World Days(新版)   作:完結の陽炎

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第10話「世界と言葉の居合」

 貸し切っている道場。

 習い事で身に着けていた道着や袴。

 しっかりと髪を束ねている言葉が凛々しい。

 世界も同じように道着を纏って気を引き締める。

 世界の居合を見ようと刹那がついて来た。

 心は習い事があるため不参加である。

 

「ねえ刹那、ちょっとお願いがあるんだ」

「なに?」

「刹那が付けているリボン。少しの間だけ借りていい?」

「いいけど……はい」

「それを私に着けてくれない?」

「わかった……世界、付けたよ」

「OK。ま、ちょっとしたおまじないなんだけどね」

 

 刹那の青いリボンを頭に着けた世界。

 刹那が傍にいるみたいで心強く感じる。

 

 それから真剣を用いての居合を始めた。

 刹那のリボンで世界のメンタルが大きく変化をする。

 

 純粋で真っ直ぐ。

 そしてフォームの美しさに満ちていた。

 

「世界、すごい」

 

 瞬きも忘れるほどに見惚れる刹那。

 しっかり振り抜き、対象の巻き藁を斬り落とす。

 一振りの残心を済ませて納刀から一礼も淀みがない。

 明らかに今までの世界から一皮むけていた。

 

「世界ちゃん、今まで本気を出していなかったのでしょうか?」

「本気だよ。ただ刹那のリボンを着けてると、何でも出来そうな気になってくるの」

 

 世界はおしゃれを好む女の子だ。

 役になり切るようなノリの良さもある。

 たまにはそういう気まぐれを楽しむのも悪くはない。

 

「よく似合っています」

「皆には内緒にしてよ。刹那も」

「なんで? 別に隠すことないと思う」

「照れくさいからよ。ほらリボン返すから刹那が外して」

「ずっとそのままでいてほしい」

「だったら、ことちゃんの居合が終わるまでね。シャワー浴びて着替えることになるし」

「世界のケチ」

「ケチで結構よ。ほらことちゃん、バサッと決めちゃって」

「わかりました」

 

 世界の要望に応えるため言葉が静かに構える。

 真剣な顔立ちで集中を高める。

 

 一気に道場内の空気が冷たくなった。

 世界と刹那が寒気で鳥肌を立たせてしまう。

 

 淡々と真っ二つにする言葉の抜刀術。

 背筋が凍るほどの無慈悲な動作。

 ホラーの恐怖を感じさせる冷徹な太刀筋。

 

 世界の居合が光なら、言葉の居合は闇に例えられる。

 ゆっくりと呼吸を整えての納刀を済ませての一礼。

 そして言葉の雰囲気がいつも通りの平常なお嬢様へ戻る。

 

「ひゃあー、いつ見ても桁違いだね。ことちゃんが敵に回ったら勝てる気しないよ」

「もう世界ちゃん、私がそんなことする訳ないじゃないですか」

「そりゃそうだね――って刹那、大丈夫!?」

 

 刹那の顔色が真っ青である。

 しかもブルブルと震えが止まらない。

 明らかに言葉の居合に恐怖をしている。

 世界が優しく抱き寄せて落ち着かせた。

 

「ごめんなさいせっちゃん!! 怖がらせてしまって!!」

「これは仕方ないよことちゃん。居合の独特な雰囲気に慣れてないとさ。私も最初は刹那みたいに身震いしたことあるし」

「あ、私も入りたての頃は怖かったです」

「静まり返ってヒンヤリした空気っていうか、最初はビビってしまうよね」

 

 誰もが通る道かもしれない。

 慣れてくれば居合の空間が心地良くなるものだ。

 集中力が高まり、精神が鍛えられる。

 二人は当時を懐かしんだ。

 

 もっとも刹那が恐怖をしたのは、居合そのものではない。

 世界の居合は平気なのに、言葉の居合は恐ろしい。

 同じ居合でも、相手によって違うのだと感じ取った。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 たまたま気が向いたからリボンを装着した。

 それから世界の中で姉としての願望を自覚する。

 

 以前から羨ましいという嫉妬はあった。

 乙女にしても、言葉にしても

 姉妹のやり取りを表に出すことは許されない。

 

 真実を知ったことに後悔はない。

 そのおかげで刹那との絆を深めることができた。

 ただ、それでも思う。

 親友だけでなく姉妹として接してみたい時はある。

 

「世界、何か悩み事?」

 

 世界の部屋でお泊りに来ている刹那。

 ベッドで座って雑誌を読みながら声を掛けてきた。

 すぐに世界の違和感に気付けるのだから鋭い。

 

「楽しい夏休み、あと少しで終わるのが悲しい」

 

 これは嘘ではない。

 夏休みが終わるのが憂鬱である。

 また近い内に堅苦しい勉強がある学園生活が始まるのだ。

 

「……それだけ?」

 

 他にもあるだろうと言いたげな刹那。

 嘘をついていないことはわかっている。

 でも本命は別にあるだろうと雑誌を手元に置く。

 刹那はベッドの奥にある壁際にもたれている形。

 それに対して世界はベットの手前にあるフチを背に、クッションを置いて座っている。

 つまり刹那の視点だと世界は背を向けている。

 

「世界、人の話を聞く時は相手を見る」

「雑誌読みながら話しかける刹那に言われたくない」

「もう置いた。こっちを見て話そう」

「こーとーわーる」

 

 ムキになって意地でも見ようとしない。

 子どもみたいに駄々をこねるのも世界の個性だ。

 

 それならと刹那からグイグイと動くしかない。

 ベッドから下りて世界の正面に座ろうとした。

 

「こっち見ないで」

 

 置いたクッションを取って刹那の顔に押し付ける。

 そのまま強引にベッドへ押し倒した。

 刹那が手足をバタバタと抵抗をする。

 

「ええいもう!! 動くな!!」

 

 世界が手足を絡め、ギュッと抱っこして拘束をする。

 クッション越しだからお互いの顔は見えない。

 

「世界苦しい。離して」

「ここで妥協案。背中合わせで会話よ。OK?」

「……OK」

「交渉成立」

 

 ベッドに座っての背中合わせに切り替える。

 これなら目を見られる心配がない。

 

「他の悩み事は自己管理が難しいことよ。その日によって体調が違うし、どこまで頑張れるかの加減も調整が大変だから」

「私が見る。世界が無理しなくていいように」

「ありがとう」

 

 これで気が済んだかと沈黙で様子見。

 しかし刹那はまだ不満があるようだ。

 

「ことぴーと乙女が羨ましい?」

「……なにが?」

「二人とも姉としての立場を持っている」

 

 バレバレである。

 前々から羨ましそうにする世界を見ている。

 聡明な刹那なら悟ってしまってもおかしくはない。

 

「ねえ刹那、私たちのお母さんが何も知らないと思う?」

「思わない」

「どうして私たちに秘密にしていると思う? 当然言える訳ないよね。お父さんの浮気とお母さんの寝取り、両方の問題があって、私が生まれているんだから」

「やめて」

「うんやめる。この件は隠さないといけない事だから。ことちゃんは信頼できるから例外ね」

 

 わざと後頭部を刹那のリボンに押し付ける。

 世界は目を閉じて、そっと語りかけるように伝えた。

 

「ごめんね刹那。でも私は生まれてきて良かったと思ってる。だから生まれを否定する気はないから」

「うん。でも謝らないで。世界は何も悪くないから」

「それじゃあ、ありがとうならOK?」

「OK」

 

 刹那も目を閉じて後ろのぬくもりを堪能する。

 お互いの鼓動が心地よさそうに脈を打つ。

 両者の絆を深めていくかのように。

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