World Days(新版)   作:完結の陽炎

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第4話「田中の骨折で委員代理を決める」

 学園祭の準備期間中。

 田中が柔道の自主練で全治2週間の骨折をしてしまった。

 その知らせをしてくれたのが澤永。

 これで1年3組のクラス委員は刹那だけとなってしまう。

 田中の代わりが必要だ。

 

 教卓に集まったのは、刹那・世界・光・七海・伊藤・澤永。

 席に座っているクラスメイトたちで代役を名乗り出る者がいない。

 そんな困った所に光が矛先を向けたのは……。

 

「伊藤、あんたヒマでしょ。部活もやってないんだし、あんたが代わりにやりなさいよ」

「えー俺!? それ言うなら泰介だってそうだろ!!」

「澤永はクラスで使うからダメなんでしょ光?」

「そ、そうよ。さすが世界わかってる」

「え? そうなのか?」

「そうなの!!」

 

 不思議そうにする澤永に光のごり押し。

 澤永は誰にも渡さない。

 そんな光の想いを鈍感な澤永は気付かない。

 

 一方、伊藤が中々引き受けようとしない。

 4組のクラス委員である乙女と会うことになるからだろう。

 告白をされて返事を保留にしている現状。

 どう接したらいいのかわからず、顔を合わせ辛いに違いない。

 

「な、なら俺もクラスで何か――」

「乙女が気になる?」

 

 業を煮やした刹那が遮り核心を突く。

 

「なに喧嘩中?」

 

 光の問いに。

 

「伊藤、乙女に告白されたから」

 

 刹那の衝撃発言。

 何も知らない澤永が驚きの声を上げた。

 クラスメイト一同がザワザワとしながらも見守る。

 まさか暴露をされるとは思わなかった。

 

 伊藤は肯定も否定もできず、激しくうろたえるばかり。

 そんな曖昧な態度が余計に気に食わないのか。

 刹那が外堀を埋めるかのように続ける。

 

「今、乙女と付き合ってるんでしょ?」

「いや待ってくれ。付き合うも何もまだ返事をしてない」

「そうやって逃げ続けて、乙女のこと本気で考える気ある?」

「あるって!! だからもう少し考えさせてくれ!!」

 

 伊藤嫌いの光からすれば見苦しい事この上ない。

 男らしく告白をした澤永とは大違い。

 それを見習えと言いたくなる。

 

 七海もハッキリとさせない伊藤に呆れている様子。

 乙女の気持ちを無下にしているように思える。

 

 集団心理というのは恐ろしい。

 伊藤が悪者という流れになり旗色の悪さが伺える。

 

「……」

 

 世界は無言のまま刹那の左斜め後ろへ立つ。

 その動きを察知して合わせてくれる。

 世界の体の位置と視線は澤永へ向く。

 今から澤永に話し掛けるという合図だ。

 お互いに位置を調整する。

 刹那は左に一歩動くだけで世界を守れる。

 世界は相手の顔が見えるので会話がしやすく、右斜めに刹那がいてくれるので心強い。

 

「澤永、ちょっと訊いてもいい?」

「なんだ西園寺?」

「澤永って今、光と付き合ってるよね?」

「ああ」

「ちょ、ちょっと世界!! 他の生徒がいる前で何を――」

「澤永から告白したんだよね?」

「そうだよ」

「もし光から告白をしていたら、澤永はその場でOKした?」

「ああ。俺は誰とも付き合ってないから、断る理由なんてないし」

「なるほど。今の伊藤みたいに、考える時間をくれで保留にはしないんだね」

「つーか誠がおかしいんだよ。何をそんな考える必要があるんだ? 女の子から告白されたら即OKする所だろうが。あー羨ましいぃーーー!!」

 

 やかましい澤永だが、一人の男としての意見ではある。

 澤永のように即決をする男もいれば、伊藤のように慎重になる男もいる。

 人それぞれであり正解はないのだろう。

 

 世界と刹那の視線が交わる。

 次に話し掛ける相手は伊藤だ。

 しっかりと配置を整えてから助言を始めていく。

 

「あのさ伊藤、ちょっと参考になりそうなアドバイスをしてもいい?」

「あ、ああ」

「伊藤は一人であれこれ悩んでるみたいだけどさ。それって乙女と一緒に話し合ってみたらいいんじゃない?」

「話し合うって言われても……」

「例えば、乙女と付き合いたいけど、貧乏だからお金のかかるデートができないとか。妹のいたるちゃんのことがあって、彼女を優先できない日があるとか。そういった色々な事情を、乙女に相談をして一緒に解決をするの。そうすれば不安がなくなり、安心して付き合えるんじゃない?」

 

 男女交際は相手があっての事だ。

 一人で悩んで答えが出せないのなら相手に打ち明ける。

 その上で解決方法を模索するのが建設的だ。

 

「どう伊藤、参考になりそう?」

「……そうだよな。一人であれこれ悩んでも仕方ないよな」

「という訳で話を本題に戻すね。クラス委員が刹那一人になってしまったから、伊藤に田中の代わりを頼みたいの。どうしても嫌なら私が代わってもいいけど、生まれつき体が弱くて刹那の足手纏いになるかもしれないから。出来れば伊藤が引き受けてくれると助かるんだけど」

「伊藤、受ける受けない、どっち?」

 

 世界に無理をさせるな。

 刹那の目がそのように語っている。

 その小柄な女の子が放つ強大な威圧感。

 アッという間に伊藤は屈してしまった。

 そんな情けない姿に世界は不安を抱く。

 

 伊藤に委員の代理が務まるのだろうか?

