World Days(新版)   作:完結の陽炎

64 / 88
 榊野学園2学期、第14話「パリ行きの選択肢」にある【刹那に電話をする→ノーマルエンド】を選択した場合の分岐ルートです。


ノーマルエンド「お揃いのリボン(前編)」

 母の夢を応援したいが、世界は自分の健康が悪くなることを予期している。

 不慣れな海外生活で一人頑張っても限界が訪れるだろう。

 

 明らかに時期が悪すぎる。

 せめて榊野学園を卒業してからにしてほしい。

 それなら留学という形を取ることも吝かでない。

 

 もっとも、その時は寮暮らしで離れる選択肢もある。

 必ずしも一緒に行かなくてもいい。

 親離れ上等といった自立心で正当性を立てられるから。

 

「刹那……」

 

 世界が思わず呟く。

 大切な親友であり腹違いの妹。

 たとえ言い辛くても言わねばならない。

 誰よりも一番先に刹那へ伝えるべきだ。

 さもなくばこの先ずっと後悔をするに違いない。

 携帯を持つ世界の手が緊張で震えた。

 

「世界、どうしたの?」

「……」

「世界?」

「……おばちゃんから何も聞いてない?」

「うん。お母さん機嫌が悪い。今は何も聞かずに部屋へ避難」

「そっか。あのね刹那……伝えないといけないこと、あるの」

「言いにくいこと?」

「うん。でも刹那には言わないといけないと思って」

「言って」

「……」

「世界」

 

 刹那の催促に世界は深呼吸を繰り返す。

 そこから勇気を振り絞って重い口を開いた。

 

「刹那に、お別れを伝えるために電話したの」

「……なにを言ってるの?」

「お母さんのパリ転勤が決まった」

「それ、いつもの短期出張じゃないの?」

「うん。長期でずっとパリ行きになったって。それで私も連れて行くって」

「それでお母さんの機嫌が悪いんだ」

 

 これで事情が呑み込めた。

 世界が言いにくかったのも無理はない。

 それでも勇気を出して電話をしてくれた。

 

「もう私、刹那の傍にいることができない。困った時はことちゃんを頼って」

「ダメ」

「え?」

「世界はパリに行ったらダメ」

「なんで?」

「世界、自分でわかってるはず。急に環境を変えると具合が悪くなるって」

「うん」

「世界がパリで体を壊したら、誰が世界の看病をするの?」

 

 頼れる親戚がいない訳だからパリでも同様だ。

 フランス語がサッパリな状態ゆえにストレスも半端ではない。

 ハッキリ言って世界がパリへ行くには無謀すぎる。

 

「世界はおばさんの夢を邪魔したくない。だから無理をして病気になっても隠す」

「見透かしたこと言わないでよ」

「図星。ずっと一緒にいたからわかる。だから世界がパリへ行くのは断固反対」

「刹那の部屋にずっとは、お母さんが許してくれない」

 

 それができるなら最初からそうしている。

 世界のパリ行きを覆すことは不可能だ。

 しかし刹那がこう言ってきた。

 

「私が世界の代わりにパリへ行く」

「それこそ無茶だよ。私のお母さんじゃなく、おばちゃんがパリ行きにならない限り」

「そうなるようにする。私に任せて」

「……そしたら刹那がいなくなっちゃう」

「私は世界みたいに体が弱くない、急にパリへ行っても大丈夫。それにフランス語もわかる」

「刹那はそれでいいの? 皆と離れちゃうんだよ」

「世界が無茶をするぐらいなら私が行く。たとえ遠く離れても、それが世界のためになるなら私はそうしたい」

 

 刹那の決意は揺らがない。

 こうだと決めたら意地でも貫く。

 そういう強気なところは昔から変わっていない。

 

「刹那に電話をした時点で、なんとなくそうなる気はしてた」

「他に電話した?」

「ううん、真っ先に刹那のことが頭に浮かんだから、今こうして電話を入れたのは刹那だけだよ」

「私だけ特別。ことぴーじゃなく、私を頼ってくれた」

「……刹那、後悔しない?」

「する訳がない」

「パリの件、刹那に任せちゃっていいの本当に?」

「いい。上手くやるから安心して」

 

 刹那と離れることが辛い。

 でもこうなったら絶対に刹那は引き下がらない。

 それを誰よりも一番よく理解しているのが世界だ。

 

「刹那が身代わりになるのは正直辛いよ。でもそれが刹那の意思なら、友達としても家族としても、受け入れないといけないよね。もし成功したら、お別れパーティーで盛り上げるからそのつもりでいてよ」

