World Days(新版) 作:完結の陽炎
アパートのこじんまりとした食卓。
珍しく早く帰ってきて母の機嫌がいい。
世界は母と一緒に夕食を共にした。
「聞いて聞いて世界」
「はいはい。ちゃんと聞くから、いい歳してはしゃがない」
正面で座っている母に本題を促す。
「実はね、パリ支店の転勤が決まったの」
「ずっとお母さんの野望だったパリで店を持つ夢の第一歩ってこと?」
「そう。私の仕事が評価されてね。チャンスを手にしたの」
「よかったねお母さん。おめでとう」
これは長年追いかけた夢の実現。
パリで成功してみせるという踊子の道のり。
ようやく海外で可能性を広げられると大喜びだ。
「ありがとう。だから世界もすぐ準備してね」
「もうお母さんってば、そんな急かさなくても、後でお祝いの準備するから」
せっかちな母である。
よほどパリの転勤が嬉しくてたまらない。
ちゃんと娘として祝福するつもりであるのだが――。
「そうじゃなくて、世界もパリに行く準備をしてね」
「え? 私もパリへ行くの?」
「そうよ、だって転勤なんだから」
世界の表情が瞬く間に曇る。
胸の内がざわざわとして落ち着かない。
唐突な言いつけに、さすがに困ってしまう。
「ちょっとお母さん、それはあまりに急すぎるよ。前に言った時は、例の短期出張だったでしょ?」
「まあ、その時は本決まりじゃなかったからね」
「以前とは違うってこと?」
「そう。あの時とは状況が変わったの。もう決まったことだから」
なんとも強引な母である。
娘が難色を示しているのにお構いなしだ。
他の選択肢がないのかで探ってみる。
「ねえお母さん、私がここに残るという事はできないの?」
「無茶言わないで。家は頼れる親戚がいないし、世界をここに一人残す訳にもいかないのよ」
浮気の子どもだから、親戚が世話をしてくれるはずもない。
世界を一人残すだけの経済的な余裕もない。
無理だと頭の中でわかっても、あえて世界は確認を取る。
「数日のお泊りじゃないから、刹那に頼ることはできないんだね?」
「そうよ。ずっと迷惑はかけられないでしょ」
急激な環境の変化は、体が弱い世界にとっては猛毒だ。
自律神経が大幅に乱れ、体調の悪化が深刻化する恐れがある。
そうなってしまったら本末転倒。
母の夢を邪魔することになる。
その事に母は気付いていないのか?
娘の身を案じるよりも自分の夢を優先する。
自分のことしか考えていない。
まったく見えていない。
「部屋に戻る」
「お母さん、明日はパリで色々手続きしないといけないから。早めに荷造りしておいてね」
これ以上話せば、気分の悪さで吐いてしまうかもしれない。
ストレス耐性が低い世界としては危険な兆候である。
その場で行かないと駄々をこねても無駄だ。
ここから先、どうしたらいいのか?
部屋のベッドで膝を抱えて考え込む。
これまでの思い出を振り返りながら。
苦しい、辛い、哀しい。
こころの中がぐるぐると回っていく。
悩みに悩み抜いた末、取った世界の行動は……。
【パリ行きの準備をする→バッドエンド】
【刹那に電話をする→ノーマルエンド】
【言葉に電話をする→ハッピーエンド】