World Days(新版) 作:完結の陽炎
屋上で寝ている世界の携帯に着信があった。
相手は言葉。
刹那が代わりに出て応じる。
「ことぴー、どうしたの?」
「あ、世界ちゃ――いえ、その声はせっちゃんですか!?」
「うん。世界の代わりに出た。何かあったの?」
「大変なんです!! 七海さんが!!」
言葉からの事情を聞く。
七海は学園祭を一緒に回ろうと彼氏である先輩のクラスへ行った。
しかし不在だったので必死で探し回る。
その結果、人目のつかない校舎裏で浮気現場を目撃。
手を出した相手が年下でロリコンであったことが判明。
当然、修羅場となる。
――なぜ他に好きな子がいるのに、私と付き合ったんですか?
これに対する彼氏の答えにショックを受ける。
――世間の目があるから、その隠れ蓑にするためなんだ。
七海が堪り兼ねて殴ろうした。
その前に割って入り、先輩に平手打ちをした人がいる。
言葉であった。
心を帰した後、七海が探し回っているのを目撃。
なぜか胸騒ぎがして尾行をしたのである。
――貴方は最低な人です。
その一言と共に七海を連れ出す。
今はとにかく自由に泣かせたほうがいい。
そう思い屋上を借りようと世界に電話をしたのである。
「わかった。屋上の鍵は開いてる。そのまま来て」
「すみません。すぐ行きます」
刹那が携帯を切る頃。
世界はすっかり目を覚ましていた。
「出ようか刹那」
「うん。説明は後でする」
世界と刹那は屋上を去る。
それと入れ替わるように言葉と七海が来た。
屋上なら誰も来ないので存分に悲しんでいい。
ベンチに座り、両手で顔を隠して泣き出す。
そんな七海の隣に寄り添って離れない。
さり気なくハンカチを差し出して涙を拭わせる。
「無様なとこ見られちゃった」
「それは違います。七海さんは何も悪くありません。私のほうこそ、手荒な所を見せてしまいました」
「……私の代わりに叩いてくれたね」
「七海さんの手は、バスケでプレイをするための素敵な手です。あんな人のために使ってほしくありません。それが私の我儘です」
キリッと真面目な顔で言ってくれる。
七海からすれば口説き文句だ。
「その言い方だと、私がバスケしか取り柄がないみたいじゃない?」
「す、すみません。スポーツをするための素敵な手と訂正します」
「どうせ私はスポーツ馬鹿だよ。まったく……言」
「はい?」
「……サンキュー」
「どういたしまして」
七海は泣き疲れて不貞寝がしたい。
言葉の厚意に甘えて膝枕をしてもらった。
散々な所を見せているので、今更取り繕う気はない。
スヤスヤと安心して眠る七海。
それに安堵した言葉がメールを送信する。
相手は電話に応じてくれた刹那にした。
『七海さんが泣き疲れてベンチでお休み中です』
『ことぴーは?』
『七海さんに膝をお貸ししています』
『膝枕だね。そのまま屋上使っていい。世界には既に説明をして了解済み』
『ありがとうございます』
『世界からの伝言。七海を慰めてくれてありがとう』
『七海さんも私の大切なお友達ですから当然の事です。とお伝えください」
『了解』
天気が雨でなかったことに感謝である。
言葉は空を眺めた。
七海の傷心が癒えることを祈るために。
………………。
…………。
……。
屋上を去った後。
世界と刹那はグラウンドの隅っこへ移動していた。
浮気をした七海の彼氏に激しい怒りを覚える。
両家の母を泣かせた父みたいで許せない。
「刹那。私はね、友達を傷つけられて冷静でいられるほど、大人じゃないから」
「暴力はダメ。それは七海が望まない」
「隠れ蓑ってなによ? そんなことに七海を巻き込むな」
「同意」
「学園にやましい事してたんだよね? 証拠があれば退学処分にできそうだよ」
「見ただけでは不十分。やるなら徹底的に」
「今回、ことちゃんも怒ってるから協力してもらうよ。でないと相手が調子に乗って、さらに被害が増えると思うから」
せっかくの楽しい学園祭に水を差されてしまった。
こうなってはフォークダンスの約束も無効である。
今は七海のことを最優先だ。
七海の彼氏だった先輩の不埒な行為。
桂家を頼って探偵に依頼をする。
浮気調査をしての証拠を集めてもらった。
予想を遥かに超えて、口に出すのも憚る内容が届いた。
言葉の両親は七海のことを知っている。
言葉がイジメられないよう守ってくれた大切な友達の一人。
そんな七海を利用して、世間の目を欺く姑息なやり口。
今後のためにも見逃すわけにはいかない。
桂家を通じて甘露寺家にも報告が入る。
七海の親としてはとても許せることではない。
彼氏側の家族にも知られる事となり、甘露寺家へ本人を連れて謝罪へ出向いた。
両家の間を桂家が上手く入ってまとめてくれる。
この件で大変なことは、被害を受けているのが七海だけではないこと。
彼氏のバイトは塾の講師または家庭教師で、教え子にまで手を出している。
当然、その親の所へも彼氏側の家族は謝罪をしなければならない。
今回の場合、学園祭という校内で浮気をしていたため、学園側の管理責任も問われてしまう。
もしマスコミやインターネットで公となったら大問題だ。
榊野学園の評判は瞬く間に地に落ちるだろう。
該当する先輩の退学処分は避けられない。
今年の榊野学園は災難といっても過言ではなかった。
………………。
…………。
……。
言葉の慰めが効果的だったのか。
先輩の退学処分で気持ちのケジメになったのか。
七海は熱心にバスケの部活に取り組む。
学園祭の盗撮カメラ問題で2年生のやらかしがあったので、部の内部はズタボロである。
顧問の先生から当面の間、他校との試合を自粛と言い渡された。
それでも体育館でバスケの練習が出来るだけマシである。
「アタシ、もう二度と恋はしない」
屋上で昼食を共にする世界・刹那・言葉に宣言。
三人揃って、それは無理もないと同情をしてしまう。
光と乙女は彼氏持ちという立場上、気を遣っての学食である。
七海が完全に吹っ切れるまでは距離を置くようだ。
その間、世界たちが七海の慰め役を買って出る。
「平手打ちで済ませることちゃんは優しいよ。私がその場にいたら、護身用のペンで滅多刺しだね」
「世界、刺したらダメ」
「なによ。刹那だってその場にいたら蹴り倒してたでしょ?」
「当然、女の敵」
「あの、世界ちゃんもせっちゃんも、あまり危ない事はしないでください」
七海は目の前にいる友達の優しさに救われる。
これからも大切にしていきたい。
そんな女の友情に包まれて温かい時間を過ごした。