World Days(新版) 作:完結の陽炎
世界のアパートまで刹那が迎えに来て一緒に登校。
いつも通りの光景だが、刹那の機嫌がとても良い。
微かに表情が緩みがちである。
小学時代からの付き合いがある光や七海でもわかるかもしれない。
いいことがあったことは間違いないと。
世界は静かに見守る。
わざわざ問い掛けるような野暮な真似はしない。
刹那が喜んでいるならそれでいい。
そんな時でも変わらないのはある。
世界を守るという刹那から鉄壁なる護衛。
おかげで悪夢でトラウマの電車も怖くない。
死角となる道の曲がり角。
先に刹那が確認するほどに慎重な動きだ。
通学路で車の通りが落ち着いていても油断はしない。
歩道で刹那が車道沿いを歩く。
それも当たり前となっている。
榊野学園の校門から下駄箱へ靴を履き替える。
手紙が入っているような展開は今の所ない。
刹那の下駄箱を見てもラブレターはなかった。
「世界、そんなもの入ってないから」
「あったら面白いのに」
「面白がるな」
「だって、そういうのって恋愛のお約束じゃん」
「現実と一緒にしない」
3組の教室に入って自分の席へ荷物を置く。
まだ時間が余っているので、まずは七海に挨拶を交わす。
「おはよう七海。ちょっと確認したいから耳貸して」
「おはよう。朝から急だね。ま、世界はいつもそうか」
情報漏洩を防ぐための耳打ちである。
その内容は。
「女バスの出し物は問題ない?」
隠し休憩所や盗撮の件についてである。
すぐに理解をした七海が真面目に耳打ちで返してくれる。
「3年がまともだからね。それで統制が取れてるから」
「了解。2年生のクラスにあるお化け屋敷をマークだね」
「そういうこと。もう手は打ってあるんでしょ?」
笑顔で親指を立ててのサムズアップをする世界。
近くにいる刹那は特に何も言わない。
内容を察しているようだ。
これでコソコソ話は終わりとし、あとは普通に会話をする。
ちなみに光は澤永と雑談をしているので放っておく。
「七海はお昼、乙女とここで弁当?」
「まあね。今日は昼から雨で、校庭だと濡れちゃうからね」
「光は言うまでもなく、澤永に愛妻弁当間違いなし」
「愚問だよ。世界は刹那と言の三人で食堂でしょ?」
「まあね。たまに出来立て食べたくなる時あるから」
「あー、それはアタシもわかる」
「気が向いたら、七海も食べてみるといいんじゃない?」
「そうだね。たまにならいいかもね。ところで……」
七海がそう言って刹那を見る。
やはり気になるかと世界はクスリ笑いをしてしまう。
「刹那、今日はやけに機嫌がいいね。何かいいことでもあった?」
「……秘密」
「へえー、秘密ね」
「七海、なんでそこで私を見るのかな?」
「いやー、野暮な質問だったと思っただけ」
「さすがに今の刹那なら七海も気付くか」
「小学から知り合ってるからね。それなりにわかるさ」
ここで予鈴のチャイムが鳴った。
世界と刹那は自分の席へ戻る。
窓は曇り空で完全に覆われていた。
………………。
…………。
……。
体育のクラス合同授業。
場所は学園のグラウンド。
今回は世界と言葉のどちらも出席である。
体操服で言葉の立ち姿が物静かで隙がない。
運動系が苦手といっても居合の応用はできる。
種目は短距離走。
言葉と世界が肩を並べて定位置で構える。
まるでお互いに居合をするかのような心持ちだ。
果たしてどちらが早いのか?
スタート合図で瞬時に踏み込みダッシュをしたのが言葉。
世界は若干遅れて前に出る。
瞬発力は言葉のほうが上だ。
身長も言葉のほうが高く、リーチの長さで世界が不利である。
「きゃっ!!」
途中で言葉の足がもつれて転倒してしまう。
その間に世界が追い上げてゴール。
言葉は胸を打撲し、ヒザの擦り傷に耐えて立ち上がる。
そして遅れながらも最後まで走り切った。
「先生!! こと――桂さんが怪我したので保健室へ連れて行きます!!」
さすがに公の場となる先生相手にことちゃんはNG。
桂さん呼びをしたことで言葉の表情が固い。
世界も仕方がないとはいえ、言葉相手に苗字呼びは嫌だった。
先生の許可をもらって世界が連れて行く。
見送った刹那は相槌を打って頷く。
言葉の気持ちがよくわかるのだろう。
いつもと違う呼ばれ方をされると嫌に感じるものだ。
「ああもう!! やっぱことちゃんじゃないと何か嫌!!」
「私も。世界ちゃんに桂さんって呼ばれるのは嫌です」
「でも先生の前でことちゃんはダメだからね。次から上手く省略するよ」
「はい。そのほうがお互いのためにもいいと思います」
水道を使ってヒザの傷口を洗い流しての応急処置。
染みる痛みは我慢してもらうしかない。
「ことちゃんがコケなかったら、追いつけなかったよ」
「いいえ。私は持久力がないみたいで、途中から失速したと思います」
「私も消耗戦はダメ。体の弱い体質的に厳しいから一緒だよ」
保健の先生に任せて世界はグラウンドへ戻る。
残りのスタミナ調整で刹那によく見てもらう。
くれぐれも無理はするなと目が訴えていたから。
なお、言葉は治療を終えて次の授業には出席をしていた。