World Days(新版) 作:完結の陽炎
親戚縁者の冠婚葬祭。
浮気の子どもという大人の陰口と軽蔑の眼差し。
あまりに嫌な雰囲気である。
世界と刹那はその場を逃げるようにして離れた。
まだ子どもの二人に大人の事情はわからない。
それでも母が何かしらに悪いことをしたのはわかった。
詳細を理解するのはもう少し後になってからである。
逆に良いこともあった。
新たに同い年の女友達ができたのだ。
仲良くなれたのは二人。
「へえー、せつなっていいなまえじゃん」
「ひかりもいいなまえ」
一人目は洋菓子屋おおはらを家業とする黒田光。
幼き頃はツインテールで、後にイカリングという独特な髪型をする。
周りから一歩引いて観察をするクセがあるようだ。
クールな印象のある刹那とは相性がいい。
世界を放っておけない刹那の考え方にも共感を示す。
「ななみってよんでいい?」
「いいよ。こっちもせかいってよぶから」
二人目はバスケを得意とするボーイリッシュな甘露寺七海。
言葉と同じ学校の出身。
しかしクラスが異なるため接点はないらしい。
「ことちゃんにあったら、ななみビックリするよゼッタイ」
「へえー、だったらあわせてよ」
「いいよこんど、あわせてあげる、ワクワクしてまっててよ」
世界は帰り道で刹那に頼み事をする。
面白いものを見せるために必要だから。
それは……。
「せかい、これでいいの?」
「おおー、さすがせつなだね」
いらない新聞紙で作らせた刀と鞘が二本。
刀身や柄、つば部分など工作が上手く凝っている。
子どもが遊べる玩具として一切の不足はない。
「せかい、これであそぶの?」
「ななうみにみせるんだ。ことちゃんのスゴさにビックリするよ」
「ななみ」
「どっちもおなじ」
「ちがう」
刹那お手製の刀と鞘。
その内の一本を言葉にプレゼントだ。
その代わりとして世界とチャンバラをやってもらう。
七海を驚かせるための作戦だ。
見た目が大人しい言葉を甘く見ている。
意外な一面があることで度肝を抜かせてやりたい。
居合とは畑違いになるが一向に構わない。
世界は最後まで我儘を貫き通すつもりだ。
チャンバラができる場所を言葉に頼み込む。
すると言葉は父に頼み、道場を貸し切ってくれた。
そこで七海と会うように時間を作らせる。
世界と刹那は家から道場まで距離が遠い。
言葉の働きかけで送迎の車を用意してもらった。
裕福なお嬢様ならこれぐらい朝飯前である。
桂言葉と甘露寺七海が顔合わせ。
男の子みたいなガサツな印象の七海。
清楚なお嬢様としてイメージする言葉。
体育系と文化系で正反対の人種。
どう見ても馬が合わない。
だが驚かせてやると息巻くのが世界だ。
一旦、道場を離れて更衣室で世界と言葉が着替える。
お互いに居合の道着を身に付けた。
髪が長い言葉は邪魔にならないように束ねる。
道場へ戻る両者。
七海は感心をしたように声を漏らした。
刹那に至っては物珍しそうに見つめている。
「ことちゃーん!! どこからでもかかってこーい!!」
「ほ、ほんとうにいいんでしょうか?」
「だいじょーぶ!! せつなのぶき、あたってもいたくないから!!」
新聞で作られたものだ。
チャンバラのごっこ遊びに適している。
スポーツ好きの七海が興味を抱く。
バスケという球技を基本的に好むが、武術も嫌いではない。
「わかりました」
観客の七海と刹那は道場の隅っこへ移動する。
世界と言葉の道場の中心で対峙。
やや離れた位置で向き合っていた。
「……っ」
世界は身震いをする。
直感的または本能的にヤバいと感じた。
目の前の言葉は稽古をする時と同じ。
ゆっくりと腰に携えた鞘から刀を抜く。
不思議なものである。
見た目は新聞紙で作った玩具だ。
それなのに本物のような威圧がヒシヒシと感じる。
本当に小学生の少女か?
