World Days(新版)   作:完結の陽炎

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第9話「桂家のお父さんに肩もみ」

 夏休みの後半で海外に家族旅行をした言葉。

 帰国をした言葉から頂く土産のお菓子が美味しかった。

 それにより体重計に乗るのが怖くなる。

 

 ダイエットとストレス発散。

 その両方を兼ねて、久しぶりの居合を検討してみる。

 だが一人で考え込んでも埒が明かない。

 そこで言葉に電話をして相談に乗ってもらう。

 

「お父さんにお願いをすれば、道場貸して頂けますよ」

「それなら一緒にお願いしよ。その場でお礼を言わないと言いそびれちゃうし」

「お泊りの際に言いますか?」

「そうだね。あ、中学でお互い本物の刀を使うようになったね、ことちゃんは覚えてる?」

「もちろんです。私たちが成長した記念に、お父さんがプレゼントしてくれましたから」

 

 初めて真剣を持った時は、お互いに緊張をしたものである。

 料理で使う包丁とは勝手が違う。

 刃が付いていない居合刀よりも扱いが慎重になった。

 

 後日、言葉の父へお願いとお礼を伝える。

 父は快くOKをして道場を貸し切る手配をした。

 そして世界のやりたいことが突発的に浮かぶ。

 

「おじちゃん、肩もみしてもいい?」

「おや世界ちゃん、昔みたいにやってくれるのかい?」

「私、刹那、ことちゃん、こころちゃんの四人交代で力を合わせて、長く肩もみができるよ」

 

 お泊りに来ているので刹那もいる。

 ただ静かに見守っている。

 肩もみに関して特に異議はないようだ。

 

 言葉はいきなりの事で戸惑う。

 年頃になってから父親に触れることがなくなった。

 それでもお父さんっ子に変わりはない。

 

 心は面白そうということで即OK。

 世界がやり始める事でお祭り気分を味わえる。

 たまには親孝行をするのもいい。

 

「順番として言い出しっぺの私が最初にするのが筋だね」

「二番目はこころがしたい!!」

「了解。じゃあ三番目は刹那、最後はことちゃんでいい?」

「別にいい」

「えっと……はい、構いません」

 

 リビングのソファに座り込んでる父の後ろへ回る。

 そこから両手を使い、大人の肩を揉み始めた。

 母の肩と比べると大きさも固さも違う。

 

「おじちゃん、たまに私の友達が働く店でケーキ買ってるって聞いたよ」

「黒田さんのことかね? あのお店のケーキは家族に評判が良くてね」

「うんうん、光の店にあるケーキは最高だよ。あ、いずれ私もそこでバイトするから、その時はよろしくお願いします」

「そうか。それは楽しみだね」

 

 肩もみしながら会話をしばらく楽しむ。

 手が疲れてきた頃に心とバトンタッチ。

 そして心が元気よく父の肩を揉んでいく。

 

「心、元気でいてくれてお父さんは嬉しいが、あまりはしゃぎ過ぎて、他の人に迷惑かけないようにな」

「むぅー、こころはそんなことしないよ!!」

「そうか?」

 

 心は父に言っても話についていけないと思う。

 

 友達に付き合ってる彼氏がいる。

 とてもラブラブで大人みたいだと憧れる。

 羨ましくていつか心にもそういう人がほしい。

 

 もしそんなこと伝えたら、父がダメ出しをするに違いない。

 

 まだ心には早すぎる。

 

 子ども扱いされてしまうのがわかりきっている。

 心はお子様扱いされてしまうことを好まない。

 まるで見下されているようで反抗したくなるから。

 

「刹那さーん、交代してぇー」

「わかった」

 

 刹那は父である瞬との思い出がない。

 父のせいで母を泣かせたという嫌な記憶は残っている。

 あとは世界と過ごした日々で埋め尽くされていた。

 

 直接会って約束を交わしている。

 でもお父さんと呼んでいない。

 そう呼べるようなことを相手がしていないから。

 

「刹那ちゃん、考え事かい?」

「うん。私と世界、小さい頃からお父さんいない。ことぴーが羨ましい」

「そうか……」

 

