World Days(新版) 作:完結の陽炎
委員会で指定の会議室に集まる時。
伊藤の気が進まずに足取りが重い。
往生際が悪く牛歩戦術で時間稼ぎをしようとする。
「早く行け」
ここまで来て無駄な抵抗をするな。
その意味を込めて伊藤の尻に回し蹴りを叩き込む。
「痛いって清浦。人のケツ蹴るなよ」
「いい加減に覚悟を決める」
「け、けどよ――ってわかったから足を構えるな!!」
「さっさと行く」
「お、おう。清浦って意外と乱暴だな」
「蹴らせることをする伊藤が悪い」
伊藤が逃げ出さないように刹那が連れて行く。
ドアハンドルを引いて会議室を開けた。
その中には幾人かのクラス委員が集まっており、既に乙女と言葉も来ていた。
「あっ……」
乙女が思わず声を漏らして、赤面をしながら顔を背ける。
好きな人と同じ委員になれて嬉しいのに、告白をしたことで過剰な照れが混ざる。
一方、伊藤の目は乙女の傍にいる言葉に奪われてしまう。
1学期に気になっていた女の子。
今は電車の時間がズレたり、バスに変わったりで通学中に会うことがない。
諦めたと思っているのに、いざ会ってしまうと胸のときめきが生まれてしまう。
「伊藤、ボーとするな」
「あ、ああ」
刹那はわざと乙女と言葉よりも前の席へ行かせる。
そうしないと後ろで言葉を見てしまうことになるから。
おかげで乙女は伊藤の背中を見つめて、ドキドキする羽目になった。
委員会の解散時。
廊下を出て、一緒に帰りたくなる乙女の想い。
でも今は告白をしてしまって、何と声を掛けていいのかわからない。
そこで刹那が気を回してきた。
「ことぴー、一緒に帰ろう」
「はいせっちゃん。それじゃあ加藤さん、私たちはこれで失礼します」
「あ、ちょっと桂」
置いて行かないでと懇願の眼差し。
すぐ近くに伊藤がいて接し方がわからない。
鼓動が激しく鳴り響いてまともに顔が見れない有様だ。
しかし刹那が突き離して伊藤に押し付ける。
「伊藤、乙女と一緒に帰れ」
「いたっ、なんでまた俺の尻を蹴るんだよ」
「見る相手を間違えるな。伊藤が見るべき相手は乙女。ちゃんと向き合え」
刹那がキツめに言い残して言葉を連れて行く。
門限に厳しい言葉の父だが、今は学園祭の準備で多少は大目に見てもらえる。
寄り道にピュアバーガーへ立ち寄り、その店内の席で世界・七海・光が待っていた。
そして世界が真っ先に話を切り出す。
「二人とも委員会お疲れ。早速だけど、この私が委員会で起きたであろう伊藤の行動を当てちゃう。まず乙女に会うのをためらって、刹那に蹴られるまでノロノロ歩きでもしてたでしょ?」
「正解」
「次に会議室でことちゃんを見た事で未練が復活。伊藤は乙女そっちのけでことちゃんを見た」
「それも正解」
刹那の返答に世界は肩をすくめてしまう。
やれやれといった感じで呆れてしまった。
「あー、これは光の言う通り、女泣かせの伊藤になる可能性ありだね。乙女の気持ちを考えるとホント同情するよ」
「絶対そうだと思ったよ私は。アイツ委員押し付けた時、散々ゴネてたし」
「言は伊藤のこと、特に何とも思ってないよね?」
「はい。見られた事は感じましたが、別に気にしていません」
好きの反対は無関心とよく言ったものだ。
言葉にとって伊藤は眼中に無い相手と受け取れる。
それでも乙女からすれば面白くはないだろう。
伊藤の気持ちが言葉に向くかもしれない。
そんな乙女の不安定な女心が容易に想像つく。
「世界はホントお節介だよ。あんなヤツのためにアドバイスしちゃってさ」
「中学から想い続ける乙女の恋、上手くいってほしいからね。光の言いたい事もわかるよ。伊藤が乙女を幸せにできる人かどうか、正直うーんと答えに詰まっちゃうから。いたるちゃんにとっては優しいお兄ちゃんなんだけどね。七海ならやめとけって思う?」
「アタシ的にはそうだね。どうもハッキリしない態度してたし、あれなら澤永のほうがまだマシなんじゃない?」
「マシって何よ!? あんなヤツと一緒にしないで!!」
「あはは、ごめんごめん」
色恋沙汰で話が盛り上がっていた時である。
世界の携帯に可憐からのメールがあった。
無事に帰還の知らせを受けたので世界から電話を掛ける。
「お疲れ可憐。予想した通りの展開になった?」
「はい。もう二人して全然目を合わせないし、喋らないし、気まずい空気が満々で見てられなかったですよ。中学の頃、よく二人で喧嘩して似たような事ありましたけど、今回は事情が違いますからね」
「それを見越して可憐に介入を頼んだ訳だけど、場を和ませることはできた?」
「苦労しましたよ。中学時代の頃を思い出させて懐かしんでもらいました。お馬鹿なフリして二人を笑わせたりで気を遣いまくりです」
「可憐なら出来ると私は信じていたよ」
世界は事前に手を打っていた。
二人だけで帰っても気まずくなる。
それが目に見えていたからだ。
「それで何か気になった事とかはなかった?」
「そうですね……あ、これは女の勘なんですが、センパイがボーとすることがあって、お姉以外に誰か気になる女の子がいるのではと思いまして」
「誰か心当たりある?」
「桂言葉さん一択です」
ここで即答できる可憐の勘は鋭い。
可憐は可愛い系、言葉は美人系で男にモテやすい。
好まれるタイプは違えど、言葉に対しての親近感はある。
そんな可憐に委員代理となった現状を細かく伝えた。
「やはりですか。今のお姉、恋に盲目状態でセンパイ以外に見えてませんが、気付くのは時間の問題ですよ」
「私が委員の代理できたら、可憐にも余計な苦労かけさせなかったんだけどね。体が弱いから刹那に絶対無理したらダメって厳しく言われてるのよトホホ」
チラリと世界が刹那を見る。
切れ味の鋭い刃物のごとく睨んでいた。
世界が委員代理になることに断固反対である。
また可憐に頼った事へのヤキモチも混ざっているようだ。
「ことちゃんにその気がない事は、本人にも確認済みだよ。乙女からすれば、他の女の子に心を奪われて嫉妬するとは思うけど、告白でリードしているんだから、自信もって頑張ってほしいな」
「そうですね。とりあえず家庭内限定ですが、お姉のフォローは任せてください」
「よろしく。あと学祭当日にいたるちゃん連れて行く件も忘れないでね」
「もちろんです。センパイの好感度稼ぎ、私は逃しませんよ」
「ちゃっかりしてる。そんな可憐だから任せるんだけどね」
電話を切ってドリンクで一息。
可憐のやり取りを皆で情報の共有をする。
何かあった時に協力してもらうかもしれないから。