「わかった」

 

 自分の夢が叶うためなら、娘がどうなっても構わない。

 世界の母はそんなつもりではないと否定をするだろう。

 だが現状が見えていないのが全てだ。

 

 しばらくして状況が変わる。

 パリ本社から再検討の指令が下された。

 一部の評価だけではなく総合評価で改めて選抜をしろ。

 海外の働きだけでなく、国内での働きも含めて調査せよ。

 長期で働いてもらうスタッフは慎重に選べということだ。

 

 海外スタッフからラディッシュ榊野町店にも視察が入る。

 世界の母が店長として全て作ったと自負する店だ。

 バイトスタッフのやる気のなさ、客層のガラの悪さ、複雑メニューで対応しきれない等の問題点が未だに改善されていない。

 調べれば調べるほどにマズイと思わせる情報が出てきた。

 店長を支える副店長あるいはマネージャーがいないのも欠点。

 店長のワンマンで好き勝手をしているようだ。

 言葉の母は経営コンサルタントとしてアドバイスはするが、その店の従属関係ではない。

 

 そこから流れが変わった。

 視察の情報がパリのほうへ送られて再検討として協議。

 

 その結果、逆転勝利だった世界の母の取り消しが下ってしまう。

 抗議をしようにも様々な問題点が指摘されてしまう。

 

 パリ支店スタッフとして刹那の母が正式に迎え入れることになった。

 この決定はパリ本社も認めたので今度こそ覆らない。

 

「刹那、一体どんな魔法を使ったの?」

 

 この知らせを聞いた世界は驚きを通り越して感心を抱く。

 思わず刹那の所へ直接確認に行った。

 

「別に。私のお母さんが本気を出しただけ」

 

 刹那が勝利のVサインを見せつける。

 自信満々に勝ち誇る姿が頼もしい。

 

「うちのお母さん、ふて寝しちゃって立ち直れなくなってるよ」

「天罰。世界を蔑ろにしたから」

 

 海外の本社を動かすほどのことをした。

 国内本社の重役として海外本社との繋がりが深い。

 娘の刹那から話を聞いて張り切ったようだ。

 

「刹那のお母さん、あの手この手で色々やったんだね」

「うん。大人の事情」

 

 実に怖いものである。

 隙があればそこを突いて相手を蹴落とすことが可能。

 今まさにそれが証明されてしまった。

  

「刹那に助けられちゃったね。正直無理だと思った」

「世界にはことぴーがいる。光と七海、乙女もいる」

「刹那、これで心置きなくパリへ行けるって思ってるんでしょ?」

「正解」

 

 ここまでされたら認めるしかない。

 気持ちよくパリへ行ってもらうのが恩返しとなるだろう。

 そのためにもお別れパーティーを開きたい。

 

 まずは参加メンバーの確認である。

 当事者となる刹那と主催者となる世界は確定。

 言葉・心・光・七海・乙女・可憐・伊藤・澤永・止。

 合計で11人となる。

 田中は骨折の治療により残念ながら不参加だ。

 

 世界は各自の都合を調べて、そのリストを書いて記録する。

 それを参考に言葉を屋上へ呼び出しての相談だ。

 

 今は放課後で互いに予定もない。

 曇り空の下、ベンチに座って肩を寄せ合っている。

 

「ことちゃん、大人数で貸し切りできるパーティー会場ってある?」

「はい。榊野ヒルズに貸切パーティーが可能なレストランがあります」

「メモに最適な日程をいくつか書いたけど、上手く予約とれるかな?」

「大丈夫です。家のお父さんが榊野ヒルズにコネを持っていますので」

「問題はお金だよ。私は貧乏で手持ちが心許ないの」

「こちらで全額負担をしますのでご心配はいりません」

「わお、気前がいいねことちゃん」

「気持ち良くお別れができるように思い出作りをしたい。それは私も同じですよ」

 

 女神のような微笑みを見せてくれる。

 眩しく目を細めてしまうほどの善意に満ち溢れている。

 刹那への思いやりが感じられて世界は純粋に嬉しかった。

 

「料理は自分たちで好きに取って食べられる形式がいいかも」

「ブッフェスタイルですね」

「それ何語?」

「フランス語です。セルフ形式で食事を楽しめる意味があります」

「パリへ行く刹那にピッタリだね」

 

 世界が方向性を決めて細かい所は言葉に任せる。

 これで飲食の手配は特に問題はない。

 他のアイデアとして思いつくことを口にする。

 

