World Days(新版) 作:完結の陽炎
時間が過ぎて教室の授業風景。
世界と伊藤とのコミュニケーションはノートの筆談。
長い机で繋がっているので密談がしやすい。
『ラディッシュのパフェ、どうだった?』
『おいしかったよ。止が喜んでた』
止の好物は桃だと聞いている。
それならばフルーツ盛り沢山のパフェは気に入るに違いない。
実際に好評だったのでお勧めをした甲斐があった。
『テイクアウトでも店内はパッと見れたよね? 客のガラ悪くなかった?』
『一部、ウエイトレスをジロジロ見る変な客がいた』
『夏休みの時期が一番ヤバいから気を付けて』
『わかった』
止を危ない目に遭わせないための警告。
妹思いの伊藤なら用心をしてくれるだろう。
『あと一つ気になることがあった』
『気になること?』
『店内で接客をした店長がいてさ。名札に西園寺って書いてたんだ。もしかして西園寺のお姉さん?』
『ブブゥー外れ。正解は私のお母さんでーす』
それは意外だったのか。
授業中にも関わらず伊藤が声を上げた。
「マジで!?」
当然、解説中の先生が目を光らせる。
「なにかね?」
「あ、いえ何でもありません」
クラスメイトからの注目も集まる。
伊藤は恥ずかしさで身を縮こませた。
唯一として刹那だけは伊藤でなく、世界に目を向ける。
その視線を察知して、世界がこっそりとメールを送った。
『ラディッシュ店長→私のお母さん→伊藤ビックリ』
メールのタイトルには『伊藤とノート交信中』とした。
送信をした時には、すでに授業が再開をしている。
気を取り直した伊藤とのノート交流も続行だ。
方や、刹那との携帯メール。
方や、伊藤とのノート筆談。
今の世界はとても楽しそうだ。
二人まとめてかかって来いでハイテンションとなっている。
ひとまず伊藤のノートをチェックした。
『世界のお母さんって若いな』
『中身が子どもだから多少はね』
次に携帯を見る。
刹那のメールタイトルには。
『真面目に授業受けなさい』
実に簡潔明瞭な説教である。
そして本文には。
『伊藤にラディッシュを勧めたの?』
そんな問い合わせとなっていた。
世界は手慣れた操作で返信を送る。
『パフェ美味しい→いたるちゃんニコニコ→私もニコニコ』
刹那なら連想形式で充分に意味が通じる。
早打ちを繰り出しての回答が可能だ。
今度は世界からノートを書いて伊藤に見せる。
その内容とは。
『私のお母さん、何か伊藤に失礼なことした?』
これは訊いておかないといけない。
もし問題を起こしたのなら、娘として謝罪をしたいから。
だがそれは世界の考えすぎであった。
『何もしてないよ。ただ止がオレの後ろに隠れて、あの人嫌いって言ってさ』
世界にとっては興味深いことだ。
もう少し掘り下げる必要がある。
『怖いじゃなくて嫌いと言ったの?』
『ああ。なんかあの人嫌いだって、別に店長が何かした訳じゃないのにな』
止は誰にでも人懐っこいが例外はある。
一目で母の本性を見抜いたのか?
そのことに世界は驚きと共に感心を抱く。
『私のお母さんを嫌ういたるちゃんの勘は間違ってないよ。いたるちゃんの気持ちを否定しないであげてね』
『わかった。でもあの止が嫌うなんて、よっぽど何かあるんだな』
『いたるちゃん、その嫌いな人の娘である私に対しては平気なの?』
『ああ、むしろ止は西園寺に会いたがっていたぞ』
幼い止は感覚的に区別をつけている。
親子であっても違う個性を持った別の人間として。
それを止が証明をしてくれて世界は嬉しかった。
『天文部とかテスト勉強とか色々やる事あってね。ヒマになったらOK』
『それ、ほぼ無理って言ってないか?』
『代わってくれる?』
『断る』
伊藤からして世界は気楽に相手ができるクラスメイト。
中学時代の乙女と雰囲気が似ていると感じた。
特に印象として強いのはお父さん嫌いという共通点。
伊藤も離婚をした父親のことが嫌いである。
しかし事情が事情だけに深入りはできない。
区切りをつけて世界は携帯を触る。
刹那から『世界は小さい子が好き?』という意味深なタイトル。
そして本文に目を通してみた。
『止ちゃんと心ちゃん。小さい子とよく遊んで懐かれている。世界の好きなタイプなの?』
遠回しにロリコンを疑われているのか?
世界に幼女趣味はない。
純粋に昔の自分を思い出して懐かしくなるだけだ。
世界はメールの題名に『私は刹那が好き』とする。
本文に補足をつけて送り付けてやった。
刹那の席を見つめると反応があった。
携帯を見て僅かにビクッとしたのを世界は見逃さない。
そこから本文を見たのだろう。
『ことちゃん・光・七海・乙女・可憐も、私の大切な友達だから好きだよ』
刹那がため息をついて目を合わせてきた。
世界はピースサインでしてやったり顔を浮かべる。
ただし先生に見つかるリスクがあるので程々で手を引っ込めた。
そろそろ終了のチャイムが近い。
次でラストとなるだろう。
伊藤に対して気になることを筆談で問う。
『参考までに質問。いたるちゃんはどうして私に会いたいの? 乙女や可憐も優しくていいと思うけど?』
『止は西園寺を一番気に入ってるから』
『いたるちゃんの一番はお兄ちゃんである伊藤でしょ?』
『それは別だ』
『他人の中で私が一番ってこと? なんで?』
ここから少し間が開く。
そんなにも書くことがあるらしい。
そして……。
『止と同じ目線に合わせて話したこと。一緒に砂遊びをしてくれたこと。肩車をしてくれたこと。帽子をもらったこと。止の話を聞いてわかってくれたこと等』
『ちょっと多いよ!! しかも等ってまだあるの!?』
『正直ビックリしたよ。止があんなに西園寺の好きな所をたくさん話すなんて。今まで見たことないからな』
『乙女や可憐に対しても、それぐらい好きってことで話さないの?』
『さすがにないって。頭をナデナデしてくれて好きとか、遊んでくれたから好きとか、一つか二つぐらいだ』
『了解、参考になりました』
伊藤が書いた等に含まれる重要な内容。
世界の発言をきっかけに、止がなりたい将来の夢が画家になったこと。
これは単純に好きだけでは済まない。
人生に影響を与えた人として、止の記憶にずっと残るからだ。
それが世界と他の人との大きな違い。
兄を除いて一番好きという事に繋がっている。