World Days(新版)   作:完結の陽炎

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第8話「世界が立ち上げた天文部」

 榊野学園に登校をして教室へ入った。

 隣の席である伊藤におはようの挨拶をする。

 伊藤からも挨拶が返り、さらに妹の止についての感謝も追加。

 まだ時間があるので、暇つぶしも兼ねて話し掛ける。

 

「いたるちゃん、乙女のことを加藤って呼んでたけど、それだと可憐と被るよ。下の名前で呼ばせたほうが、後で混乱しないと思うけど?」

「言われてみるとそうだな」

「ちなみに伊藤はどうやって区別して呼んでるの?」

「加藤と可憐だけど?」

 

 それを聞いた世界は呆れのため息。

 ハッキリと言わない乙女にも問題はあるだろう。

 ここで世界のお節介が始まる。

 

「あーあ、乙女が可哀想」

「か、かわいそう?」

 

 伊藤は鈍感な男子である。

 全く女の子の気持ちをわかっていない。

 

 言わせないで察してよ。

 

 そんな乙女の女心が世界には透けて見える。

 同じ女として理解も共感もある。

 だが男子である伊藤には口に出さないとわからない。

 

「あのね、乙女の気持ちを考えなよ。なんで妹は可憐なのに、私は加藤なのってなるじゃない」

「いや、だって可憐は一つ下で加藤の妹だし」

「だったら平等に、加藤のことは乙女って呼んであげなよ。そういう差別って、兄弟姉妹では関係を悪化させるから良くないって聞くよ」

 

 実際、この件で乙女と可憐が喧嘩をした過去がある。

 姉に八つ当たりをされた妹という構図だ。

 親の介入もあり、ずっと争っても後々の支障が出るので仲直りはしている。

 

「そ、そうなのか?」

「裏付けがほしいなら、私から乙女に確認してあげるけど?」

「い、いいよ別に。西園寺の言ったこと疑ってないから」

「疑ってくれていいよ。むしろ用心するぐらいが丁度いい。刹那みたいに刹那みたいに」

「なんで二回言ったんだ?」

「大事なことは二回言うのがお約束らしいよ」

「そんな約束聞いた事ないぞ」

「とにかく可憐と同じように乙女って呼んであげなよ」

「わ、わかった」

 

 確かにそうだと納得をしたのだろう。

 妹の可憐が呼べるなら姉の乙女も普通に呼べるはずだ。

 これにより伊藤は乙女と呼ぶことになる。

 感激をした乙女はその流れを無駄にしない。

 以降は伊藤の下の名前である誠と呼ぶようにした。

 そうなるようにしてくれた世界に感謝しかない。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 世界はとある決意をした。

 実現をするためには刹那の協力が不可欠。

 

 教室内の休み時間。

 刹那が座ってる席へ向かう。

 

 周りが生徒の私語でうるさい。

 これでは距離があると会話が聞き取りにくい。

 普段から大きな声を出さない刹那。

 余計に近づく必要がある。

 わざとドアップで迫ってみた。

 それでも平然としたままで応じてくれる。

 

「世界、私に何か用?」

「榊野学園にある秘密の場所を手に入れたい」

「まったく話が見えない。唐突に何?」

 

 ありのままにやりたいことを伝える。

 気持ちがリフレッシュできる特別な場所を得たい。

 そのために学園の屋上をターゲットにしている。

 広々とした青空やフェンス越しの絶景。

 誰もいない特別な場所で息抜きという贅沢を味わいたい。

 

「屋上は立ち入り禁止」

「わかってる。そこで廃部になった天文部を私が復活させるの。そうすれば屋上の使用許可が出るじゃない」

 

 世界の目的はあくまでも屋上である。

 天文部はそのための手段に過ぎない。

 だから天文そのものに興味は特にない。

 星を見るイメージぐらいしかない素人以下である。

 

「それで、私に何をさせたいの?」

「メンバー集めないと正式な部として認められない。だから入って」

「私一人だけ入っても意味がない」

「刹那、ことちゃん、七海、光、乙女が入ってくれたら万事OK」

「私やことぴーはともかく、七海と乙女は女子バスケ部、光はバイト」

「名義だけ貸してくれたらいいの。幽霊部員なら掛け持ちしても何の問題もないでしょ」

「それで天文部が成り立つの? あとで後悔しない?」

 

 刹那は失敗をすると思っている。

 世界がまともに活動するとは思えない。

 だが止めても無駄であることもわかっている。

 

「なるなる。とにかく秘密の屋上を手に入れたいから、私に協力して刹那」

「別にいいけど。あとでどうなっても、世界がちゃんと責任取らないとダメだよ」

 

 名義を貸すだけで他に迷惑をかけない。

 それならと他のメンバーも入部をする。

 顧問の先生を確保して天文部の部長となった世界。

 こうして屋上へ出入り可能となった。

 

 ある日の放課後。

 顧問の先生からの職員室へ呼び出された世界。

 委員の活動がない刹那と言葉は屋上で待っている。

 そのままフェンス越しの景色を二人で眺めていた。

 

「ことぴー、このあとで世界は私たちに泣きついて来る」

「え?」

「天文部、何もしていない。だから世界は顧問の先生に呼び出された」

「世界ちゃん、何も活動していないのですか?」

「うん。世界はただ屋上を使いたいだけ。活動をする気が全くない」

「さすがにそれはどうかと……」

 

