World Days(新版)   作:完結の陽炎

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榊野学園2学期
第1話「2学期の席替え」


 夏休みが終わって2学期が始まる。

 だが世界の休み気分は抜けていない。

 刹那がアパートまで迎えに来た。

 でも病欠の意思を見せての登校拒否である。

 

「世界、仮病はダメ」

「仮病じゃない。九月病だよ」

「それでずっと休むつもり? 出席日数が足りなくなって留年したいの?」

「刹那先輩――って睨まないでよ冗談だって」

「私、そういう冗談嫌いだから。次言ったら蹴るよ」

「暴力反対。あと引っ張らないで」

 

 刹那の強引な連れ出しで通学をする。

 手を繋がれて逃がすつもりがない。

 小柄な体格に見合う刹那の小さな手。

 まるで小学生時代に戻ったようで懐かしくなる。

 ちょっとした回想をしての現実逃避だ。

 世界のメンタルは弱点でもあり、九月病は侮れないのである。

 

「規則正しい生活をしないからそうなる。生活リズムを整えないと辛くなるって注意したのに」

「だって寝る時間もったいないって思わない?」

「夜更かし禁止。世界は体調崩しやすいから、尚更気を付けないとダメだよ」

「ご忠告どうも」

 

 世界は一人で寝ることが少し苦手である。

 悪い夢を見やすく精神的ダメージを受ける時があるからだ。

 それでは何のために寝ているのか分からなくなってしまう。

 まだ不眠症に陥るほど悪化がしていないのが幸いである。

 

「今日、刹那の部屋にお泊りしようかな?」

「いいよ」

「即答だね」

「世界、一人だとあまりよく眠れない。それを知ってるから」

「悪夢障害の可能性があるんだよね。ことちゃんに相談して改善をしている所だよ」

 

 頭を乗せるだけの枕よりも、全身でしがみつく抱き枕がいい。

 適度に寝返りが打ちやすい幅の広さも不可欠。

 白湯で胃腸を温めたり、ストレッチをして筋肉の緊張をほぐす等。

 そんな言葉の支援もあって、少しずつ良くしようとしている。

 

「ことちゃんからも焦らないように言われてる。だから今も刹那に甘える時に甘えさせてもらってる」

「うん。そんな世界だから、私もことぴーも頼ってほしいと思う」

「迷惑だと思わない二人の優しさに感謝だね」

 

 雑談で気を紛らわせての登校タイム。

 そうこうしている内に榊野学園に到着。

 下駄箱で靴を履き替えて1年3組の教室へ入る。

 隣の席にいる伊藤に朝の挨拶をかました。

 

「おはよう伊藤。澤永と喋ってると思ったのに、一人でいるのは珍しいね」

「おはよう西園寺。ついさっきまで話してたんだよ。でもトイレ行きたくなったみたいで」

「なるほど。話の内容は席替えのこと?」

「ああ、よくわかったな」

「最新情報のチェックは欠かさないよ。ま、次は眺めのいい窓際を希望だね」

「やっぱ窓際がいいよな」

「次で誰が伊藤の隣になるかな? 女子だったら光で、男子なら澤永とか?」

「なんでよりにもよって黒田なんだよ? あと泰介が隣だと絶対騒ぎそうだな」

 

 伊藤は光に嫌われていることを認識している。

 光も隠す気はないのでわかりやすい。

 決め方は前回と同様に公平のくじ引きだ。

 よって男子同士で隣になる可能性も充分にあり得る。

 

 そんなこんなで時間が経過。

 席替えイベントが開始となる。

 くじで七海が澤永の隣になったので光が食いついた。

 なお、席の位置は後ろから三番目の真ん中である。

 

「七海」

「はいはい皆まで言わなくていいよ。ダーリンとお幸せに」

「ダーリン言うな!!」

「もう光ってば、あんまり騒ぐとバレるって」

 

 世界が注意をしながら交換を見届ける。

 澤永の隣にいる光はご満悦だ。

 ふと刹那が近寄ってきたのでくじを見せてもらう。

 

「刹那、また一番後ろ当ててるじゃん。しかも隣が伊藤って、なによその運命的な引きの良さは?」

「前回は入口側で今回は窓側。隣の伊藤は偶然。世界の席はどうなの?」

「あ、私は一番前の窓側。隣は田中……刹那ちょっといい?」

「ダメ」

「まだ何も言ってない」

「世界は既に一回、伊藤の隣になってる。また隣になったら不自然」

「前回は刹那から交換を持ち掛けたのに、今回の私が交換をお願いしてもダメなんだ。へえー」

「……」

「なんてね。刹那の困った顔が見られてラッキー」

「世界、これ以上イジワルするなら、次なにかあっても助けない」

「それは勘弁。前回は乙女のためにした事だからね。今回はさすがに疑われちゃうし。刹那がダメって言うのはむしろ当然だよ」

 

