World Days(新版)   作:完結の陽炎

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第13話「伊藤止と友達になる世界」

 止が伊藤が住むマンションへお泊りに来る。

 これについて事前の打ち合わせを済ませていた。

 

 兄妹水入らずで家族の貴重な時間を邪魔したくない。

 止の気持ちを第一に優先してほしい。

 そこで止が世界に会いたいと言うまでは会わない。

 もし兄の伊藤に止がお願いをしてきたら、乙女または可憐に連絡をすること。

 そうすれば、どちらかが世界を連れて来るという手筈だ。

 止のためにここまで配慮をしてくれる事に、伊藤は素直に感動をしていた。

 

「おにーちゃ、おえかきいっぱいしたの」

「よし偉いな止。これだけの絵を上手に描けるなんて」

「でへへえらい」

 

 伊藤の部屋で止が仕上げたお絵かきを褒める。

 車・太陽・花など様々なクレヨンの絵がわかりやすい。

 曲線と直線のバランスが良くて上手かった。

 

 今は休日の午前中。

 何をして遊ぶのかを止に尋ねてみる。

 止は外に出て砂遊びがしたいとおねだりをした。

 

 前回と同じく海の砂浜へ連れて行ってみる。

 しばらく見守ると止が明後日の方向を見ることを繰り返す。

 まるで誰かが来るのを待っているかのように。

 

「どうした止?」

「おにーちゃ」

「ん?」

「こないの」

「誰が来ないんだ?」

「せきゃい」

「止は会いたいのか?」

「うん」

「そっか。止が会いたいと願っているなら会えるよ」

「あいたい。せきゃいとあそびたいのー」

 

 これで決まりだ。

 伊藤は携帯を取り出して乙女に連絡をする。

 そして帽子がトレードマークとなっている世界を乙女が連れてきた。

 

「せきゃい!!」

 

 無邪気に止が飛びついて来る。

 倒れないように何とか踏ん張って受け止めた。

 

「いたるちゃんは相変わらず元気だね」

「いたるはげんきだよぉ」

「お絵かき、おにいちゃんに一杯褒めてもらえた?」

「うん、あとでせきゃいにもみせてあげる」

「それは楽しみ。あ、いたるちゃん、雪だるまって知ってる?」

「しってる」

「あれって真っ白な冷たい雪で作られるんだよね?」

「そうだよぉ」

「だったらさ、それを砂で作れないかなって私は興味あるんだよね。名付けて砂だるま」

「すだるま?」

「その砂だるま、私と一緒にやってみない?」

「やりゅの!!」

 

 あらかじめ作り方は調べてある。

 世界は童心に返って止との共同作業を行なう。

 そんな二人の様子を温かく見守るのが乙女と伊藤だ。

 

「誠はさ、世界をどう思う?」

「すげぇいい奴だな。止のことを大事にしてくれて」

「私もそう思う。すっごくお節介焼きなんだよ世界って」

「へえー、加藤――じゃなくて乙女が誰かを褒めるなんて初めて聞いたかも」

 

 まだ呼び慣れていないのだろう。

 うっかり苗字で呼んでしまい、乙女に睨まれてすぐに訂正をする。

 

「なによ。私だって褒める時ぐらいあるよ」

「そうか?」

「そうだよ」

 

 好きな人を譲るつもりはない。

 それは今も変わっていない。

 だが乙女の中で世界には敵わないと思ってしまう。

 

 目の前にいる片想いの彼が世界を好きになるかもしれない。

 もしそうなったら、とても悔しい事だが納得はできる。

 乙女も人として世界に好感があって憎めないから。

 

「おにいちゃんダルマOK!! 次はいたるちゃんダルマ作るよ!!」

「くりゅの!!」

 

 伊藤に見立てた大きな砂だるまを作った。

 次は止に見立てた小さな砂だるまに着手していく。

 兄妹仲良く寄り添っている姿を理想とした。

 この間も乙女と伊藤の会話は繰り広げる。

 

