World Days(新版)   作:完結の陽炎

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第10話「世界vs言葉の短距離走」

 世界のアパートまで刹那が迎えに来て一緒に登校。

 いつも通りの光景だが、刹那の機嫌がとても良い。

 微かに表情が緩みがちである。

 小学時代からの付き合いがある光や七海でもわかるかもしれない。  

 いいことがあったことは間違いないと。

 

 世界は静かに見守る。

 わざわざ問い掛けるような野暮な真似はしない。

 刹那が喜んでいるならそれでいい。

 

 そんな時でも変わらないのはある。

 世界を守るという刹那から鉄壁なる護衛。

 おかげで悪夢でトラウマの電車も怖くない。

 

 死角となる道の曲がり角。

 先に刹那が確認するほどに慎重な動きだ。

 通学路で車の通りが落ち着いていても油断はしない。

 歩道で刹那が車道沿いを歩く。

 それも当たり前となっている。

 

 榊野学園の校門から下駄箱へ靴を履き替える。

 手紙が入っているような展開は今の所ない。

 刹那の下駄箱を見てもラブレターはなかった。

 

「世界、そんなもの入ってないから」

「あったら面白いのに」

「面白がるな」

「だって、そういうのって恋愛のお約束じゃん」

「現実と一緒にしない」

 

 3組の教室に入って自分の席へ荷物を置く。

 まだ時間が余っているので、まずは七海に挨拶を交わす。

 

「おはよう七海。ちょっと確認したいから耳貸して」

「おはよう。朝から急だね。ま、世界はいつもそうか」

 

 情報漏洩を防ぐための耳打ちである。

 その内容は。

 

「女バスの出し物は問題ない?」

 

 隠し休憩所や盗撮の件についてである。

 すぐに理解をした七海が真面目に耳打ちで返してくれる。

 

「3年がまともだからね。それで統制が取れてるから」

「了解。2年生のクラスにあるお化け屋敷をマークだね」

「そういうこと。もう手は打ってあるんでしょ?」

 

 笑顔で親指を立ててのサムズアップをする世界。

 近くにいる刹那は特に何も言わない。

 内容を察しているようだ。

 これでコソコソ話は終わりとし、あとは普通に会話をする。

 ちなみに光は澤永と雑談をしているので放っておく。

 

「七海はお昼、乙女とここで弁当?」

「まあね。今日は昼から雨で、校庭だと濡れちゃうからね」

「光は言うまでもなく、澤永に愛妻弁当間違いなし」

「愚問だよ。世界は刹那と言の三人で食堂でしょ?」

「まあね。たまに出来立て食べたくなる時あるから」

「あー、それはアタシもわかる」

「気が向いたら、七海も食べてみるといいんじゃない?」

「そうだね。たまにならいいかもね。ところで……」

 

 七海がそう言って刹那を見る。

 やはり気になるかと世界はクスリ笑いをしてしまう。

 

「刹那、今日はやけに機嫌がいいね。何かいいことでもあった?」

「……秘密」

「へえー、秘密ね」

「七海、なんでそこで私を見るのかな?」

「いやー、野暮な質問だったと思っただけ」

「さすがに今の刹那なら七海も気付くか」

「小学から知り合ってるからね。それなりにわかるさ」

 

 ここで予鈴のチャイムが鳴った。

 世界と刹那は自分の席へ戻る。

 窓は曇り空で完全に覆われていた。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 体育のクラス合同授業。

 場所は学園のグラウンド。

 今回は世界と言葉のどちらも出席である。

 体操服で言葉の立ち姿が物静かで隙がない。

 運動系が苦手といっても居合の応用はできる。

 

 種目は短距離走。

 言葉と世界が肩を並べて定位置で構える。

 まるでお互いに居合をするかのような心持ちだ。

 果たしてどちらが早いのか?

 

 スタート合図で瞬時に踏み込みダッシュをしたのが言葉。

 世界は若干遅れて前に出る。

 瞬発力は言葉のほうが上だ。

 身長も言葉のほうが高く、リーチの長さで世界が不利である。

 

「きゃっ!!」

 

 途中で言葉の足がもつれて転倒してしまう。

 その間に世界が追い上げてゴール。

 

 言葉は胸を打撲し、ヒザの擦り傷に耐えて立ち上がる。

 そして遅れながらも最後まで走り切った。

 

「先生!! こと――桂さんが怪我したので保健室へ連れて行きます!!」

 

 さすがに公の場となる先生相手にことちゃんはNG。

 桂さん呼びをしたことで言葉の表情が固い。

 世界も仕方がないとはいえ、言葉相手に苗字呼びは嫌だった。

 先生の許可をもらって世界が連れて行く。

 

 見送った刹那は相槌を打って頷く。

 言葉の気持ちがよくわかるのだろう。

 いつもと違う呼ばれ方をされると嫌に感じるものだ。

 

「ああもう!! やっぱことちゃんじゃないと何か嫌!!」

「私も。世界ちゃんに桂さんって呼ばれるのは嫌です」

「でも先生の前でことちゃんはダメだからね。次から上手く省略するよ」

「はい。そのほうがお互いのためにもいいと思います」

 

 水道を使ってヒザの傷口を洗い流しての応急処置。

 染みる痛みは我慢してもらうしかない。

 

「ことちゃんがコケなかったら、追いつけなかったよ」

「いいえ。私は持久力がないみたいで、途中から失速したと思います」

「私も消耗戦はダメ。体の弱い体質的に厳しいから一緒だよ」

 

 保健の先生に任せて世界はグラウンドへ戻る。

 残りのスタミナ調整で刹那によく見てもらう。

 くれぐれも無理はするなと目が訴えていたから。

 なお、言葉は治療を終えて次の授業には出席をしていた。

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