World Days(新版)   作:完結の陽炎

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第12話「伊藤誠の答え」

 時は遡って伊藤が1年4組へ行った。

 展示会の店番から交代で休憩に入る乙女。

 直接の顔を見ることで迷いが出た。

 自信がないのは乙女だけでなく伊藤も同じ。

 また人前という状況も悪い。

 これでは答えを言いたくても言えない。

 

「誠、とりあえず一緒に学祭を見て回らない?」

「え?」

「ほら人前だし……ダメかな?」

「確かに。とりあえずそうするか?」

「うん行こう」

 

 言っていいタイミングと悪いタイミングがある。

 乙女としてもムードは大切にしたい。

 バスケで例えるならウォーミングアップをするようなものだ。

 

「そういえば可憐が止を連れて遊びに来るんだったな」

「もう来てるはずだよ。きっと出店を巡ったら会えると思う」

「止のヤツ、すげぇ楽しみにしてたんだ。可憐に迷惑かけてないといいけど」

「あの子は体力あるから大丈夫だよ」

「たしか可憐もバスケやってるんだよな?」

「うん。お姉もやるなら私もって、昔っから私のマネしちゃって」

「へえー、姉妹ってそういうものなのか?」

「まあ、私たち一つしか歳が違わないから。服の交換とかよくやってた時期があるし」

 

 大きな綿菓子を分け合って食べる。

 ひょっとこ仮面をつけての悪ふざけで乙女を笑わせる。

 校内の占いで伊藤と乙女の相性を調べてもらった。

 そして廊下を歩き、伊藤の目の前に立って乙女が言う。

 

「二人の相性、割と良かったね」

「中学の頃、お互い言いたいこと言って喧嘩ばっかしてたのにな。でも、だからこそ気兼ねなくて楽しかったんだよな」

 

 一緒にいても気疲れすることなく楽に感じること。

 遠慮をすることなく本音をぶつけても問題がない相手。

 お互いに喧嘩をしても、スッキリして仲直りができる切り替えの早さ。

 総合的に考えると、伊藤と乙女の相性は良い。

 

「ねえ誠、後夜祭のフォークダンス、私と踊ってくれる?」

 

 伊藤の脳裏に世界のアドバイスが蘇る。

 ちゃんと言ってあげないと乙女が不安になってしまう。

 一人の男として答えをハッキリさせたい。

 

「乙女、俺は――」

「おにーちゃ!!」

「うわっ!?」

 

 兄を見つけて止が鉄砲玉のように抱き着く。

 どこかで会うだろうと思っていた。

 それが今だったのだが、実にタイミングが悪い。

 

「ごめんお姉、止ちゃんがセンパイ見つけちゃって」

「いいよ別に。学園内で会うことは予想してたし」

 

 これは仕方のないこと。

 お兄ちゃんっ子である止に我慢しろというのは酷だ。

 まだ幼い故にタイミングの配慮はできない。

 すると止が乙女に駆け寄る。

 

「おとねぇ」

「どうしたの止ちゃん?」

「おとねぇ、おにーちゃのことすきぃ?」

「こ、こら止、変なこと言うなよ。乙女が困るだろ?」

「へんなの?」

 

 無垢な幼女が乙女を見上げて首をかしげる。

 乙女はしゃがんで頭を撫でた。

 世界を見習うように同じ目線に合わせた。

 

「変じゃないよ止ちゃん」

「じゃあすきぃ?」

「うん。私は誠のこと、止ちゃんのお兄ちゃんのことが好きだよ」

 

 乙女の気持ちに止が満面の笑顔を振りまく。

 すると今度は兄である伊藤の袖を掴む。

 見上げた状態で純粋な眼差しのまま問いかけた。

 

「おにーちゃ、おとねぇのことすきぃ?」

 

 可憐は期待に満ちた目で見守った。

 乙女も伊藤の返事を待ち望んで耳を傾ける。

 止のおかげで返事をするきっかけとなった。

 もう先延ばしは許されないだろう。

 これを逃がすと一生返事ができないように思える。

 そしてついに……。

 

