World Days(新版)   作:完結の陽炎

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第2話「世界と刹那のお出かけ」

 おたふく風邪から完治をする世界。

 刹那と出かける約束の日を迎えた。

 身支度に時間が掛かり、特にクセ毛の対処が厄介だ。

 周囲の髪と打ち解けず、ここぞと主張するかの如く跳ねてしまう。

 

 このままでは待ち合わせの時間に遅れる。

 それだけは何としても避けたい。

 ため息をついてアホ毛を隠すための野球帽を被る。

 蒸れずに手軽に装着できるメッシュのタイプだ。

 

 場所は小さい頃に遊んだ公園。

 そこで刹那は昔を懐かしむようにして立っていた。

 

「ごめんね刹那。待たせちゃったね」

「大丈夫。世界がおしゃれに時間かけることぐらい知ってる」

「相変わらず髪の跳ねが出ちゃって」

「かわいいのに?」

「かわいくないってば」

「今日はどこへ行く?」

 

 刹那に問われて世界が向かうのはカラオケ。

 溜め込んだストレスを発散するのが狙いだ。

 

 刹那にとあるラブソングをリクエスト。

 今でも愛するという刹那らしさを感じる曲でピッタリだ。

 真珠のような輝きに透き通った美声で単純に上手い。

 

 次に夏の日々を思わせるオープニングの曲を追加。

 こちらも恋愛がテーマで、夏の海と砂浜をイメージしている。

 

「刹那ってば最高。もう耳が幸せになっちゃう」

「今度は世界が歌う。私だけ歌うのは不公平」

「私、刹那みたいに綺麗な声じゃないよ」

「おだててもダメ」

「ほらほらポテト食べる? あ、ドリンクもあるよ」

「ごまかしてもダメ。次は世界の番」

「そうは言っても、私って英語の発音が苦手なのよね」

「歌詞のほとんどが日本語。英語は一部だけ」

 

 刹那の言うように歌詞の全てが英語になっている訳ではない。

 そういう曲もあるが、それを選ばなければ済むこと。 

 曲選びをしている時に世界が目に止まったのは……。

 

「ことちゃんがいたら、この歌をリクエストしてたよ」

「……失恋の曲?」

「悲しみの先をテーマにしてて、歌詞の中に偶然にも私の名前とことちゃんの名前があるんだよね。ほら、ことちゃんってスプラッターなホラー映画が好みだから、これがピッタリくるんだよ」

 

 言葉と悲劇が絶妙にマッチをする。

 幸薄い美女のイメージが似合うのかもしれない。

 相手の幸せを願う世界の考え方とは相容れない。

 

「世界歌って。聞いてみたい」

「えー、なんか私の首がバッサリと斬られそうなイメージしちゃう」

「なにそれ?」

「あ、ことちゃんが見せてくれたホラー映画の話。よかったら刹那も今度見てみる?」

「遠慮する。そういう趣味ないから」

「うん。グロいから正直あまりお勧めはしない」

「世界はそういうの好み?」

「普通だよ。刺激があるから退屈はしない程度」

 

 おねだりをされた世界が歌い始める。

 英単語がシンプルで少ないから発音はそこまで苦にならない。

 流れる悲劇的な音楽。

 歌詞で逃れられない死を連想させる。

 そこは理屈抜きで刹那に何となく伝わったようだ。

 

「世界、その曲暗すぎる」

「だよね。逆にこころちゃんがいたら、この歌を要望しちゃう」

「……魔法少女?」

「こころちゃんならこれ以上にないハマり役でしょ。音楽も元気に溢れる明るい感じでピッタリだし」

 

 心のキャラはとてもわかりやすい。

 楽しくありたい世界との相性もピッタリだ。

 

「世界、次はこれ歌って」

「ちょっと刹那、ここで笑いを取れと? どう見ても私のキャラじゃないからね」

「戦隊のリーダーと思って歌えばいい」

「だったら刹那が歌ってよ。悪の秘密結社ラスボスみたいな感じで」

「なぜ私が悪役?」

「このアニメに出てくるボスが刹那にそっくりだから。召喚された敵のロボットなんて田中のイメージに近いし」

 

 押し付け合ってキリがない。

 二人で歌って笑いのネタにした。

 その後も制限時間まで歌が繰り広げられる。

 そしてカラオケを出た後に世界が思い出した。

 

「あ、そろそろ洗剤を切らしそうなのよね」

「それなら帰りに一緒に買う。私も日用品の補充がある」

「了解。次どこへ行こうか? 刹那は行きたい所ないの?」

 

 刹那は特に思いつかない。

 強いていえば昼食の時間が近いので何か食べることぐらいだ。

 

「光たちと立ち寄るいつものピュアバーガー、うちのお母さんが働いているラディッシュ、ことちゃん情報にある榊野ヒルズの高級レストラン予約制」

「世界、適当なこと言ってない?」

「うん。思いつくものをそのまま言っただけ」

「ラディッシュは世界がダメ出しをしてる。榊野ヒルズはそもそも予約してないし、お財布にも優しくない」

「刹那と一緒に新しいお店探しもいいけど、今の時期は暑いからね。あんまり長い時間出歩くのは、病み上がりの私にはキツイから」

「いつものピュアバーガーで」

 

 世界に無理をさせたくない刹那が即答。

 世界と一緒ならどこでもいいというのが正直な気持ち。

 無難な選択として、馴染みのピュアバーガーへ立ち寄った。

 店内が混んでいたので、テイクアウトで済ませる。

 またお腹が空くようなら、適当な出店でかき氷やたこ焼きでも買えばいい。

 

「世界、そろそろ帰る?」

「時間的にもう一押し。神社でお参りでもしよ」

「なぜ神社?」

「祈るために決まってるじゃない。刹那が幸せになりますように、なんてね」

「またそうやって人の事ばかり、世界は自分の幸せを考えて」

「私は無病息災一択よ。それが叶ってくれるなら万々歳だね」

「世界……」

 

 何ものにも代えがたい健康。

 それがあれば心配をかけさせなくて済む。

 ないものねだりだとわかっていても願う。

 

 最寄りの神社で小銭の賽銭をしてのお参り。

 両手を合わせて目を閉じている世界と刹那。

 しばらくして二人は神社をあとにする。

 

「刹那の願いを当ててあげる。ズバリ、刹那のお母さんみたいな成長をしますように、でしょ?」

「違う」

「えー、刹那のお母さん綺麗だし、絶対にそうだって思ったのに」

「世界のお母さんだって美人」

「嘘でしょ。あんな子どもの性格をして美人なんて似合わないよ」

 

 雑談をしながら日用品の買い出しを済ませる。

 夕焼けを浴びながら帰り道を歩いていく。

 今日はどちらの母も帰りが遅くなるので。

 

「刹那、今日はそっち行っていい?」

「いいけど私の部屋、特に面白いものないよ」

「刹那らしいスッキリとした空間が好きなの」

「世界の部屋、別に散らかってない」

「そりゃあ、いつ誰が来てもいいように掃除ぐらいしてるもん」

 

 刹那の食卓で夕食タイム。

 和風定食で舌鼓を打つ世界。

 刹那の孤独感を癒してくれる。

 そこにいるだけで満たされる幸せがあった。

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