World Days(新版)   作:完結の陽炎

30 / 88
第10話「ながら交信の世界」

 時間が過ぎて教室の授業風景。

 世界と伊藤とのコミュニケーションはノートの筆談。

 長い机で繋がっているので密談がしやすい。

 

『ラディッシュのパフェ、どうだった?』

『おいしかったよ。止が喜んでた』

 

 止の好物は桃だと聞いている。

 それならばフルーツ盛り沢山のパフェは気に入るに違いない。

 実際に好評だったのでお勧めをした甲斐があった。

 

『テイクアウトでも店内はパッと見れたよね? 客のガラ悪くなかった?』

『一部、ウエイトレスをジロジロ見る変な客がいた』

『夏休みの時期が一番ヤバいから気を付けて』

『わかった』

 

 止を危ない目に遭わせないための警告。

 妹思いの伊藤なら用心をしてくれるだろう。

 

『あと一つ気になることがあった』

『気になること?』

『店内で接客をした店長がいてさ。名札に西園寺って書いてたんだ。もしかして西園寺のお姉さん?』

『ブブゥー外れ。正解は私のお母さんでーす』

 

 それは意外だったのか。

 授業中にも関わらず伊藤が声を上げた。

 

「マジで!?」

 

 当然、解説中の先生が目を光らせる。

 

「なにかね?」

「あ、いえ何でもありません」

 

 クラスメイトからの注目も集まる。

 伊藤は恥ずかしさで身を縮こませた。

 

 唯一として刹那だけは伊藤でなく、世界に目を向ける。

 その視線を察知して、世界がこっそりとメールを送った。

 

『ラディッシュ店長→私のお母さん→伊藤ビックリ』

 

 メールのタイトルには『伊藤とノート交信中』とした。

 送信をした時には、すでに授業が再開をしている。

 気を取り直した伊藤とのノート交流も続行だ。

 

 方や、刹那との携帯メール。

 方や、伊藤とのノート筆談。

 

 今の世界はとても楽しそうだ。

 二人まとめてかかって来いでハイテンションとなっている。

 ひとまず伊藤のノートをチェックした。

 

『世界のお母さんって若いな』

『中身が子どもだから多少はね』

 

 次に携帯を見る。

 刹那のメールタイトルには。

 

『真面目に授業受けなさい』

 

 実に簡潔明瞭な説教である。

 そして本文には。

 

『伊藤にラディッシュを勧めたの?』

 

 そんな問い合わせとなっていた。

 世界は手慣れた操作で返信を送る。

 

『パフェ美味しい→いたるちゃんニコニコ→私もニコニコ』

 

 刹那なら連想形式で充分に意味が通じる。

 早打ちを繰り出しての回答が可能だ。

 

 今度は世界からノートを書いて伊藤に見せる。

 その内容とは。

 

『私のお母さん、何か伊藤に失礼なことした?』

 

 これは訊いておかないといけない。

 もし問題を起こしたのなら、娘として謝罪をしたいから。

 だがそれは世界の考えすぎであった。

 

『何もしてないよ。ただ止がオレの後ろに隠れて、あの人嫌いって言ってさ』

 

 世界にとっては興味深いことだ。

 もう少し掘り下げる必要がある。

 

『怖いじゃなくて嫌いと言ったの?』

『ああ。なんかあの人嫌いだって、別に店長が何かした訳じゃないのにな』

 

 止は誰にでも人懐っこいが例外はある。

 

 一目で母の本性を見抜いたのか?

 

 そのことに世界は驚きと共に感心を抱く。

 

『私のお母さんを嫌ういたるちゃんの勘は間違ってないよ。いたるちゃんの気持ちを否定しないであげてね』

『わかった。でもあの止が嫌うなんて、よっぽど何かあるんだな』

『いたるちゃん、その嫌いな人の娘である私に対しては平気なの?』

『ああ、むしろ止は西園寺に会いたがっていたぞ』

 

 幼い止は感覚的に区別をつけている。

 親子であっても違う個性を持った別の人間として。

 それを止が証明をしてくれて世界は嬉しかった。

 

『天文部とかテスト勉強とか色々やる事あってね。ヒマになったらOK』

『それ、ほぼ無理って言ってないか?』

『代わってくれる?』

『断る』

 

 伊藤からして世界は気楽に相手ができるクラスメイト。

 中学時代の乙女と雰囲気が似ていると感じた。

 特に印象として強いのはお父さん嫌いという共通点。

 伊藤も離婚をした父親のことが嫌いである。

 しかし事情が事情だけに深入りはできない。

 

 区切りをつけて世界は携帯を触る。

 刹那から『世界は小さい子が好き?』という意味深なタイトル。

 そして本文に目を通してみた。

 

『止ちゃんと心ちゃん。小さい子とよく遊んで懐かれている。世界の好きなタイプなの?』

 

 遠回しにロリコンを疑われているのか?

 世界に幼女趣味はない。

 純粋に昔の自分を思い出して懐かしくなるだけだ。

 

 世界はメールの題名に『私は刹那が好き』とする。

 本文に補足をつけて送り付けてやった。

 

 刹那の席を見つめると反応があった。

 携帯を見て僅かにビクッとしたのを世界は見逃さない。

 そこから本文を見たのだろう。

 

『ことちゃん・光・七海・乙女・可憐も、私の大切な友達だから好きだよ』

 

 刹那がため息をついて目を合わせてきた。

 世界はピースサインでしてやったり顔を浮かべる。

 ただし先生に見つかるリスクがあるので程々で手を引っ込めた。 

 

 そろそろ終了のチャイムが近い。

 次でラストとなるだろう。

 伊藤に対して気になることを筆談で問う。

 

『参考までに質問。いたるちゃんはどうして私に会いたいの? 乙女や可憐も優しくていいと思うけど?』

『止は西園寺を一番気に入ってるから』

『いたるちゃんの一番はお兄ちゃんである伊藤でしょ?』

『それは別だ』

『他人の中で私が一番ってこと? なんで?』

 

 ここから少し間が開く。

 そんなにも書くことがあるらしい。

 そして……。

 

『止と同じ目線に合わせて話したこと。一緒に砂遊びをしてくれたこと。肩車をしてくれたこと。帽子をもらったこと。止の話を聞いてわかってくれたこと等』

『ちょっと多いよ!! しかも等ってまだあるの!?』

『正直ビックリしたよ。止があんなに西園寺の好きな所をたくさん話すなんて。今まで見たことないからな』

『乙女や可憐に対しても、それぐらい好きってことで話さないの?』

『さすがにないって。頭をナデナデしてくれて好きとか、遊んでくれたから好きとか、一つか二つぐらいだ』

『了解、参考になりました』

 

 伊藤が書いた等に含まれる重要な内容。

 世界の発言をきっかけに、止がなりたい将来の夢が画家になったこと。

 これは単純に好きだけでは済まない。

 人生に影響を与えた人として、止の記憶にずっと残るからだ。

 それが世界と他の人との大きな違い。

 兄を除いて一番好きという事に繋がっている。 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定