「ああ、お兄ちゃんも乙女のことが好きだよ」

 

 その後は四人で学園祭を回る。

 途中、可憐が止の帰りを送るために離れた。

 伊藤は人前を避けて乙女を連れて行く。

 場所は出店のないグラウンドの離れだ。

 

「なんか止に言わされたみたいで、俺の気が済まないんだ。だからここで思ってる事を全部言わせてくれ」

「わかった」

 

 いつでも来いと乙女は聞く姿勢に徹する。

 伊藤はグラウンドの出店がある方向を眺めた。

 そこから過去を思い返すように語り始める。

 

「1学期から、同じ電車に乗っていた桂のことが気になって、遠くから眺めたことがあった。でもそれは桂の迷惑になるから諦めた」

「うん」

「止に優しくしてくれる西園寺のことが気になった。でも西園寺から他を当たれって言われて諦めた」

「……うん」

「こんなフラフラしてばっかりでさ。俺、正直不安なんだ。乙女と付き合って大丈夫なのかって」

 

 一貫性がないことへの自己嫌悪。

 乙女に返事をしてその先に対する不安。

 未経験ゆえに上手くやっていけるかの心配が拭えない。

 そして伊藤は乙女に真っ直ぐに見つめて言った。

 

「俺も男だからさ。エッチなことに興味がある訳で、乙女にそういうのを求めてしまったら、すごい事になると思う」

「す、すごいこと……」

「ありったけの欲望をぶつけて、乙女を傷つけるかもしれない。優しくできる自信なんてないんだよ。そんな余裕が持てるとはとても思えなくて」

「いいよ」

「え?」

「傷物にされてもいい。忘れられないほど刻み込んで、誠が私を愛してくれるなら」

「マジか?」

「でもさすがに避妊はして。まだ私たち学生で、それで子どもが出来ても困るから」

「それなんだよな。俺、経験がないから失敗してしまうかもしれないし」

 

 乙女は可憐から吹き込まれた情報がある。

 ダブルダッチメソッド。

 男がコンドームをつけて、女はピルを飲むという二重の避妊法。

 お金が掛かることで、こずかいで足りないのならバイトが必要だ。

 女子バスケ部で活動をしている乙女。

 バイトの都合をつけるのは難しいだろう。

 ド短期のスポットでバイトをするのが御の字である。

 

 場所選びも厄介だ。

 伊藤は集合住宅のマンションに住んでいる。

 そのため騒音で近所迷惑になる可能性がある。

 乙女の自宅は両親のいない時間帯であればOKである。

 

「け、結構大変なんだな。そういうことするのって」

「誠が面倒なことを嫌がるのは知ってるけど」

「いや大事なことで面倒なんて言わないって。あとで後悔しないために必要なことだろ?」

「そうだね」

「とにかく俺がバイトして稼ぐよ。乙女はバスケを続けてくれ」

「でも、それだと誠に負担が掛かるじゃない。これって二人の問題だし、私もバイトして稼ぐのが筋でしょ?」

「こういう時ぐらいカッコつけさせろよ。見栄ってものがあるんだよ男には」

「本当にいいの?」

「そもそも俺が乙女にエッチしたい、なんて男のワガママ言ってるんだ。それなら俺が働いて稼ぐのがそれこそ筋じゃないか」

 

 甲斐性の無い男と思われたくない。

 伊藤誠にも男としての意地はある。

 もっとオブラードに包んだ表現をするべきだったかもしれない。

 だが偽りなき本音をぶつける以上、ストレートな言い方になってしまう。

 

「そんなに私としたいんだ」

「ダメか?」

「ううんダメじゃない。誠って中学から私を女の子扱いしてなかったから、求めてくれるのは嬉しい」

「じゃあ改めて。そういったこと全部ひっくるめて、俺と付き合ってくれるか?」

「はい!!」

 

 カップル誕生の瞬間である。

 伊藤が後夜祭のフォークダンスを誘い乙女は喜んで受ける。

 こうしてお互いに忘れられない想い出となった。 

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