World Days(新版)   作:完結の陽炎

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第8話「可憐に向けて陣中見舞い」

 可憐は中学3年の受験生。

 休みの日に自分の部屋で勉強をして甘いものが欲しくなる。

 そこで訪問をしてきたのが世界と言葉。

 光の洋菓子屋おおはらでケーキを買っての差し入れだ。

 客間で乙女も加わり、世界が紅茶をいれての間食タイム。

 ケーキとの相性が良く乙女と可憐は上機嫌となった。

 

「世界さん、マジ感謝です。ちょうど勉強疲れで甘いものが欲しかったので」

「ナイスタイミングって訳ね。目指せ榊野学園、ファイトだよ可憐」

 

 世界が親指を立てるサムズアップでフレンドリーな姿勢を見せる。

 おちゃらけな態度に傍にいる言葉がクスクスと笑った。

 

「ところで可憐とことちゃんって面識あるの? あんまり会ってるのを見たことないんだけど?」

「お姉に紹介されて会ったことありますよ」

「はい。加藤さんには大変お世話になっていますので、前もってご挨拶は済ませています」

「ことちゃん、どっちも加藤だから名前で呼ばないと紛らわしくない?」

「あ、えっと……」

 

 言葉がチラッと乙女に目を向ける。

 それで世界が瞬時に察した。

 

「なるほど。乙女が苗字でないと嫌がるからだね。刹那と同じで相性が悪いから」

「お姉ってばケチくさーい。名前ぐらい呼ばせてやりなよ」

「うるさい。私は別に呼ぶななんて言ってない」

「だそうです。あ、私のことは可憐でいいですよ」

「わかりました。よろしくお願いします可憐さん」

「私のほうが年下だから呼び捨てでいいのに」

「可憐、ことちゃんは敬称と敬語が標準だから慣れてよ。これも人それぞれの個性だから」

「了解でーす」

 

 乙女はこれまで伊藤のことで疑っていた。

 その事に対して言葉に申し訳ない気持ちがある。

 今なら名前で呼ばれることに全く抵抗感はない。

 ただ素直になれず、きっかけを失っているに過ぎない。

 

「お姉のためにその気がないことをセンパイに示したんですよね。なんかすごくカッコいいです」

「でしょ。ことちゃんは私が自慢できる最高の幼馴染だからね。羨ましい?」

「メッチャ羨ましいです。そういう裏切らない友達、私もほしかったです」

「も、もう世界ちゃんは褒めすぎです。世界ちゃんこそ、お、乙女さんを裏切らないじゃないですか」

 

 呼び方に少し躓きながらも名前を口にした。

 乙女は照れくさいようで顔を背けてしまう。

 だが少なくとも嫌がってはいない。

 

「ちなみに可憐はことちゃんを何て呼ぶの? ことちゃんには少し年の離れた妹がいるけど?」

「言葉さんは長くて呼びにくいので、言さんって呼んでもいいですか?」

「それいいね。私はことちゃん、七海は言の呼び捨て、可憐は言さんで区別バッチリだよ」

「だったらお姉は名前の呼び捨てで決まりですね」

「ちょ、ちょっと可憐アンタ勝手に――」

「可憐、乙女にプレッシャーをかけないようにね。ことちゃんを下の名前で呼び捨てをする友達って誰もいないから、何気に特別だったりするんだよ」

「マジですか!? という事は、名前の呼び捨てをする初めての友達が、お姉になる訳ですね!!」

「そういうこと。これって凄いことだからね。くれぐれもプレッシャーを与えないように」

「ありゃりゃ世界さん、すでにお姉が緊張しまくって呼べそうにないんですが?」

 

 乙女も同じ女の子だからわかるのだろう。

 その人だけしか呼ばないという特別の重みを。

 乙女は選ばれたのだ。

 同じ4組のクラスとなり、同じ委員を務め、言葉がイジメられないよう予防をしてくれる。

 言葉の名前を呼ぶに値する存在として、その資格は充分である。

 

「ま、呼べる時に呼べばいいと思うよ。二人っきりの時に呼ぶとかでハードル下げてみるとか。あとは慣れだからね慣れ」

「ですよねー。ホントお姉は素直じゃないから。今時ツンデレなんて流行らないよ」

「アンタね。そのすぐに口に出すクセは直せって言われてるでしょ」

「おっとヤバいヤバい。もう刹那さんにガチで説教されるのは懲り懲りです」

「そういえば世界、えっと……」

 

 乙女が照れる余り上手く言い出せない。

 無理をさせないように世界は気を遣う。

 

「乙女、遠慮しなくていいよ。乙女の呼びたい呼び方でOK。ことちゃんもそう思わない?」

「はい。私も乙女さんの呼びたいように呼ぶのが一番だと思います」

「うんそれじゃあ……なんで世界は今日、こ、こ、あぁーもぉーっ!!」

「頑張れお姉!! 根性だよ根性いけいけぇー!!」

「うっさい可憐!! 張り倒すよ!!」

「きゃー助けて世界さん!! 私、お姉にしばき倒されちゃうよ!!」

「それで乙女、何か言いかけてるみたいたけど続きは?」

 

 世界に後ろに回った可憐のことは放置する。

 ドーンと構えて乙女に続けるよう促した。

 傍にいる言葉は成り行きを静かに見守るだけである。

 

「え、えっと……き、今日は清浦さんと一緒じゃないんだね?」

 

 言葉と呼ぶのは恥ずかしい。

 それなら刹那の苗字のほうがまだ呼べる。

 二者択一で選んだ結果である。

 

「今回は可憐の陣中見舞いだからね。ことちゃんのほうが可憐も接しやすいかと思って」

「刹那さんは反対しなかったんですか?」

「ことちゃんを連れて行くならOKと了解済みだよ」

「刹那さんと言さんはお知り合いで?」

「幼い頃からの大親友よ」

「だ、大ですか?」

「刹那が気を許せる唯一の相手がことちゃんなの。あ、私は例外として除いてね」

「そうなんですね。私は世界さんと刹那さんが親友だと思ってました」

「合ってるよ。私と刹那は親友、刹那とことちゃんは大親友」

 

 すると言葉が珍しく怒ったような顔をする。

 そして世界に不服を述べた。

 

「世界ちゃん、私はどちらも大切なお友達です。決して優劣なんてつけません」

「まあそこは軽く聞き流してもらうってことで」

 

 これは価値観の問題である。

 世界にとって刹那と言葉の関係は神々の如く尊い。

 その影響を受けて今の世界が人格的に形成されている。

 だからどうしても自分よりも上という見方になっていた。

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