World Days(新版)   作:完結の陽炎

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第7話「世界は刹那の部屋がお気に入り」

 刹那の部屋は世界の部屋よりも間取りが広い。

 さすがに言葉の部屋よりは狭くなるがそれは別格だ。

 化粧ができるドレッサー、勉強用のデスク、戸棚、客用テーブル、ベッド、サイドテーブルとスタンドライトなど。

 女の子が生活をする機能は充分に持ち合わせている。

 娯楽となるゲームの類はなくパソコンもない。

 DVD再生が可能なモニタを置いてあるが、自分では使用しない飾り物扱いだ。

 たまに世界がDVDを借りて一緒に見ることがあるので無用の長物でもない。

 一見をするとシンプルなインテリアでミニマリストに該当するのかもしれない。

 それが刹那の性格を表していて、世界はそんな刹那の部屋がお気に入りだ。

 

「何度見ても家具は刹那のほうが充実しているんだよね。やっぱり間取りがあるのとないのとでは大違い」

「でも私、世界みたいに女の子らしい部屋じゃない。世界みたいな壁掛けもやらない」

「壁掛けは部屋を広くするための工夫だから。あと刹那はドレッサーがあるじゃない。私の部屋は狭いから置けないんだよね。洗面所のほうでメイクやるしかなくて」

 

 化粧ができる台と椅子の環境があることが羨ましい。

 ゆっくりと座って落ち着いた空間でメイクを楽しみたい。

 鏡を置いて簡易的にできなくもないが、ドレッサーで化粧という願望を抱く。

 

「部屋のモニタを取っ払い、戸棚を減らして、その中身はベッドの下とか他の戸棚とかで移動させればスペースが空くかも……でも部屋を圧迫しちゃうから、どのみち導入は難しそうだね」

「探せば省スペース、コンパクトなものもある」

「いや、ここは考えを変えるんだよ刹那。デスクとドレッサーを両方できるようにすればいいんだ。そもそも私って、机に座って勉強なんてやらないから物置扱いだし」

「それ胸張って言うことじゃない」

 

 机に向かうと嫌いな勉強を連想する世界。

 ただでさえ学校で授業という面倒を味わっているのに。

 プライベートまで勉強なんてしたくない。

 そのたびに刹那に世話を焼かれるのが常である。

 

「とにかく、私の家は刹那ほど裕福じゃないから、バイトしてお金稼いで、それで買えるまで頑張らないと」

「誕生日におねだりすればいいんじゃないの?」

「あのね刹那、私のお母さんは見栄張ってるけど、実際は貧乏でとってもケチなの。洗面台の鏡で事足りるからドレッサーなんて買ってくれないよ」

「なるほど確かに」

「そこで納得されても複雑な気持ちになっちゃうなぁー」

 

 他で代用ができれば余計なものは買わない。

 節約志向といえば聞こえはいいが、世界からすればケチ以外の何物でもない。

 欲しいものがあるなら、親に頼らずバイトをして稼ぐしかないのである。

 

「事実、おばさんはお金の使い方を間違えている」

 

 普段使うのを我慢して、その反動で加減ができない。

 相変わらず未来への自己投資だと言い続けている。

 そのたびに世界は貧乏飯に追い込まれる始末。

 それもあってか、世界の母に対して刹那はあまりいい感情を持っていない。

 

「刹那もそうだけど、おばちゃんも優しいね。お金のことは気にしなくていいから、ちゃんとお腹いっぱいに食べて元気出しなさいって言ってくれて」

「ご飯はしっかり食べないとダメ。困った時はお互い様」

「刹那が困る事なんてないから、一方的に私が助けられてるけどね」

「そんなことない。世界が傍にいて、頼ってくれて私は幸せだから」

「ふむ……」

 

 世界は刹那の幸せについて考えてみる。

 寂しがり屋で孤独に弱い刹那。

 それなら言葉という大親友がいる。

 光と七海というクラスの友達もいる。

 乙女と可憐も世界の事がなければ仲良くなれるだろう。

 だが……。

 

「刹那って愛想笑いができないから、周りに誤解されちゃうんだよね」

「私は世界と違って上手く笑えない」

「仲良くなればユーモアに溢れる刹那が見られるのに」

「見なくていい」

「あと他人に無関心なせいで、冷たい人、厳しい人、怖い人なんてマイナスなイメージで見られちゃうんだよ」

「興味がない」

 

 もし刹那に可憐ぐらいの愛嬌があれば可愛い系でモテるだろう。

 スレンダーで小型な女の子。

 田中のように惚れる男子が一定数いてもおかしくはない。

 そうなれば世界はいらない子扱いである。

 むしろ刹那にとって邪魔でしかないかもしれない。

 

「世界」

 