 妻を通じて世界と刹那が母子家庭であることは知っている。

 さすがに経緯までは深入りしていない。

 それは相手のプライベートな問題であるからだ。

 

 場の空気が重くなった。

 いち早く察知をするのが世界。

 刹那の不器用な言い方へのフォローは欠かさない。

 

「おじちゃん、刹那のことはせっちゃん呼びしないの?」

「いや、それはちょっと恥ずかしいからね」

「ほら見てよ刹那。恥ずかしいってさ」

「恥ずかしくない」

 

 不機嫌になって肩揉みに力がこもる。

 言葉に比べて握力はないが怒ってるのは伝わった。

 刹那は愛称を大切にしている。

 言葉の父にもせっちゃんと呼んでほしい。

 

「で、では一度だけだぞ……せっちゃん」

「うん、ありがとうおじさん」

 

 世界が目で合図を送る。

 それを刹那が感じ取ってアイコンタクトで了解を示す。

 区切りがいいので言葉と交代だ。

 

「ことぴー、ラストよろしく」

「あ、はい」

 

 言葉にバトンタッチをする刹那。

 まるで世界のマネをするかのように。

 

 父の背中が懐かしい。

 小さい頃におんぶをしてもらったこと。

 その時の力強くて広い背中をハッキリと覚えている。

 

「言葉、学校は上手くやっているか?」

「うん。お父さん、学園祭の日も仕事で忙しい?」

「そうだね。すまないが行けそうにないよ」

「ううん、お父さんがいなくても全然平気よ。私には大切なお友達がいるから」

「それはそれで寂しいものだな」

 

 深く干渉をしなくても子どもは勝手に育っていく。

 むしろ今ぐらいに自由であったほうがいいのかもしれない。

 あれこれと言われても、子どもからすれば窮屈になってしまうから。

 

「何か困った事や悩みがあったら相談しなさい。私でもお母さんでも構わないから」

「うんわかった」

 

 このやり取りを近くで聞いている心。

 明らかに不満な顔を浮かべている。

 

 自分にはそんな事言わなかったのに?

 何でお姉ちゃんだけ?

 

 実にわかりやすい反応である。

 兄弟姉妹でよくある不平等に関しての反抗心だ。

 

「こころちゃん、困った時や悩みがあったら私か刹那に相談する?」

「いいの?」

「本当ならお父さんがいいんだろうけど、こころちゃんはどう思う?」

「ふーんだ。お父さんはお姉ちゃんばっかり。だから相談なんてしないもーん」

「あ、いや待ちなさい心。私は心も大事に思ってるからな」

「こころちゃん、姉妹で平等って難しいんだね。おじちゃんも完璧じゃないって昔言ってたし。今まさにそれが証明されたと思っていいんじゃない?」

「でもね世界さん、お父さんって間違ってもごめんなさい言わないんだよ」

「あれそうなの? おじちゃんって、結構そういうのちゃんと謝りそうなのに、私の勘違い?」

 

 妻や子どもに対して失敗をしても謝れない。

 男としてのプライドが邪魔をするのだろうか?

 あるいは妻や子どもに舐められてしまう可能性を恐れているのか?

 態度で申し訳ないことは伝わるが、上手く口に出せないらしい。

 

「私がこころちゃんのお父さんなら、失敗した時は素直に謝って、どうしたら次から失敗しないかを話し合うけどね」

「だよねー。世界さん、こころのお父さんになって」

「あいにく私は女の子だから。おじちゃんの代役は性別からして無理だね」

 

 世界はここから心のご機嫌を取っていく。

 心という名前に相応しい寛大な大人の女として父の失敗を許す。

 あえて大人を強調することで心の自尊心を傷つけない。

 そう促すように言うことで心の精神は安らぐ。

 そして相談してあげるみたいな軽いノリで父は許される。

 

 言葉は肩もみしながら事の成り行きを見届けた。

 刹那と心。

 どちらも世界のフォローで雰囲気が良くなった。

 とにかく人と人との繋ぎが上手い。

 世界の人望が厚いのも納得である。

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