World Days(新版) 作:完結の陽炎
刹那は自室で一人の時間を過ごしている。
読書家の言葉から色々な小説を借りて読む。
ただし怖いオカルト小説は除く。
刹那が最も好んだのは推理小説。
物語の謎があり、伏線が回収され、論理的に解決をすること。
それが刹那を夢中にさせて思わず一言呟く。
「犯人がわかった」
アリバイのある犯人のトリックや動機を暴く。
探偵の気分に浸れるのが醍醐味だ。
おかげで刹那の論理的思考が磨かれていく。
刹那の白黒をハッキリさせる性格もあってか。
あまり非現実的な内容は好まない。
だから近未来のSFや幻想的なファンタジーは除外である。
ティーン向けの恋愛小説は、可もなく不可もなし。
普通に読めるが推理小説ほど好きとはいえない。
幅広いジャンルを読む言葉。
特定のジャンルを好む刹那。
ゼネラリストとスペシャリストの違いが伺える。
以後、刹那と言葉の会話の中で、世界だけでなく読書も挙がるようになった。
リアリティーのある謎解きミステリー小説が追加されたのだ。
………………。
…………。
……。
ある日の休み時間。
4組に突撃をした世界は一直線に言葉へ向かう。
乙女と一緒に雑談をしていたようだがお構いなし。
拗ねた様子で世界が言葉に抱きつく。
一体なにがあったのか?
「刹那は推理小説に夢中。私よりも読書がいいんだ」
「そ、そんなことはないかと」
「ううんいいの。刹那は私ばっかで今まで一人の時間がなかったから。ことちゃんのおかげで、一人で楽しめる趣味を見つけて感謝してるよ」
「あ、あの世界ちゃん……怒っていませんか?」
世界の抱き着く力がこもっている。
言葉が息苦しくなって困ってしまう。
明らかに世界の嫉妬による八つ当たりだ。
さすがに見苦しくなったのか。
言葉の傍にいる乙女が助けに入る。
「ちょっと世界、言葉から離れなって。クラス全員が見てるよ」
世界はニヤリと笑って離れる。
言葉が驚いた様子で乙女を見つめた。
それでハッと気付き、乙女が手で口を塞ぐがもう遅い。
「なーんだ。ちゃんと名前で呼べるじゃん。乙女ってホント照れ屋なんだから」
「は、謀ったね世界」
「ちょうど八つ当たりしたくなる事ができたからね。乙女が素直になるきっかけになるかなって。やっぱりことちゃんを名前で呼び捨てするのは乙女がいいよ。乙女が一番だね」
「うぅ……」
まんまとしてやられた乙女。
決して嫌ではないが素直に呼ぶのも恥ずかしい。
ここまで来たら後は慣れるしかない。
「あとね、ことちゃんに感謝してるのは本当だよ。嫉妬の悪魔はいるけど、刹那の成長を喜ぶ天使もいるから」
「そうですか。世界ちゃんは大人ですね。せっちゃんを大事にしていることがよくわかります」
「刹那は好き嫌いをハッキリするタイプだから、お勧めの本を選ぶのもそんなに難しくないと思うよ」
「そうですね。せっちゃんは現実主義で、推理小説が最もお気に召すようです」
「うわあー、逆に私との相性は最悪。あれって頭を使うから絶対に読みたくなーい」
両手をクロスさせてバツマークを示す世界。
首もイヤイヤと振って推理小説は断固拒否である。
一番嫌いなジャンルになるといっても過言ではない。
「ことちゃんって、漫画は受け付けないタイプ?」
「いえ、可憐さんからホラー漫画を借りて読ませてもらった事があります。イメージが固定されるのでわかりやすかったです。短時間で読み終えてしまいました」
「漫画は小説よりもボリューム不足になるよね。読書家のことちゃんには物足りないか。長編の漫画だと本がたくさん増えて管理が大変だし。あ、可憐もライトノベルは読んでたはず。だよね乙女?」
「よく知ってるね。まあ、あの子は漫画が主で、あとは文庫本のラノベが少しある程度だよ」
「本もタダじゃないからね。その可憐から聞いたけど、乙女はティーン向けの恋愛小説を持ってるんだって? しかもことちゃんも愛読しているベストセラーのヤツ」
「えっ!? そうなんですか乙女さん!?」
珍しく言葉の食いつきが激しい。
乙女ともっと仲良くしたいという気持ちがあるのだろう。
まさか恋愛小説で趣味が合うとは思わなかった。
「べ、別にいいでしょ?」
「全然OK。あーあ、私は貧乏だから羨ましいな。部屋が狭いし、本なんて買うお金もスペースもないんだよ。そっちの都合のいい日に直接読みに行きたいな」
