World Days(新版) 作:完結の陽炎
委員会を済ませて真っ直ぐに家へ帰る。
刹那のベッドで無防備に眠っている世界がいた。
そのまま起こさないように荷物を下ろして着替える。
「んんっ……」
時折、寝返りを打ちながら寝息を漏らしている。
それを近くで静かに見守るだけ。
何度見ても世界の寝顔に嬉しくなる。
ずっと見ていたくなるほどに。
やがて世界の瞼が開き、目の焦点合わず、刹那をボーと眺める。
「世界、起きた?」
「んー」
「今から夕飯作るけど食べて行く?」
「うーんー」
世界が手を伸ばして彷徨っている。
その手を刹那が握り、それを支えに無意識に体を起こそうとする。
急で反応できず、刹那から押し倒す体勢になった。
お互いに何も語らずに至近距離で見つめ合う。
先に目が覚めたのは世界からだ。
「おはよう刹那」
「おはよう」
「……ちょっと息がくすぐったいよ」
「うん……世界」
「ん?」
「寝ぼけて急に引っ張らないで。危ないから」
「ごめん」
「反省した?」
「した」
「それならいい。ご飯作るからゆっくり休んでて」
刹那がベッドから離れていく。
赤いリボンの後ろ髪に向けて声を掛ける。
それは独り言を漏らすかのように。
「何となく悪い夢を見そうな気がして、刹那のベッドなら大丈夫かなって。甘えちゃってるね私。体弱いことを言い訳にしちゃってさ」
「それは違う。辛い時はちゃんと言って。無理に頑張ろうとして体を壊すほうがダメ」
「わかってる。だから大丈夫って訊かれたとき、嘘つかなかったの」
「本当の事も言ってない」
「手厳しい。でも刹那はそれでいい。私にない強さがあっていい」
これ以上引き留めると夕飯が遅れてしまう。
スタミナ丼をリクエストしてベッドで大人しくする。
そんな世界を元気にするため、刹那は料理の腕を振るってみせた。
………………。
…………。
……。
休戦協定に1年3組も加入する。
1組と2組の委員と歩み寄りをするための話し合い。
口下手な田中は戦力外。
刹那は強気になりがちで話が円滑に進みにくい。
先生と生徒会の承諾を得て、臨時で世界が介入をした。
1組は園児と魔法少女のコラボ。
2組はゾンビのホラー系スタイル。
コスチュームが同じになる心配はない。
世界が重視をしたのは中身のメニュー。
相手のコンセプトを褒めつつ、メニューの相性を考慮した。
「1組のコンセプトなら紅茶が合うね。純白なイメージで内装も凝れちゃう。2組は黒か茶の暗めをイメージしてコーヒーと相性がいいかも」
食べ合わせに良いものを提案しての誘導。
世界の母が作る複雑な独自メニューに比べたら簡単なことだ。
3組の加入が一番あとになるため、メニューの優先権は1組と2組に譲る。
その残り物で絞り込みをする形にすれば揉めることがない。
冗談が言えるほどの余裕で親しくなり、緊迫した空気が和んで談笑するほどだ。
こうして世界が緩衝材の役割を見事に果たす。
「ほら田中、落ち込まないの。人には向き不向きあるんだから。他で刹那を助けてあげてね」
気持ちよく終わったのに、田中は己の不甲斐なさを責めた。
世界に励まされて気持ちを立て直してもらう。
刹那の表情も暗い。
自分では揉め事になっていたのは確実。
ここで世界がくすぐり、わざと怒らせて気持ちを切り替えさせる。
何も言わなくても世界の真意は伝わった。
………………。
…………。
……。
乙女の家で対策会議。
メンバーは世界・刹那・言葉・七海・乙女だ。
先に切り出すのは世界である。
「七海、乙女。あれから上級生の動きはどうなったの? 1年はどのクラスも隠し休憩所作れない状況になったけど?」
「先輩方のクラスでお化け屋敷に決めて、そこで作ろうと企んでるみたいだよ」
「でも上手くいかないと思う。バレたらヤバいからって乗り気じゃない人が多いから」
敵となる上級生は諦めが悪い。
この時点で無理だと大人しく引き下がればいいのに。
世界は不快感を露わにした。
「場所を考えてほしいよね。学園の中でするなって普通思わない? それを見せ物に盗撮しようとするなんて犯罪じゃん。そういうの凄く気分悪いからマジでやめてほしい」
「世界の言う通りだよ。だから加藤と一緒にそれとなく調べたし」
「私も。そういうの絶対よくないって思うから」
世界の主張に七海と乙女が同意をする。
静かに見守る刹那と言葉も相槌を打つように頷く。
「刹那、ことちゃん。学園に密告して警戒網を張り巡らせて。徹底的に阻止してほしいから」
「わかった」
「任せてください」
もし強行があるならやむを得ない。
最悪の場合、警察沙汰になるかもしれないが因果応報である。
ひたすら水面下で立ち回り、被害者が出ないように用心を怠らない。
学園祭に向けての準備が本格的に始まる。
休戦協定の取り決めで同じ喫茶で重複をしないことがルールだ。
しかし抜け道はあるので、実際はそれほど厳しい制約ではない。
例えば紅茶で、1組がレモンティー・ストレートティー・ミルクティーの三つをドリンクメニューにした場合、3組で紅茶のオレンジティー・ハーブティ・マスカットティーを出すのはOKである。
食べ物にしても、仮に2組がみたらし団子をメニューに入れた場合、3組であんこの串団子を出すことは可能だ。
こうして無理なくそれぞれのクラスと共存をはかっていく。