「誠ってさ、誰か好きな人いないの?」

「な、なんだよ急に?」

「何となく……その様子だといるんだ」

「あ、いや……1学期に気になる人はいたけど」

「けど?」

「諦めたんだ。遠くから眺めるだけでいいと思ったけど、よく考えたらその人に迷惑だなって」

 

 乙女はホッと一息つく。

 諦めてくれて安心をするのも複雑な気持ちだ。

 まるで伊藤の不幸を望んでいるようで罪悪感があるから。

 

「同じ学園の人?」

「あ、ああ」

「誰?」

「いや、それは流石に勘弁してくれよ。もう諦めたんだから」

「じゃあ今は……今、気になる子いないの?」

「そうだな。俺の気になる人は……」

「人は?」

 

 伊藤の中で選択肢が浮かび上がる。

 乙女があまりに食いついている。

 そこで伊藤の中で悪戯心が芽生えた。

 

「泰介だ」

「うわ……」

「って信じるなよ冗談だ」

「……」

「だから露骨にドン引きするなって。俺は同性愛じゃない」

「あのね、そういう冗談やめて。次言ったら本気にするよ私」

「悪かったな」

「それで本当の所はどうなの?」

 

 今度は真面目に答えてほしい。

 冗談を口にすることは許されない。

 しばらくの間をとって伊藤は答えた。

 

「西園寺だ」

「やっぱり」

「なんだよ予想してたのか?」

「予想も何も。これまでの誠を見れば誰だってわかるよ」

「そんなにわかりやすいか?」

「バレバレ」

「じゃあ西園寺にも気付かれてるのかな?」

「気付いてると思うよ」

「うわ恥ずかしいな。でも西園寺は俺のこと何とも思ってないんだろうな」

「そう思う?」

「ああ。西園寺って止のことは凄く気に掛けて優しいけど、俺のことは興味ないみたいでさ」

「うん、まあそうだね」

 

 伊藤の推測は当たっている。

 世界は伊藤に対して全く関心がない。

 純粋に止のことを気に掛けているだけだ。

 それは打算も何もない真っ直ぐな善意である。

 だから乙女は何も心配をしていない。

 伊藤が気になると言っても、世界がその気にならないので関係が成立しないから。

 

「せきゃいのだるまつくりゅの」

「いいよ。難しいけどチャレンジは大事」

「ちゃんじ」

 

 世界といえばアホ毛である。

 それを砂だるまで再現をするのは難しい。

 伊藤と乙女に針金ハンガーとニッパーを持って来てもらう。

 上手く細工をした後、砂ダルマの頭に刺して曲げを調整する。

 こうして伊藤・止・世界という順番で砂ダルマが完成だ。

 

「よしよし何とかなったね。もし乙女のポニーテール再現だったらどうしようかと思った」

「なによ世界、私のポニーテールだったら出来ないってこと?」

「はたきがあれば見立てになるけど、今時だれも持ってないでしょ」

「まあ、確かに持ってないけど」

「伊藤もはたきなんてないでしょ?」

「ああ、けどモップならそれっぽく見えるんじゃないか?」

「モップの形次第だね」

 

 頑張って一緒に作ってくれた止。

 同じ目線となり、世界はありがとうと感謝を伝える。

 お礼を言われた止は満面な笑顔を浮かべてくれた。

 

「世界、また服を汚しちゃってるよ」

「一応汚れてもいい服にしたんだけどね」

「また風呂入って行きなよ」

「うん。今回はちゃんと着替えを持ってきたから」

 

 前回と同様に加藤家で止と入浴だ。

 一緒に洗いっこを済ませてから湯舟に浸かる。

 そして止は背中を預けて嬉しそうに甘えた。

 

「いたるちゃん、砂だるま一緒やって楽しかったね」

「うん!! たのしぃーの!!」

「実はね、とっても工作がお上手な友達がいるの。小さい頃、新聞紙で剣作ってもらったし。折り紙をやらせたら、きっと楽しいだろうね」

「おりゅがみ!!」

「でもね、そのお友達って、いたるちゃん怖がるかもって言うんだよ」

 

 刹那は愛想笑いができない。

 真面目な顔で普通に見ているだけ。

 それなのに睨んでいると誤解された過去もある。

 

