World Days(新版)   作:完結の陽炎

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第6話「言葉に料理を教える」

 お昼休みの食堂。

 世界はざるそば、刹那は親子丼、言葉はスパゲティ。

 乙女・七海・光は校庭で弁当である。

 

「世界、さっきから私の顔を見てる。何か言いたいことある?」

「うん、ご飯粒が付いてる」

「っ!!」

「ほら、取ってあげるから動かないで」

 

 ほっぺについたご飯粒を指ですくいとって食べる。

 刹那が俯いて赤面を隠しきれない。

 それをなかったことにするため、言葉に向けて話題を振る。

 

「ことちゃん、また少し背が伸びたね。昔は私と同じぐらいだったのに。いつ追い越されたのか、私はハッキリ覚えてるよ」

「そ、そうなんですか? 自分ではよくわかりませんが」

「まあ、そういうものだよ。でもね、私はことちゃんが体だけ大きくなったとは思ってないんだよ。内面も強くなったって感心してるんだ」

 

 男である伊藤に見られても気にしない。

 過去に一回の盗撮をされても寛大に許しているぐらいだ。

 もし世界が言葉の立場なら、そこまでの余裕を保てる自信がない。

 

「仏の桂という二つ名でも広めて――なんて冗談だよ。本気にしないでね」

「世界、まったく反省してない」

「だから冗談だってば。もう勝手に噂を広めたりしないよ。刹那との約束は守る」

「あ、あの世界ちゃん」

「ん? どうしたのことちゃん?」

「世界ちゃんも少し大きくなっています」

「そっか。まだ成長してるんだね私」

 

 二人の話に刹那が不満そうにしている。

 中学になってから身体的な成長が止まったままだ。

 高校生の年齢でも中学生に間違われてしまう。

 下手に慰めても刹那の機嫌は悪くなるだけ。

 それを承知しているので世界は話題を変えた。

 

「刹那、きっと田中は学祭の準備という時期に骨折しちゃって、それを気にしていると思うんだよね」

「うん」

「自主練を控えるべきだったとか後悔しているかも。だからね、こっちのことは心配しなくていいから怪我を治すことに専念して、と刹那が見舞いに行って励ましたらどうかな?」

「田中が気になるなら、世界が見舞いに行けばいい」

「自己管理ができてない田中を叱り飛ばしそうだから却下。体が弱いからこそ言いたくなっちゃうの。怪我と病気で畑違いではあるけどね」

 

 無茶をすれば周りに迷惑をかけてしまう。

 それを世界は身に染みている。

 自分の体調は自分で気を付けなければならない。

 

「そもそも田中の住所を知らない」

「病院で入院中なら、そっちへ行ったら会えるんじゃない?」

「世界は私と田中をくっつけようとしすぎ」

「そんなつもりはないよ。同じ委員という仕事仲間としての意味で、刹那が励ますって言うのはそんなに変かな? ことちゃんはどう思う?」

「世界ちゃんのお心遣いは立派なことですが、せっちゃんにも都合があります」

「確かにね。今の時期って学祭の準備でホント忙しいから。例の根回しも含めて」

「ですから、田中さんが退院されて、元気に戻られた時に励ましても遅くはないと思います」

 

 言葉の言う通り、焦って今すぐやることはない。

 何事にもタイミングというものがある。

 時期が悪いなら、機会を見て後回しにするのも一手だ。

 

「ことちゃんの意見を採用。改めて思うけど、ことちゃんってホント頭いいよね」

「世界ちゃんの皆さんに対する心配りにはとても敵いません」

「刹那には巻き込まれるほうの身にもなって、と怒られちゃうけどね」

 

 露骨に刹那を見ると知らん顔で食事中。

 他の人が見るクールな少女とは違う。

 構ってやらないと拗ねる寂しがり屋の女の子。

 世界から見る刹那の人物像は概ねそんな感じだ。

 それ故に言葉ばかりを相手にするとご機嫌斜めになってしまう。

 コツとしてはさり気なく刹那に話し掛けること。

 ずっと小さい頃から一緒にいる世界には造作もない。

 

「刹那、来週ぐらいに涼しくなるみたいだから、天文部メンバーで屋上に集まって弁当にしない?」

「来週は雨が続く。しばらく屋上は使えない」

「そっか残念。刹那の作る弁当、すっごく美味しいからホント羨ましい」

「別に。レシピ通りに作れば誰でもできる」

「これがまた不思議。どんなにマネしても刹那の味にならないんだよ」

「言い方」

「事実だもん。あ、ことちゃんは調理実習で乙女がフォローするぐらい、料理が苦手みたいだけど、弁当にしても大丈夫?」

「は、はい。少しずつ練習して頑張ります」

「困った時は私か刹那に相談して。ことちゃんのお母さんが、仕事で毎日遅くなっているのは知ってるし。独学もいいけど怪我はしないように」

 

 言葉は料理下手らしいが母直伝のレモネードは作れる。

 教え込めば習得できる能力はある。

 あとは実際にやらせて経験を積めばいい。

 

 学園が終わってのプライベートタイム。

 桂家の調理場は広めで、世界と刹那が二人で監視をしても支障はない。

 世界は包丁の扱い方、刹那は火の扱い方で指導を分担する。

 そして桂家のキッチンで教える料理について話し合う。

 

「具だくさん味噌汁」

「刹那らしいけど、私だったらカレーだね。一皿だけで済むから片付けしやすい」

「味噌汁は食べ飽きない。味噌や具材によってバリエーションが組める」

「だったら雑炊だね。あれもお椀だけで済むから後片付けが簡単」

「そうやってすぐ楽しようとするのが世界らしい」

「とっても大事なことだよ。手抜きがあればこそ、毎日の家事を長く続けられるから」

「そもそも味噌汁だってそんなに手間は掛からない」

「ご飯を別にするだけでも洗い物が増えちゃう。毎日で時間計算したらバカにできないよ。でもまあ、刹那が綺麗に盛り付けして、美味しそうに魅せる真心はわかる」

 

 実際に作ってもらったことが数多くあり、刹那の料理が美味しいことをよく知っている。

 多少の手間が掛かっても食べてくれる人を満足させたい。

 その気持ちに共感ができる。

 

 世界の考え方としては人に料理を振る舞う時は刹那のやり方。

 一人で食べる料理なら手抜き一筋と決めている。

 自分だけなら見栄えは関係なく、腹に入れれば同じという心境になるからだ。

 

「私の意見として、ことちゃんには三つのメニューを覚えたらいいと思う。人に手料理を振る舞えるカレー、栄養満点の具たっぷり味噌汁、面倒だったら簡単に作れる雑炊」

「世界、教える手間がある。まず最初に一つだけ教えて、残りは後日に回そう」

「どれを先に教える?」

「味噌汁。用意した材料の都合があるから」

「了解」

 

 二人の指導によって言葉は料理の基礎を学び、味噌汁が作れるようになった。

 あとで妹の心に味見をしてもらい、食べやすいサイズで美味しかったと好評。

 食べてくれる人が喜んでくれることを考えれば、おのずと料理に対してどうすればいいかの配慮も見えてくる。

 世界と刹那はお互いを大切に思い合うからこそ、それが自然に出来てしまう。

 そんな二人の仲を料理を通じて大いに感じ入る言葉であった。

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