「定番の集合写真はしておきたいね」

「いいですね。私は賛成です」

「後で皆に確認してみるね。個人的に贈り物をするかは各自に任せるってことで」

「世界ちゃんは何かプレゼントをしますか?」

「推理小説にハマっている刹那には、可愛い栞を贈ってあげようかなって」

「それは素敵な贈り物ですね」

「ことちゃんはどうなの?」

「集合写真を撮られるとの事なので、写真立てを考えています」

「きっと刹那は喜んでくれるよ。私が保証しよう」

「それは心強いです」

 

 世界はパーティーの余興も検討してみる。

 言葉が中学卒業まで習い事をした中でピアノがある。

 心もピアノをたしなんでいるので一緒にセッションをすればいい。

 それで演奏を披露すれば会場は盛り上がるに違いない。

 

「えっと……そんなに期待されるほど上手くはないのですが」

「一人では心細くてもこころちゃんがいれば大丈夫。姉妹で協力して頑張れ」

「心が引き受ける前提ですか?」

「断ると思う?」

「いいえ」

「ノリノリで演奏してくれるならそれでいいじゃん。楽しんだもの勝ちだよ」

「世界ちゃんらしいですね。わかりました」

 

 ここで世界は可憐に電話をかける。

 事情を説明した後、刹那の送別会で一発芸をしてほしい。

 そんな世界の唐突な要望に可憐は戸惑ってしまう。

 

「いやいや世界さん、私は芸人じゃないです。そんないきなり無茶振りされても」

「刹那への挑戦状を叩きつけて盛り上げて」

「はい?」

「名付けて分身当てクイズ!! どっちが本物かを見分けろゲームだよ」

「……なるほど読めました。お姉と同じ姿で刹那さんに見分けてもらうんですね?」

「そういうこと。実は個人的にも興味あるの。本当に見分けがつかないのかってね」

「わかりました。あとでお姉に言っておきます」

「よろしく。お礼は榊野ヒルズの高級レストラン食べ放題飲み放題で」

「マジですか!? ちょっと世界さん、お金は大丈夫なんですか!?」

 

 可憐が本気で心配するほど世界は貧乏だ。

 刹那の食事支援がなかったら、栄養失調で人生が終わっていたかもしれない。

 

「ことちゃんが手配をしてくれるから大丈夫。おかげで主催者となる私は企画に集中できるって訳よ」

「へえー、言さんってスゴイ金持ちなんですね」

 

 これで加藤姉妹の一発芸を確保。

 可憐との電話を切り、次は光へ電話をかける。

 

「光、話したいことがあるんだけど今大丈夫?」

「別に大丈夫だけど、どうしたの?」

「お別れパーティーの余興を企画しててさ。光も何かやってみない?」

「ちょっと世界、話が飛び過ぎてわかんないって。ちゃんと最初から説明しなよ」

「おっと失礼」

 

 順を追って経緯を話す。

 親の都合でパリへ引っ越す刹那のために送別会を開く。

 それについては大いに賛成をしてくれた。

 だが余興は何をしていいのかで悩む。

 すると世界が思いつきの提案をした。

 

「例えば澤永と漫才するとか」

「ちょっと世界!! 真っ先にそれってどうなの!?」

「試しに澤永と話してみなよ。乗ってくれるよきっと」

「そりゃ泰介はそういうのノリやすいとは思うけど、大体なんで私とセットで考えるの!?」

「恋人同士だから」

「そういう事をサラッと言わないで!!」

「いいじゃん別に。付き合ってるんだから堂々としなよ。って事でどうよ?」

「……刹那のためだからね」

 

 光は何だかんだで友達思い。

 刹那の思い出作りに協力をしてくれる。

 

「決まりね。榊野ヒルズのレストランをパーティー会場にする予定だからよろしく」

「そういう世界は、何か余興しないの?」

「今は皆に思いつき企画を話してる最中だし。それが終わってから考える」

 

 その後も七海は簡単な手品をやってくれるとの事。

 伊藤は乙女と一緒にカラオケをするようだ。

 妹の止は、刹那をモデルにしてお絵かきをしてくれるらしい。

 カラオケの設備が必要なので、言葉にお願いをして一任をする。

 

「これであとは私だけか……ことちゃん」

「はい?」

「感謝状を作りたいから、専用の紙と筒をお願いしてもいい?」

「はい任せてください」

「ありがとう、いやー助かるよことちゃん。これで私の余興は、感謝状を読み上げて渡すってことで決まりっと」

 

 こうして送別会の準備を順調に進めていく。

 参加者へのお知らせは主催者である世界が行なう。

 その他諸々の細かいことは、言葉が全面的に支援をしてくれた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定