World Days(新版)   作:完結の陽炎

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第9話「クラス委員を決める」

 榊野学園のクラス委員を決めなければならない。

 面倒事を避けて誰も立候補をしない。

 静まり返って時間だけが過ぎていく。

 

 やむを得ないと先生の主導でくじ引きとなった。

 その結果。

 1年3組の委員長に選ばれたのは……清浦刹那。

 

 田中という男子生徒が反応をする。

 相方の副委員長として名乗り出たい。

 だが奥手ゆえにまともに挙手ができない。

 

 世界は情報網を張り巡らせている。

 刹那を守るため、それに関わりそうなことに抜かりはない。

 だから刹那に片想いをしている田中のことも筒抜けだ。

 刹那を遠くからチラ見をして、焦れったい事この上ない。

 そこで苛立ちを覚えた世界のお節介モードが発動をする。

 

「先生、副委員長で推薦したい人がいるんですけどいいですか?」

「とりあえず言ってみなさい」

「田中がいいと思います。体が大きく高い所に手が届きますし、力仕事でも頼りになると思います」

 

 刹那が小さいから背が高くパワーのある男手が必要だ。

 純情で真面目な人柄という悪くない印象。

 実際は接してみないと分からないので、きっかけを与えて様子を見たい。

 

 刹那が露骨に睨みつけている。

 

 一体どういうつもり?

 

 刹那の目がそのように文句をぶつけていた。

 

 田中としては戸惑いながらもどこか嬉しそうである。

 

 この推薦は効果的であった。

 やりたがらない生徒たちにとって、まさに渡りに船。

 誰も反対をしないので副委員長は田中に決まった。

 

 次の休み時間。

 教室を出て行く世界に後ろからついて来る刹那。

 人目のつかない階段の踊り場へ到着して両者が向き合う。

 

 刹那の不機嫌そうな表情。

 世界のニコニコとした楽しそうな笑顔。

 

 先に口火を切ったのは刹那だ。

 

「世界、どういうつもり?」

「一体なんの話?」

「とぼけないで。世界はどうして田中を推薦したの?」

「戦力になると見込んでいるのは本当だよ。それだけでは納得できない?」

「できない。世界は他の理由もあって、田中を推薦している」

 

 大正解である。

 それぐらいは刹那なら容易に見抜く。

 世界も始めから欺けるとは思っていない。 

 

「私が調べる限り悪い人じゃないよ」

「……怪しい」

「なにが?」

「田中、たびたびこっち見てる」

「それは刹那がかわいいからよ」

「またそうやってからかう。世界の悪いクセだよ」

「からかってないってば。まさかとは思うけど、刹那って意外と鈍い? 少しは田中のこと察してあげなよ」

「鈍くない。言いたい事があるならハッキリ言えばいい」

「それは同感」

 

 想うだけでは相手に伝わらない。

 刹那から察して行動しなければいけない義理もない。

 世界が仕向けてやれるのはここまで。

 委員の立場を活かすも放置するも田中の自由だ。

 もっとも現時点での刹那にその気はないらしい。

 仮に田中が告白をしても望みは薄いが是非もない。

 

「伊藤は乙女、澤永は光のことがあるから、副委員長を押し付ける訳にはいかないでしょ? そういったことも考えた上で田中を選んだの」

「疑問は解消」

「でも刹那、面白くないって顔をしてるよ」

「してない」

「そう? 田中を推薦した私に対して怒ってない?」

「怒ってない」

「田中では不満だった? 奥手というか口下手というか、副委員として相応しくないとか?」

「別に。誰が副委員でも関係ない。私は私の役目を果たすだけ」

 

 一言相談をしてほしかったのかもしれない。

 しかしあの状況でそんなことをするのは不可能。

 それがわかっているので刹那は何も言わなかった。

 

 クラスが別になっても合同授業はある。

 体育のグラウンドで見学をする世界と言葉。

 どちらも激しい運動ができない日となっている。

 

 話題はクラスの委員について。

 4組では乙女が委員長で、言葉が副委員長になったと聞く。

 よって世界もお返しで報告をする。

 

「こっちの3組は刹那が委員長になったよ。副委員は田中って大柄な男子で、見たらすぐわかると思うよ」

「せっちゃんから聞きました。世界ちゃんに押し付けられたって」

「もう人聞きが悪い。推薦でクラスの総意だもん」

「世界ちゃんが推薦をした人ならきっと大丈夫です」

「ことちゃんが苦手な男子なのに?」

「はい」

「そう言われると悪い気しないね。同じ委員として顔合わせした時はよろしく」

 

 ふと世界は寂しそうな顔をした。

 それが気になって言葉は尋ねようとするも一旦口を閉ざす。

 少し考えて推察を組み立てる。

 そして間を置いてから答え合わせをしてみた。

 

「世界ちゃん、本当はせっちゃんと同じ委員になりたかったのですね。でも体のことを考え、せっちゃんのためにあえてならなかった」

 

 図星を突かれた世界は悔しさを滲ませる。

 誰よりも刹那の力になりたい。

 それなのに体がついていかない。

 根性論では体調の悪化を招いて逆効果になる。

 

「ことちゃんって虚弱体質だって聞くけど、それって体が弱いってことだよね? なんで私と同じなのにこんなにも違うんだろうね。個人差があるって言われたらそれまでだけど」

