World Days(新版)   作:完結の陽炎

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第15話「黒田光の新築へ行こう」

 榊野学園での生活も、ひと月、ふた月と過ぎる。

 最初は戸惑った校舎の風景も日常へと化していく。

 そんなマンネリの兆しを、世界は見逃さない。

 彼女は常に、停滞した空気をかき混ぜ新しいことを嗅ぎつける。

 

 今回のターゲットは、黒田光の自宅。

 店舗もろともリニューアルされた新築の輝き。

 世界の瞳をキラキラと輝かせるに十分な獲物だ。

 お祝いの大義名分を掲げ、本音は光の実家である洋菓子屋の新作ケーキを狙う。

 そんな欲望に忠実な世界の脇腹を、刹那がジト目でつつく。

 

「世界、あとで体重計を見て泣くことになるよ」

「な、泣かないもん――って、くすぐったいってば刹那ぁ!」

 

 世界の行動は迅速。

 七海の部活の合間を縫い、瞬く間にメンバーを招集する。

 集まったのは世界、刹那、言葉、七海、そして乙女。

 言葉がさりげなく上質な手土産を持参するあたり、育ちの良さと礼節が光る。

 光の家族に屈託のない笑顔を振りまく世界。

 誰の目にも賑やかで良い友人に見えることだろう。

 

「ねえ光、夏休みとかバイト募集しないの?」

「うーん、リニューアルしたてだから、まだ様子見」

「そっか残念。こずかい稼ぐチャンスなしか」

「冬のクリスマスシーズンになれば、猫の手も借りたいくらいになると思うわよ」

 

 そんな会話を楽しみながら、世界は新築披露への返礼として、刹那に視線を送る。

 刹那は言葉なく、ただ静かに頷く。

 二人の間に、説明のための言葉は不要だった。

 世界が場を仕切り、飲み物の希望を募る。

 コーヒー派は乙女、七海、世界。

 紅茶派は光、言葉、刹那。

 見事に三対三に分かれた。

 

「キッチン、広くて使いやすそうだね。刹那、やっちゃおう」

「うん」

 

 今回、二人は本家本元としての誠意を見せる。

 自前の機材を持ち込んでいた。

 コーヒーは刹那、紅茶は世界。

 それぞれが究極の一杯を、言葉が持参した菓子に合わせて淹れていく。

 

 まずコーヒーメンバーとして、

 乙女、七海、世界の順に感想がもれた。

 

「インスタントとは次元が違うね……」

「手抜きコーヒーが霞んで見えるよ」

「にゃはは、やっぱ刹那のコーヒーが最高!」

 

 次に紅茶メンバーとして、

 光、言葉、刹那の順でコメントが入る。

 

「マジで美味しい。これ、うちの店で出したいレベルじゃん」

「とても落ち着きます。素晴らしい色ですね世界さん」

「……んっ。おいしい」

 

 和やかな空気の中。

 世界はさりげなく情報を落としていく。

 

「ねえ光、聞いた? 澤永が赤点で補習だって」

「知ってるわよ。あのバカ、一夜漬けが通用すると思ってたんでしょ」

 

 光は吐き捨てるように毒づく。

 だが、世界はすでにその先を読み、布石を打っていた。

 伊藤誠を通じ、澤永が彼に泣きついた瞬間を見計らい、「困ったときは黒田に頼れ」という暗示を仕向けておいた。

 

「まったく、私に助けを求めてきて。ホント、見てられないわよ」

「へえー。その割には、まんざらでもなさそうじゃない、光?」

「う、うっさい!」

 

 七海に茶々を入れられ、光はそっぽを向く。

 その頬に差した朱色を、世界は満足げに眺めている。

 策が成った充足感。

 そんな世界を、刹那は慈しみ、静かな眼差しで見守っていた。

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