 そう言い残して指定された席へ向かう。

 刹那の親友として挨拶をするのは自然な流れ。

 

 しかし田中は口下手である。

 いきなり声を掛けても会話が成立しないだろう。

 よって授業中にノートの筆談でやり取りをした。

 イエスノーの二択形式で答えやすくする配慮を忘れない。

 

 最初は緊張していた田中が次第に慣れてくる。

 世界のことを友達思いのいい人で好印象をもったようだ。

 

『刹那は愛想なくてとっつきにくいかもしれないけど、根はとても優しいの。刹那が大変な時は田中が助けてあげて』

 

 力強く頷いてくれるので、世界も頷き返して黒板へ目を向けた。

 しばらくして田中からノートでお礼の文字が書かれた。

 副委員長に推薦してくれたことへの感謝。

 それで刹那と接点を持つことができたから。

 世界としては自分のやりたいようにしているだけ。

 わざわざ礼を受けるほどの事でもなく、恩着せがましくするつもりはない。

 

「という訳で、刹那は今まで通り田中をコキ使えばいいよ」

 

 休み時間に刹那の所に行って現状報告。

 そんな世界に向けて刹那は素っ気ない一言を返す。

 

「余計なお世話」

「わお、反抗期の刹那がかわいい。写真撮ってもいい?」

「蹴るよ」

「いやん暴力反対」

 

 隣の席にいる伊藤が刹那と世界のやり取りを見た。

 その視線に気付いて世界が反応をする。

 

「なになに、小うるさいヤツとか思ったでしょ?」

「思ってない」

「どうだか。あ、ちょっと伊藤に訊きたいことあるんだけど」

「なんだよ?」

「いたるちゃんが来る日を学祭に当てて楽しませるってのは無理?」

「ちょっと難しいな。止を学園まで連れて行く人がいないと」

「ってことは連れて行く人がいればOK?」

「ああ、でもそんな都合のいい人がいる訳ないだろ?」

「うーん……刹那カモーン」

「なに?」

「伊藤、ちょっと作戦タイムね」

「なんだよそれ?」

 

 伊藤を放置して教室の隅っこへ移動。

 刹那と間近になってコソコソ話を始めた。

 

「こころちゃんにいたるちゃんを紹介。二人が仲良くなり、こころちゃんがいたるちゃんを学祭へ連れて行く。どうよ?」

「二人が仲良くなるとは限らない。こころちゃんの都合もある。だからことぴーに相談したほうがいい」

「それはダメ。いたるちゃん繋がりでことちゃんと伊藤が関わる可能性が出てくるから。まだ乙女の気持ちに返事していない今の状況ではマズイよ」

「じゃあ諦める? それとも他に頼む?」

 

 そこで世界は考えてみる。

 しばらくして心当たりが一人いた。

 

「あ、可憐がいるじゃん」

「……」

「刹那、目が鋭くなってるよ。この前の件はもう終わった事。散々言いたいこと言ってスッキリしたでしょ?」

「……」

「頭でわかっても感情が納得しないヤツね。でも他に頼れるのは可憐しか残ってないよ。可憐なら安心していたるちゃんを連れて行けるし伊藤も納得するよ」

「……わかった」

 

 作戦タイム完了。

 伊藤に可憐が連れて行く事に同意を得る。

 これで止は榊野学園のお祭りを楽しむことができるだろう。

 

「西園寺って、ホント止には優しいよな」

「そりゃそうよ。私はいたるちゃんの友達だからね」

「そうだったな。サンキュー西園寺」

「あいよ。さてと最近は財布のダイエットが進んでしまったし、今こそ光のお店でバイトを――」

「バイトにかまけて、学祭の準備やテスト勉強サボらない」

 

 刹那に言われて世界の目が泳いでしまう。

 サボる気満々だ。

 やりたい事があれば全力でやるが、やりたくない事はとことんやらない。

 それが世界のポリシーである。

 

「じ、準備なんて私いなくても――」

「ダメ。そうやって一人許すと皆やらなくなる」

「勉強なんて、刹那やことちゃんみたいに頭のいい人に任せたい」

「真面目にやらないとおばさん怒る。バイトの許可もされない」

 

 冬休みまでバイトはお預けになるだろう。

 トホホと嘆く世界に刹那が不敵に笑う。

 チャイムが鳴って次の授業へと進んで行く。

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