World Days(新版) 作:完結の陽炎
学園祭の準備期間中。
田中が柔道の自主練で全治2週間の骨折をしてしまった。
その知らせをしてくれたのが澤永。
これで1年3組のクラス委員は刹那だけとなってしまう。
田中の代わりが必要だ。
教卓に集まったのは、刹那・世界・光・七海・伊藤・澤永。
席に座っているクラスメイトたちで代役を名乗り出る者がいない。
そんな困った所に光が矛先を向けたのは……。
「伊藤、あんたヒマでしょ。部活もやってないんだし、あんたが代わりにやりなさいよ」
「えー俺!? それ言うなら泰介だってそうだろ!!」
「澤永はクラスで使うからダメなんでしょ光?」
「そ、そうよ。さすが世界わかってる」
「え? そうなのか?」
「そうなの!!」
不思議そうにする澤永に光のごり押し。
澤永は誰にも渡さない。
そんな光の想いを鈍感な澤永は気付かない。
一方、伊藤が中々引き受けようとしない。
4組のクラス委員である乙女と会うことになるからだろう。
告白をされて返事を保留にしている現状。
どう接したらいいのかわからず、顔を合わせ辛いに違いない。
「な、なら俺もクラスで何か――」
「乙女が気になる?」
業を煮やした刹那が遮り核心を突く。
「なに喧嘩中?」
光の問いに。
「伊藤、乙女に告白されたから」
刹那の衝撃発言。
何も知らない澤永が驚きの声を上げた。
クラスメイト一同がザワザワとしながらも見守る。
まさか暴露をされるとは思わなかった。
伊藤は肯定も否定もできず、激しくうろたえるばかり。
そんな曖昧な態度が余計に気に食わないのか。
刹那が外堀を埋めるかのように続ける。
「今、乙女と付き合ってるんでしょ?」
「いや待ってくれ。付き合うも何もまだ返事をしてない」
「そうやって逃げ続けて、乙女のこと本気で考える気ある?」
「あるって!! だからもう少し考えさせてくれ!!」
伊藤嫌いの光からすれば見苦しい事この上ない。
男らしく告白をした澤永とは大違い。
それを見習えと言いたくなる。
七海もハッキリとさせない伊藤に呆れている様子。
乙女の気持ちを無下にしているように思える。
集団心理というのは恐ろしい。
伊藤が悪者という流れになり旗色の悪さが伺える。
「……」
世界は無言のまま刹那の左斜め後ろへ立つ。
その動きを察知して合わせてくれる。
世界の体の位置と視線は澤永へ向く。
今から澤永に話し掛けるという合図だ。
お互いに位置を調整する。
刹那は左に一歩動くだけで世界を守れる。
世界は相手の顔が見えるので会話がしやすく、右斜めに刹那がいてくれるので心強い。
「澤永、ちょっと訊いてもいい?」
「なんだ西園寺?」
「澤永って今、光と付き合ってるよね?」
「ああ」
「ちょ、ちょっと世界!! 他の生徒がいる前で何を――」
「澤永から告白したんだよね?」
「そうだよ」
「もし光から告白をしていたら、澤永はその場でOKした?」
「ああ。俺は誰とも付き合ってないから、断る理由なんてないし」
「なるほど。今の伊藤みたいに、考える時間をくれで保留にはしないんだね」
「つーか誠がおかしいんだよ。何をそんな考える必要があるんだ? 女の子から告白されたら即OKする所だろうが。あー羨ましいぃーーー!!」
やかましい澤永だが、一人の男としての意見ではある。
澤永のように即決をする男もいれば、伊藤のように慎重になる男もいる。
人それぞれであり正解はないのだろう。
世界と刹那の視線が交わる。
次に話し掛ける相手は伊藤だ。
しっかりと配置を整えてから助言を始めていく。
「あのさ伊藤、ちょっと参考になりそうなアドバイスをしてもいい?」
「あ、ああ」
「伊藤は一人であれこれ悩んでるみたいだけどさ。それって乙女と一緒に話し合ってみたらいいんじゃない?」
「話し合うって言われても……」
「例えば、乙女と付き合いたいけど、貧乏だからお金のかかるデートができないとか。妹のいたるちゃんのことがあって、彼女を優先できない日があるとか。そういった色々な事情を、乙女に相談をして一緒に解決をするの。そうすれば不安がなくなり、安心して付き合えるんじゃない?」
男女交際は相手があっての事だ。
一人で悩んで答えが出せないのなら相手に打ち明ける。
その上で解決方法を模索するのが建設的だ。
「どう伊藤、参考になりそう?」
「……そうだよな。一人であれこれ悩んでも仕方ないよな」
「という訳で話を本題に戻すね。クラス委員が刹那一人になってしまったから、伊藤に田中の代わりを頼みたいの。どうしても嫌なら私が代わってもいいけど、生まれつき体が弱くて刹那の足手纏いになるかもしれないから。出来れば伊藤が引き受けてくれると助かるんだけど」
「伊藤、受ける受けない、どっち?」
世界に無理をさせるな。
刹那の目がそのように語っている。
その小柄な女の子が放つ強大な威圧感。
アッという間に伊藤は屈してしまった。
そんな情けない姿に世界は不安を抱く。
伊藤に委員の代理が務まるのだろうか?