「いいですよ。いつでも言って頂ければ歓迎します」
「私は女バスと委員会がない日なら」
チャイムが鳴って、世界は慌てて自分の教室へ戻る。
言葉は嬉しそうで、乙女も満更でもない様子。
そんなやり取りがあって、4組のクラスで噂が広まった。
世界・言葉・乙女の三角関係での同性愛。
以前より言葉と乙女の関係が怪しいという噂はあった。
言葉が全く男と付き合わないので同性愛という安直な発想から来ている。
そこに世界が入ることで面白半分の尾ひれがついた。
これは気にするだけ無駄である。
平凡な学園生活に刺激を求めてよくある事だから。
………………。
…………。
……。
刹那との距離を置く。
一人の時間を楽しんでもらおうと気を遣う。
だが世界は些か極端がすぎる。
これはバランスの問題。
誰かと過ごす時間と一人の時間との両立が求められる。
もっとも今は学園祭の準備に追われて大変な日々だが。
「世界入るよ」
いつもの合鍵で世界が住むアパートに出入りをする。
世界の部屋をノックしても反応がなかった。
病気で倒れているかもしれない。
心配になった刹那が一声かけて入ったがもぬけの殻。
もしかしてと思い、食材の買い出し中かをメールで問い合わせる。
しばらくして世界の返信があった。
『今まさに買い物中。刹那、今晩なにがいい?』
『オムレツ』
『卵の包みが面倒だけど了解』
『大丈夫、簡単にできるコツ教えるから』
オムレツの材料を購入しての帰宅。
狭いキッチンで刹那から包み方のコツを教わって作る。
野菜入りの味噌汁も上手く仕上げた。
さらに箸休めの漬物も添える。
炊き立てご飯に温かいお茶も用意して食卓へ置いた。
「いただきます」
「はい召し上がれ。で、私もいただきますと」
刹那の表情は特に変わらない。
でも食事の箸は進んでいる。
付き合いの長い世界は特に気にならない。
二人のありふれた日常として馴染んでいる。
食後の洗い物を済ませて部屋へ戻る。
刹那と一緒の時間を過ごしていく。
すると。
「世界ごめん」
「どうしたの急に?」
「読書に夢中で、世界を放ったらかしにした」
「私は刹那が喜ぶなら嬉しいってずっと前から言ってるよ。一人の時間を楽しめるのも必要なことなんだから、謝ることなんて何もない」
「ううん、読書ばかりしてると世界が離れちゃう。もう会ってくれなくなる」
極端に離れすぎてしまうと刹那が不安になる。
いなくなった父を通じて、捨てられる怖さをすり込まれているのだろう。
捨てられてもいいやと開き直れる世界とは違う。
「刹那が読書をする日とそうでない日がわからないからね。私が遠慮して様子を見るしかないんだよ。ほら、その日の気分ってあるじゃん。だから趣味をするしないを固定する訳にもいかないし。あ、私のために趣味やめるってのは無しよ。それは私のせいで趣味をやめることになって全然嬉しくないから」
言いたい事で出し惜しみをしない。
相手が刹那であれば尚の事だ。
申し訳なさそうにする刹那を見るのは忍びない。
くすぐってやろうかと思っても自重する。
アパートの騒音で近所のトラブルは避けたいから。
その代わり、刹那を正面から優しく抱きしめる。
特に抵抗する様子もなく、刹那が抱き返してきた。
「学祭、刹那が迷惑でなければ一緒に回ろうかと思ったけど、交代の都合もあるから難しいよね?」
「べつに迷惑じゃない。休憩の調整なんてどうにでもできる。でも私でいいの? ことぴーは?」
「妹のこころちゃんが来るからそっち優先。あ、後夜祭はどうする?」
「あれは男女ペアで一緒に踊る。私と世界は女同士」
「女同士で踊ってはいけない決まりはないけどね。でも噂になっちゃうからダメか」
「私と踊りたいの?」
「うん、刹那とだったら楽しそうって思った」
「私、人前で踊るの苦手。でも世界が望むなら……」
「屋上」
「え?」
「屋上なら誰にも見られずに踊れるよ。さすがにファイヤーはないけどね」
「……いいよ」
「え? ホントにいいの? ちょっと言ってみただけだから無理しなくても――」
「人前じゃないならいい。私も世界と踊ってみたい」
刹那の合意もあって約束を交わす。
瞬く間に刹那は元気を取り戻した。
ある意味、根が単純なのかもしれない。