World Days(新版) 作:完結の陽炎
ある日、世界の思いつき企画が実行される。
場所は昼休みの屋上。
天文部メンバーが集まってお弁当を食べる会だ。
曇り空のある晴れ模様。
三人座れるベンチが二つあるので丁度いい。
左側のベンチに乙女・七海・光。
右側のベンチに世界・刹那・言葉。
そして雑談の中心となるのは世界であった。
「国語の読書感想文って面倒だったけど、ことちゃんが貸してくれた本のおかげで助かったよ」
「お役に立って何よりです」
「世界、漫画以外で本を読めた?」
「なによ刹那。私だって普通の本ぐらい読めるってば」
心外だと言わんばかりに世界は拗ねる。
それを無視して刹那は言葉へ問いかけた。
「ことぴー、世界に何の本を貸したの?」
「パラレルワールドの本です。漫画やイラストの解説入りで、世界ちゃんが読みやすいものをお勧めしました」
「結構わかりやすかったよ。例えば、今の私たちってこうしているけどさ。本当は別の可能性もあったんだ」
世界の話に興味を持ち耳を傾ける一同。
その空気に当てられて話を続けていく。
「もしも、私が刹那やことちゃんと出会っていなかったら?」
幼い頃からひきこもりになった可能性が高い。
体が弱く、精神も脆いので、まともに学校生活が送れなかった。
親戚の冠婚葬祭も出席できず、七海や光とも会えなかった。
お祭りに行くこともないから、乙女や可憐とも知り合えない。
そんな孤独で何もできないパラレルワールドの世界がいたのかもしれない。
「世界ちゃんはせっちゃんとの出会いがあれば、きっと大丈夫だったと思います」
確かに刹那がいればひきこもりは回避できる。
その代わり刹那への依存度が高い。
今よりも刹那の負担が増大となることは間違いない。
言葉と出会わない事は居合をやってない事とイコールだ。
メンタルの鍛錬がなく、健康面でも不安定になったことだろう。
「この場合、光や七海と出会うのはもう少し後だったかもしれないんだ。刹那とばっかり遊んで甘えて、積極的に誰かと仲良くしない。そうなるとお祭りで乙女と出会えなかったと思う。榊野学園で同じクラスになって、そこでようやく友達になったと想像できるんだ」
ここは後になるか先になるかの違いだ。
光や七海と仲良くなることに変わりはない。
乙女は隣のクラスで、七海を通じて知り合い程度にはなれたかもしれない。
ただし今のように妹の可憐まで交流となる可能性は低い。
「そのパラレルワールドだと、ことちゃんだけは私と関わる可能性が全然見えてこない。イジメられっ子としてのことちゃんを想像したくないけど、どうしても避けられない運命に思えちゃうね」
「はい。きっと世界ちゃんがいなかったら、私は皆さんに嫌われていたと思います」
「同じ委員の刹那は例外と思ってほしいけど、別のクラスではそんなに関わらないよね」
光や七海、乙女から毛嫌いをされた可能性が高い。
世界も積極的に関わる理由がなければ近寄らない。
刹那は世界以外に無関心で言葉と干渉しない。
よって言葉に対しては明るい未来が考えられなかった。
「それってさ、世界いなかったら桂がマジでヤバいじゃん」
「光はそう言うけど、同じ中学なら七海がことちゃんと仲良くしてたんじゃない?」
「悪いけどそれはないね。同じ中学でもクラスが違うし、部活やってる私じゃあ接点ないから。世界が紹介してくれなかったら今の関係はなかったよ」
「同じ4組になってる乙女がことちゃんと仲良くは……」
「私も世界繋がりで今の関係があるから。きっと桂とソリが合わないって決め込んで無理だったと思う」
ここで世界は伊藤の携帯を思い出した。
待ち受け画面に言葉の盗撮があった日を。
その時点で乙女と言葉が仲良くなる可能性はゼロだ。
恋敵の相手として排除の対象となったはずである。
「まあ、私と関わらないパラレルワールドで、ことちゃんにいい事があるとしたら、私が広めた噂がないから、男子にモテモテで告白された可能性が高いってことだね。その点はごめんなさい」
「とんでもないです!! 男の人が苦手なのに、それで告白をされても正直困ります!!」
「ことぴーの人生、世界が大きく変えた。世界なくて今のことぴーはない」
「刹那、なんで誇らしげなの?」
「世界の気のせい」
「そう?」
「うん」
世界の影響力は大きい。
小さい頃に夢として語った世界平和。
それが目の前で証明されている。
今も世界を支えて守っている刹那。
誇らしくなるのも当然といえる。
「まあ、今のことちゃんとの関係は最高だって思ってるから。仮に他のパラレルワールドがあっても選ばないよ。桂さん、西園寺さんで呼び合う関係なんて考えられないし」
「それはそれで見てみたい」
「なによ刹那。その場合、刹那だって呼び方変わるからね。桂さん、清浦さんって」
「……微妙」
「そうでしょ。二人は大親友だからあだ名で呼び合ってないと変だよ」
「世界は強調しすぎ。大は余計」
「ふーんだ。二人の相性が誰よりも一番だってこと、私はよく知ってるもんね」
感情的に悔しくても事実として世界は認める。
刹那と気が合う一番の相手は言葉で間違いない。
まるで天使と女神という神聖なイメージがある。
「そんなことない。今のことぴーがあるのは世界のおかげ」
「それはそれ、これはこれだよ」
相性について言葉はどう考えているのか?
世界と刹那から探りを入れられる。
そこでの言葉の答えは決まっていた。
「世界ちゃんとせっちゃんの関係が一番です。お互いを理解し合い、大切に思い合う素敵な二人だと思います」
「それ言われちゃうと話が終わっちゃうね」
「世界はことぴーじゃなく私を選ぶの?」
「刹那を選ぶけど何か?」
即答をして微塵の迷いもない。
その堂々とした態度は刹那にとって反則だったようだ。
不意打ちを受けたようで落ち着きがない。
どうにも照れているようだが、本人に言えば否定をするだろう。
「ことちゃんには悪いけど、どっちか選べって言われたら私は刹那一筋だよ」
「いいえ、世界ちゃんらしい素晴らしい答えです」
「なに世界ってば、そんじょそこらの男子よりカッコいいじゃない」
「光、そこで茶化さないでよ」
「可憐がよく世界が男だったら付き合う、なんて馬鹿言ってるけど、確かにこれは惚れるかも」
「乙女まで変なこと言わない。私は女だから惚れられても困るって」
「良かったじゃん刹那。世界は刹那が一番だってさ」
「七海、からかってる」
表情が固いのに刹那の頬は赤い。
世界の一途さがダイレクトに伝わってしまう。
これで世界が男ならば、刹那が恋愛的に惚れてもおかしくはない。
もっとも人としてならば、今まさに惚れたと言えるかもしれない。