そう疑ってしまうほどに末恐ろしい。
だが……。
「くっ……」
歯を食いしばって意地を張る。
ビビって逃げたら負けだ。
世界は居合構えで応じる。
無意識に腰が引けた。
でも逃げない。
絶対に引き下がってやるものか。
そもそも勝ち負けを気にしない。
これは七海を驚かせるための作戦だから。
目的を間違えてはいけない。
「いきます」
右手に握った抜き身のまま言葉が踏み込む。
急接近する言葉の素早さに世界の目は見開く。
すぐに刀を抜こうとしたが。
「っ!?」
世界の右手首を言葉の左手が押さえ込む。
これでは抜けない。
すぐに後ろへ下がろうとしたが手遅れ。
世界の首筋に新聞紙の刀身。
寸止めをされてしまっている。
「ちょ、ちょっとタンマ!! いまのナシナシ!!」
世界からの物言い。
急に近付いてビックリしたから反応が遅れた。
だから次は接近した状態でのスタートを要求する。
「わかりました」
今度は接近戦となる近くの位置で対峙。
言葉がゆっくりと納刀をしてからの居合構え。
世界も対抗して同じ構えをする。
次こそは反応してやろう。
言葉の動きをじっくりと観察。
いつでも来いと世界は応戦する気満々だ。
だが……。
「……へ?」
世界の間の抜けた声。
そろそろ来るかと思った時には遅かった。
世界の首筋に寸止め二回目。
いつ言葉が抜刀をしたのかよくわからなかった。
二回やったことでわかった。
言葉に先手を取らせてはいけない。
何もさせてもらえず不完全燃焼となってしまう。
「つぎはわたしがやる!!」
「あ、はい。どうぞ」
やられたらやり返す。
世界はムキになった。
居合構えから手加減なしで抜刀を仕掛ける。
言葉の首を狙って振り抜いてみせた。
タイミングを狙ったように言葉も抜刀。
互いの刀身が交差して、気が付けば世界の手元から刀が弾け飛んだ。
「だあーもうぉー!!」
三回も惨敗を喫する世界。
やられ役になったみたいにうつ伏せでダウン。
そんな世界を心配して刹那が駆け寄ってくれた。
「ことちゃんつよすぎ!! ずぇーたいにムリムリ!!」
「せかい、がんばった。よしよし」
畳に顔を埋めてふてくされる世界。
その頭を刹那が撫でで慰めてくれる。
どうしたらいいかで戸惑う言葉。
七海が興奮した様子で近寄ってきた。
「すげぇーな!! すっかりだまされたよ!!」
カッコいい言葉が見れた。
それで惚れ惚れとしたようである。
実に楽しげに笑い、瞬く間に言葉と仲良くなった。
それが世界の狙い。
でも連敗をしたことは純粋に悔しかった。
………………。
…………。
……。
同じ小学校で刹那以外に仲の良い友達はいないのか?
会話を楽しむクラスメイトが多い。
授業の班分けで協力をする程度には親しんでいる。
ただしプライベートまで仲良くはしていない。
どうせ同じ学校で会えるので、せっかく遊ぶのであれば他校生がいいという世界の価値観だ。
金持ちお嬢様の言葉・スポーツ万能の七海・家業の洋菓子屋が魅力的な光。
最も関わりが深いのは言葉で間違いない。
七海はバスケの試合があれば応援に行き、言葉に頼んで差し入れのスポーツドリンクを持って行く。
七海が試合で勝利をすれば、お祝いを理由に光に頼み、美味しいケーキを頂く。
小遣いが少ない世界はそのおこぼれを貰った。
光は呆れてしまうが世界のことを憎めない。
光が困った時に世界が率先して助けてくれるから。
大切な髪飾りをなくして一緒に探してくれた。
宿題でわからない時は、賢い刹那を連れて来て教えてもらった。
突進する自転車にぶつかりそうになった時、咄嗟に光の腕を引っ張り助けてくれた。
居合を習っている影響か、この時は自転車との間合いが近いから危ないと思ったらしい。
こうして他校生との交流を広げていった。