 刹那の冷たい声に世界は目を逸らす。

 睨んでいることが見なくてもわかる。

 黙っていても世界となら意思疎通ができてしまう。

 つまり今の世界が何を考えているのかを感じ取っている。

 それは刹那にとっては極めて不愉快なこと。

 世界の自己否定は認めないし許さない。

 

「私、何も言ってないよ」

「言わなくてもわかる」

「ほぉー、じゃあ当ててみなよ名探偵くん」

「ふざけないで」

「それが私だからね。知ってるでしょ?」

「それなら私のことも知ってるよね? そういうの嫌いだって」

 

 父みたいに世界を捨てたりしない。

 無責任で育児放棄した父と一緒にしないでほしい。

 だから世界はここにいていいし、自分の存在を否定しないでと刹那は強く思う。

 

「その逆をすれば、刹那が喜んで好きになるのね。刹那の幸せを望む私としては、それを参考にしたいところだよ」

「私の幸せじゃなくて、世界は自分の幸せをちゃんと考えて」

「いつも世界のため、なんて口癖みたいに言う刹那がそれを言えるの?」

「むむむ」

「刹那のため、世界のため。これでおあいこだよ」

「それは屁理屈」

 

 世界が右手を差し出すと刹那も右手を伸ばした。

 これからもよろしくという意味で握手を交わす。

 以心伝心ができるほど絆の繋がりを実感した。

 

 区切りがつくと、世界は手を離して刹那のベッドへダイブ。

 ゴロゴロと寝転がって猫みたいに振る舞う。

 はしたないと思って刹那が注意をしても無駄である。

 

「刹那の前だけだからいいでしょ。他の人の前でやる訳じゃないから」

「世界ならことぴーの前でやりそう」

「やらないってば。ほら、こころちゃんがマネしたらマズイかなって思うし」

「そこは考えてるんだ。少し見直した」

「まあ、こころちゃんが先にやってたら遠慮しないけどね」

「前言撤回」

「でも刹那の枕ってなんか気持ちいいね。いい匂いがしてとっても落ち着く」

「嗅ぐな」

「嗅いでないよ!! 私は犬か!!」

「枕を返しなさい」

「ちょっとぐらい貸してよ。減るものじゃないのに」

「返しなさい」

「やだ」

 

 ギュッと枕にしがみつく。

 それが心の後ろから抱き着いた世界の光景を思い出させた。

 ムスッと刹那の機嫌が悪くなり、世界のほっぺを容赦なく引っ張る。

 ひぃひぃと情けない悲鳴をあげ、涙目で許しを求めて枕を返した。

 

「刹那のケチ。私だったらいくらでも枕ぐらい貸すのに」

「自分がそうだからって人もそうだとは限らない」

「だったら刹那が枕の代わりになれるの? ギュッとされたら暑苦しいって怒るでしょ?」

「なぜそう決め付ける?」

「普通じゃん。今は暑い夏だし。エアコンで冷房効きすぎて寒いって感じだったら、それで抱き着いてもちょうどいい感じになるかもしれないけど」

「……」

「ちょっとストップ刹那。なんでエアコンのリモコンを取ったの?」

「部屋が暑いと思って」

「いやいや丁度いいから。これ以上冷やしたら寒くなるってば」

「そう……」

「なんで残念そうなの? 刹那ってたまにとんでもない事しようとするね」

「世界が言えたことじゃない」

「なによ。私がいつそんなこと――」

「これまで世界がやらかしたこと、全部話すと深夜になるけど聞く覚悟ある?」

「ごめんなさい」

 

 心当たりがありすぎて世界は速攻で謝る。

 現状を打開するために話題を変えるしかない。

 そこで夏祭りについて切り替えることにした。

 

「刹那って動きにくい浴衣が苦手だよね? 今年の夏祭りはどうしようか?」

「世界はどっちがいい?」

「私は私服。浴衣だと帽子とミスマッチだからね。クセ毛が隠せないし」

「かわいいのに」

「だから何度も言ってるけど、ダメなものはダメなの」

「わかった。それなら私も私服で」

 

 予算が少ないため、出店で何か買う場合は厳選が必要。

 あえて買わず見て回るだけにして雰囲気を楽しむのもありだ。

 

「刹那、水筒持参する? そうすれば買わずに済むから」

「うん。水分補給は大事」

「食べ物はシェアできるものを一つか二つまでにして半分っこがいいかな?」

「世界は何が食べたい?」

「定番のたこ焼きは外せないよ。刹那は何かある?」

「たこ焼きでいい。きっちりと分けられて食べやすい」

「決まりだね。あとは花火でも鑑賞できれば上出来ってことで」

 

 なるべくお金の掛からない方向で計画をしていく。

 バイトで稼いでいればと思っても仕方がない。

 貧乏であっても見捨てずにいてくれる刹那の存在はありがたい。

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