World Days(新版) 作:完結の陽炎
おたふく風邪から完治をする世界。
刹那と出かける約束の日を迎えた。
身支度に時間が掛かり、特にクセ毛の対処が厄介だ。
周囲の髪と打ち解けず、ここぞと主張するかの如く跳ねてしまう。
このままでは待ち合わせの時間に遅れる。
それだけは何としても避けたい。
ため息をついてアホ毛を隠すための野球帽を被る。
蒸れずに手軽に装着できるメッシュのタイプだ。
場所は小さい頃に遊んだ公園。
そこで刹那は昔を懐かしむようにして立っていた。
「ごめんね刹那。待たせちゃったね」
「大丈夫。世界がおしゃれに時間かけることぐらい知ってる」
「相変わらず髪の跳ねが出ちゃって」
「かわいいのに?」
「かわいくないってば」
「今日はどこへ行く?」
刹那に問われて世界が向かうのはカラオケ。
溜め込んだストレスを発散するのが狙いだ。
刹那にとあるラブソングをリクエスト。
今でも愛するという刹那らしさを感じる曲でピッタリだ。
真珠のような輝きに透き通った美声で単純に上手い。
次に夏の日々を思わせるオープニングの曲を追加。
こちらも恋愛がテーマで、夏の海と砂浜をイメージしている。
「刹那ってば最高。もう耳が幸せになっちゃう」
「今度は世界が歌う。私だけ歌うのは不公平」
「私、刹那みたいに綺麗な声じゃないよ」
「おだててもダメ」
「ほらほらポテト食べる? あ、ドリンクもあるよ」
「ごまかしてもダメ。次は世界の番」
「そうは言っても、私って英語の発音が苦手なのよね」
「歌詞のほとんどが日本語。英語は一部だけ」
刹那の言うように歌詞の全てが英語になっている訳ではない。
そういう曲もあるが、それを選ばなければ済むこと。
曲選びをしている時に世界が目に止まったのは……。
「ことちゃんがいたら、この歌をリクエストしてたよ」
「……失恋の曲?」
「悲しみの先をテーマにしてて、歌詞の中に偶然にも私の名前とことちゃんの名前があるんだよね。ほら、ことちゃんってスプラッターなホラー映画が好みだから、これがピッタリくるんだよ」
言葉と悲劇が絶妙にマッチをする。
幸薄い美女のイメージが似合うのかもしれない。
相手の幸せを願う世界の考え方とは相容れない。
「世界歌って。聞いてみたい」
「えー、なんか私の首がバッサリと斬られそうなイメージしちゃう」
「なにそれ?」
「あ、ことちゃんが見せてくれたホラー映画の話。よかったら刹那も今度見てみる?」
「遠慮する。そういう趣味ないから」
「うん。グロいから正直あまりお勧めはしない」
「世界はそういうの好み?」
「普通だよ。刺激があるから退屈はしない程度」
おねだりをされた世界が歌い始める。
英単語がシンプルで少ないから発音はそこまで苦にならない。
流れる悲劇的な音楽。
歌詞で逃れられない死を連想させる。
そこは理屈抜きで刹那に何となく伝わったようだ。
「世界、その曲暗すぎる」
「だよね。逆にこころちゃんがいたら、この歌を要望しちゃう」
「……魔法少女?」
「こころちゃんならこれ以上にないハマり役でしょ。音楽も元気に溢れる明るい感じでピッタリだし」
心のキャラはとてもわかりやすい。
楽しくありたい世界との相性もピッタリだ。
「世界、次はこれ歌って」
「ちょっと刹那、ここで笑いを取れと? どう見ても私のキャラじゃないからね」
「戦隊のリーダーと思って歌えばいい」
「だったら刹那が歌ってよ。悪の秘密結社ラスボスみたいな感じで」
「なぜ私が悪役?」
「このアニメに出てくるボスが刹那にそっくりだから。召喚された敵のロボットなんて田中のイメージに近いし」
押し付け合ってキリがない。
二人で歌って笑いのネタにした。
その後も制限時間まで歌が繰り広げられる。
そしてカラオケを出た後に世界が思い出した。
「あ、そろそろ洗剤を切らしそうなのよね」
「それなら帰りに一緒に買う。私も日用品の補充がある」
「了解。次どこへ行こうか? 刹那は行きたい所ないの?」
刹那は特に思いつかない。
強いていえば昼食の時間が近いので何か食べることぐらいだ。
「光たちと立ち寄るいつものピュアバーガー、うちのお母さんが働いているラディッシュ、ことちゃん情報にある榊野ヒルズの高級レストラン予約制」
「世界、適当なこと言ってない?」
「うん。思いつくものをそのまま言っただけ」
「ラディッシュは世界がダメ出しをしてる。榊野ヒルズはそもそも予約してないし、お財布にも優しくない」
「刹那と一緒に新しいお店探しもいいけど、今の時期は暑いからね。あんまり長い時間出歩くのは、病み上がりの私にはキツイから」
「いつものピュアバーガーで」
世界に無理をさせたくない刹那が即答。
世界と一緒ならどこでもいいというのが正直な気持ち。
無難な選択として、馴染みのピュアバーガーへ立ち寄った。
店内が混んでいたので、テイクアウトで済ませる。
またお腹が空くようなら、適当な出店でかき氷やたこ焼きでも買えばいい。
「世界、そろそろ帰る?」
「時間的にもう一押し。神社でお参りでもしよ」
「なぜ神社?」
「祈るために決まってるじゃない。刹那が幸せになりますように、なんてね」
「またそうやって人の事ばかり、世界は自分の幸せを考えて」
「私は無病息災一択よ。それが叶ってくれるなら万々歳だね」
「世界……」
何ものにも代えがたい健康。
それがあれば心配をかけさせなくて済む。
ないものねだりだとわかっていても願う。
最寄りの神社で小銭の賽銭をしてのお参り。
両手を合わせて目を閉じている世界と刹那。
しばらくして二人は神社をあとにする。
「刹那の願いを当ててあげる。ズバリ、刹那のお母さんみたいな成長をしますように、でしょ?」
「違う」
「えー、刹那のお母さん綺麗だし、絶対にそうだって思ったのに」
「世界のお母さんだって美人」
「嘘でしょ。あんな子どもの性格をして美人なんて似合わないよ」
雑談をしながら日用品の買い出しを済ませる。
夕焼けを浴びながら帰り道を歩いていく。
今日はどちらの母も帰りが遅くなるので。
「刹那、今日はそっち行っていい?」
「いいけど私の部屋、特に面白いものないよ」
「刹那らしいスッキリとした空間が好きなの」
「世界の部屋、別に散らかってない」
「そりゃあ、いつ誰が来てもいいように掃除ぐらいしてるもん」
刹那の食卓で夕食タイム。
和風定食で舌鼓を打つ世界。
刹那の孤独感を癒してくれる。
そこにいるだけで満たされる幸せがあった。