 刹那の足を引っ張ることにならないか?

 

 しかし誰もやらない以上は伊藤に頼むしかない。

 

「伊藤、引き受けてくれてありがとう。そっちも事情はあると思うけど、クラス委員を刹那一人だけにしたままって訳にはいかないから。委員代理として、刹那のことよろしくお願い」

「正直、今は乙女と顔を合わせにくいんだけどな」

「さっきも言ったけど、どうしても無理なら私が代わるよ。嫌々で委員代理をされても、刹那に迷惑が掛かるから」

「悪い、変な愚痴をこぼした。引き受けたからにはちゃんとやるよ」

 

 世界の中で不安は残る。

 こういう時は頼れる刹那に話せばいい。

 

「刹那」

「なに?」

「二人だけで話がしたい。ちょっと廊下に出てくれない?」

「いいよ」

 

 刹那を連れて教室を離れる。

 人目が少なくなる階段の踊り場へ向かった。

 伊藤に対しての不安は三つある。

 

 一つ目、ギクシャクをしている乙女と会って、関係が上手く進むのか?

 二つ目、言葉と会うことで心変わりをしてしまい、乙女と向き合えなくなるのではないか?

 三つ目、委員の活動をまともにできず、刹那の迷惑になるのではないか?

 

 男性不信の世界は疑心暗鬼に陥ってしまう。

 そんな胸の内を刹那に明かした。

 

「聞いて世界」

「うん聞くよ」

「伊藤と乙女のことは当人同士の問題。ギクシャクしてもしなくても、世界が気にすることじゃない」

「……続けて」

「伊藤が心変わりをしても無駄。ことぴーは乙女を裏切らない。それ以前にことぴーは伊藤を何とも思っていない」

「うん」

「委員のことは私に任せて。伊藤が委員の代理をする以上、やるべき事は私が指示をしてやらせる」

 

 乙女の恋は報われてほしいと世界は思う。

 だが成功するか否かはわからない。

 刹那の言う通りで当人同士が決めることだ。

 信頼を寄せる言葉のことは全く同意である。

 委員に関することも刹那に任せたらいい。

 

「クラスが見てるのに、乙女の告白を暴露したのってわざとだよね? あれで間違いなく噂が広まるし、伊藤は学祭で返事をしないといけなくなった。そして何より、私が委員代理をやらなくて済むようにした。そうだよね刹那?」

 

 刹那が無闇なことをするはずがない。

 ちゃんと明確に考えて動くタイプだ。

 世界の推測に対して刹那は肯定をする。

 

「伊藤が引き受けなかったら、世界が私のために無茶をするのはわかっている」

「最悪、誰もいないなら私がやるしかないからね。できるのなら最初からそうしたいけど、刹那ならダメって反対をするでしょ?」

「うんダメ」

「伊藤がゴネなければ、刹那もあんな暴露しなくて済んだのに。私を守るために嫌な役回りしちゃって」

「世界のため。これは私の意思」

「私は私のためにやりたいことをやっているんだよ。刹那も自分のやりたいことをやればいいのに」

「今まさにしている。これは私のためでもあるから」

 

 吸い込まれそうなほど綺麗な瞳をしている。

 真っ直ぐに世界を思って行動をする。

 そんな刹那の心意気を無駄にするつもりはない。

 

「委員代理の件、ことちゃんと乙女にメールしておくね。刹那は伊藤と一緒に委員活動がんばって」

「任せて」

 

 メールを送信して、どちらからも間もなく返信が来た。

 それに関して世界の表情は芳しくない。

 

「うーん、ことちゃんはすぐに了解の返事が来たけど、乙女はあわわ状態で困ってるみたい」

「あわわってなに?」

「会えるのは嬉しいけど気まずくて怖いってさ。伊藤も似たような感じだからお互い様だよ。避けて通れない二人の問題。面と向かって話し合うしかないと私は思う」

「委員会を通じて私から伝えておく」

「任せる。でも乙女はビビりみたいだから、アフターケアはことちゃんに任せたほうがいいよ」

「ことぴーにメールしておく」

「よろしく」

 

 二人の話し合いは完了。

 教室へ戻って各自のやるべき事をやる。

 こうして多少のトラブルを前にしても落ち着いて対処していく。

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