「世界ちゃんの中の悪魔さんが出ていますか?」

「ことちゃんが羨ましい。そんな妬みの感情を悪魔だと言うならその通りだね。今ひょっこり出てる自覚はあるよ」

「正直に言える世界ちゃんは偉いと思います。それは誰にでも出来ることではありません」

「ちゃんと相手を選んでいるつもり。ことちゃんだから言えちゃうの」

「せっちゃんが聞いたら拗ねちゃいますね」

「小さい頃から苦労かけてるからね。本人はもう慣れたと言ってるけど」

 

 過去の失敗を繰り返さないように気を付けている。

 ちょっと我慢をすればいいとするのは禁止だ。

 それで言葉の皆勤賞を潰してしまった。

 あの時はごめんなさいと素直に謝るしかない。

 

「皆勤賞なんかよりも世界ちゃんが大事です」

「まあ逆の立場なら、私も同じことをしていたね」

「それなら皆勤賞のことは気にしないでください」

「わかった。それはそれとして改めて思ったことがあるんだよね」

「なんでしょう?」

 

 本人に自覚はないのだろう。

 世界はサラリと本音を曝け出す。

 

「ことちゃんの笑顔が美しいってこと」

「えっ!?」

「作り笑いじゃない本物の笑顔は綺麗だなって」

「か、からかわないでください」

「普段から表情が固い刹那からすれば憧れの的だからね。私もその気持ちがすごくわかるもん。ま、私は刹那ほど表情ガチガチじゃないからまだマシだけどね」

 

 今も会話をしている言葉の笑顔が美しい。

 自分の顔は自分で見れない。

 無意識だからこそ自然であり嘘が混ざらない。

 

「私にも羨ましいと思うことはあります」

「へえー、何でも手に入りそうなことちゃんにも、そういう経験があるんだね」

 

 少し嫌味だったかもしれない。

 貧乏であるが故に格差の妬みは否定できない。

 でも言葉は特に気にしていないようだ。

 

「さすがに何でもはありません」

「それはそう。でもことちゃんの中にある悪魔ちゃんは誰に向けてるの?」

「そんな悪魔だなんて……でもそうかもしれません……お相手は世界ちゃんです」

「そこは刹那じゃないの?」

「少しだけありますが、世界ちゃんのほうが羨ましいです」

「ことちゃん、相手間違えてるよ。何もかも劣る私に嫉妬することなんてないじゃん」

 

 世界の家庭は貧乏で父親がいない。

 学校の成績も居合の腕前も言葉が優れている。

 女としての魅力も言葉に比べたら月とスッポンだ。

 あらゆる意味でまともな勝負にならない。

 しかし言葉は世界に敵わないと思う所がある。

 それは……。

 

「人望です」

「人望?」

「世界ちゃんを中心に集まる人望の厚さは、私にはできないことです」

 

 世界がいなかったら言葉は誰とも仲良くできていない。

 そう断言をするほどに人と人を繋げるのが上手い。

 言葉の交友関係を広げてくれたのは世界のおかげだ。

 

「クラス委員長として仕切る刹那のほうが人望は……あ、でも刹那って表情が固いし、話し方もちょっとお堅いし、強気で迫ることもあるし……ヤバいかも。でも田中がいれば何とか……なるよねきっと多分」

「お、落ち着いてください世界ちゃん」

「お願いことちゃん。同じ委員ということで、刹那がヤバそうなら助けてあげて。田中だけだと正直安心できない」

「わかりました……そういう所です」

「え? いま何か言った?」

「いいえ、何でもありません」

 

 世界の頼みとあれば断れない。

 言葉には刹那の気持ちがよくわかる。

 今までこうやって世界を支えてきたのだろう。

 そんな自分が嫌いではない。

 むしろ誇らしく思えてしまった。

 

 後日、言葉と刹那が二人だけで話す機会があった。

 委員繋がりでもあり、お互いに幼馴染で家を出入りすることもある。

 そのため、この出来事について言葉の口から刹那に聞かせたのだ。

 

 

「せっちゃんの前ではニコニコ愛想笑いしても、私が聞いた時には悔しそうにしてたんですよ」

「……悔しそう?」

「はい。本当はせっちゃんと同じ委員になりたかったのにって」

「ふーん……で?」

 

 刹那は素っ気なく返す。

 自分では見えないものが言葉から見える。

 そこに嫉妬がありながらも知りたい気持ちが勝っている。

 

「せっちゃんが自分を守るために二人分でもこなす。そのことは世界ちゃんもよくわかっているんです。だからこそ、お荷物になるまいと苦渋の決断をされたのでしょう」

「……」

「たとえ、それでせっちゃんに怒られても、笑って泥を被る覚悟が見てとれました」

「……」

「せっちゃんはそんな世界ちゃんがお嫌いになりましたか?」

「そんなわけない」

 

 キッとにらみつけるように静かな口調で断定する。

 心外極まりない問いに聞こえたのだろう。

 世界を嫌うことは、刹那にとって己の存在意義の否定となるから。

 

「きっとせっちゃんならやってくれる。世界ちゃんは誰よりも信じていますよ」

 

 言葉は穏やかな表情で刹那を見つめた。

 それで毒気を抜かれたかのだろう。

 刹那がそっと目を閉じて溜息をつく。

 

「ムカつくのはやめた」

「やめた後はどうしますか?」

「世界の信頼に応える。ただそれだけ」

「きっと喜びますよ。世界ちゃん」

「……ふんっ」

 

 そっぽを向く刹那の表情に怒りはない。

 言葉から見た世界の本音を受け入れた。

 言われるまでもなくやるという刹那の誇り。

 世界が推薦した田中と共に役目をこなすだけだ。

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