刹那の足を引っ張ることにならないか?
しかし誰もやらない以上は伊藤に頼むしかない。
「伊藤、引き受けてくれてありがとう。そっちも事情はあると思うけど、クラス委員を刹那一人だけにしたままって訳にはいかないから。委員代理として、刹那のことよろしくお願い」
「正直、今は乙女と顔を合わせにくいんだけどな」
「さっきも言ったけど、どうしても無理なら私が代わるよ。嫌々で委員代理をされても、刹那に迷惑が掛かるから」
「悪い、変な愚痴をこぼした。引き受けたからにはちゃんとやるよ」
世界の中で不安は残る。
こういう時は頼れる刹那に話せばいい。
「刹那」
「なに?」
「二人だけで話がしたい。ちょっと廊下に出てくれない?」
「いいよ」
刹那を連れて教室を離れる。
人目が少なくなる階段の踊り場へ向かった。
伊藤に対しての不安は三つある。
一つ目、ギクシャクをしている乙女と会って、関係が上手く進むのか?
二つ目、言葉と会うことで心変わりをしてしまい、乙女と向き合えなくなるのではないか?
三つ目、委員の活動をまともにできず、刹那の迷惑になるのではないか?
男性不信の世界は疑心暗鬼に陥ってしまう。
そんな胸の内を刹那に明かした。
「聞いて世界」
「うん聞くよ」
「伊藤と乙女のことは当人同士の問題。ギクシャクしてもしなくても、世界が気にすることじゃない」
「……続けて」
「伊藤が心変わりをしても無駄。ことぴーは乙女を裏切らない。それ以前にことぴーは伊藤を何とも思っていない」
「うん」
「委員のことは私に任せて。伊藤が委員の代理をする以上、やるべき事は私が指示をしてやらせる」
乙女の恋は報われてほしいと世界は思う。
だが成功するか否かはわからない。
刹那の言う通りで当人同士が決めることだ。
信頼を寄せる言葉のことは全く同意である。
委員に関することも刹那に任せたらいい。
「クラスが見てるのに、乙女の告白を暴露したのってわざとだよね? あれで間違いなく噂が広まるし、伊藤は学祭で返事をしないといけなくなった。そして何より、私が委員代理をやらなくて済むようにした。そうだよね刹那?」
刹那が無闇なことをするはずがない。
ちゃんと明確に考えて動くタイプだ。
世界の推測に対して刹那は肯定をする。
「伊藤が引き受けなかったら、世界が私のために無茶をするのはわかっている」
「最悪、誰もいないなら私がやるしかないからね。できるのなら最初からそうしたいけど、刹那ならダメって反対をするでしょ?」
「うんダメ」
「伊藤がゴネなければ、刹那もあんな暴露しなくて済んだのに。私を守るために嫌な役回りしちゃって」
「世界のため。これは私の意思」
「私は私のためにやりたいことをやっているんだよ。刹那も自分のやりたいことをやればいいのに」
「今まさにしている。これは私のためでもあるから」
吸い込まれそうなほど綺麗な瞳をしている。
真っ直ぐに世界を思って行動をする。
そんな刹那の心意気を無駄にするつもりはない。
「委員代理の件、ことちゃんと乙女にメールしておくね。刹那は伊藤と一緒に委員活動がんばって」
「任せて」
メールを送信して、どちらからも間もなく返信が来た。
それに関して世界の表情は芳しくない。
「うーん、ことちゃんはすぐに了解の返事が来たけど、乙女はあわわ状態で困ってるみたい」
「あわわってなに?」
「会えるのは嬉しいけど気まずくて怖いってさ。伊藤も似たような感じだからお互い様だよ。避けて通れない二人の問題。面と向かって話し合うしかないと私は思う」
「委員会を通じて私から伝えておく」
「任せる。でも乙女はビビりみたいだから、アフターケアはことちゃんに任せたほうがいいよ」
「ことぴーにメールしておく」
「よろしく」
二人の話し合いは完了。
教室へ戻って各自のやるべき事をやる。
こうして多少のトラブルを前にしても落ち着いて対処していく。