「こわいの?」

「怖くないよ。だって私の大切なお友達だもん。ちょっと笑うのがへたっぴな優しい女の子。次会う時、いたるちゃんに紹介してみたいな」

「いたる、せきゃいのともだちにあうの」

 

 これは世界の我儘である。

 刹那と止で会わせてみたい。

 面白くなりそうという単純な好奇心。

 決して相性は悪くないはずである。

 

「そのお友達のお名前、いたるちゃん知りたい?」

「うん。しりたぁーい」

 

 教えるべきかどうかの見極めは充分。

 止ちゃんという純粋な幼女ならいいと判断した。

 年下で唯一を認める。

 その特別に世界が選んだのは伊藤止だ。

 

「せっちゃん」

「せちゃ?」

「せーちゃーんー」

「せーちゃーむー」

「せっちゃん」

「せっちゃ」

「よし今のでOK。このお名前、とっても大切なものなの。年下の中で、いたるちゃんだけ特別だよ」

「とくべつなのぉ?」

「うん、特別なの」

 

 上手く舌が回らない止にできる精一杯の呼び方。

 ここだけは譲れない所でもある。

 なにしろ刹那が唯一望んだ愛称だから。

 

「せきゃい、いたるとおともだちなの?」

「私はそうなりたいって思うけど、いたるちゃんは?」

「せきゃいとおともだちになりゅ!!」

「そう言うと思った。だからこそ、せっちゃんを紹介するんだよ。私の友達なら、いたるちゃんにとってもお友達ってね」

 

 世界らしい強引な理屈である。

 何も知らない刹那は後で呆れるに違いない。

 また世界の勝手な我儘が始まった。

 そんな風に思ってしまうことだろう。

 

 いずれにしても友情に年齢差は関係ない。

 共に砂遊びや裸の付き合いをした仲だ。

 特に遠慮をするような間柄でもない。

 

 風呂から出た後。

 止は桃ジュースを飲みながら自慢をする。

 兄の伊藤に向かって、世界と友達になったことを伝えた。

 

「そっか。良かったな止」

「えへー」

「悪いな西園寺、止がワガママ言っちゃって」

「止ちゃんの歳ならワガママ言うのが仕事でしょ?」

「いや、あんまり甘やかすと問題を起こすから」

「うわ、刹那みたいなこと言わないでよ。耳が痛くなっちゃう」

「せきゃい? おみみ、いたいの?」

「いたるちゃん、痛いの痛いの飛んでけーのおまじないやってくれる?」

「やりゅ」

 

 実際にやってもらってから感謝をする。

 何かをしてもらったのならお礼を伝えるのが礼儀。

 そういった教育は幼い頃から地道にやっておくのがいい。

 こうして世界と止は友達となった。

 

 後日、止の件を刹那に直接知らせる。

 刹那は勝手な事をする世界に呆れた。

 そういう事は前もって話すことが常識である。

 

「今決めたって感じだし。チャンスを逃すまいとした事だから」

「そんな言い訳はダメ。社会に出た時に通用しない」

「うわー、刹那が大人みたいなこと言ってるよ」

「世界のためだから」

「それって決まり文句だね。何度も聞いちゃって、すっかり耳ダコさんだよ」

 

 こうして注意はされたが、次に会う約束についての了解を得る。

 ただし、止が怖がったら二度と会わないという条件付きだ。

 それは当然であると世界も受け入れる。

 

「でも意外。世界は年下にせっちゃんは認めないと思った」

 

 可憐と心の呼び方は刹那さんである。

 敬称のさん付けをつけて丁度いい感じだ。

 

「いたるちゃんなら、呼び捨てでも全然嫌な気分にならないからね。無邪気な幼い子どもでかわいいし。だからいいかなって、私の直感が告げてるの」

 

 世界は人を見る目があり、紹介をするのが巧みで上手い。

 それは刹那だけでなく言葉も認めている。

 人と人を繋げる天才の持ち主だ。

 

 今回も刹那と止で仲良くなれる。

 そんな確信があってのことだろう。

 だから刹那は叱りこそはしたが不安はない。

 それに見合う信頼関係が世界と刹那にあるから。

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