World Days(新版)   作:完結の陽炎

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 榊野学園2学期、第14話「パリ行きの選択肢」にある【パリ行きの準備をする→バッドエンド】を選択した場合の分岐ルートです。



分岐ルート
バッドエンド「鮮血のリボン(前編)」


 世界は自分の部屋にこもって考え込む。

 母の性格は世界が誰よりも知っている。

 綺麗事抜きに夢のためならば手段を選ばない。

 自己中心な側面があり、娘の事情に対しての配慮がない。

 

「刹那……ことちゃん……」

 

 どちらかに電話をしようかという選択肢はあった。

 だが仮に電話をしてどうなるのだろう?

 いくら刹那や言葉でも母が決めたことだ。

 どうにか出来るとは思えない。

 

 母の夢を壊したくない。

 それは娘として望む所ではない。

 

 刹那の身代わりだと考えてパリへ行こう。

 刹那は一見クールに見えても孤独に弱い。

 強くありたいと思っているようだが、一人で出来ることは限られる。

 人に頼ることを苦手としている節がある。

 刹那には支えてくれる人が必要だ。

 

「刹那にはことちゃんがいる」

 

 小さい頃から仲良しの言葉は今でも得難い存在だ。

 絶大な信頼を寄せているから刹那を任せられる。

 七海や光、乙女も刹那の友達だ。

 世界がいなくなっても、刹那を大切にしてくれる。

 

 世界は覚悟を決めた。

 パリで母の夢を邪魔しないようにする。

 母の迷惑にならないように気を付けよう。

 たとえ体調を崩したとしても、多忙の母の手を煩わせないようにしなければならない。

 

 虫の知らせだろうか?

 もしかしたら二度と戻ってこれないのかもしれない。

 否、弱気になってはいけない。

 いつか刹那と再会ができるように頑張る意気込みだ。

 

 別れが辛くなる。

 体調の都合もあるので学園には内緒にしてほしい。

 知らせるならパリへ引っ越していなくなった後だ。

 母を通じて学園の先生から了解を頂く。

 手続きの都合で頻繁に休むことが増える。

 母に頼みインフルエンザという嘘をついてもらう。

 感染をするからお見舞いは拒否とすれば怪しまれない。

 

「世界、本当にいいの? お友達にお別れを言わなくて?」

「お母さん、別れって心だけじゃなく体にも負担がかかるんだよ。お母さんの夢のために、私は大切な友達と離れるんだから、多少のワガママは許してよ」

「世界……ごめ――」

「謝らないで。もう決まったことで手続きも終わったよね。後戻りはないってわかってるから」

 

 葛藤はあった。

 きっと光たちは怒るだろう。

 それでも面と向かっての別れは辛すぎて無理だ。

 打たれ弱い世界の精神がもたない。

 あとで携帯のメールで謝るつもりである。

 しかし……。

 

「刹那……ことちゃん……」

 

 この二人にはちゃんと言うべきではないか?

 さもないと一生後悔するのではないか?

 

 言葉には刹那をよろしく頼まないといけないのに。

 それをメールだけで済ませるのは胸が痛む。

 言おうと言おうと思っても言いそびれてしまう。

 そして時が流れてしまい、パリ行きの空港に立っていた。

 

「……」

 

 いつもなら帽子を被っているが、今の世界はそこまで頭が回らない。

 触角となるクセ毛が目立っている。

 それが目印となったのは間違いない。

 

「せっちゃん!! 見つけました!!」

 

 世界は驚きの余りに振り返ってしまう。

 幻でも夢でもない。

 そこに言葉と刹那が現れたのだ。

 

「どうして?」

 

 当然の問いである。

 刹那の母には世界の母を通じて口止めをしている。

 世界を追い詰めるから刹那に伝えないようにと。

 だから刹那は知らないはずである。

 すると言葉が答えた。

 

「私のお母さんから世界ちゃんのパリ行きを知りました」

 

 仕事の繋がりがあるため、今回のパリ行きを知ることができた。

 これは迂闊である。

 言葉の母についてはノーマークだった。

 

「ひどいです世界ちゃん。いくらお別れが辛いからって、せめてせっちゃんには直接お伝えするべきです」

「ことちゃん、怒ってるよね」

 

