World Days(新版) 作:完結の陽炎
世界の部屋に刹那が来ている。
ちゃんと夏休みの宿題をした結果に得意顔の世界。
一人で真面目に取り組んだのかと怪しまれる。
問い詰めを避けるために世界は動く。
「あ、お茶ーー」
「いらない」
出鼻をくじかれる。
これで疑いが増した。
「花摘みにーー」
「さっき済ませたよね?」
刹那の目付きがさらに鋭くなった。
至近距離まで世界に迫っている。
「顔近いよ刹那」
「ことぴーに頼ったんでしょ。怒らないから正直に言いなさい」
こうして言葉に手伝ってもらったことがバレた。
刹那を思っての事もあって説教は回避。
それでも感情的に嫌でふてくされてしまう。
どう対応するのかで世界は考えなければならない。
そこで閃く。
夏祭りに誘えば機嫌が直るだろう。
そうに違いないと何の根拠もない自信を持って動く。
「刹那、今度の夏祭り一緒に見て回らない?」
「……」
知らん顔でそっぽ向く。
そんな事で機嫌は直らないぞ。
刹那の反抗に世界は冷静な対応をする。
「そっか無理なら仕方ないね。それならことちゃ――」
「行く。ただし二人だけで」
刹那より言葉を選ばれることを良しとしない。
放っておくと言葉ばかりになってしまうから。
それは刹那の存在意義に関わってくる。
「私だけでいいの?」
「世界だからいい」
「そっか。人混みのある祭りで人数増えると動きにくいからね。それなら頼りにしてるよ刹那」
世界に頼られて満更でもない。
いつもそうだったから当たり前のようになっている。
世界が幸せに感じてくれるならそれでいい。
世界が思い出したように財布の中身をチェックする。
おたふく風邪により、光の店でバイトができなかった。
手持ちの少ないお金では、祭りの出店で買い物は厳しい。
「世界、少しなら私が出してもいい」
「うーん、半分っこ作戦で何とかするしかないか」
「私はそれでいい」
「いいの? 食べる量が少なくなるよ」
「腹八分。食べ過ぎはよくない」
「刹那はもっと食べたほうがいいんじゃない?」
「それどういう意味?」
小柄な体格を気にして眉をひそめる。
世界で言えば触角のアホ毛みたいなものだ。
お互いに身体的なコンプレックスを持っている。
だから意味を伝える愚行はしない。
「さあーて、浴衣どこにしまってあるかなぁー。いや、あえて私服でいいかも」
「ごまかした」
いずれにしても刹那のご機嫌取りに成功である。
ニコニコと調子良く話しかける世界。
いつも通りに受け答えをする刹那がいた。
………………。
…………。
……。
夏祭りまでの現状確認。
乙女と光の進展はあったのか?
プールのデートで成功をしたのか?
結果報告を目的として言葉の部屋へ一同が集まる。
「七海いいの? てっきり彼氏優先で付き合い悪くなるかと思ったけど?」
「なに世界、アタシだけのけ者にするつもり? それに先輩はバイトだから別にいいんだよ」
七海の彼氏は優先度に偏りがある。
一番に家族、二番にバイト、三番に図書委員、四番に彼女といった感じだ。
それで愚痴を聞く事は多々あるが、本当にダメなら別れているだろう。
当人同士の問題として、相談をされない限りはなるべくそっとしておく。
「まず光から訊きたいんだけど、澤永を連れてプールに行ったんだよね?」
「うん、行くのは行ったけど……」
「けど?」
「アイツ、他の女に鼻の下伸ばしちゃって」
「それは予想してた」
欲望に素直というべきか。
澤永のわかりやすいスケベ心。
それゆえに光の嫉妬は避けようもない。
「光が強引に澤永を引っ張り込む姿も想像できちゃうよ」
「だ、だってそうでもしないと――って見てたの世界!?」
「そんな訳ないでしょ。光の行動が分かりやすいだけ。どうせ泳げないから教えてって感じで、澤永に相手してもらったんでしょ?」
「う、うん。でもアイツ、ちょっとでも目を離すとすぐ他の女を見ようとしちゃって」
「耳とかほっぺとか、あるいは脇腹でもつねってやったら?」
「やったわよ!! ホント目の前に私がいるのにあり得ない!!」
ボケとツッコミの漫才コンビになったみたいだ。
友達としてなら笑いが取れて楽しいだろう。
しかし男女の仲として持っていくには厳しいものがある。
澤永をメロメロに射止めるにはまだ足りない。
夏祭りでもうひと勝負仕掛けてみるといい。
そのように励まして次に頑張ってもらう。
光はこれで良しとする。
今度は乙女の進展を尋ねた。
乙女の表情がやや暗い。
世界は察した様子で優しく声を掛ける。
「そっか振られたんだね」
「振られてない!!」
「だったら聞かせてよ。伊藤とプール行ってどうだったの?」
「……中学の頃の話をしながら一緒に遊んだよ。そんな時に知らない男にナンパされることがあって、誠が私の前に立って庇ってくれてさ」
「おっ、やるじゃない」
実に男らしい一面である。
いかにも乙女が好みそうな王道シチュエーション。
続きが気になる一同は聞き役に徹した。
なお、先を促すのは世界に一任している。
「それで騒ぎになって、警備の人が来たから相手が逃げ出して、幸い怪我をすることはなかった。あの時の誠、カッコ良かった」
「それでその先はどうなったの?」
「今言わないと一生言えない気がして。勇気を出して私から想いを伝えたの。そしたら誠はお礼を言ってくれたけど……」
中学から仲良くしてきた伊藤と乙女。
それ以上の関係になるのに迷いを見せた伊藤。
他に好きな人がいるのか?
それとも乙女とは友達のままでいたいのか?
乙女の様子で世界は察する。
その憶測に対しての答え合わせをしてみた。
「乙女、もしかして返事は今すぐでなくていいから、って伊藤に言った?」
「うん。誠を困らせたくなくて」
「期限なしの保留はマズイよ。伊藤からすれば、乙女と今後どう接したらいいかで、それこそわからなくて困るじゃない」
「そ、そう言われても私、告白するしか考えられなくて」
「うん、乙女はよく頑張ったよ。それは凄くわかる。だからこそ報われてほしいって、私たちは応援している訳だし」
「世界、私これからどうしたら……」
縋るような乙女の眼差し。
告白をしたことで乙女は待ちの状態になる。
今のままでは関係がギクシャクしてしまい、自然消滅の流れになる可能性が高い。
ここまで来たのだから上手くいってほしい。
積極的な協力をするために世界は言った。
「私が伊藤の気持ちを確かめるよ。数日もかからないと思うから任せて」
何気なく世界が見るのは言葉。
まだ伊藤に未練があるのかもしれない。
それならケジメをつけるためにも選んでほしい。
恋愛は相手の気持ちがあって初めて成立するから。