした。
「ねえ可憐、伊藤が乙女の彼氏になっても平気なの?」
「全然OKですよ。だってそうなれば、センパイが私の義兄になるじゃないですか」
「な、何言ってるの可憐!!」
「なるほどね。可憐は伊藤が彼氏でも義兄でも、どっちでもいいんだね。なんと抜け目がない」
「世界さん、そこは要領がいいと言ってください」
世界がジュースを一口飲んで間を置く。
それにつられて可憐も同じ動きをした。
「さて、ここで伊藤情報。妹のいたるちゃんはラディッシュのパフェがお気に入り。でもあの店の客層ってガラが悪いからね。伊藤にはテイクアウトでお勧めした。あと光のケーキ屋も勧めておいたよ」
「あれ? センパイって黒田さんと仲が悪いですよね?」
「一方的に光が嫌ってるんだけどね。でもそこは大丈夫。いくら光でも、いたるちゃんが一緒なら伊藤を邪険にしないから」
「世界さんってば賢い。もし世界さんが男だったら、私が真っ先に狙ってましたよ」
「私は女だから他を当たってね」
世界はチラッと刹那を見る。
いつもの固い表情でポテトをつまんで食べている。
刹那と目が合った。
ポテトをひとつまみして差し出してくる。
世界は何の迷いもなくパクッと口にした。
「うわあ、今ものすごく自然なあーんを見ましたよ。お姉もセンパイにあんな感じでやれば」
「する訳ないでしょ馬鹿」
「別に難しくないよ。親鳥が雛鳥にあげるイメージでやればいいし。こんな感じで」
世界はそう言ってからポテトをひとつまみ。
刹那の口元へ近付けてみる。
絶妙なタイミングで口が開きスルッとポテトが消えた。
これぐらいの事は二人にとって造作もない。
「乙女と可憐だって、やろうと思えばできるでしょ姉妹だし」
「いやいや、いくら姉妹でもあーんは恥ずかしいです」
「そもそも私たち、食べさせる事なんてしないから」
「へえー、そういうものなんだ。刹那、これも人それぞれって事になるのかな?」
「うん。自分がこうでも、他がそうなるとは限らない」
教育をするかのような刹那の返答。
素直に人の話を聞く世界の状態をよくわかっている。
普段から勉強嫌いで、頭の悪い印象を周りに持たれやすい。
だが実際はそこまで落ちぶれていない。
刹那や言葉には及ばないと言っても、それは比べる相手が悪いだけだ。
「ところで世界さん、お姉にとってはデートでも、センパイにとっては友達と遊びに行くノリになって、そこから先の進展はないですよね?」
「確かに。この程度で進展ができたら、とっくの昔に付き合ってるよね」
伊藤の男友達に澤永がいることは把握済み。
そこでダブルデートをさせて当てつける作戦がある。
一の矢で仕留められないなら二の矢を放てばいい。
「あ、次も考えてあるんですね。でも黒田さんは物好きですよ。もしかして前衛芸術が好みなんですか?」
「さ、さあどうだろう? 澤永って悪いヤツじゃないけど、女子がホイホイとついていくタイプじゃないよね」
「澤永はエロくてモテないだけ」
「言い方に身も蓋もないよ刹那」
「事実だから」
楽しそうな世界に仏頂面の刹那。
正反対の二人に可憐は不思議そうに見比べる。
性格が合わないはずなのに仲が良いから。
「乙女とことちゃんって、どっちも姉という共通点があるよね。その辺りで話が合ったりしない?」
「といっても、うちは一つしか違わないから。桂みたいな歳の差がある姉妹とは違うよ」
「へえー、そういうものなんだ」
歳の違いで姉妹の形も変わるようだ。
一つしか違わない可憐は、後輩的な喋り方を抜けば同い年でも通用するだろう。
別に可憐が敬語を使っても使わなくても世界は気にしない。
どんな喋り方であろうと可憐に違いはない。
それだけで可憐の全てを判断しない。
もっとも可憐が年上相手にタメ口をすることは今もない。
「あ、乙女と可憐って、髪型を同じにすると見分けがつかないんじゃない?」
「そうなんですよ。私たち姉妹って年が近くてかなり似てますから、髪型を同じにするとよく間違われるんです」
「なんか実際に間違われた過去がありそうだね」
「ありましたよ。あの時は大変だったねお姉?」
「まあね。だから髪型は同じにしないようにしてあるんだ」
「それで乙女はポニーテール、可憐はツインテールで区別してるんだね」
世界は羨ましく思う。
言葉と乙女は姉として堂々と振る舞える。
世間からも姉として認められている。
それなのに。
なぜ自分だけが違う?
そんな妬ましさを胸の内に秘める。
刹那がテーブルの死角から世界の袖をこっそりと掴む。
私はここにいる。
そうアピールするようにグイグイと軽く引っ張る。
そんなことをすれば世界は当然気付く。
刹那が心配をしているのでアイコンタクトを送る。
大丈夫だよ。
そう安心させるための笑顔を見せた。
用事が終わって現地の解散。
世界と刹那は一緒に帰り道を歩く。
道幅が広い所ではお互いに隣り合わせをする。
利き腕を預けるように世界は刹那の左に立っている。
刹那の機嫌がいい。
些細なことでも世界を守る刹那にとっては大事なことだ。
「可憐は嫌われていると思って刹那に話し掛けない。でも刹那は可憐を別に嫌っていない。ダメな所をダメと言うだけで全否定はしてない、と私はそう分析してみた」
「それで?」
「刹那が可憐の良い所を褒めれば、刹那に嫌われていないとわかってくれるよ」
「ふーん」
世界を守るために可憐と馴れ馴れしくするつもりはない。
刹那の反応がそれを語っている。
無関心でないだけマシだ。
言葉と光みたいに相性が悪いのだろう。
世界はそう思うことにして深入りはしない。
「利用されている事についてはお互い様だね。ことちゃんがクラスで孤立しないために乙女は欠かせないから」
「世界、得がない人とは仲良くしないの?」
「悪い人でなければ誰でもウェルカム」
「損する人になったら捨てるの?」
「助ける」
「うん。世界はそれでいい」
即答をする世界に刹那は嬉しそうだ。
今で変わる所もあれば昔から変わらない所もある。
そんな世界だから傍で支えたくなるのだろう。