World Days(新版) 作:完結の陽炎
可憐は中学3年の受験生。
休みの日に自分の部屋で勉強をして甘いものが欲しくなる。
そこで訪問をしてきたのが世界と言葉。
光の洋菓子屋おおはらでケーキを買っての差し入れだ。
客間で乙女も加わり、世界が紅茶をいれての間食タイム。
ケーキとの相性が良く乙女と可憐は上機嫌となった。
「世界さん、マジ感謝です。ちょうど勉強疲れで甘いものが欲しかったので」
「ナイスタイミングって訳ね。目指せ榊野学園、ファイトだよ可憐」
世界が親指を立てるサムズアップでフレンドリーな姿勢を見せる。
おちゃらけな態度に傍にいる言葉がクスクスと笑った。
「ところで可憐とことちゃんって面識あるの? あんまり会ってるのを見たことないんだけど?」
「お姉に紹介されて会ったことありますよ」
「はい。加藤さんには大変お世話になっていますので、前もってご挨拶は済ませています」
「ことちゃん、どっちも加藤だから名前で呼ばないと紛らわしくない?」
「あ、えっと……」
言葉がチラッと乙女に目を向ける。
それで世界が瞬時に察した。
「なるほど。乙女が苗字でないと嫌がるからだね。刹那と同じで相性が悪いから」
「お姉ってばケチくさーい。名前ぐらい呼ばせてやりなよ」
「うるさい。私は別に呼ぶななんて言ってない」
「だそうです。あ、私のことは可憐でいいですよ」
「わかりました。よろしくお願いします可憐さん」
「私のほうが年下だから呼び捨てでいいのに」
「可憐、ことちゃんは敬称と敬語が標準だから慣れてよ。これも人それぞれの個性だから」
「了解でーす」
乙女はこれまで伊藤のことで疑っていた。
その事に対して言葉に申し訳ない気持ちがある。
今なら名前で呼ばれることに全く抵抗感はない。
ただ素直になれず、きっかけを失っているに過ぎない。
「お姉のためにその気がないことをセンパイに示したんですよね。なんかすごくカッコいいです」
「でしょ。ことちゃんは私が自慢できる最高の幼馴染だからね。羨ましい?」
「メッチャ羨ましいです。そういう裏切らない友達、私もほしかったです」
「も、もう世界ちゃんは褒めすぎです。世界ちゃんこそ、お、乙女さんを裏切らないじゃないですか」
呼び方に少し躓きながらも名前を口にした。
乙女は照れくさいようで顔を背けてしまう。
だが少なくとも嫌がってはいない。
「ちなみに可憐はことちゃんを何て呼ぶの? ことちゃんには少し年の離れた妹がいるけど?」
「言葉さんは長くて呼びにくいので、言さんって呼んでもいいですか?」
「それいいね。私はことちゃん、七海は言の呼び捨て、可憐は言さんで区別バッチリだよ」
「だったらお姉は名前の呼び捨てで決まりですね」
「ちょ、ちょっと可憐アンタ勝手に――」
「可憐、乙女にプレッシャーをかけないようにね。ことちゃんを下の名前で呼び捨てをする友達って誰もいないから、何気に特別だったりするんだよ」
「マジですか!? という事は、名前の呼び捨てをする初めての友達が、お姉になる訳ですね!!」
「そういうこと。これって凄いことだからね。くれぐれもプレッシャーを与えないように」
「ありゃりゃ世界さん、すでにお姉が緊張しまくって呼べそうにないんですが?」
乙女も同じ女の子だからわかるのだろう。
その人だけしか呼ばないという特別の重みを。
乙女は選ばれたのだ。
同じ4組のクラスとなり、同じ委員を務め、言葉がイジメられないよう予防をしてくれる。
言葉の名前を呼ぶに値する存在として、その資格は充分である。
「ま、呼べる時に呼べばいいと思うよ。二人っきりの時に呼ぶとかでハードル下げてみるとか。あとは慣れだからね慣れ」
「ですよねー。ホントお姉は素直じゃないから。今時ツンデレなんて流行らないよ」
「アンタね。そのすぐに口に出すクセは直せって言われてるでしょ」
「おっとヤバいヤバい。もう刹那さんにガチで説教されるのは懲り懲りです」
「そういえば世界、えっと……」
乙女が照れる余り上手く言い出せない。
無理をさせないように世界は気を遣う。
「乙女、遠慮しなくていいよ。乙女の呼びたい呼び方でOK。ことちゃんもそう思わない?」
「はい。私も乙女さんの呼びたいように呼ぶのが一番だと思います」
「うんそれじゃあ……なんで世界は今日、こ、こ、あぁーもぉーっ!!」
「頑張れお姉!! 根性だよ根性いけいけぇー!!」
「うっさい可憐!! 張り倒すよ!!」
「きゃー助けて世界さん!! 私、お姉にしばき倒されちゃうよ!!」
「それで乙女、何か言いかけてるみたいたけど続きは?」
世界に後ろに回った可憐のことは放置する。
ドーンと構えて乙女に続けるよう促した。
傍にいる言葉は成り行きを静かに見守るだけである。
「え、えっと……き、今日は清浦さんと一緒じゃないんだね?」
言葉と呼ぶのは恥ずかしい。
それなら刹那の苗字のほうがまだ呼べる。
二者択一で選んだ結果である。
「今回は可憐の陣中見舞いだからね。ことちゃんのほうが可憐も接しやすいかと思って」
「刹那さんは反対しなかったんですか?」
「ことちゃんを連れて行くならOKと了解済みだよ」
「刹那さんと言さんはお知り合いで?」
「幼い頃からの大親友よ」
「だ、大ですか?」
「刹那が気を許せる唯一の相手がことちゃんなの。あ、私は例外として除いてね」
「そうなんですね。私は世界さんと刹那さんが親友だと思ってました」
「合ってるよ。私と刹那は親友、刹那とことちゃんは大親友」
すると言葉が珍しく怒ったような顔をする。
そして世界に不服を述べた。
「世界ちゃん、私はどちらも大切なお友達です。決して優劣なんてつけません」
「まあそこは軽く聞き流してもらうってことで」
これは価値観の問題である。
世界にとって刹那と言葉の関係は神々の如く尊い。
その影響を受けて今の世界が人格的に形成されている。
だからどうしても自分よりも上という見方になっていた。