World Days(新版) 作:完結の陽炎
夏休みの後半で海外に家族旅行をした言葉。
帰国をした言葉から頂く土産のお菓子が美味しかった。
それにより体重計に乗るのが怖くなる。
ダイエットとストレス発散。
その両方を兼ねて、久しぶりの居合を検討してみる。
だが一人で考え込んでも埒が明かない。
そこで言葉に電話をして相談に乗ってもらう。
「お父さんにお願いをすれば、道場貸して頂けますよ」
「それなら一緒にお願いしよ。その場でお礼を言わないと言いそびれちゃうし」
「お泊りの際に言いますか?」
「そうだね。あ、中学でお互い本物の刀を使うようになったね、ことちゃんは覚えてる?」
「もちろんです。私たちが成長した記念に、お父さんがプレゼントしてくれましたから」
初めて真剣を持った時は、お互いに緊張をしたものである。
料理で使う包丁とは勝手が違う。
刃が付いていない居合刀よりも扱いが慎重になった。
後日、言葉の父へお願いとお礼を伝える。
父は快くOKをして道場を貸し切る手配をした。
そして世界のやりたいことが突発的に浮かぶ。
「おじちゃん、肩もみしてもいい?」
「おや世界ちゃん、昔みたいにやってくれるのかい?」
「私、刹那、ことちゃん、こころちゃんの四人交代で力を合わせて、長く肩もみができるよ」
お泊りに来ているので刹那もいる。
ただ静かに見守っている。
肩もみに関して特に異議はないようだ。
言葉はいきなりの事で戸惑う。
年頃になってから父親に触れることがなくなった。
それでもお父さんっ子に変わりはない。
心は面白そうということで即OK。
世界がやり始める事でお祭り気分を味わえる。
たまには親孝行をするのもいい。
「順番として言い出しっぺの私が最初にするのが筋だね」
「二番目はこころがしたい!!」
「了解。じゃあ三番目は刹那、最後はことちゃんでいい?」
「別にいい」
「えっと……はい、構いません」
リビングのソファに座り込んでる父の後ろへ回る。
そこから両手を使い、大人の肩を揉み始めた。
母の肩と比べると大きさも固さも違う。
「おじちゃん、たまに私の友達が働く店でケーキ買ってるって聞いたよ」
「黒田さんのことかね? あのお店のケーキは家族に評判が良くてね」
「うんうん、光の店にあるケーキは最高だよ。あ、いずれ私もそこでバイトするから、その時はよろしくお願いします」
「そうか。それは楽しみだね」
肩もみしながら会話をしばらく楽しむ。
手が疲れてきた頃に心とバトンタッチ。
そして心が元気よく父の肩を揉んでいく。
「心、元気でいてくれてお父さんは嬉しいが、あまりはしゃぎ過ぎて、他の人に迷惑かけないようにな」
「むぅー、こころはそんなことしないよ!!」
「そうか?」
心は父に言っても話についていけないと思う。
友達に付き合ってる彼氏がいる。
とてもラブラブで大人みたいだと憧れる。
羨ましくていつか心にもそういう人がほしい。
もしそんなこと伝えたら、父がダメ出しをするに違いない。
まだ心には早すぎる。
子ども扱いされてしまうのがわかりきっている。
心はお子様扱いされてしまうことを好まない。
まるで見下されているようで反抗したくなるから。
「刹那さーん、交代してぇー」
「わかった」
刹那は父である瞬との思い出がない。
父のせいで母を泣かせたという嫌な記憶は残っている。
あとは世界と過ごした日々で埋め尽くされていた。
直接会って約束を交わしている。
でもお父さんと呼んでいない。
そう呼べるようなことを相手がしていないから。
「刹那ちゃん、考え事かい?」
「うん。私と世界、小さい頃からお父さんいない。ことぴーが羨ましい」
「そうか……」
妻を通じて世界と刹那が母子家庭であることは知っている。
さすがに経緯までは深入りしていない。
それは相手のプライベートな問題であるからだ。
場の空気が重くなった。
いち早く察知をするのが世界。
刹那の不器用な言い方へのフォローは欠かさない。
「おじちゃん、刹那のことはせっちゃん呼びしないの?」
「いや、それはちょっと恥ずかしいからね」
「ほら見てよ刹那。恥ずかしいってさ」
「恥ずかしくない」
不機嫌になって肩揉みに力がこもる。
言葉に比べて握力はないが怒ってるのは伝わった。
刹那は愛称を大切にしている。
言葉の父にもせっちゃんと呼んでほしい。
「で、では一度だけだぞ……せっちゃん」
「うん、ありがとうおじさん」
世界が目で合図を送る。
それを刹那が感じ取ってアイコンタクトで了解を示す。
区切りがいいので言葉と交代だ。
「ことぴー、ラストよろしく」
「あ、はい」
言葉にバトンタッチをする刹那。
まるで世界のマネをするかのように。
父の背中が懐かしい。
小さい頃におんぶをしてもらったこと。
その時の力強くて広い背中をハッキリと覚えている。
「言葉、学校は上手くやっているか?」
「うん。お父さん、学園祭の日も仕事で忙しい?」
「そうだね。すまないが行けそうにないよ」
「ううん、お父さんがいなくても全然平気よ。私には大切なお友達がいるから」
「それはそれで寂しいものだな」
深く干渉をしなくても子どもは勝手に育っていく。
むしろ今ぐらいに自由であったほうがいいのかもしれない。
あれこれと言われても、子どもからすれば窮屈になってしまうから。
「何か困った事や悩みがあったら相談しなさい。私でもお母さんでも構わないから」
「うんわかった」
このやり取りを近くで聞いている心。
明らかに不満な顔を浮かべている。
自分にはそんな事言わなかったのに?
何でお姉ちゃんだけ?
実にわかりやすい反応である。
兄弟姉妹でよくある不平等に関しての反抗心だ。
「こころちゃん、困った時や悩みがあったら私か刹那に相談する?」
「いいの?」
「本当ならお父さんがいいんだろうけど、こころちゃんはどう思う?」
「ふーんだ。お父さんはお姉ちゃんばっかり。だから相談なんてしないもーん」
「あ、いや待ちなさい心。私は心も大事に思ってるからな」
「こころちゃん、姉妹で平等って難しいんだね。おじちゃんも完璧じゃないって昔言ってたし。今まさにそれが証明されたと思っていいんじゃない?」
「でもね世界さん、お父さんって間違ってもごめんなさい言わないんだよ」
「あれそうなの? おじちゃんって、結構そういうのちゃんと謝りそうなのに、私の勘違い?」
妻や子どもに対して失敗をしても謝れない。
男としてのプライドが邪魔をするのだろうか?
あるいは妻や子どもに舐められてしまう可能性を恐れているのか?
態度で申し訳ないことは伝わるが、上手く口に出せないらしい。
「私がこころちゃんのお父さんなら、失敗した時は素直に謝って、どうしたら次から失敗しないかを話し合うけどね」
「だよねー。世界さん、こころのお父さんになって」
「あいにく私は女の子だから。おじちゃんの代役は性別からして無理だね」
世界はここから心のご機嫌を取っていく。
心という名前に相応しい寛大な大人の女として父の失敗を許す。
あえて大人を強調することで心の自尊心を傷つけない。
そう促すように言うことで心の精神は安らぐ。
そして相談してあげるみたいな軽いノリで父は許される。
言葉は肩もみしながら事の成り行きを見届けた。
刹那と心。
どちらも世界のフォローで雰囲気が良くなった。
とにかく人と人との繋ぎが上手い。
世界の人望が厚いのも納得である。