World Days(新版)   作:完結の陽炎

39 / 88
第4話「乙女と光の恋愛経過」

 世界の部屋に刹那が来ている。

 ちゃんと夏休みの宿題をした結果に得意顔の世界。

 一人で真面目に取り組んだのかと怪しまれる。

 問い詰めを避けるために世界は動く。

 

「あ、お茶ーー」

「いらない」

 

 出鼻をくじかれる。

 これで疑いが増した。

 

「花摘みにーー」

「さっき済ませたよね?」

 

 刹那の目付きがさらに鋭くなった。

 至近距離まで世界に迫っている。

 

「顔近いよ刹那」

「ことぴーに頼ったんでしょ。怒らないから正直に言いなさい」

 

 こうして言葉に手伝ってもらったことがバレた。

 刹那を思っての事もあって説教は回避。

 それでも感情的に嫌でふてくされてしまう。

 どう対応するのかで世界は考えなければならない。

 

 そこで閃く。

 夏祭りに誘えば機嫌が直るだろう。

 そうに違いないと何の根拠もない自信を持って動く。

 

「刹那、今度の夏祭り一緒に見て回らない?」

「……」

 

 知らん顔でそっぽ向く。

 そんな事で機嫌は直らないぞ。

 刹那の反抗に世界は冷静な対応をする。

 

「そっか無理なら仕方ないね。それならことちゃ――」

「行く。ただし二人だけで」

 

 刹那より言葉を選ばれることを良しとしない。

 放っておくと言葉ばかりになってしまうから。

 それは刹那の存在意義に関わってくる。

 

「私だけでいいの?」

「世界だからいい」

「そっか。人混みのある祭りで人数増えると動きにくいからね。それなら頼りにしてるよ刹那」

 

 世界に頼られて満更でもない。

 いつもそうだったから当たり前のようになっている。

 世界が幸せに感じてくれるならそれでいい。

 

 世界が思い出したように財布の中身をチェックする。

 おたふく風邪により、光の店でバイトができなかった。

 手持ちの少ないお金では、祭りの出店で買い物は厳しい。

 

「世界、少しなら私が出してもいい」

「うーん、半分っこ作戦で何とかするしかないか」

「私はそれでいい」

「いいの? 食べる量が少なくなるよ」

「腹八分。食べ過ぎはよくない」

「刹那はもっと食べたほうがいいんじゃない?」

「それどういう意味?」

 

 小柄な体格を気にして眉をひそめる。

 世界で言えば触角のアホ毛みたいなものだ。

 お互いに身体的なコンプレックスを持っている。

 だから意味を伝える愚行はしない。

 

「さあーて、浴衣どこにしまってあるかなぁー。いや、あえて私服でいいかも」

「ごまかした」

 

 いずれにしても刹那のご機嫌取りに成功である。

 ニコニコと調子良く話しかける世界。

 いつも通りに受け答えをする刹那がいた。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 夏祭りまでの現状確認。

 乙女と光の進展はあったのか?

 プールのデートで成功をしたのか?

 結果報告を目的として言葉の部屋へ一同が集まる。

 

「七海いいの? てっきり彼氏優先で付き合い悪くなるかと思ったけど?」

「なに世界、アタシだけのけ者にするつもり? それに先輩はバイトだから別にいいんだよ」

 

 七海の彼氏は優先度に偏りがある。

 一番に家族、二番にバイト、三番に図書委員、四番に彼女といった感じだ。

 それで愚痴を聞く事は多々あるが、本当にダメなら別れているだろう。

 当人同士の問題として、相談をされない限りはなるべくそっとしておく。

 

「まず光から訊きたいんだけど、澤永を連れてプールに行ったんだよね?」

「うん、行くのは行ったけど……」

「けど?」

「アイツ、他の女に鼻の下伸ばしちゃって」

「それは予想してた」

 

 欲望に素直というべきか。

 澤永のわかりやすいスケベ心。

 それゆえに光の嫉妬は避けようもない。

 

「光が強引に澤永を引っ張り込む姿も想像できちゃうよ」

「だ、だってそうでもしないと――って見てたの世界!?」

「そんな訳ないでしょ。光の行動が分かりやすいだけ。どうせ泳げないから教えてって感じで、澤永に相手してもらったんでしょ?」

「う、うん。でもアイツ、ちょっとでも目を離すとすぐ他の女を見ようとしちゃって」

「耳とかほっぺとか、あるいは脇腹でもつねってやったら?」

「やったわよ!! ホント目の前に私がいるのにあり得ない!!」

 

 ボケとツッコミの漫才コンビになったみたいだ。

 友達としてなら笑いが取れて楽しいだろう。

 しかし男女の仲として持っていくには厳しいものがある。

 

 澤永をメロメロに射止めるにはまだ足りない。

 夏祭りでもうひと勝負仕掛けてみるといい。

 そのように励まして次に頑張ってもらう。

 光はこれで良しとする。

 

 今度は乙女の進展を尋ねた。

 乙女の表情がやや暗い。

 世界は察した様子で優しく声を掛ける。

 

「そっか振られたんだね」

「振られてない!!」

「だったら聞かせてよ。伊藤とプール行ってどうだったの?」

「……中学の頃の話をしながら一緒に遊んだよ。そんな時に知らない男にナンパされることがあって、誠が私の前に立って庇ってくれてさ」

「おっ、やるじゃない」

 

 実に男らしい一面である。

 いかにも乙女が好みそうな王道シチュエーション。

 続きが気になる一同は聞き役に徹した。

 なお、先を促すのは世界に一任している。

 

「それで騒ぎになって、警備の人が来たから相手が逃げ出して、幸い怪我をすることはなかった。あの時の誠、カッコ良かった」

「それでその先はどうなったの?」

「今言わないと一生言えない気がして。勇気を出して私から想いを伝えたの。そしたら誠はお礼を言ってくれたけど……」

 

 中学から仲良くしてきた伊藤と乙女。

 それ以上の関係になるのに迷いを見せた伊藤。

 

 他に好きな人がいるのか?

 それとも乙女とは友達のままでいたいのか?

 

 乙女の様子で世界は察する。

 その憶測に対しての答え合わせをしてみた。

 

「乙女、もしかして返事は今すぐでなくていいから、って伊藤に言った?」

「うん。誠を困らせたくなくて」

「期限なしの保留はマズイよ。伊藤からすれば、乙女と今後どう接したらいいかで、それこそわからなくて困るじゃない」

「そ、そう言われても私、告白するしか考えられなくて」

「うん、乙女はよく頑張ったよ。それは凄くわかる。だからこそ報われてほしいって、私たちは応援している訳だし」

「世界、私これからどうしたら……」

 

 縋るような乙女の眼差し。

 告白をしたことで乙女は待ちの状態になる。

 今のままでは関係がギクシャクしてしまい、自然消滅の流れになる可能性が高い。

 ここまで来たのだから上手くいってほしい。

 積極的な協力をするために世界は言った。

 

「私が伊藤の気持ちを確かめるよ。数日もかからないと思うから任せて」

 

 何気なく世界が見るのは言葉。

 まだ伊藤に未練があるのかもしれない。

 それならケジメをつけるためにも選んでほしい。

 恋愛は相手の気持ちがあって初めて成立するから。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定