 言葉に引っ叩かれても文句は言えない。

 それだけのことをしている。

 幼馴染に別れの一言も告げずにいなくなろうとしたから。

 

「お別れを言われなかった側の気持ち、世界ちゃんは考えたことがありますか?」

「ごめん、そこまで考えられなくて。私、自分勝手だなって思う」

「世界ちゃん、せっちゃんは私が連れてきました。そうしなければ、一生後悔すると思ったからです」

「……」

 

 終始無言で俯いたままの刹那。

 世界も視界に入れないようにしている。

 お互いに目を合わせない気まずい空気だ。

 

 言葉が刹那の背中をそっと押す。

 その後押しで前へと踏み出した。

 居合の名残りで世界が間合いを意識する。

 すなわち両者が見つめる形になった。

 

「……」

 

 お互いに動かない。

 頭が真っ白になる表現は言い得て妙だ。

 この均衡は長く続かない。

 先に刹那から反応があったからだ。

 それは……。

 

「……ぅ……くっ……ひっ……」

 

 両手で目を覆いながらの嗚咽。

 刹那を泣かせたのは他でもない世界だ。

 

「……」

 

 世界の中で何かが変わった。

 目の前の大切な存在を蔑ろにした事実。

 そこから逃げることは許されない。

 

 ゆっくりと間合いを縮める。

 手の届く距離になって足を止めた。

 刹那と向き合う。

 まるで居合をするかのごとく真剣な目付きで。

 

「刹那」

 

 たった一言の呼び掛け。

 そこには今までにない力強さがあった。

 ビクッと刹那の体が反応する。

 

「二つお願いがあるの。刹那にしかできないお願い、聞いてくれる?」

 

 刹那が腕でゴシゴシと目元をこする。

 涙でグシャグシャになりながらも頷く。

 

「刹那がつけている赤いリボン、借りていきたい」

 

 これに刹那はぐすっと声詰まり。

 何でと疑問を向けると世界が返答をした。

 

「覚えてる? 刹那のリボンをつけて居合した時のこと」

 

 刹那は頷く。

 忘れるはずもない。

 その時の美しい居合は目に焼き付いている。

 

「御守りに貸して。刹那のリボンがあれば、私はとっても強くなれちゃうから」

 

 あの時のように世界が頭を差し出す。

 つけてほしいという合図だ。

 そして赤いリボンが刹那の手によって着けられた。

 

「再会の約束。必ずこのリボンを返しに戻って来るから」

 

 世界は本気である。

 何年先になるかわからない。

 それでもリボンの返却を理由に刹那と会う約束をした。

 ここまでされたら刹那も喜んで応じてくれる。

 

「じゃあ最後のお願い。おまじないするから、目を閉じてそのまま動かないで」

 

 世界に言われるまま目を閉じる。

 

 おまじないとは何なのか?

 

 それは間もなく明らかとなる。

 刹那の前髪をかきわけて広がったおでこ。

 そこに世界が堂々と口付けをした。

 

「あっ……」

 

 目を開けると世界が離れていた。

 赤いリボンをつけた状態での笑顔が眩しい。

 

「また会おうね。私の大切な親友、そして大切な……私の妹」

 

 刹那の目が見開く。

 世界は背を向けて片手をヒラヒラ上げて歩き出す。

 だが後ろから刹那に抱きつかれてしまう。

 

「……やだ」

「刹那」

「いか……ないで……」

「ダメだよ」

「なんで……家族なのに……いかないで」

「くっ……ことちゃん!!」

「は、はい!!」

「刹那を……私の妹をお願い!!」

 

 こうなっては言葉も動かない訳にはいかない。

 刹那を後ろから抱きしめて世界から引き離す。

 

「は、離して。離してよことぴー」

「ごめんなさいせっちゃん。でもこれ以上は世界ちゃんが耐えられません。だから引き留めないであげてください」

「やだ……いっちゃやだ……いかないで……っ……おねえちゃん!!」

 

 背を向けて歩く世界の足が止まった。

 でも振り返らない。

 既に世界の顔は涙でボロボロだ。

 迷いを振り切るため、懸命に足を動かして去っていく。

 

 その場で刹那は泣き崩れ、言葉が抱きしめた。

 こうして空港での別れと再会の約束が交わされたのである。

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