World Days(新版)   作:完結の陽炎

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第14話「決まりゆく居場所」

 時間をかけて少しずつ元気になってもらうしかない。

 腫れ物扱いは七海が好まない。

 いつも通りに接するほうが気楽でいいようだ。

 

 光と乙女も変な気を遣わないようにしてもらった。

 表面上で明るくなっただけでもマシである。

 そう簡単に心の傷は治らないが気長にやるしかない。

 

 昼休みの屋上。

 ベンチに座っているのは世界・刹那・言葉。

 他のメンバーは教室または食堂である。

 

「うん。世界のサンドイッチ、美味しい」

「本当に美味しいです。これだけの味や食感、私では出せません」

 

 今回は二人のために自慢のサンドイッチを作った。

 些か手間は掛かったが、普段からお世話になっているので苦にならない。

 飲み物だけ言葉の厚意に甘えて、温かいレモネードを頂く。

 

「私、天文部立ち上げて心底良かったって思う。屋上が役に立ったみたいで何よりだよ」

「はい。お二人にはとても感謝しています。あの時は一刻も早く、七海さんの悲しみを取り除きたかったので」

「世界の携帯にすぐ電話したことぴーは偉い」

「同感だね。我慢したらダメな事は、私は自分の体で身に染みてるよ」

 

 これをきっかけに七海は言葉と接する頻度が増えた。

 部活で疲れている時に一緒にいると癒されるらしい。

 おっとりお嬢様の雰囲気に和んでしまうのだろう。

 

「バスケ試合の観戦チケットとか、七海は喜びそうだけど、刹那はどう思う?」

「七海、他の人のプレイも参考になるって言ってた。プロの試合なら、より刺激になってきっと喜ぶ」

「という訳でことちゃんよろしく」

「またそうやってことぴーに甘えるの?」

「だって私はアイデア担当だもん。実行者は刹那とことちゃんのお、し、ご、と」

「言い方ムカつく。蹴りたい」

「まあまあ、せっちゃん。七海さんに元気になってほしいのは私も同じです。任せてください」

 

 適度なアフターケアを心掛ける。

 それだけ七海のことを大切にしているから。

 友達としてできる事はしておきたい。

 

「少し寒くなってきたね。屋上で食べるのもそろそろ終わりかな?」

「今は季節の変わり目、世界は風邪をひかないように温かくすること」

「はーい」

 

 屋上から教室へ戻り、伊藤へ話し掛ける。

 止が遊びに来る日程を尋ねるためだ。

 向こうの都合でしばらくは来れないらしい。

 

「むー残念。刹那の折り紙フルコースで、いたるちゃんを楽しませたいのに」

 

 夏休みで世界がおたふく風邪になった時。

 砂浜で刹那と止は会っている。

 その際、伊藤が持っていたチラシを使って紙飛行機を折ってあげた。

 もし次があれば、もっと色々なものを作ってやればいい。

 

「もし日にちがわかったら、乙女を通して知らせて」

「直接西園寺ではダメなのか?」

「あのね、乙女は伊藤の彼女なんだよ。その顔を立てたほうが乙女は喜ぶじゃない」

「そういうものか?」

「そういうものよ。嘘だと思うなら試してみなさい」

 

 ここで刹那は静かに思う。

 世界は自分の性格を大雑把だと口にするが違う。

 相手に対して細かい気配りをする。

 逆に言えば、自分の事が適当になるのが欠点。

 そこは刹那が補う意思を持ち、今も観察を怠らなかった。

 

 後日、可憐と会って近況を探る。

 場所は砂浜の海岸。

 誠と乙女が付き合うようになったこと。

 そのバイトに奔走している。

 

「世界さん、世界さんのお母さんのラディッシュは募集してないんですか?」

「求人に女性活躍中で出してあるみたいよ……ほら」

 

 携帯のネットを可憐に見せる。

 確かに女性活躍中の求人記載があった。

 

「あー、つまり男の人はいらないと?」

「……まあ、あの店はお母さんの縄張りだからね」

 

 男の人が入ると、どうしても空気が変わる。

 色恋沙汰を持ち込むタイプは避けたいのだろう。

 寄せては返す波を見つめながら、画面を閉じる世界。

 可憐は少し残念そうに、砂浜に足跡をつけながら歩いた。

 

「お姉の彼氏……あ、もうお義兄さん候補ですかね。センパイ、バイト探しに必死ですよ」

「へえー、そんなに働きたいんだ」

「お姉にカッコいいところ見せたいのか、あるいはデート代を捻出したいのか、果たしてどっちでしょうね?」

「さあー、でも、身の丈に合わないバイトで、委員会の仕事が疎かになったら、また刹那に蹴られるかも」

 

 やがて田中が退院すれば、誠はお役御免となる。

 その辺りのタイミングも含め、四苦八苦する誠が想像してしまう。

 

「でも世界さん、あのお姉がですよ? センパイと同じバイトしたいとか言い出さないか心配で」

「乙女は七海と同じ女バスで部活あるでしょうに」

「そうなんですけどね。あの二人、放っておくとお互いしか見えなくなるんじゃないですか?」

「乙女はそうだろうけど、伊藤はどうだろうね」

 

 男の浮気を思うと黒い感情が渦巻く。

 父不在を思えば、男を信じきれない。

 そっと気持ちの引き出しにしまいこむ世界がいた。

 

「もし伊藤が本当に困ってるなら、光の店を紹介してあげてもいいけど」

「あの洋菓子屋の?」

「うん。でも、あそこは光の『伊藤フィルター』が厳しいからね。可憐から見て。伊藤は光のシゴキに耐えられると思う?」

「いやーどうでしょう。刹那さんレベルに耐えられるならいけるのでは?」

「光はシャーと猫みたいに威嚇するタイプ、刹那は無言の圧だから、比べる質が違うと思うけど」

 

 ふと世界の携帯にメール着信が発生。

 光からだ。

 彼氏の泰介が光の店を手伝うようになった。

 男手で足りないからと、力仕事を任せて助かっていると惚気話だ。

 つまり……。

 

「あはは、どうやら澤永で充分みたいね」

 

 砂浜に寄せては返す波の音だけが、二人の沈黙を埋める。

 光の店で汗を流す彼氏の知らせ。

 どこか平和で、居場所が決まる安堵感をもたらしていた。

 

「その澤永さん、いい働きしそうですね。光さんに尻に敷かれてるくらいが丁度いいのでしょうか」

 

 可憐がクスクスと笑いながら、波打ち際で貝殻を拾い上げる。

 世界はその横顔を眺め、ふと考える。

 泰介と光。伊藤と乙女。

 それぞれの形が決まっていく中で、取り残される予感。

 あるいは、守らなければならない平穏の形がある。

 

「……ねえ可憐。学園祭が終わって、少し寂しくなるかな」

「世界さんらしくないですよ。冬休みになれば、やることいっぱいありますって」

 

 可憐は拾った貝殻を世界の手のひらに乗せた。

 白く、冷たい感触。

 世界の自己管理という名の孤独を、可憐は見透かしていた。

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