World Days(新版)   作:完結の陽炎

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第8話「夏祭りデートの空気を読む」

 夏祭り前に軽食は済ませておきたい。

 刹那には日頃からお世話になっている。

 

 いい機会だ。

 

 感謝をこめて刹那のマンションで手料理を振る舞う。

 世界が得意とするサンドイッチと紅茶を作った。

 この二つだけは徹底的に試行錯誤をして研究を重ねている。

 母の妥協をしないこだわりが受け継がれていた。

 

 なぜそこまでしたのか?

 

 刹那は固い表情のままで食事をする。

 それを笑顔にしてみたい。

 美味しかったら喜んで自然に笑うだろう。

 ただそれだけの為に幼い頃から頑張ってみた。

 

「美味しい」

「それは何より」

 

 世界の真心が刹那に伝わる。

 打算なきシンプルな厚意。

 相手が喜べば自分も嬉しい。

 

 刹那は感情表現が苦手だ。

 本人もそれを自覚して笑顔になりたいと思っている。

 笑っているつもりでも相手に伝わらないケースが大半だ。

 表面上しかわからない人には、クールな刹那にしか見えない。

 

「ご馳走さま」

「はい。お粗末さまでした」

 

 軽食が終わった時に刹那が訊いてくる。

 自分の表情が変わったかどうかを。

 世界のようにニッコリできる自信はない。

 

「私はわかるけど、他の人だとわからないんだよね」

 

 お互いに以心伝心ができる関係。

 刹那の微かな変化を世界はちゃんとわかってしまう。

 だから世界が笑ってると言っても他の人には笑ってない。

 そうなってしまうので、世界の主観は参考にならない。

 

「世界がわかってくれるならそれでいい」

 

 刹那からしたら他の人なんてどうでもいい。

 一番わかってほしい世界がわかってくれたら充分である。

 

「刹那の笑顔がわかるのって私とおばちゃん、あとはことちゃんぐらいだね」

 

 言葉の観察力は格が違い過ぎる。

 世界の体調を一瞬見ただけで判別ができるほどだ。

 刹那の感情表現も易々と見極めてしまう。

 それは例外中の例外といっていい。

 

「ことぴーは凄い」

「だからこそ妬まれやすいんだよ。一番敵に回したらいけないタイプなのに」

「世界は、ことぴーがイジメられることを警戒した」

「ことちゃんは男にモテるからね。女からすればやっかみの対象間違いなし。特に乙女が一番ヤバかった」

「乙女がイジメたら世界は黙っていない。あの時の世界、カッコ良かった」

「恋敵の可能性を消してしまえば、乙女は面倒見がいいから、ことちゃんと上手くやれると思ったよ」

 

 食休みの会話をした後で夏祭りに出かける。

 アホ毛を隠すための野球帽は欠かさない。

 そして刹那の左側に寄り添って歩いていく。

 

「わおー、祭りだから人で混んでるね」

「世界、コケないように足元気を付けて」

「刹那もね」

 

 二人で出店をゆっくりと見て回っていく。

 それだけでも祭りの雰囲気を楽しめるものだ。

 

 途中で遠巻きから乙女と伊藤を見つける。

 浴衣姿にポニーテールの乙女。

 伊藤の隣を歩き、おしとやかな雰囲気だ。

 伊藤も乙女のことを意識しているようである。

 

「邪魔しないように移動しよ刹那」

「うん」

 

 その後しばらくして次に会ったのは光と澤永。

 光は髪を団子にアップさせている。

 普段では見られない浴衣姿もあって、澤永の目は釘付けとなっていた。

 

「光ってば、いつになく気合い入ってるね」

「世界、行こう」

「そうだね。空気を読んで静かに退散」

 

 頃合いを見計らって屋台のたこ焼きへ立ち寄る。

 二人で半分のシェアをして持参した飲み物で水分を補給。

 

 花火があがるようになった。

 空へ飛び散る音と共に美しい模様が描かれる。

 

 世界と刹那のアイコンタクト。

 人混みから離れた場所で立ち止まる。

 そして二人で肩を並べて花火を見物した。

 

「刹那、こういう時間ってホント早いと思わない?」

「思う」

「皆で楽しむのもいいけど、こうして二人で楽しむのもありだね」

「うん」

 

 二人の視線は青空の花火から離れない。

 そのまま次の話題を振る。

 

「刹那って、彼氏作ろうと思わないの?」

「興味ない。世界こそどうなの?」

「私は刹那の幸せを見届けてから考える」

「そんなこと言って。世界は男子から告白されるかもしれない」

「あっても断るよ。他を当たるようにって」

「私に気を遣ってる?」

「違うよ。別の理由」

 

 世界は数歩だけ前に出る。

 その背中を刹那が見つめる。

 静かに振り返る世界の後ろで花火があがった。

 

「私、男の人を信じられないから」

 

 どうしても疑心暗鬼になってしまう。

 刹那や言葉みたいに全面的な信頼ができない。

 

「刹那のお父さん、約束を守ってくれるといいね」

「世界……」

「二度と浮気しない。真面目に生きる。刹那が幸せに感じるなら、私はそれでいい。そう思ってるよ」

 

 どうせ父は約束を破るだろうという世界の不信感。

 そんな父を反面教師とするためか。

 世界は刹那と交わした約束を徹底して守る。

 それこそ自分の命に代えても構わない。

 

「たとえ浮気の子どもとして陰口を叩かれても、刹那がいてくれるから平気」

 

 元気に笑う世界と悲しそうにする刹那。

 ゆっくりと近付き刹那の頭を優しく撫でた。

 まるで姉が妹を慰めるかのように。

 そして刹那が花火の上昇に合わせてそっと呟く。

 

「おねえちゃん」

 

 花火の音にかき消されても世界には伝わった。

 生まれた時から一緒だからこそわかってしまう。

 異母姉妹という秘密の関係。

 それがお互いの絆を強固なものにしている。

 

「んっ、何か言った? という感じにとぼけたほうがいい?」

「……世界の意地悪」

「それは今更じゃない。そろそろ帰ろ刹那」

「うん」

 

 刹那から手を繋いできた。

 そういう気分になったのだろう。

 何も言わずに黙って握り返し、そのまま帰路を歩いて行った。

 

 世界が部屋で休んでいると光からの着信メール。

 澤永から告白をされて光がOKで恋人成立という朗報。

 

 これは実にめでたい事である。

 世界から積極的に電話をかけて祝福をした。

 

「あっちへフラフラ、こっちへフラフラする澤永を、しっかりと光が捕まえておかないとね」

「わ、わかってる」

「秋には学園祭があるから、そこで恋人の時間を楽しめばいいんじゃない?」

「こ、恋人って……もう世界ってば、恥ずかしい事いわないでよ!!」

「照れない照れない。澤永と幸せになるように頑張れ」

「……世界」

「ん?」

「あ、ありがとう。色々と気を遣ってくれて」

「ううん、お礼ならことちゃんに言ってあげて。色々サポートしてくれたの知ってるでしょ?」

 

 言葉と馬が合わないことは知っている。

 それでも最低限としてお礼は言っておくべきだ。

 光は面と向かって言えるほど素直になれない。

 だから言葉にお礼のメールをする形にした。

 光の性格をわかっている言葉にはそれで充分である。

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