 その直後に屋上の扉が開く。

 血相を変えた世界が二人の前に駆け込んだ。

 刹那は予想通りだと落ち着いた様を見せる。

 

「ヤバいヤバい!! 緊急事態だよ!!」

「世界、何があったの?」

「天文部の危機!! 顧問の先生から真面目に活動しないと、屋上の使用許可を取り下げるって!!」

 

 刹那の言っていたことが的中する。

 それは凄いと素直に感心をする言葉。

 何も驚くことはない。

 刹那にとって容易にわかることだった。

 

「だから忠告をした。何も活動しないのはダメに決まってる」

「機材もないのにできる訳ないよ!! あくまで屋上使いたいだけだもん!!」

「諦めて廃部する」

「やだやだ!! せっかくの屋上手放したくない!!」

 

 ワガママな世界に呆れる刹那。

 別に今に始まったことではない。

 今後もこういった事は続くだろう。

 ひとまず機材については言葉が介入をしてくれる。

 

「世界ちゃん、私のお父さんに頼めば、機材が手に入るかもしれません」

「マジ? ことちゃんのお父さんって、ホント色々とスゴイんだね。お仕事は不動産だっけ?」

「はい。仕事の関係で色々な人たちとの交流があり、とっても顔が広いと聞いています」

「そっか。んーでも機材があってもね。天文なんて私サッパリわかんないし」

 

 仮に機材があっても使い方がわからない。

 上手く活かせる自信もない。

 ここで刹那からの確認が入る。

 

「世界、天文部の活動、先生から何か言われてない?」

「定期的に活動のレポートを出さないといけないみたい」

「それなら実際に活動をして、それでレポートを書くしかない」

「そんなの無理だよ無理!! 刹那やことちゃんみたいに難しいレポート書けるほど、私の頭は良くないもん!!」

「じゃあ諦める?」

 

 首を横に振ってのイヤイヤモード。

 ここで諦めるという選択肢は世界にない。

 二人に向かって拝み、ひたすらお願いをする。

 

「刹那、ことちゃん!! レポート書いて!!」

「却下。これは世界が始めたこと。私たちに甘えたら世界のためにならない」

「あ、あのせっちゃん。私たちも部員ですし、何かしらのお手伝いをしたほうが――」

「だよねだよね!! これは部長命令だよ!!」

「世界、名義だけって約束を破るの?」

「そ、それはその……や、約束は守らないとダメだよね、うん」

「世界は約束を守るって信じている。そんな世界を私は応援したい」

 

 約束を破っては刹那に嫌われる。

 そんな嘘つきになりたくない。

 世界にとってあってはならないことだ。

 刹那が寄せてくれる期待を裏切りたくもない。

 

「わかった。こうなったら覚悟を決めるよ私」

 

 真剣な顔で腹をくくる。

 嫌な予感がする刹那と言葉。 

 それを確信させることを世界は口にした。

 

「ことちゃん、私に何かあったら刹那をお願い」

「待ってください世界ちゃん。一体なにをするつもりですか?」

「私、天文部のこと何にも知らないから。毎日徹夜で勉強する」

「早まってはいけません。そんな無茶をして世界ちゃんが倒れたら本末転倒です」

「でも私、二人と違って物覚え悪いから。たくさん時間かけないと」

「世界それはダメ。あとことぴーに私を押し付けない」

 

 誰もそこまでしろとは言っていない。

 世界の暴走を止めなければならない。

 調子に乗らせるのはいけないが、無理をさせてもいけない。

 その匙加減が難しいのである。

 

「せっちゃん、私たちも手伝いましょう。世界ちゃんだけでさせるのはあまりにも酷です」

「私が副部長をする。世界を見張るためにも必要」

「私は機材提供も含めてサポートします。一緒に天文部を支えましょう」

 

 刹那と言葉が結束を固める。

 世界を支えることで気持ちが一つになった。

 

「それって私は徹夜で勉強しなくていいってこと?」

「世界、徹夜は禁止。ちゃんと寝て休む」

「世界ちゃん、時間は長ければいいという訳ではありません。効率よく使いこなすことが肝心です。私はそうして多くの習い事をこなしてきたのですから任せてください」

「名義だけ貸して幽霊部員という約束は?」

「私たちに頼んできたくせに、今更なにを言ってるの?」

「約束を守ることは大切ですが、それが世界ちゃんの健康に損なうことなら無効です。先ほども話した通り、本末転倒となってしまいますから」

 

 優れた頭脳コンビが相手では世界も形無し。

 瞬く間に説き伏せられてしまう。

 

 それでも天文部の未経験者であることに変わりはない。

 どこから手をつけて考えるべきなのか?

 

 世界は思いつく。

 他校の天文部から学べばいいのではないかと。

 見学による交流をすれば少しはマシになるだろう。

 要はバイトの下見をするようなものだ。

 この方針に刹那と言葉が賛同をする。

 

「ことぴー、あとで顧問の先生に相談。私は他校の天文部を調べる」

「わかりました」

「刹那、私は?」

「世界はアイデア担当」

「アイデアって?」

「やりたい事、こうしたらいい事。そういった目標や改善など思いつきでいい。それらを出して私に相談すること」

 

 世界が概要を考えて、刹那と言葉で詳細を煮詰める。

 テキパキと刹那が仕切ってくれるので時間を無駄にしない。

 スケジュールの管理は言葉が得意ということで任せる。

 こうして役割を分担して、天文部の下準備となった。

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