World Days(新版) 作:完結の陽炎
時が過ぎて学園祭の当日を迎える。
上級生のお化け屋敷で、学園に提出された図面とは異なる隠し休憩所が発見。
さらに監視カメラも見つかり、そのクラスのお化け屋敷は即座に中止。
保護者の呼び出しもあって瞬く間に噂となった。
まだ実害が出てないため停学処分止まり。
しかし学園にいられなくなって転校することに。
いずれにしても世界たちには関係のないことである。
「ねえ接客足りないの!! 誰かこっち来て!!」
1年3組の教室で開かれる模擬の喫茶店。
接客エリアと厨房エリアに分けての作業。
ウエイトレス姿の光が助けを求めてきた。
現在、厨房には刹那・世界・伊藤の三人がいる。
「伊藤ゴー」
「いってらっしゃい」
「マジかよめんどくさいな」
「伊藤さっさと行く」
「ほら、今すぐ行かないと光に叩かれちゃうよ」
「わ、わかったよ」
残った二人でケーキ作りを続行。
阿吽の呼吸で連携に申し分なし。
言われずとも互いにどう動けばいいかを理解している。
やがて……。
「これでケーキ完売っと。お疲れ刹那」
「世界もお疲れ」
材料を使い切って販売終了となる。
残りの時間は自由になるのでクラスはその場で解散。
テンションが上がって学園祭を楽しむようだ。
光は澤永を連れて学園祭を回る。
伊藤は乙女の答えを出すために店番をしている4組の展示会へ。
七海は彼氏のクラスへ行ってしまう。
そして……。
「行くよ世界」
「了解」
水分補給を済ませて刹那が世界の右手を握る。
そのままエスコートをして、演劇が開幕する体育館へ移動。
空いているパイプ椅子の席で鑑賞をした。
出演者の全員がファントムマスクに全身マント。
舞いの演出を加えての台詞。
スポットライトの絶妙なタイミング。
テーマは略奪する花、そこに込められた葛藤や罪悪感。
悩み抜いた先の答えは如何に?
そんな意味深をラストで締めくくっての閉幕となった。
「……世界」
「ん?」
「どうだった?」
「花を恋に置き換えたらわかりやすかったよ」
「……」
「奪うつもりはなかった。誰も知らないなら何をしてもいいのか。起きた事実に変わりはないのに」
「うん」
「……刹那」
「なに?」
「私はお母さんとは違うよ。私は私、西園寺世界という一人の女の子」
どんな事情であろうと浮気の子どもという事実に変わりはない。
親子であっても似ている所があれば違う所もある。
親に支配される操り人形ではなく、個性をもった一人の人間だ。
「世界はそれでいい」
「刹那もね。おばちゃんとは違う、清浦刹那という一人の女の子だよ」
「うん」
「それじゃあ、エスコートの続きをお願いできる?」
これ見よがしに右手を差し出す。
刹那が頷いて繋ぎ、世界をリードして進む。
1組と2組の喫茶で、目的の白玉あんみつとパフェを味わう。
その後は適当に出店を見回っていく。
「刹那、あそこに伊藤の妹のいたるちゃんがいるよ。ほら、輪投げをして遊んでる」
「うん。小さくてかわいい。やっぱり伊藤とよく似ている」
「そりゃ実の妹だから似てるでしょ。可憐が傍で見てくれて安心だね」
「声、掛けないの?」
「うん、あえて声掛けはしない。学園のお祭りを存分に楽しんでほしいから」
体力の都合上、可憐のほうが長く遊ばせることができる。
そのため、止のことは可憐に任せた。
一を知って十を知る刹那。
世界の言いたいことがわかり、それ以上は何も言わない。
鉢合わせをしないように行き先のルートを変える。
校内の廊下で心と言葉の姉妹と鉢合わせをした。
「世界さん刹那さん、こんにちは」
「こんにちはこころちゃん。そしてことちゃんはお疲れ様」
「はい、世界ちゃんもお疲れ様です。せっちゃんはエスコート中ですね」
「うん。ことぴーと同じ」
「はい同じです」
保護者の言葉が心の案内役をしている。
姉として務めだと言わんばかりに。
せっかくなので少しだけ世界から話題を出す。
「そういえば、ことちゃんの家でペット飼ってないね」
「お父さんとお母さんが仕事でいない事が多く、生き物のお世話は大変なので安易には飼えません」
「こころは賛成だよ。ちゃんとお世話するもん」
「そう言って、心がお世話しなかったら私がすることになるんだから」
「ふーんだ。ひきこもりのおねえちゃんなんかアテにしないもーん」
犬の散歩をする言葉や心のイメージがよく似合う。
豪華な一軒家によりペットの飼育は可能だ。
面白そうだと感じた世界はもう少し話を膨らませる。
「こころちゃん、もし仮にペットを飼うなら名前どうするの?」
「うーん、世界さん何かいい名前ない?」
「真っ直ぐで汚れのない純粋な子を願っての真白ちゃん、ことちゃんとこころちゃんの頭文字とってここちゃん、スケールが大きく自由に育ってほしい思いでソラちゃん」
「世界さんすごぉい!! すぐに3つも名前出すなんてこころ出来ないよ!!」
言葉と刹那も相槌を打って頷く。
理由を添えて3つも素早く出せる発想力に驚かされる。
天文部のアイデア担当は伊達ではない。
「こころちゃんなら今のを参考にして、素敵な男の子の名前を思い付けるよ」
「えー、そうかな?」
「うん。こころちゃんの可能性を、こころちゃん自身が信じて頑張れば、きっと素晴らしい人になれる。私はそう思ってるよ。ファイトこころちゃん」
やや強引な励ましだが世界の言うことに偽りはない。
真っ向からストレートに伝えてくれる。
心のような純粋な子どもには効果的だ。
こうして姉妹と別れた後、手を繋いで歩く刹那に問う。
「刹那、こころちゃんぐらいの歳の私ってあんな感じだった?」
「もっとうるさかった。もっとヤンチャだった。もっと――」
「わかった。それ以上はお腹一杯だからいいよ」
校内の一角にあるコーナーで伊藤と乙女を発見。
学祭を一緒に回っている乙女はとても楽しそうだ。
伊藤も満更でもないようで良い雰囲気である。
「世界行こう」
「そうだね」
空気を読んで静かに立ち去る。
あとは当人同士で決めること。
これ以上の介入は不要である。
「世界、そろそろ休憩を入れたほうがいい」
「そっか。少し早いけど屋上行く?」
「行こう」
幸いにも学園祭当日はそれほど暑くない。
秋の実感を得るほどの快適さ。
榊野学園のミステリーである屋上のベンチを使う。
世界はそこで横になり、刹那が膝枕をしてくれた。
「世界、疲れた?」
「ちゃんと余力は残してるよ。でも無意識に気を張り詰めてるかもしれない。だから自己判断じゃなく、私をよく見ている刹那の指示に従うよ」
「それなら今は大人しく休んで」
「了解。もし寝てしまったら途中で起こしてね」
「うんわかった」
そこから居眠りを始めてしまう。
あどけない世界の寝顔。
刹那が幸せそうに目を細める。
ずっとこうしていたい。
このまま時が止まってくれたらいいのに。
そう願いながら幸せの時間が流れていく。